救済
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まただ。
一人も処刑出来ずにサバイバーに舐められて煽られた挙げ句にゲートから楽しそうに笑って仲良く逃げていくサバイバーを見て私は大きなため息を吐いた。
駆け引きが苦手な私はパレットにまっすぐに突っ込んでいく為、頭に当たりすぎて少しこぶが出来ていた。頭を擦れば四人に刺されたガラス片の痛みが遅れてやってきて、顔を歪めた。
……私は馬鹿だ。何度、儀式をやっても何も学習出来ない。キラーというサバイバーに恐れられる存在のはずなのに何度もこんな屈辱を受けては落ち込んでいる。元々、私は人を殺すのが好きなタイプではなかった。殺されそうになったから殺しただけの殺人鬼で、こんな仕事は向いていない。前向きにキラーとして修行する気にもなれずに、馬鹿にされては落ち込んで、最後にはエンティティの拷問が待っている。なんて散々な人生なんだろう。勿論、自分よりもっと辛い思いをしてきたキラーがいることも知ってるけど、私にとっては今でも十分に辛い。
儀式を終え、エンティティに拷問された後の背中がジクジクと脈を打って痛む。シャツにはきっと血が滲んでいることだろう。もう一度、ため息を吐くと自室へと向かった。シャワーを浴びなくてはいけない。だけど、それさえ痛む背中に染みる行為だと思うと憂鬱だった。
私は自室に行く気力を失い、その場で膝を抱えて冷たい床に座り込んだ。
明日なんか来なければいい。
このまま死んでしまいたい。
誰にも見付からないまま、ここで消えたい。
誰も私のことなんか気にしてくれない。
……そのはずなのに、たった一人の人は違った。
こんな真っ暗な場所で座り込んでいた私の前に静かに現れた人がいた。音もなく現れたのに誰かが私の前に来たとわかったのは小さな苦しそうな呻き声が聴こえたからだ。それだけで私は顔を上げずとも誰が見付けてくれたのかわかる。ゆっくりと顔を上げると、床から少し浮いた血色の悪い足に、ゆらゆらと揺れる長いスカート。そして、顔は枕カバーに覆われているキラーがいた。
私はその姿を見ただけで無性に泣きたくなった。彼女にしがみついて情けなく甘えて泣きたい衝動に駆られる。
だけど、そんなのは優しい彼女の負担になることはわかっているから精一杯、強がって口元を緩める。
「……サリー、また来たの?」
「……」
勿論、私の質問に彼女は言葉を返してくれはしない。その彼女の首を絞めている枕カバーのせいで、彼女は呻き声を漏らすことしか出来ないのだ。それはとても辛いことのはずなのに、彼女は望んで自らを苦しめているようだった。まるで贖罪のようだと思った。自分を苦しめ続けることで、亡くなった人々へ罪滅ぼしをしているように。彼女が望むなら彼女を苦しめているそれを取って、彼女の声を聞きたい。だけど、きっと彼女はそんなことを望まないだろう。
何も答えない彼女はその冷たい手で私の手を引いて立ち上がらせると、私を何処かに導いていく。私は何も言わずに、彼女に手を引かれるまま、足を動かした。
ぴたりと、サリーの動きが止まった。見れば私の部屋の前まで連れて来てくれたらしい。動く気力の無い私に気付いて部屋まで導いてくれるなんて、なんて優しい人なんだろう。
彼女はそのまま、部屋に入っていくと私も一緒に入る。そして彼女は私に包帯を見せると、ベッドを指差して、座るように促した。恐らく、エンティティに受けた傷を手当てするから傷を見せろと言いたいのだろう。
私はそのまま彼女に従い、シャツを脱ぐと彼女に背中を見せる。すると、傷口にポンポンとガーゼのような柔らかいもの当てられたかと思うと、じわっと傷に染みた。このツンとする匂いは消毒液だろう。喋れないから仕方ないとはいえ、急に消毒液を傷口に塗られるのは地味に辛い。ぎゅっと唇を噛み締めて痛みに耐えていると、今度は冷たい手で塗り薬を塗られる。痛いはずなのにその優しい手付きに私はほっとする。それから最後には包帯を巻いてもらい、手当てが完了した。
「ありがとう」
シャツを着て、サリーの顔を見ながらしっかりお礼を言うと、うぅ…と小さな呻き声と共に彼女は頷いた。
今は喋れなくとも、私の言葉は彼女に通じている。
「…やっぱり、儀式で上手くいかなくてさ、煽られたり、エンティティに怒られたり、嫌になっちゃった。…だけど、サリーが来てくれただけで全部どうでも良くなっちゃったよ」
私は苦笑いをしながら今日あったことを話す。
すると、ふわり、と何かに包まれた感覚がしたと思ったときにはサリーに抱き締められていた。
彼女の肌は冷たいはずなのに、とても温かかった。ゆっくりと頭を撫でられる。慰めの言葉なんてものはないのにその行動だけで彼女が私の心配して慰めてくれているのが伝わってくる。漏れる呻き声が何か言葉を伝えようとしているのかもしれないけど、私にはそれだけで十分だった。
本来、キラーは泣くべきものじゃないと思っている。どんな状況だろうと泣いてはダメだと言い聞かせてきた。だけど、彼女の優しさに触れると涙が勝手に溢れだして止まらなくなる。最初に思った通り、ダメだと思っていても優しい彼女は私を甘やかしてくれるからこうやって子供みたいにすがって泣きたくなるのだ。私も、ぎゅっとサリーの背中に腕を回した。