弄ばれる獲物
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儀式の場所に連れて来られたとき、何か違和感を覚えた。何と言ったらいいのかわからないけど、儀式の場所がとかいうよりは主に自分に対して不自然さを感じた。まず最初に気付いた不自然なところは服だった。
動き出そうとして、普段よりも何だか落ち着かないなと何気なく自身の服に視線が落ちたとき、唖然とした。
「……なに、これ…?」
思わず独り言を呟き、自分が身に纏っている服に触れる。これでもかと言わんばかりにざっくりと空いた胸元、ウェストが細く見えるようにギュッと絞まっている黒のコルセット。屈んだら下着が見えてしまいそうな長さの黒のスカートの上には同じぐらいの丈の真っ白なエプロンがつけられていた。服の袖や、エプロン、スカートにはふんだんに真っ白なフリルがあしらわれている。
……この格好は見覚えがある。これはある一部の限られた人たちしか着ることがないだろう有名な衣装だ。ミニスカメイド。まさか、私がこんな服を着る日が来ると思っていなかった。しかも、こんな生死を懸けた儀式で。そう冷静に分析しつつ、頭の中は色々とプチパニックを起こしていたし、これが現実だとは認めたくなかった。
一つ、私は疑問に思う。私の儀式での普段着は基本的に動きやすい且つシンプルで目立たない服装を選ぶ。基本はTシャツとパンツというスタイルだ。スカートなんて儀式では動きにくいから一度たりとも履いていったことはないし、普段着でもスカートは好んで履いたりしない。私は今日だって儀式の前までは通常のシンプルスタイルだったはずだ。なのに、気付いたらまるで自分ではないような衣装を身に纏って儀式の場所に立っていた。
着替えたり、着替えさせられた記憶もない。何故だ?何が起きている?恥ずかしすぎて死にたい、と切実に願った。
違和感はこれ以外にまだある。メイド服には定番とされるフリフリカチューシャもまさか頭についているのではないかと、頭部に恐る恐る触れた。丁度、頭の右側に触れたとき、変な感覚がした。ふわふわと何か動物の毛を思い出させる物が私の頭にあった。慌てて自分でその触れた謎の物に驚いて手を引っ込める。何だか自分で触れたそれはあきらかに自分の部位ではないのにも関わらず、くすぐったい感覚がしたからだ。
「……なに、これ…?こわい…」
私はまた一人で呟く。鏡もなければ、自分の姿を確認出来る物が無い状況でこんなことになれば不安にもなる。恐る恐るもう一度勇気を振り絞って、同じ場所に触れてみればやはりふわふわしてて、くすぐったく感じた。まるで猫の耳に触れたみたい。なんとなくそう思って頭の左側に触れてみれば、右と同じような物がある。思い切ってそれを引っ張ってみると…
「…いたたっ!」
何故か痛かった。もし、ネコ耳たるものをつけられていたとしても、引っ張って痛い物ではないはずだ。作り物のカチューシャなんだから当然だ。
……もうわけがわからないなにもかんがえたくない。
だけど、考えることを放棄しようとしても新たな違和感が生まれてくる。お尻の少し上の腰辺りがむずむずする。そわそわする。その不自然な感覚を無視したいのに、どうしても気になってしまって私はそーっと薄目でその場所に視線を移した。そこにはスカートの下からもふもふの長い尻尾らしき物が出て、ゆっくりゆらゆらと左右に揺れていた。それを見て驚いた瞬間、その尻尾はピンっと立ち、毛が逆立つ。まるで自分の感情の動きに合わせて反応しているみたいだった。
「……ほんと、もう、どうなってるの…?」
理解出来ないことばかりが起こっていて、私は頭を抱えるとその場にしゃがみこんだ。そのときに小さく首元から、チリンと音が聴こえた。目で確認することは出来ないが、手で触れると首輪に鈴がついているみたいだった。…ご丁寧にこんなものまで…。
何故か覚えのないメイド服を着せられ、おまけにどういう原理かわからないけどネコ化までしてて。こんな手に負えない状況を作れる奴がいるとしたらこの世界で一人しかいない。恐らくとも言わず、全てはエンティティのせいだ。沸々とやり場のない怒りが沸いてきて、怒りたくなった。エンティティは間違いなく、私で遊んでいる。今頃、困って動揺していた私を笑って空から見ているのだろう。むかつくし、何か言ってやりたいけど、どうすることも出来ない。一先ず、私は冷静にならなくてはいけない。何とか怒りを落ち着けると、深呼吸をして頭を働かせる。
取り敢えず、誰にも見付からない場所に身を隠そう。
こんな格好をサバイバーの誰かにでも見られたら馬鹿にされて笑われるに決まってる。めちゃくちゃ恥ずかしいし。サバイバーの仲間には大変申し訳ないけど、私は発電機修理も救助もチェイスもしません。ただ、ひたすら時間で死ぬまで誰にも見付からず過ごすということが今の私の目標になりました。罪悪感で少し胸は痛むけど、こればっかりはエンティティのせいだと思ってほしい。そうと決まれば、すぐに移動しようとキョロキョロ辺りを確認していれば、僅かに人の話し声が聴こえてきた。
姿は見えないから結構、遠くにいるっぽいのに何故か私はどこから人が来るのかわかった。普段はそんなことないから恐らくネコ化したせいで聴覚が優れてより神経が研ぎ澄まされているのかもしれない。この状況はとても喜べないけど、そこだけは良かったかもしれない。
私は急いでその場から離れた。
誰にも見付からない隠れ場所を探そうとしたけど、中々それは難しそうだ。フラクチャード·カウシャッドは他のマップに比べて明るい。暗闇と共に隠密をすることは不可能になる。それならロッカーに隠れるのが一番いいかもしれない。小屋に入ると中央に発電機があった。ただ隠密してるのも悪いし、せめてこの発電機を修理しようと発電機に触る。幸いネコ化のお陰で誰かが近付いたときは早めにわかるから、すぐにロッカーに隠れられる。時折、遠くから聴こえるサバイバーの悲鳴が聴こえてきては必死で発電機修理に集中した。