ぬけがらに愛を囁く3
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この世界に来てから結構、経った気がする。ここに連れてこられたばかりのときは気が気じゃなかった。ご飯も喉を通らず、眠れずに、ひたすら泣いた。儀式に出されれば何もできずに拷問をされる。エンティティが与える拷問による恐怖と苦痛。それは少なくなるどころか日増しに酷くなっていった。儀式外ですら、恐怖と痛みとの戦い。心安らげる瞬間もない。生きる意味を見出だせない。そんな毎日を繰り返していく内に私は一人で過ごすことに限界を感じるようになった。
誰でもいい。誰かこの痛みも苦しみも忘れさせてくれる人が居たら。共感してくれたら。そう思うようになって色んなキラーに話し掛けに行ってみたけれど、生憎、お喋り好きなキラーは少ないらしい。そんなときにトラッパーからゴーストフェイスは少し変わった奴だという話を聞いて、本人に会いに行ってみた。すると、どうやら彼は人と喋るのが嫌いじゃないことがわかった。サイコパスなタイプだからそういう考え方は共感出来ないけれど、一緒にいる分には妙に波長が合って落ち着く。
彼と関わるようになってからは私の不安定だったメンタルは安定してきた。前よりも普通の日常が送れるようになった。彼と居ると楽しいし、身体の痛みも誤魔化せる。ナースが心配してくれた痛み止めも飲み過ぎて効きづらくなってきているのに、彼と居ると痛みが和らぐような気がした。
ゴーストフェイスにいずれ、耐えられなくなる日も来ると忠告されていたから、私はらしくないと思いながらも毎日、日記を書くことにした。いつか耐えられなくなったとき、エンティティに殺されてしまったとき、ここに私が生きた証を残しておこう。日記をつけると誰にも見つけられないようにデスクの引き出しに鍵をかけてしまった。
今日も彼の部屋に行けば、彼はサバイバーの死に顔を収めた写真を熱心にスクラップブックに貼り付けていた。それを見ただけで吐きそうになる。
「うわっ、悪趣味」
「そう?最高だと思うけど」
「そういうのは本当に理解できない」
早くしまってよと言えば、はいはいと気に入らなそうにスクラップブックを片付けるゴーストフェイス。今日は何をしようか。
そんなことを考えながら彼を眺めていたとき、ふと疑問が沸いてきた。
「ゴーストフェイスは前に恋人とかいたの?」
「急な質問だね。まあ、普通にいたけど」
「へぇ~。どんな風に付き合ってたの?なんかゴーストフェイスのそういうところ想像出来ないんだけど」
「どんな風にって、ごく一般的だと思うけど。デートしたり、セックスしたり」
「うんうん、愛の言葉を囁いたり、喧嘩したり?」
こんなシリアルキラーの彼が普通に恋をしていたなんて意外だなあと思いながら、想像してはわくわくしてくる。ただ、本人はそんな話を面倒くさそうにしていた。
「いや、愛の言葉なんて囁かないし、喧嘩なんかもしたことないな。面倒事は嫌だったから結構フランクな感じでしか付き合ってなかった」
「ふーん?…まあ、冷めてそうなのはわかる」
「そういう君は?」
「…ないしょ」
そう言いながら人差し指を口の前に持ってきて笑った。自分から聞いといて何だけど、私の恋愛にはあまりいい思い出はないから話せることはない。幸せなカップルになれることを夢見たことは何度もあったけれど、私には色々あり過ぎて難易度が高かった。
「何それ。まさか、処女とかだったり?」
「は?こんないい女がそんな訳ないでしょ」
「自分で言うなよ。全く女らしくない癖に」
「ほっとけよ」
ゴーストフェイスはケラケラと人を馬鹿にしたように笑っている。本当にデリカシーがなくて失礼極まりない男。そう思っているのに、私もつられて笑ってしまうから不思議だ。何度も苛つくことがあってもゴーストフェイスと喋っている内に忘れてしまうのが大半だった。彼は謎多き人でサイコパスのシリアルキラー。それなのにどうしてこんなに気を許せるのか私はわからない。
わからないんだけど、確かにわかることもある。私はゴーストフェイスと居る時間がすごく好きだってこと。こんな風に下らないやり取りを毎日していたいって切実に願っている。そんなこと恥ずかしくてゴーストフェイスには一度だって言ったことは無いけど。