時すでに遅し
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起きたらまず最初にすることは鏡を見ながら髪を梳かすこと。一度も染めたことのない黒くて長い髪は私の唯一のチャームポイントだ。髪の手入れは毎日欠かさないし、何よりこの髪は大好きな母親譲りの綺麗な髪だ。
幼い頃は母にこの髪を褒めながら頭を撫でてもらったり、髪を結ってもらったりするのが大好きだった。
一通り梳かし終えると、今度は髪を後ろに一纏めにして、高い位置で結う。いつも通りだが、ストレートなポニーテールの完成だ。たまには別の髪型にしようかなんて考えるけど、結局この髪型になってしまう。命を懸けた儀式をするにはこの髪型が一番、気合いが入るのだ。
それから顔を洗って、歯を磨いて、適当にご飯を済ませる。そして、お馴染みのサバイバー仲間達が集まる焚き火の元に向かった。軽くみんなに挨拶をする。毎日のようにネアには相変わらず綺麗な髪だね、と口説かれるように褒められて、ミンには素っ気なく挨拶を返される。ケイトはいつもの場所でギターを弾きながら綺麗な歌声を響かせていて、メグは何だか、デイビッドと揉めているのか言い合いしてるみたい。他のみんなも各々、自由な時間を過ごしていた。
今日もみんな元気だななんて思いながら、少しだけ焚き火から離れた川の近くで木を背凭れに座ると本を開く。本を読むなら自室の方が静かで集中出来ていいのだが、何となくみんなの会話を遠くに聴きながら本を読みたい気分だった。
どうせすぐに儀式に呼ばれるだろうし、こんな幸せな時間はあっという間に壊されてしまうんだろうけど。
案の定、本の一行目を読み終えたタイミングで目の前が真っ暗になったかと思えば、見知った場所に立っていた。日の光を存分に浴びれる明るい場所、ロトンフィールズ。美しいトウモロコシ畑が広がる素敵な場所でわりと好きな場所ではあるけど、この景色でさえただのセットでしかないように思う。行われる残酷な儀式のただの舞台。
早いところ、発電機を修理し脱出して本の続きが読みたい。少し歩いた所にトウモロコシ畑に隠れた発電機を見付け、それを修理し始める。しゃがめばこのトウモロコシ畑に上手に隠れてキラーを惑わせることも出来るけど、生憎、私の真っ黒な髪はこの場所での隠密には向いていない。キラーが来る気配がしたらもう全力で逃げるしかないだろう。一人で発電機を修理している為に発電機の修理に意外と時間がかかる。その間に別の発電機が一つ、修理し終えたらしく、他のサバイバーが一緒に手伝いにきてくれてなんとか二台分の発電機の修理が完了した。
キラーは誰だかわからないが、これは早いところ脱出出来るかもしれないと思った矢先、サバイバーの悲鳴が聞こえた。誰かがダウンして吊られたみたいだ。少し遠いけど救助に行こうか発電機を修理しようか迷っていると間もなくしてまたサバイバーの悲鳴が響いた。救助しようとして失敗してダウンさせられてしまったのかもしれない。迷っている暇はないと、救助に向かった。
油断をしているといつの間にかピンチな状況になるのはよくあることだ。キラーが近くに居ないことを確認して慎重に仲間を救助をする。すると、またどこかでサバイバーの悲鳴が響いた。また別のサバイバーがダウンさせられたらしい。どうしよう、また結構、遠い場所だし、このままでは誰も発電機が修理出来る状況じゃない。さっきまでの優勢はキラーが本気を出してなかっただけなのかもしれない。そうこう色々、考えながら別の人の救助に向かう。何とかもう一人、救助を終えて仲間の治療をしてあげようかと屈んだ時、背中に鋭い痛みが走った。
「…いっ…!」
どうやら背後から迫ってきていたキラーに背中を斬られたらしい。怪我している仲間を何とか先に逃がして、少しでもチェイスを出来る場所に向かう。
気配が感じられないキラーだと思っていたら相手はゴーストフェイスだった。通りで次々と奇襲が出来たのかと一人納得する。パレットの前に来たがすぐに倒すのは勿体ないので、相手の動きを見ながら上手く走る。窓枠を跳ぶように見せ掛けて跳ばない。パレットを倒さないとふんだキラーが此方に向かってきたところでパレットを倒してスタンさせた。そしてパレットを壊し始めたら出来る限り遠くに離れてしばらくチェイスをした。
その間に結構、時間が稼げたみたいで仲間が頑張って発電機を修理してくれたのもあり通電出来たようだ。
無事に何とかキラーを撒くことが出来き、自分の怪我の手当てをして後はゲートを見付けて逃げるだけ。
恐らくこっちかな、と方向音痴ながらなんとなく壁沿いに走って行く。そのとき、ぱっと近くに目を移したときになんと炎がついてるトーテムを発見した。もうみんな脱出したかもしれないけど、もし、他に誰かが追いかけられていてこのトーテムが危ないトーテムだったら…。
そう考えたら、居ても立ってもいられなくて、危険だと知りながら、トーテムを壊す為にトーテムに手を伸ばした。
「…みーつけた」
背後から聴こえてきた声にビクッと肩が震える。
一瞬、仲間のサバイバーの声かと思ったが、それにしては妙にくぐもった声だった。自分の嫌な考えを振り払うように、ゆっくり振り返る。
「悪いことしようとしてたね」
そう面白そうに言う彼はキラーだった。
ああ、やっぱり逃げるべきだったと心底後悔する。こうなってしまった以上、この距離ではチェイス云々の話しじゃない。覚悟を決めて彼に殺されよう。