死のおいかけっこ
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自分以外のサバイバーの仲間たちはみんな死んだ。
最後に一人残ってしまった私はキラーに見付からないようにハッチを探さなければいけない。この世界では何度殺されてもまた、いつもの場所に戻されれば私たちは生き返る。だけど何度経験したって殺されるのは恐いし、痛いのは慣れるものではない。何としてでもハッチが閉じられてしまう前にハッチを見付けなくては。
隠密しながら目を凝らし、耳を澄ましてハッチの風が流れる音を頼りに探る。
ただ、少しだけ嫌な予感はしていた。
今回のキラーは私の苦手とする能力を持つキラーなのだ。奴は隠密に特化しているキラーで気が付いたときには物音も立てずに後ろにいたりする。
慎重に進まなくてはいけないと思う反面、キラーより早くハッチを見付けなければという焦りもあった。
しかし、いくら探しても運が悪いことにハッチは見付からなかった。ただ、幸い、キラーもまだ見付けてないからと安心した直後、ハッチが閉じられたのがわかった。
…ついてない。ハッチさえ開いていれば一人でもまだ脱出のチャンスはあったけれど、ゲートを開けなければならないとなると話は変わってくる。いくらゲートが二つあるとは言えゲートを開けている間は無防備で高確率でキラーに見付かってしまう。しかも、更に運が悪いのは両方のゲートの距離がまあまあ近いということだ。
これではキラーが簡単にゲートの巡回が出来る為に更に厳しい状況になる。
…どうしたものか、と考えている間にも刻々と時間は過ぎていき、この世界が崩壊し始めている。迷っている暇はない。ゲートを開けなければ、キラーに見付からなかったとしても時間でエンティティの手によって殺されてしまうだけだ。私は自分から近いゲートへと急いで走った。ゲートを目の前にして近くの岩陰に隠れてキラーが此方に来ていないかを確認する。
キラーはいない。が、念の為にキラーが一度、確認して去って行った隙をついてゲートを開けよう。地面が揺れて、地割れが起こり始めてはいるがまだ大丈夫だ。
少し待てばキラーが此方のゲートを確認しに来た。そして居ないことを確認すると背を向けてもうひとつのゲートへ向かっていく。
今だ!私は急いでゲートに近付くと勢いよくレバー下げた。ひとつ、ランプが点灯する。二つ。…どうか、間に合いますように。もう、そう願うしかない。後少しで三つ目のランプが点いてゲートが開く…!というところで、背後に気配を感じた。少し離れた位置だが、キラーが此方に向かってきている。
やっぱりそう上手くはいかないか。
「……チッ」
短く舌打ちをするとレバーから手を離してゲートと反対方向に逃げる。こうなってしまってはもう絶対に逃げられない。このキラーに殺されるか、エンティティに殺されるか、どちらにしても死ぬしかない二択だ。
無駄だとわかっていながら私は小屋に向かって走っていき、音を立てて窓枠を越える。わざと音を立てて挑発するように。キラーはそれを窓枠を使わずに回り道をして追ってくる。地面がグラグラして走っていてもよくわからない変な感覚に襲われる。それでも私は足を止めるのを辞めなかった。どうせ終わる命だとしても悪足掻きをしたくなる。それは私がこのスリルを楽しんでる証拠でもあり、負けず嫌いな性格でもあり、このキラーが嫌いでもあるという理由がある。
殺されるのは恐い。刺されるのは痛い。
だけど、こうやって命懸けの鬼ごっこをするのは今までの世界で味わったことないくらい楽しいことだった。みんなには可笑しいと言われるが、正直、この世界に導かれた者はみんなどこかしら変だと思うから私に限ったことではない気がする。
キラーが先回りをしてきたところを紙一重でナイフを避け、パレットを倒す。パレットはキラーに命中した。
思わず、笑ってガッツポーズをする。そこから距離を取ろうとしたところ、マスク越しの籠った声が聞こえてきた。
「…あんた、やるな」
それは板を挟んで目の前にいるキラーに紛れもなく言われた言葉だった。その言葉はこのキラーに認められたような気がして私は嬉しくなる。
「ふふ、どうも」
キラーがパレットを壊している間に私は走ってキラーと距離をとったところで時間切れ。この世界はエンティティによって終わらせられ、私は死んだ。
いつの間にかいつもの場所に戻ってきていた。
サバイバーの仲間が遅かったねと心配して、飲み物を渡してくれた。
「なんかすごく嬉しそうだね。その様子だと雪葉はさっきの儀式は脱出できた感じ?」
「ううん、コラプスで死んだよ。でも、楽しかったから満足かな」
「何それ。死んで満足なんてやっぱり雪葉は変なこだね」
負けて死んだはずなのに、今の気分はすごく晴れやかで、またあのキラーと命懸けの楽しいおいかけっこをしたいなと密かに思うのだった。
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