チョロインと男心
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何か嫌な予感がする。
儀式に呼ばれた場所は全く来たことのない未知のマップだった。真っ暗なマップではないからそこまでは迷わないだろうが、未知のマップという時点で既にチェイスが不利になる。それに加えて嫌な予感がするのはもしかしたら私の苦手なキラーが来るのではと私の予感が囁いているのかもしれない。知らないマップに苦手なキラーと既に絶望状態だが兎に角、発電機とサバイバー仲間を探そう。サバイバー仲間と合流出来れば、このマップの地形を知っている人がいるかもしれない。けれど軽く辺りを探したがサバイバーらしき人は見付からない。変わりに見付けた発電機を直すことにした。この感じは私だけ別の場所で始まって他の三人は一緒にいるパターンだろう。
仕方ないと思いながらも心細い思いで発電機を修理していれば、どこかからガタガタという不自然な音が聞こえてきた。
耳を澄ますと私の背後にあるロッカーからその音が聞こえている。もしかして、サバイバーが隠れていたりするのかもと思い、安心させる為に声を掛けようとロッカーに近付いた。すると私が声を掛ける間もなく、ロッカーの扉が勢いよく開いた。そこから出てきた人物…いや、生き物を見て私は息が止まった。
目の前にはまるでホラー映画に出てきそうな異形な見た目をした怪物が立っていた。
縦に大きく開かれた口。ギョロっとした眼。背中?には人の頭蓋骨らしきものが大量に付いている。長い鎌のように見える手はよく見れば、人の手を集めて形作られたように見えた。下半身はまるでその場に存在していないみたいに闇に包まれていた。どこをどう見てもヤバい奴というのは確かなのに私はその場から逃げずに冷静に相手を分析していた。…正確に言えば、恐怖で身体が凍り付いて動けないからまじまじと目の前のモノを直視することしか出来なかっただけだ。
動けない私の前で怪物の闇の部分からいきなり人の手が出てきた。それも一本や二本じゃなく、複数本。そしてその大量の手は私の方に伸びてくる。
このままではまずいと思い、何とか震える足で後退りをした。けれど、その不安定な精神状態ではそれすらも儘ならなくて後ろにへたり込んでしまった。
「……ぁ、…ああ、…いや…」
ゆっくりと近付いてきていたその手は私に触れた。私は何もすることが出来ずにただ息を呑み、覚悟を決めてきゅっと目を瞑る。すると、その複数の手は私の背中に回ってぎゅっと…抱きしめられたような感覚がした。
……いやいや、この状況でそれはないだろうと思って目を開いた直後、私はその複数の手によって怪物の闇の中に引きずり込まれそうになっていた。
…ああ、そうだと思っていたけど、これは恐すぎる。こんな訳のわからない生物に飲み込まれるなんて、やっぱり絶対に無理!例えコイツが儀式に呼ばれたキラーだとしても、飲み込まれたら絶対に生きて帰れなさそうだし、一生トラウマになりそう。
何とか馬鹿力でその闇の中に引きずり込まれそうな状況で耐えていれば不意に人の声が耳に入った。
「あ?あれドレッジじゃねぇか?」
「あ、本当だ。何かサバイバー飲み込まれそうになってない?…ていうか、キラー4に対してサバイバー1人ってどうなってんの?この儀式」
「ゴスフェ、状況聞きたいからあのサバイバー助けてあげなよ」
「やだよ。あんなのに近付いたら俺が食べられるし。フランクかトリスタが行きなよ」
「俺だって絶対嫌だ。あんな奴に話通じるとは思えねぇし」
「ええー、僕だって嫌だよ。…でも流石にあれは可哀想だし…そうだ、ジャンケンで負けた人が行こうよ!ほら、ジャンケン」
……なんて緊張感の無い会話が聞こえて色々、怒りたくなってきた。こっちは今にもピンチで死にそうなのにグダクダ言いながらジャンケンしてる声が聞こえるんだよ?…ただ、助けてくれる意思はあるっぽいので取り敢えず、それまでは全力で耐える。
「はい、ゴスフェの負けー!いってらっしゃーい!」
「ふー、セーフ。まあ、気を付けろよ」
「…マジであり得なくない?そもそも遠距離攻撃出来るのトリスタしか居ないんだからここは君が行くべきでしょ」
そして、またウダウダ言い合いをした後、やっと状況が変わった。目の前の怪物に向かって数本のナイフが怪物の身体を掠めて傷をつける。その衝撃によって私を捕らえていた怪物の手の力が緩んだ。その隙に立ち上がろう、と足に力を入れたけれど上手くいかない。そうこうしている間に、急にふわりと身体が浮いた。一瞬、何が起きたのか理解出来なかったけど、どうやら助けにきてくれたトリックスターにお姫様抱っこされていたみたい。取り敢えず、あの怪物から逃げて建物の室内に入っていく。
「大丈夫だった?」
そう聞きながら、トリックスターはゆっくりと私をソファーに降ろしてくれた。そんな状況に私は地味にきゅんとしそうになる気持ちを抑えて頷く。
「うん、ありがとう。トリックスターのお陰で何とか助かったよ」
よくよく考えればキラーに襲われている所、他のキラーに助けられるなんてとても変な状況だ。何とも変な気分になっていると、後から他のキラーが室内に入ってきて声を掛けてきた。
「無事で良かったよ。本当は俺が助けに行こうとしたんだけどトリスタがどうしても自分が行くって聞かなくってさ」
「よく言うぜ。ドレッジが恐くてひよってた癖によ」
「本当だよ。ヘタレは黙っててくれないかな?」
「確かに私もゴスフェが行きたくないって言ってたのは聞いてたからね?」
調子のいいゴスフェは「何だ、聞いてたのか」なんて頭の後ろで手を組んで面白くなさそうな反応をした。
全く、本当に適当なキラーだ。色々、思う所はあるけど、まずはこの状況が気になりすぎて質問を投げかける。
「どうしてこの儀式にキラーが四人も居るの?」
「「「さあ?」」」
三人の声がハモった。薄々、感づいていたけど、どうやらキラー達もどうしてこんな状況になっているのかわからないらしい。
「…けど、一通りマップを見回った感じサバイバーは君しか居なかったし、エンティティのミスじゃないかな」
「…ミスってどうやったらキラー4、サバイバー1のミスをする訳?有り得なくない?」
「さあね。俺的にはエンティティが相当、酔ってて変な儀式を組んだけど面白そうだから見届けるかって感じなのかと思うけど」
「…確かにそれなら有り得そうだな」
ゴスフェの推測にフランクも納得する。
私的には全く、納得できなくて意味が分からなさすぎる。エンティティが酔ってる状況ってお酒とか飲むのって思うし、面白がって儀式として成立しない儀式を見届けるなんて理解不能だ。だけど、私よりは彼らの方がエンティティには詳しい訳で、アイツを理解しようとしても無駄だろう。細かいことは置いといて、他にも気になることを聞く。
「…さっきのアレは何?初めて見たけど」
「新キラーのドレッジだよ。見ての通り話しは通じないし、奴はロッカーを使って移動してくる」
「やっぱり新キラーなんだ」
私はその話を聞いて辺りを見渡すと近くにロッカーが無いかを確認する。この小部屋にはロッカーが無いので少しほっとした。話が通じない以上、また襲われる可能性はあるので気をつけなければならない。