鬼ごっこ
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儀式もなくて暇だなあなんてあくびをひとつすると、誰かの部屋に遊びに行こうと考えついた。
廊下に出て誰と遊ぼうかな、スージーとお茶をするのもいいかななんて彼女の部屋を訪ねたが生憎、留守だった。どうしようか悩みながら更に廊下の奥に進むと床に何かが落ちていることに気付いた。近付いて拾ってみればそれは『家内安全』と日本語で書かれたお守りだった。
「…日本語?…凜のかな」
日本人のキラーといえば、思い付くのは彼女と鬼くらいだ。きっとこの世界に来ても持ち歩いてるくらいだし、大事なものなんだろう。落とし物の持ち主は思い付く二人のどちらかで間違いはないんだろうけど、私はどうしようか考えた。勿論、大事な物だろうから持ち主には無事に返してあげたいと心から思う。ただ、ひとつ問題がある。私は山岡家のキラーとは全く関わったことがない。私も同じ日本人のキラーではあるけれど、二人とは一切、言葉を交わしたことはないのだ。それどころか私以外にもその二人と喋っている者を見たことがない。理由は明白で、山岡家の二人はキラーの中でも一際、殺意が高いのだ。山岡家といえば"怒り"の感情が強い。故に儀式外でも怒りと殺意の感情しか残っていない可能性が高い。だから誰も山岡家の人達とは関わろうとはしないんだろう。本音を言うと同じキラーの私でさえ、二人は格が違いすぎて恐いのです。無事に落とし物を渡してあげたいという気持ちがありながら、言葉が通じないかもしれない二人に関わったら私が無事では帰れない可能性がある。
「…どうしたものか…」
「そんなところで一人で突っ立って何してんの?」
拾ってしまったものだけど、また同じ場所に置いておけば拾いに来てくれるかもしれないと悪い考えでお守りを戻そうとしたとき。私の目の前に意志疎通が図れる数少ないキラーが現れた。どこから風の抵抗を受けているのか分からないヒラヒラを靡かせて。
「あっ、ゴスフェ!良いところに!」
「えっ、何。何か嫌な予感がする」
「このお守りさあ、凜か鬼のどっちの物だと思う?」
「知る訳ないじゃん。え、ていうか何、盗んだの?」
「そんな訳ないでしょ!この二人の物盗むとか命知らず過ぎるよ。落ちてたのをたまたま拾ったの」
失礼なことを言うゴスフェは私が見せたお守りを物珍しそうにまじまじと見る。
「ふーん。別にどっちか分からなくても二人に絞れてるんだからどちらかに聞けば良くない?」
「それはつまり私に死ねって言ってるの?」
「何で?」
「何でって、だってあの二人殺意高いじゃん?何かいつもとんでもないオーラ纏ってるでしょ」
「そうだね。でも、同じ日本人なら大丈夫じゃない?」
「なんて適当!だったらゴスフェが代わりに渡してきてよ」
「絶対にやだ」
「何で?」
「殺されるかもしれないから」
「ほら、やっぱり同じこと思ってるじゃん!なら、お願い、頑張って私が話し掛けるからゴスフェも一緒についてきて!」
「やだってば」
私がどれだけお願いしても頑なにゴスフェはやだと断り続けた。しまいにはこんなに困っている私を置いて部屋に戻ろうとするものだから私も必死にゴスフェの腰にしがみついて引き摺られていく。
「離して」
「やだ!あのさあ、こんなに困ってる女を見捨てるなんてアンタには人の心がないの?」
「こんなときだけ女を使うなよ。そもそもシリアルキラーの俺にそんなこと聞くのが間違ってる」
「確かにそれは私が間違ってた。じゃあさ、ゴスフェって格好いいよね。隠密して背後から一撃でサバイバーを仕留める姿とか、なんかこうその、どこから風の抵抗受けてるのか分からない素敵なヒラヒラとか」
「あからさま過ぎるし、ヒラヒラに関しては馬鹿にしてるだろ」
「もう私にはゴスフェしかいないんだよー、頼むよー、ここにいるキラーなんて意志疎通できる人たちほとんど居ないんだしー」
「…トラッパーとかいるじゃん」
「あっ、確かに!ならこんなクソヘタレ陰キャなんかに頼むのやめて頼りになるトラッパーに頼みにいこ!」
彼の素晴らしい提案に納得した私はゴスフェからパッと離れて背を向けるとトラッパーに会いに行こうとした。
だけど何故か右手がガッチリと捕まれてギリギリと痛み、首筋にはピタリと冷たい刃物が当たっていた。その刃を立てて軽く横にスライドしたらスッパリと斬れてしまいそうだ。
「…ちょっと聞き捨てならないな、お嬢さん」
「…あー、まあちょっと言い過ぎたよ。ごめんね?」
素直に謝れば、分かればいいとゴスフェはナイフをケースにしまった。
「……それにしてもあんだけ俺にしがみついてまで頼んでた癖に何でそんな簡単にトラッパーに乗り換えるの?」
「…お前、めんどくさいな。ツンデレ女かよ」
「だって途端にイラッときたっていうかさ、そんなにアイツの方がいいんだって思って殺したくなった」
「そんな簡単に私に殺意抱かないでよ。そもそも悪口に対してキレてた訳じゃないんだ」
「どっちもだよ。比率で言うと2:8の割合」
「どっちがどっちだよ。というか、そんなことはどうでもいいんだけど、本当に一緒に来てくれるの?ここまで言って来てくれなかった場合はぶっ飛ばします」
「……まあ、一緒に行くだけなら別にいいんだけどさ…」
「…何?」
急に歯切れが悪くなったものだから我慢出来ずに催促すればゴスフェは勿体ぶって言った。
「…無事、終わったら言うよ」
「それ死亡フラグになるから今言って」
だけどゴスフェはそれについては詳しくは話してくれなかった。