彼女との出会い
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初めてミンと儀式が一緒になったときを今でも覚えている。忘れられるはずもなかった。あの日から私はずっとミンに心を奪われたままだから。
訳のわからないヘンテコな世界に連れてかれてから私は何度目かわからない儀式を繰り返した。
まだ、この世界に慣れた訳ではない。儀式から脱出できずに死ぬ回数の方が多いくらいだった。だけど、サバイバーの仲間たちはそんな私を励ましてくれたし、アドバイスをくれたり、サポートしてくれた。この世界は協力しなくては脱出できないからみんなが大事な仲間だと教えてもらい、私も当然のようにみんなと協力することを選んだ。
ある日の夜、眠れずに儀式にどう上手く立ち回れるかを考えていたとき、エンティティの呼び出しがかかった。儀式の時間だ。
みんな儀式を嫌がる人がほとんどだけど私は儀式が嫌いじゃなかった。キラーなんてゲームの中の存在だと思えば恐くなかったし、痛みにもわりと慣れてきた。私は儀式をする度に今度こそ、楽しく完璧にこなしてみせようと思えるのだ。
目を開けば何度か来たことがある場所に立っていた。私は開始早々に発電機を見付けては発電機に齧りついた。一体、何のキラーだろうという疑問は儀式が始まる度に最初に考える。キラーによって隠密をして奇襲をかけてきたり、罠を仕掛けたり、勢いで襲いかかってくるような者も居て、そのキラーによって立ち回りを変えなきゃいけない。単純に勢いでくるキラーとかが相手の方が動きがわかりやすいからそんなキラーだったらいいな。
そんなことを思っていれば、何処かでバチン!と何かが勢いよく弾かれるような音が聞こえてきた。
…この音は恐らく、トラバサミが作動した音だろう。
ならばキラーはトラッパーか。トラバサミの音が聞こえたのにも関わらず、サバイバーの悲鳴が聞こえてこないのは、きっと誰かが罠を解除した音だったのだろう。
「…はぁ、面倒だな」
私はため息を吐いた。
正直、トラッパーはとても苦手だ。それなりに注意していても見えづらい場所に仕掛けられていたり、チェイス中の注意力が散漫の状態だったりと、罠にかかる可能性は高い。窓枠や草むら、板前、救助の際には気をつけなくては。
ジリジリと発電機を直していく。何事もなく発電機が半分くらい直ってきたとき、バン!と勢いよく窓枠を飛び越える音がして、音のした方に目を向ける。
そこには、肩につかないくらいのショートヘアーの黒髪を揺らしながら優雅に窓枠を飛び越える女の子が居た。
キラーに追われながらも、その女の子は何処か楽しそうで挑戦的な眼をしていた。チェイスしながら柵付近の草むらの中にあった罠にも気付いていたらしく、悠々とそれを抜けていく。
あまりにも優雅なチェイスに見惚れて私は発電機を修理していた手元が狂い、修理ミスをしてしまった。大きな爆発音と共に発電機から黒い煙が上がった。
「…しまった…」
その音に気付いたキラーが此方に顔を向けたのがわかった。キラーはさっきまで追っていた女の子を追うのをやめ、私の方に向かってきていた。
…まあ、さっきの子は見るからにチェイス慣れしてるやり手だし、初心者丸出しの発電機を爆発させるような馬鹿女にターゲットを変えるっていうのはわかる。私がキラーでもそうする。
私は再度、大きなため息を吐くと走り出した。
あの発電機はあの子に任せよう。
なるべく遠くその発電機から離れてチェイス出来るポジションに向かう。…とはいえ、チェイスポジションにはきっと罠が至るところに仕掛けてあるんだろうなと思うとうんざりする。キラーとの距離を確認しながらボロ小屋に入っていく。
まず、板前には罠はなし。中の窓枠にもなし。…となると、外側の窓枠には絶対に罠があるはずだ。ボロ小屋の外周を走っていれば、案の定、窓枠の隅の草むらの中に罠があった。
