君の死体を飾りたい。
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
二人が仲良くしているのが視界に入る度、楽しそうに話している声が耳に入る度、吐き気がする。
儀式が終わって疲れて帰ってきて自室に入ろうとしたとき、嫌でも目に入った光景。それはトリックスターと雪葉が楽しそうに笑い合いながら、彼の自室に雪葉が入っていくところだった。幸せそうに細められた目はトリックスターだけに向けられている。全てが不快だった。あんなチャラそうな奴のどこがいいんだと言いたくなる。
それを見なかったふりをして自室に入ると、扉を閉める。今頃きっと嫌というほど、イチャイチャして仲良くセックスでもしてることだろう。本当に気持ち悪い。そもそもキラーの自室にサバイバーなんか連れ込むなと思う。考えないようにしてもどうしたって気になって考えてしまう。馬鹿みたいだ。彼女がトリックスターに好意を寄せていたことは最初からわかっていたというのに。
俺が雪葉を好きになったのは些細なことの積み重ねだった。儀式が一緒になったときの彼女の潔さ。どうにかなりそうなときは全力で立ち向かうし、助からないときは潔く死ぬ。それから彼女はキラーを見下すこともしなければ軽蔑することもなかった。大抵のサバイバーは弱いキラーを見下し、どんなキラーだろうと軽蔑している。それは表向き優しそうに見えても目や態度を見てれば明らかにわかる。あるとき、気紛れで手を抜いてサバイバー見逃してやったときには何故か自分の実力で逃げ切れたと勘違いしてゲートで煽ってきた馬鹿もいた。それを見ていた彼女ははっきりとした口調で言った。「彼は今回、わざと手を抜いていただけだよ?例え敵だとしてもどんな感情を抱えてるかなんてわからないんだし対戦相手には敬意を払うべきだ」と。別にその発言に感動したという訳ではなかったが、冷静に分析をした上で相手の立場になれる人間だと理解した。
後に何故、あのときそんなことを言ったのか聞いたときもそうだ。「この世界では好き好んで人を殺してる殺人鬼ばかりじゃない。それに、もしかしたら私がそっち側の立場になってることだってあったかもしれない。私はただ、殺人をしなくて済んだだけ」たったそれだけ会話しただけでも彼女は想像力が豊かで、人よりたくさん色々なことを考えていると思った。
俺が儀式中に話し掛けても嫌な顔ひとつもしなければ、可愛い笑顔を向けてくるし、お疲れ様と優しく声も掛けてくれる。全く惚れっぽい性格ではないが、これだけでも彼女を好きになる要素しかなかった。そんな彼女は勿論、サバイバーからも好かれるし、キラーでも嫌っている奴らは居なかった。彼女のことは好きではあったが、俺は彼女を自分のものにしようとは考えなかった。
トリックスターの方が彼女の魅力にいち早く気付き、仲良くなり、俺が彼女を好きになったときはすでに二人が両想いだとわかっていたから。むかつくぐらいに全てが遅かった。
サバイバー三人の処刑が完了した時点で運良くすぐ近くにハッチが出現した。即座にその場に移動して閉めようとしたところで数秒、考える。最後の一人のサバイバーは雪葉だ。彼女がハッチを見付けるまで近くで隠密して待ち伏せする方がいいだろう。
そう考えて、木の陰に身を隠して息を殺して待ち構える。しかし、しばらく待ってみたものの、何故か彼女は一向に現れなかった。彼女は隠密して無駄な時間を過ごすようなタイプではないから疑問に思いながらもう少し待ってみる。可能性としては俺がハッチをすぐに閉める読みをして閉めた瞬間にゲートを開けるように待機している可能性はある。しかし、完全にその読みで動けば裏をかいてハッチ脱出される可能性もある。彼女ならどちらもやりかねない。大人しくここで待つ限り、負けはしない。それならもうしばらく辛抱しよう。それに彼女と二人きりで同じ空間に閉じ込められているというシチュエーションは偉く興奮するから苦ではない。早く会いたいから待ちきれないという感情の方が正しい。そうこう考えれていれば、ついに彼女は走ってきてハッチの前に現れた。
「…待ち伏せしてるでしょ?」
乱れた呼吸を整えてから彼女は俺が隠れている木の方に目を向けて、呆れたように笑った。まあ、やっぱりお見通しだった訳だ。ハッチから逃げる瞬間に捕まえて脅かしてやろうと思ったのに。観念した俺は彼女の前に姿を現す。
「良くわかったね。流石だよ」
「せっかく君がハッチをすぐに閉じる読みでゲート前に待機してたのに」
「たまにはすぐに閉めないのもありかなあって思って」
「…はあ、結局読み負けた。ハッチ逃げは実質負けだと思ってるし、殺していいよ」
雪葉は諦めの笑みを浮かべた。言われなくたって殺すつもりだったけど、その前にどうしても聞いておきたいことがあった。
「その前にひとつ、質問。トリックスターと付き合ってる?」
さらりと聞いた俺の質問に雪葉は目を見開く。それから雪葉は気まずそうに小さな声で答える。
「…別に付き合ってないよ」
「へぇ?最近、よくアイツの部屋出入りしてるのに?」
それを聞いて雪葉は更にあからさまに動揺した。口では誤魔化してるのに、そのあからさまな態度が妙に癪に触った。付き合ってるなら隠す必要もない訳だしはっきり言えばいいものを。無意識にナイフシースに仕舞われていたナイフの柄に触れた。
「…何でそんなこと知ってるのか知らないけど、確かに最近、彼の部屋には出入りしてるよ。けど、別に付き合ってる訳じゃない」
「何でってあんなとこに出入りするサバイバーなんて居ないんだからすぐにわかったよ。…それに頻繁に部屋に行くような関係なのに付き合ってないは無理があるでしょ。仲良く良いことでもしてたの?」
それでも尚、否定してくるものだから苛ついて小馬鹿にするように鼻で笑って指摘する。…別にこんな態度を取りたい訳ではないけど、苛つきは収まらずに当て付けのような態度を取ってしまう。俺の不機嫌さに気付いたのか、彼女は逆に冷静になって口を開く。
「…確かにそう思われても仕方ないかもね。関係ないことだし、君がそうやって思うのも自由だし」
ああ、もうダメだ。
そこまで抑えられていた感情は彼女の言葉で完全に歯止めを効かなくなった。関係ない。それはそうだ。君にはアイツさえいればいいし、俺の気持ちなんか考える必要もないことだからね。
ナイフの柄にかけられていた手は素早くナイフを引き抜き、彼女の腹へと突き刺した。グリグリと肉に内臓に、ナイフを食い込むように暴れさせる。心臓を一突きで刺さなかったのは、意識を残させて痛覚を実感させる為だ。こんな風に俺の心を痛め付けておいて楽に死ねると思うなと。
腹と口から大量の血を溢し、彼女は苦しそうな呻き声を上げると強がるように微笑む。
「…おつかれ、さま、…ゴースト、フェイス…」
こんなに愛憎で溢れかえっている俺に彼女は労りの声を残すと、そのまま俺の手の中でゆるゆると意識を失った。ナイフを引き抜けば、彼女の真っ赤な血がマスクに跳ねた。刃から滴る血を手袋で綺麗に拭う。
…どうして、彼女はいつも最後に俺が悪いと思わせる態度ばかり取るのだろう。いつも一番最高だと感じる瞬間が、彼女のときだけ苦痛に変わる。君に残されたこの瞬間が一番苦しい。