甘く血濡れのエンドロール
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たくさんの襲いかかる試練を乗り越えて奇跡の生還を果たした二人は朝日に照らされながら抱き合い、熱いキスを交わす。主題歌と共にエンドロールが流れ始めたところで、私は現実に引き戻されて小さくため息を吐いた。
映画は見応えがあり、実にロマンチックで感動的だった。私もあんな風な体験をしてイケメンと情熱的な恋に落ちたいものだ。そう憧れたとしても、この世界ではそれは叶いそうにない。
映画が見終わったタイミングを見計らったかのように、いつの間にか自室とは別の空間に私は立っている。また気紛れな邪神の都合で儀式に呼ばれたのだ。せめて、エンドロールを最後まで観ながら余韻に浸りたかったのに、と残念に思いながらも、発電機を探す為に歩き出した。
この世界では映画みたいなとんでもない体験が嫌になるほど出来る。仲間と協力し、恐ろしい殺人鬼から逃げ、無事に儀式を脱出する。それがさっきの映画のように上手くいき、素敵な相手と脱出出来れば最高な訳だけど、現実、そうは上手くいかない。仲間は優しい人もいれば、自分の脱出だけを考えて儀式に挑む人もいる。その為、自分が見捨てられることもあれば、逆に自分が仲間を見捨てるなんて状況はよく起こる。どうなったとしても必ず生きて帰れる保障がある訳だし恨みっこは無しな世界だ。まあ、何が言いたいかって言うと何十回と儀式を行っても、映画みたいな素敵な展開が起こることはないってこと。
一人で発電機を直しながら考える。
確かにあの映画はとても素敵だった。だけど、私がどんなに望んだとしてもあんな風な展開が訪れることはないと思った理由は他にもある。私が好きになるサイドの人は一緒に試練を乗り越える側の人ではないということだ。私の好きな人はサバイバー側の人ではなく、一般的には悪役と呼ばれる殺人鬼側。どうやったってあんなロマンチックにはなれない。だけど、別に殺人鬼と朝日に照らされながらキスがしたいとかそんなことを思っている訳ではない。それは相手が普通の人だった場合で、プロポーズは女の夢とかの感覚と同じだ。
「…ぅっ、……」
生死をかけた儀式の最中にそんな浮かれたことを考えていたら、背中からドスっと音がした。背中からの衝撃に、呻き声が漏れた。
……痛い。遅れて背中が脈を打ってじわじわとドクドク、焼けるような痛みが広がる。
キラーの姿を確認する間もなく、発電機の前に倒れた私はそのまま、キラーに担がれた。
ああ、こんな緊張感も欠片もない情けない殺られ方をして、きっと今回もサバイバー仲間に見捨てられるだろうななんてぼんやり思った。
だってしょうがないじゃん、やる気ないときにこんな訳のわからない儀式に呼ばれたってそりゃ本気なんて出せませんよ。そう、悪いのは私じゃなくて全部エンティティだ。子供じみた言い訳をしながら拗ねてたら、優しい仲間が助けにきてくれて、丁寧にフックから下ろしてくれて手当てまでしてくれた。
「これでよし。今回はきついかもしれないけど、頑張ろ!」
ネアが軽く背中を叩いて、笑って励ましてくれた。治療してもらった傷が叩かれたせいでまた痛んだが、私もなんとか笑って頷いた。助けられた仲間にこう言われた以上、言い訳をしている場合じゃないし、精一杯足掻こうか。