優罪の誓い
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その女は特別、印象に残る容姿をしている訳ではない。
比較する日本人サバイバーが1人しかいないから正確には比較出来ないが、どんな容姿だったかと考えるような程だった。ただ、何故か、雰囲気がある女だった。上手く言えないが、慈愛を感じる人というか、それでいて儚い雰囲気を纏っていた。
"生"に対して執着がほとんどなく、こんな世界ではそうなってもおかしくはないが、特に自己犠牲心が人一倍強い印象がある。珍しすぎる程のお人好しだと思った。
最初はソイツと儀式が合えば容赦なく殺していた。どんな状況でも仲間を見捨てることが出来ないこの女は状況判断が出来ない馬鹿な女。いいカモだとさえ思っていた。だけど、儀式で会う回数が増える度、この女の人柄の良さが嫌でも見えてきた。会話などしなくても、仲間にも大切に思われてるのは伝わるし、行動でわかる。
この女は本当は誰も殺させたくないんだ。
それでも、敵である俺に対して向ける瞳は憎しみや敵意なんてものはなく、哀れみや苦しそうな瞳だった。
『あなただって、好き好んでこうしてる訳じゃないよね』と、そう同情を感じさせる。
その瞳が酷く不快で、苦しくて無性に泣きたくなるから嫌いだった。その俺を恨んでくれない眼を見たくなくて、その眼を極力見ないように殺す。
次第にその女とは儀式に当たりたくないと思う程、俺は苦しめられていた。エンティティに頼んで会わないようにしてもらおうかと思ったぐらい。ただ、それはしなかった。自分があの女から逃げてるみたいで癪だったから。
今日はあの女と当たりませんように。
今日はあの女はいない。
今日は……いた。
我慢をして儀式に出れば出る程、あの女と一緒になる回数が増えてるような気がする。エンティティのことだからわざとやってる可能性も考えられる。俺があの女を苦しんで殺すのを観たいが為に。本当に気に食わねぇ。
……ただ、それなら思った。
エンティティがわざとあの女と当たらせてるなら、俺はあの女を徹底的に無視して儀式をする。俺が殺すことが出来ないとなれば、他のサバイバーに変えることも考えるだろう。
だから、俺は次の儀式からあの女と当たっても殺さずに無視することにした。
それでも、俺の考えは甘かったことを思い知らされる。
女は誰より仲間を守りたいんだ。当然、自分以外ばかり狙われたら仲間を庇いにくる。見たくないのに、視界に入る。後少しで殺せそうだと思ったら女が庇いに間に入ってきて思わず、攻撃する手を止めた。そのまま、仲間と共にゲートまで走っていき、ゲートから出る前に女は一瞬、此方を振り返った。殺すことを諦めつつ、取り敢えず追って離れた距離から見つめていたことに気付いたのかと思った。心臓が跳ねた。見ないようにしていた眼と合ったから。その瞳はやはり哀しそうで申し訳なさそうな雰囲気だった。
それから、俺はあの女と儀式に当たれば、全員捕り逃してばかりの酷い儀式ばかり増えていた。
エンティティはそれに不満があるらしく、捕り逃がす度、俺に罰を与えた。ただ、俺だって我慢の限界だった。『俺の儀式のやり方に不満があるならあの女とは儀式を一緒にするな』と初めてエンティティに対して反抗した。
それに対してエンティティは『当たらないようには出来ないが、減るようにはする』と曖昧な答え方をした。その返答にも納得出来なかったが、これ以上、何を言っても無駄だと思い、また、儀式に出た。
確かにエンティティの言った通り、前よりも格段にあの女と儀式にあたる確率は下がった。0ではないが、それでもやり易くなったので文句は言えない。
あの女と会う頻度は少なくなったのにそれでも、俺は苦しかった。他の女サバイバーを見る度、あの女を思い出してしまう。
会いたくないのに、会いたい。
俺の感情はもうぐちゃぐちゃでどうしたらいいかわからなくなっていた。
これは属に言うスランプというヤツなんだろうか?
そもそも殺しにスランプなんてあるのか?
それとも、これはもっと別の何かなのだろうか。