ぬけがらに愛を囁く4
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身体中が痛い。いつまで経っても痛みには慣れない。ベッドに入って数時間しか経っていないというのに痛みで目が覚めてしまった。痛み止めの効き目が切れたのか、それとも痛み止めで誤魔化すことさえ無理になってきているのかもわからない。取り敢えずベッドから出ると痛み止めを多めに飲んだ。こんなとき睡眠薬でもあれば痛みを誤魔化してすぐに寝れるのだろうか。もし、今度ナースに会ったときに睡眠薬があったら貰っておこう。再びベッドに入って横になったものの、痛み止めが効くまで寝れたものじゃなかった。寝返りを打つことさえ辛い。
時計を確認すれば夜中の1時を差していた。
…ゴーストフェイスはもう寝ているだろうか。痛みを誤魔化す為にそんなことを考える。こんな時間に部屋を訪ねたら迷惑かもしれないとわかっていながら会いたくて仕方無くなった。馬鹿みたいな話をして笑わせてほしい。ゴーストフェイスと話しているときは拷問の恐怖も不安も全て忘れられるから。考えることをやめて寝巻きのまま、ベッドを抜け出すと彼の部屋に向かった。
躊躇わずに扉をノックして中に聴こえるくらいの声でゴーストフェイスと呼ぶ。少し待っても反応がなかったらすぐに帰ろう。そう思っていれば、中から物音がして扉が開かれた。マスクだけつけた状態でフラな格好をしているゴーストフェイスが出てくる。
「…何?」
「ごめん、寝てた?少し眠れなくて起きてるかなって思って」
「儀式終わったばかりだから起きてた。いいよ、入って」
「本当?ありがとう」
部屋に入れてくれたゴーストフェイスを見ながら、儀式が終わったばかりというのは嘘だとわかった。服だっていつものとは違うし、声も寝起きみたいに眠そうで、ベッドの布団が落ちかけている。誰がどう見たって今まで寝てたけど、訪問者によって起こされた感じだ。私は内心、悪いと思いつつ、それが嬉しくてひっそりと笑ってしまった。勝手にゴーストフェイスのベッドに腰掛けると先程まで寝ていた温もりが残っていた。
「…大丈夫?痛みで寝れない?」
「うん。痛み止め飲んだけど、まだ効かなくて。…気を紛らわしたかったんだ」
「…そっか。……一緒に寝る?」
「そうする。本当は一緒にお酒でも飲んでパーっと痛み忘れようかと思ったんだけど」
「どのみち薬飲んでるから飲めないじゃん」
「そうなんだけど、別にいいかなって」
ベッドに横になるとゴーストフェイスも隣に入ってきて電気を消した。何か話したいけれど、何処となく眠そうだから話すのが躊躇われる。痛みを堪えて寝返りを打ってゴーストフェイスに背を向ける。すると、背中からぼそりと声が聴こえてきた。
「……まだ抗うの?」
「…え?」
「エンティティに。もう十分、理解したでしょ?俺が言ってたこと」
「抗うよ。アイツには屈しないって言ったでしょ」
「……ここに来てどれくらい経った?」
「もうすぐ半年ぐらいかな」
「……そこまで拷問に耐えてた奴、いないよ。みんな持って3ヶ月くらいらしい」
「…そっか。じゃあ、私すごいんだね」
眠いせいか、いつもより声のトーンが低かったゴーストフェイスとは反対に私は明るめに返した。
「全然すごくない。ただの馬鹿。ドMなのかと思う」
「酷い。頑張って耐えてるのに」
「誰も耐えろなんて言ってないし。自分で決めて勝手に一人で苦しんでるだけじゃん」
「…そうだけど、人を殺す方がずっと苦しいから」
「……俺にはその感覚が理解できない」
「できないだろうね」
この感覚が彼にわかる訳がなかった。ゴーストフェイスと初めて喋った日から散々、エンティティに逆らうなと言われてきた。その度に、こういうやり取りをしてお互いが意見を変えずに会話が終わる。ゴーストフェイスが私の為にそう言ってくれてることはわかっていた。でも、これだけは誰にどれだけ言われても譲れないものだった。
「……本当にどうなっても後悔しない?」
「しないよ」
痛み止めが効いてきた気がする。目を閉じたらやっと眠気がやってきた。おやすみ、と言うとおやすみと返ってくる。
後悔しないって言い切らないと恐かった。ゴーストフェイスがここまでしつこく警告するのは本当に危ないからだと思う。こんなやり取りもある日、突然できなくなると思うと恐くて仕方がなかったんだ。