下剋上
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ミンは可愛い見た目と裏腹に気が強い。プロゲーマーともなると、いかに本番で実力を発揮できるか勝負になる訳で本番でひよってしまうメンタルでは本領を発揮できない為に強い精神力を必要とする訳だから当然だ。それはプロゲーマーに限ったものではなく、スポーツ選手だったり、演奏家だったりと上を目指すもの全てに通ずるものだったりする。かつて私も前の世界ではプロのスポーツ選手になろうと夢を追ったときもあったが、怪我で挫折してその夢を諦めた。だから夢を追って諦めずに努力できる人は尊敬するし、そんなミンの過去も知ったからこそ、私はもっともっと彼女を好きになった訳だ。
思考が逸れてしまったけれど、結果的にいえば、そんな強気でツンデレなミンの余裕をなくならせたいと思った。
「ミン、私とゲームで勝負しない?」
「…何、急に」
儀式から帰ってきて早々、ミンの部屋を訪れてそんなことを言えば、驚いた顔を向けてくる。普段は私の言葉なんて聞く気ないとばかりに聞き流す癖に今日だけは違った。恐らくとも言わず、彼女は"ゲーム"と"勝負"いう単語に反応してしまったんだろう。プロゲーマーの彼女がこの言葉を聞いてスルーできるはずがない。
「私とゲームの勝負するの?しないの?」
「…別にしてもいいけど、私はプロだよ?」
「勿論、わかってるよ。だから練習期間を頂戴。二週間後、勝負。どう?」
「…二週間、練習して素人が私に勝てると思ってるなら大間違いだよ。プロ舐めてる?」
私の提案を聞いてただのお遊びの勝負ではなく、本当の勝負の誘いだとわかったミンは急に冷たい目をした。彼女のこんな眼を見たのは出会ってからまだ認められていなかったとき以来だ。仲良くなってからもう随分とこんな眼を見たことがない。冷めたような、それでいて自分より下の人間に向ける眼。私が正しい、私の方が強い。つくづくそう感じさせる眼だ。だけど、私はミンのそんな表情も好きだった。可愛い声から発される冷たい声も見下された発言もギャップ萌えをしてしまう。それにもっと言うならこんな強気な態度を潰してあげたいとさえ思う。キラーなんかじゃなく、私の手で。想像しただけで興奮してゾクゾクと鳥肌が立った。それを隠すかのように私は口元を緩める。
「舐めてない。だけど、私だって本気だから簡単に負けたりしない。…ミンにそんな強気な態度できなくなせてあげる」
「…ふふ、相変わらずあんたは面白いこと言うね。受けて立つ!ただし、真剣勝負で手加減してもらえると思わないでよね!」
いつものように強気に胸の前で腕を組み、立ち上がったミンを見て私の気分は更に上がった。彼女の本気を引き出せたなら文句はない。熱くなって忘れてしまいそうになって私は慌ててルールを付け足した。
「勿論、手加減なんか必要ないから大丈夫。それと、負けた方は相手の言うことを何でも聞くっていう罰ゲームもしてもらうよ」
「ふふ、別に好きにしていいよ。どちらにせよ私は負けないから」
その後、勝負するゲームと大まかなルールを決めてすぐに私は自室に籠って練習を開始した。ハンデ無しの1対1の勝負。ミンの言った通り、プロ相手に素人の私が勝てる可能性なんてほぼ0だ。ミンだってかなり練習するだろうし、ゲームが少し上手いくらいでは勝てない。私は私のやり方で、取り敢えずゲームになれてCPUに必ず勝てるようにする。勝てるようになってきたら更に応用。生憎、この世界ではオンライン対戦というものは出来ないので、対人の動きがわからない。CPUの動きは少し練習すれば読めるようになるけど、対人となるとまた違った不規則な動きをしてくるはずだ。
私はしばらく練習した後、ミンの部屋に行き、彼女が練習している風景を見せてもらうことにした。アドバイスなどは一切、もらわないということでミンは了承する。
彼女の使うキャラからキャラの攻撃のタイミング、ガードのタイミング、それから手の動きも全てを舐めるように観察して脳裏に焼き付ける。一時間、無言でゲーム画面と真剣なミンを見てそれからまた自室に戻ると寝ずにゲームの練習をした。
彼女の練習を見て学習してから動きが格段に良くなった気がする。ミンは絶対に何があっても自分が勝つと思っているから私に練習を見せることを了承したのだろうけど、それが彼女のミスだ。私の特技は人の動きを覚えて短時間で対策することに長けていること。だからこそ、もっと練習すれば可能性が広がる。
大口を叩いたからには負けられない。それにミンに最高の屈辱を味合わせる為にも。その思いだけが、私の集中力を途切れさせなかった。
儀式に呼ばれたときは儀式に集中し、それ以外は全力でゲームの練習に励んだ。睡眠はベッドで取らずに床で寝て短時間睡眠。ご飯はパンを齧りながらゲーム。我ならがゲームに本気になりすぎだとは思うけど、相手はミンなのだ。ゲームだからと舐めてかかったら確実にコテンパにされる。日課のようにミンの部屋に訪れていた時間もゲームに費やした。そして、あの日からついに約束の二週間後がやってきた。