ぬけがらに愛を囁く1
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「ゴーストフェイス、貴方は喋るタイプの人?」
儀式終わり、自室に戻ろうとすれば女が話しかけてきた。彼女は数週間前、この霧の森に連れてこられたばかりの新しいキラーだった。名前は確かルイとかいっただろうか。お互いに興味がなかったからか話したのは今日が初めてだった。
「まあね。他のキラーと比べれば圧倒的に喋る方だろうね」
「そっか。それなら良かった。何だか、ここに居る人達はあまり話すのが好きじゃないのか話しかけても素っ気ない人が多いから話し相手が欲しかったんだ」
前に数回遠目から見ただけだったのもあり、実際に目の前で会って話してみるとあまりにも普通の人間のような雰囲気で少し驚く。俺が話せる相手だとわかると、人懐っこい笑みを浮かべて手を差し出してきた。
「私はルイ。よろしく、ゴーストフェイス」
「別にこの世界では挨拶なんてしなくてもいいと思うけど」
言いながら取り敢えず軽く握手をしておく。この世界でこんな普通の世界みたいに握手をして挨拶をしてくるような常識人に会うとも思っていなかったから変な感じだった。少しだけ、この普通の感覚が懐かしくも思えた。
「そういえば仲良くする前に聞いておきたいんだけど、ゴーストフェイスってどんなキラー?あんまり殺意高いのは嫌なんだけど」
「俺はシリアルキラーだよ。人を付け狙って殺すのが好きなんだ」
敢えてびびらすように楽しげに自己紹介をすればルイはうえっと眉を顰めた。そんな反応されると益々、彼女は殺人鬼なのかと疑いたくなる。この世界でこんな話しは当たり前なのだから。
「それって人を殺すのが好きなサイコパスってこと?」
「そうだよ。君はどうなの?」
「…私は別に人を殺すのが好きな訳じゃない。…殺したことはあるけど、仕方無くだったし」
「そう。なら、君にとってこの世界は地獄だろうね」
「…そうだね。…厭々連れてこられて、拒めずにあんな儀式をやらされてる」
最初に見た明るい表情とは一変してルイの表情は暗くなり、声も小さくなっていった。霧の森では意外と殺しが好きじゃない奴等も多いけれど、どうやら彼女もそっち側の人間らしい。この世界にキラーとして連れてこられた以上、殺すしかないが、可哀想だとは少し同情する。それにしてもエンティティがこの世界に連れてくるキラーの基準は相変わらず曖昧だななんて思った。
「嫌なのはわかるけど、ちゃんとエンティティの望みを叶えないと拷問されちゃうよ?」
「もうされてるよ。私はここに来てまだ一人も殺したことがないから」
苦笑いを浮かべながら彼女が言ったことに驚く。彼女がこの世界に来て数週間が経つというのに一人もサバイバーを殺していないなんて信じられない。どうやっても儀式は拒めないだろうし、来たばかりとなれば、通常より儀式に駆り出される回数も多いはずだ。
「うわっ、それって既に相当、拷問されてるんじゃないの?」
「かれこれ20回ぐらいは」
「…信じられない。平気なの?」
「まさか。すごく辛いよ。…だけど、私は決めたの。あんな奴の言いなりになるなんて絶対に嫌。だから絶対に私はこの世界で人を殺さない」
意思の強い眼差しを向けられて更に引いてしまった。この女は馬鹿なんじゃないかと思わずにはいられない。いくら殺したくないとはいえ、サバイバーを一切殺さないなんて無理だ。そんな風に反抗していた奴等もいたが、今はそんな奴等もみんなエンティティに拷問されて止む得なく人を殺している。屈したくなくとも屈しなければ身が持たない日がいつか来る。お節介だと思いながらもこんな馬鹿な女には忠告しておいた方がいいだろう。
「そんなの無理に決まってるから大人しく殺した方が身の為だよ。どうせこの世界だとサバイバーは儀式で死んでも生き返るから従った方がいい」
「それはわかってる。だけど、私は人を殺す感覚が嫌なの。…気持ち悪くて、思い出しただけで吐きそうになる。もう殺したくない」
「…今は拷問に耐えられてもその内、耐えられなくなる。他の反抗していた奴等もみんな今は殺らされてるんだ。この世界でキラーとしている以上、殺すことに慣れたら?」
「…他の人がそうだとしても私は違う。あんな身勝手な奴に屈しない。私は好きでこの世界に来た訳じゃないから、私の思ったように生きるだけ」
何度か念を押しても彼女の意見は変わらなかった。どうしてこんなキラーに向いてないような奴がこの世界に連れてこられたのか疑問が深まる。まるで考え方なんかはまともなサバイバーみたいだ。サバイバーとして連れてくるはずが、間違ってキラーとして迎え入れてしまったみたいに。
「…そこまで言うなら君の好きにすればいいと思うけど、どうなっても自業自得だよ。…例え、キラーとしての成果を出せない君をエンティティが消そうとしたとしても」
「わかってる。そのときはそのときだから」
俺の最後の忠告も虚しく、そう言うとルイは屈託なく笑った。彼女には何を言っても無駄だとわかった。こんなやり取りをしただけで俺と彼女は全く仲良くなれなさそうだとも思った。もう何も言う気にはなれずに彼女に背を向けると後ろから呼び止められる。
「ゴーストフェイス、心配してくれてありがとう。明日も良かったら話ししよう」
どうやら自分の気持ちとは裏腹に彼女に気に入られてしまったのかもしれない。この世界の闇なんか感じさせないくらい眩しい笑顔で手を振る彼女を見て、ひっそりとため息を吐いた。