はじめましてを何度でも
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
霧の森。
このエンティティが支配する世界では毎日キラーが逃げ惑うサバイバーを捕まえてはエンティティに捧げるという儀式が行われている。それは僕がこの世界に呼ばれる前からずっと同じような形で行われてきたらしい。
古参のキラーからすれば新人の僕は最初はよく舐められていたが月日が経った今では大分、対等な関係になれた気がする。
そんなずっと同じ儀式ばかりが繰り返されているこの世界でも新しいことや変わったことはたくさんある。例えば、新キラーや新サバイバーが入ってきたり、季節のイベントがあったり、後は儀式で使われるマップの地形変更があったり。別にそれ事態に不満はなかったのに、少し前にされた変更に僕は不満を隠しきれなかった。
新しく変更されたシステム。それは儀式毎にサバイバーの記憶を消すということだった。何でも、仲間のサバイバーのことや儀式の大まかなルールは体に染み付いて消えずに残り、キラーのことやマップの場所等は忘れてしまうらしい。キラー側は変わらずにサバイバーのことを覚えているが、サバイバー側からすれば儀式が始まる度に、はじめましてとなる。エンティティの気紛れで勝手に決められたルールだが、この新しいルールのお陰でキラーの攻撃の特徴などを忘れたサバイバーたちは儀式で死にやすくなり、キラーの殺傷率は上がったそうだ。
それからこれは噂だが、サバイバーに恋心を抱いた愚かなキラーが居たからこのシステムを導入したなんて噂もある。
全く、一体、そんな大馬鹿が何処にいるんだなんて思ったけど、まさか、それって僕のことじゃないよねなんて今更ながら思っていたり。
いつ儀式に呼ばれてもいいように、壁に張り付けたダーツボードに向かってナイフを投げていく。
シングル、ダブルリング、トリプルリング、インナーブル、アウターブル、全ての場所に完璧にナイフが刺さる。当然、普段は動いているサバイバーを的にしている訳だし、止まっている的なんて外しようもない。
ただ、やるには意味がある。どんな天才だってある程度努力はしているし、スターである僕が儀式で手を抜く訳にはいかない。ミスればエンティティには拷問されるし、サバイバーの前では格好つかないし。
ダーツボードに刺さったナイフをひとつ、引き抜いて、ため息を吐く。
しかし、殺る気がしない。新しいシステムが導入されてから恐らく二週間くらい経っているはず。それでも納得出来ないのは僕もサバイバーに恋をした愚かな殺人鬼だから。
僕が恋をしたサバイバーに会いたい。
あの可愛らしい声が聴きたくて、嫌なことなんてどうでもよくなってしまうような笑顔が見たい。
それでも、こんなに僕は想うのにあのこは僕のことを忘れてしまうんだ。
掴んだナイフを壁に力いっぱい殴るように突き刺す。
憎む相手には実際には向けられない感情で、やり場のない気持ちだけが残る。らしくないってわかってるのに、人の感情はそう簡単にどうにか出来るものでもない。
そう何度も何度も心の内で自問自答を繰り返していれば、いつの間にかエンティティに呼ばれて、儀式の場所に立っていた。
あたり一面、真っ白で肌寒い。
どうやら今回はオーモンド山での儀式らしい。寒さと寂しさを紛らわせる為に走ってサバイバーを探す。こんな儀式さっさと終わらせよう。オーモンド山は雪のお陰でサバイバーの靴の跡が見やすいからすぐに見付かるだろう。
そこからサバイバーを見付けて、逃げ惑うサバイバーにナイフを命中させ、フックに吊るす。発電機を壊して、救助に来たサバイバーを今度は狙う。それを繰り返す。
……ただ、今回の儀式は全滅は無理だとわかった。
僕は救助しに走ってきたサバイバーを見て、ナイフを投げようとしていた手を無意識に止めてしまっていた。
救助に来たサバイバーは僕が会いたくて仕方がなかった愛しい彼女だったのだから。僕に気付いた彼女は驚いた表情をした後、慌ててサバイバーをフックから下ろした。彼女は救助されたサバイバーを庇うようにしながら一緒に走って逃げていく。
だけど、逃がす訳にはいかない。彼女にナイフが当たらないように上手く避けながら、もう一人のサバイバーを狙っていく。何とか先回りしてそのサバイバーを仕留めることに成功した。残るサバイバーは彼女だけだ。
ただ、僕は彼女を殺せない。あのとき、初めて彼女を殺したときに味わった罪悪感、苦しさは二度と思い出したくないものだった。例えエンティティに拷問されても、それだけはしないと心に決めた。
彼女を見付けると、逃がしてやろうとハッチまで誘導しようとする。
「…殺していいよ」
彼女は逃げる気がなかった。最初から、他のサバイバーを守るだけ守って、死ぬつもりだった。いつもそうだ。彼女はこの儀式から自分が逃げれるかどうかなんてどうだっていいと言っていたことがある。「仲間の為に足掻くだけ足掻いて、無理だったら潔く死ぬよ」そう笑った彼女を見て楽観的でなんて自由なんだろうと思った。こんな狭い世界なのに、自由に生きてる彼女がとても魅力的で羨ましく思えた。
それでも、僕はそんなことを言う彼女を殺してあげたことなんてないけど。