嫌な位置だ。少し前の私ならきっと簡単にそんな罠にかかっていたことだろう。少しだけ、自分の成長を噛み締めて嬉しくなる。…私もさっきの子みたいに少しでも長くチェイスで時間を稼ぎたい。だけど、私の息も切れてきて、キラーとの距離が徐々に近付いていく。キラーが武器を振りかぶったのを見て、板を思い切り倒した。
しかし、ほんの少しだけ遅かったらしい。ほぼ、相討ちという形でキラーに板を当てたと思った瞬間、遅れて背中が熱く感じた。じわじわ、と背中に熱が集まって焼けるような痛みが襲う。慣れたとはいえ、皮膚を切り裂き、肉を断たれる感覚に脂汗がどっと流れる。切られると、出血のせいか状況判断も鈍ってくる。
先にある柵まで何とか走り、窓枠を越えるか、越えないか悩んだ。悩んでいる暇なんかなかった。もう一度、刃物で殴られた感覚がしたときには私は地面に倒れ込んでいた。悔しさで唇を噛み締める。罠を警戒するあまり、悩んでやられていたんじゃ意味がない。キラーに乱暴に担がれながら私は一人、反省をした。
フックに引っかけられて、痛みがわからなくなってきた頃、前方から仲間が走ってきているのが見えた。それはさっきのチェイスが上手な女の子だった。彼女は私を雑にフックから下ろしてくれた。
「ありがとう」
そうお礼を言ったのも聞いていたかわからないタイミングで彼女はすぐに走り出していた。大抵の仲間はみんな気遣って声をかけてくれたり、治療してくれたりするけどこの子はさっぱりした子だななんて思った。
けれど迷惑をかけてる側だし、治療より発電機修理を優先する気持ちもわかる。フックで貫かれて痛む肩を押さえながら彼女の後を追った。彼女はまだ一切、手をつけられてなかった発電機の修理を始めた。私も同じように発電機を直す。
お互い会話をすることもなく、発電機のピストンが動く音と、私の浅い呼吸音だけがする。
何か話そうかなんて考えたけど、あまり喋るのが好きな子じゃないのかもしれないと思うと開きかけた口を閉じる。
「はっきり言ってこの世界で即決できない奴は荷物になる」
発電機の音に混じって聞こえてきた可愛らしい声とは裏腹に冷たい言葉だった。一瞬、自分に向けられた言葉なのか理解できずに彼女に視線を移せば、彼女は此方を一切、見ることはしなかった。だけど、さっきの私のチェイスの様子をこの子に見られていたなら納得の発言ではある。かなり冷たい言い方だけど。
それでも何故だか彼女のその言葉はどんな優しいサバイバー仲間にかけられた言葉よりも響くものだった。
私は何て返そうか迷った後、苦笑いを溢した。
「そうだよね。私もやられたときに後悔してた」
そんな風に言ったらアドバイスなんか貰えるんじゃないかと期待していたけど、その考えは甘かった。私の言葉なんか聞いてなかったかのように彼女はまた発電機修理に集中した。そして、ついに発電機はカチン、と爽快な音を立てて修理が完了した。それと同時に彼女は立ち上がると、それと、と言葉を続けた。
「私、基本的に発電機は一人で直したいの。さっきみたいにミスされたら迷惑だし」
「…そうなんだ。今度から覚えておくよ」
淡々と続けられた言葉に冷たい眼。普通なら嫌われてるとか、嫌な印象を抱くのかもしれない。だけど、不思議なことに私にとってはその態度の全てが嫌だとは思わなかった。はっきりしてて、わかりやすくて寧ろ優しく気遣われるよりも好きだと思った。
他の仲間のサバイバーが修理していた発電機が直ったのかマップ中に大きなブザー音が響き渡った。無事に五つの発電機の修理が完了して、ゲートを解放することが出来るようになった合図だ。
丁度その時、サバイバーの悲鳴が聞こえてきた。きっと通電するまでチェイスを頑張っていたのだろうけど、ついに限界が来てしまったみたいだ。
通電さえしてしまえば、ゲートを開け、仲間を見捨てても脱出することは可能だ。だけど、私は私達の為に頑張ってチェイスを請け負ってくれていた仲間を見捨てる気は更々ない。仲間が居なければ、脱出することが出来なかった試合だ。例え、危険だとしても私は救助に向かうと決めていた。
だけど、その前に彼女に手当てを頼むのが先だ。こういう状況は一回、救助の為に自分達の体調を万全にしなければならない。