育ち過ぎて歪んだ愛情
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霧森高校に入学して以来、親しくなった坂見紅乃と今年も同じクラスになれたことを教室の隅でひっそりと二人で喜んだ。学年もクラスも変わったというのに、教室内のクラスメイトの騒がしさは入学当初と変わらない気がする。みんな良い意味で子供だ。そんな元気なクラスメイトたちを見て、僕と紅乃は顔を見合わせて笑う。彼女もきっと同じことを思ったのだろう。そんな瞬間が幸せだと沁み沁み実感する。今こそは彼女と友人という関係を築けているが、当時の僕は彼女とこんな関係になるなんて思いもしなかったはずだ。
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――霧森高校に入学した初日。
みんながクラスメイトと仲良くなろうと奮闘している間も彼女は窓際の席に座って本の世界に入り浸っていた。賑やかな教室の中でそれを全く気にする様子もないのは、まさに彼女が本の世界に入り込んでいるからだろう。彼女の読書をする姿になんとなく目が惹かれた。僕もクラスに馴染む努力をしなくてはならないと悩んでいたはずなのに、彼女を見たらなぜか安心してしまった。僕と同じ読書家だろう彼女に親近感が湧いたからかもしれない。無理をする必要はない気がする。その内、仲良くしたいと思う人がいたら行動すればいい。僕は新作の本を鞄から取り出すと読み始めた。
彼女はとくべつ目立つタイプではないし、寧ろ大人しめの性格をしている。なのにクラスでも一際、目を引く存在だと感じた。それは彼女の容姿がいいのもあるかもしれないけど、凄く真面目な子で少し浮いているようだったからだ。
それから数日後、僕から話し掛けてみようと本を読んでいるふりをしながら彼女の様子を窺っていた。…しかし、すぐに自分にはそんな資格がないと思い直し、行動しようとしていた気持ちは萎んでいった。
「金木くんって高槻泉、好きなの?」
ところが、彼女は僕の席に来ると、机をトントンと軽く叩いて話し掛けてきた。予想外のことに、あまりにもびっくりして心臓が跳ねた。そのあとすぐ、彼女に話し掛けられていると自覚してじわじわと頬が熱くなるのがわかった。頷くと彼女は柔らかく微笑む。
「私と一緒だ。彼女の作品どれも面白いよね」
「そうなんですよね。僕は特に『拝啓カフカ』が好きなんですけど、坂見さんはどの話が好きですか?」
「ああ、『拝啓カフカ』もいいよね。私は…ん〜、どれも好きだけど、やっぱり『黒山羊の卵』かなあ。読んでると辛くなってくるのにどうしても何度も読み返したくなるんだよね」
そうして僕達は読書が共通の趣味ということで色んな話をする内に徐々に仲良くなっていった。話してみると彼女もやはり人と仲良くするのはあまり得意ではないみたいだった。それでも僕と居るのが一番落ち着くと言ってくれたことが僕は嬉しかった。
思えば、僕は入学初日から紅乃に一目惚れをしていたんだ。
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ガラッと教室のドアが開かれた音で我に返る。新しい担任が教室に入ってきたことで教室内の空気が変わった。担任は親しみやすそうな感じではあるけど、どことなく独特な雰囲気を持つ人だった。上手くは言えないが、すごく普通の人っぽいのにその普通の人という感じが作られたものであるような気がした。担任の話が終わると、次は出席番号順に生徒が簡単に自己紹介をしていく。僕は殆ど関わったことない人が多いけど、やはり見覚えのある顔が多い。一笑い取ろうとして滑っている男子、気怠そうに喋る女子、元気が有り余っていて声が大きい女子、ちょっと格好つけてる男子。色んな人が居る。
自分の番が回って来たから適当に無難なことを言う。だけど、どれだけ無難なことを言っても僕の奇抜な見た目に多くの偏見の視線が刺さっていることに気付いていた。白髮に眼帯。幾ら地味に過ごしていても、この見た目では悪目立ちしてしまう。もう慣れたことだけど、この瞬間が酷く嫌いだった。自分の番が終わってほっとする。そのあとに紅乃が自己紹介をする瞬間、クラスメイトの視線が彼女に集中していて彼女は何処となく緊張しているように見えた。無事に自己紹介を終えた彼女は安心したように表情を和らげた。何故か僕もそれを見て安堵した。クラスメイト全員の自己紹介が終わってからはクラス委員長を決めるとき、やはり真面目そうに見える彼女が教師に頼まれてクラス委員を引き受けていた。