悪魔の男
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キラーの中には好き好んで儀式を行ってないキラーがいるらしい。見た目こそは恐くても、まだ良心が残っていて、心を痛めながらサバイバーを狩るキラーたちが。
最初にこの世界に来たときはキラーは悪だという考えしかなかった私はそのことを知ったときにショックを受けた。彼らたちの気持ちを考えずに容赦なくガラス片を肩に突き刺し、パレットを当てていたから。それからは儀式だからお互いがどんな目に合おうと恨みっこは無しだと考えるようになった訳だ。
そんな風にキラーに同情心を抱くようになった私はキラーの全てがそうだとは思っていなかったが、より人の形に近い者にはまだ人間の心が残っていると勝手に勘違いしていた。
今回の儀式も気合いを入れて挑もうと意気込んで、発電機を修理し始めて数分でサバイバー側が不利な状況に陥った。
儀式が開始した数秒後に一人のサバイバーがダウンして吊られた。他の仲間が救助に向かうと言ったので、私はその場で引き続き発電機の修理を続けた。しかし、救助に向かったサバイバーもまた、キラーにダウンを取られてしまう。最初に吊られたサバイバーはまだ救助されてないまま、ダウンを取られてしまったらしく、私は発電機から手を放すと慌てて救助に向かった。しかし、発電機から吊られたサバイバーの位置は結構遠くで、走って行っている間に救助に失敗したサバイバーもダウンした。現状、一人吊り、二人這いずり状態、私が救助に向かっている状態だった。
……ただ、この状況で上手く救助が出来るとは到底思えなかった。明らかにキラーは救助に来た私を最後に狩るつもりだろう。みんなそうやって上手く、短時間でキラーに誘導されて壊滅しかかったのだ。相手はきっと隠密キラーなのは間違いない。
この状況を上手く立て直せる可能性を持っているのは私しかいない。それならキラーが確実に攻撃出来ない状況で救助するのが一番だろうが、そんなタイミングを伺っている時間はない。最初に吊られたサバイバーの残りの命の時間は短くて、それを待っていたらエンティティに連れていかれてしまう。私には見捨てる選択肢もなくて、吊られているサバイバーを何とかフックから下ろそうとした。すると、背後からバサッ…と何か布がはためくような音が聞こえたと思ったら、私はいつの間にか地面に倒れ込んでいた。やはり、私が来るのを待っていたらしい隠密キラーに背後からナイフを刺されたらしい。
吊られた彼を救助することも出来ず、目の前でもがいていた彼は呆気なく処刑された。
キラーである彼は、私をすぐにフックに吊るさずに別の場所に向かっていく。先にダウンしている二人が出血死してしまう前に処刑をしようという考えなのだろう。
圧倒的に手も足も出ずに完敗だったな、とひっそり笑った。だけど、こんな状況でも一筋の希望にすがりたくなるものだ。歩けなくとも、地面を這いずってハッチ脱出出来る可能性がまだ残っている。
ずるずると、出血をしながらも私はハッチがどこら辺に出るか予想しながら、這いずり回った。ハッチの場所はランダムで出現する為、最後の一人になったときに目の前に現れたりすれば出れることもある。……まあ、エンティティの気紛れで出現するだろうし、運が悪ければキラーの目の前に出ることだってある。
三人目が処刑されたみたいだ。私がハッチを何とか探していれば、すぐにキラーは私の目の前に現れてしゃがむ。
「……そんなに脱出したいの?」
「…それは、勿論」
「……なら、ハッチの場所を教えてあげるよ。ほら、あそこ」
キラーは何を思ったのか、ハッチが出ている場所を指差した。見ると確かにわりと近い場所にハッチが出現していて、ここからでも風の流れる音が聞こえた。
「……どういうつもり?」
「出たいんでしょ?なら、出ていいよって言ってるだけ。俺の気が変わらない内に早く行きなよ」
そう言うとキラーは楽しそうに笑った。
これが良心を残したキラーの優しさなのか、と私は簡単に納得する。彼は担いでハッチまで運んでくれることはなかったが、這いずる私をハッチまで誘導した。
「ほら、もう少しだよ。早くしないと出血死しちゃうから急がないと」
「……」
手を叩いて這いずる私を誘導する彼は、私のことをまるで動物のように扱う。それもすごく、楽しそうに笑いながら。最初は優しい人かと思っていたら徐々にその本性が現れだした。
「…クスクス、まるで芋虫みたいで哀れだねぇ?でも君にはそうやって這いつくばって動いてる姿がお似合いだ」
そう小馬鹿にして笑う彼は記念に一枚と言いながら何処からかカメラを取り出すと、這いつくばっている私の顎を掴んで無理矢理、上を向かせると、自分と一緒に写真を撮った。流石にこんな状況で好き勝手されるのは腹が立つ。写真を消してと頼んでも彼は消してくれなかった。こんな奴に情けをかけてもらうなんてすごく癪だと思いつつも、何故か意地でも脱出したいと思った。
彼に煽られるのを無視しながら、やっとハッチの目の前まで来てやっと地獄の時間を終わらせられると安堵したのも束の間、ハッチは目の前でバタン、と無慈悲に閉じられた。
「……」
「ぷっ、ククク、ああ、その絶望した顔、堪んないなあ。その顔が見たかったんだよね」
目の前で愉しそうに笑っている奴を一瞬でも信じた私が悪い。そう頭でわかっていても、ここまで腹立つことはそうそうないだろう。もう、こいつに言うことなんて何もないけど精一杯、睨み付けた。
「…怒ってる?優しい奴だと信じてたなら謝るよ。君のピュアな心を踏みにじってごめんね」
それだけ言うと、彼は私を担ぎ上げてフックに吊るした。真っ黒な蜘蛛の脚が突き刺さる直前、「今度会ったときもまた、遊ばせてね」なんて言ってたが、冗談じゃない。二度と、こんな人の形をした悪魔を信じたりはしないと心に誓った。