ぬけがらに愛を囁く12
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ルイの替わりに儀式に出るという交渉をしてから、俺が儀式に呼ばれる回数が格段に増えた。あの邪神、過労死させる気か。疲れてフラフラしながら帰ってくると、まず先にルイのところに向かう。彼女は相変わらず、ぼーっと座っているだけだった。今日はずっと儀式で俺がいなかったからルイもご飯を食べてないだろう。一人で何か食べてくれればいいが、ルイは一人で居ると何かを食べるということさえしなくなる。食べさせれば食べるけれど、最早、空腹すら感じていないのだろうか。
適当に簡単なご飯を作ると、彼女に食べさせてから自分も食べる。それから、シャワーを浴びた。今日は特別忙しい日だった。こんな日が続くようなら、もしかしたら、俺一人ではルイの世話をしきれないかもしれない。俺が居ないとき、せめてご飯を作ってくれて、食べさせてあげる人がいたらいいのにと考える。そこで思いついた。それなら、ナースが適任だ。ナースならしっかりしてるし、信用できる。早速、彼女にそのことを話しに行くと彼女は快くそれを引き受けてくれた。ルイは自我が失くなる前もナースに薬を貰いに行ってたからなのか、ナースはルイのことを気に掛けていたみたいだ。それとルイの意思が戻る可能性がある方法も教えてくれた。それは『ルイが一番、幸せだと感じていたときのことを思い出せるようにすること』が鍵になるかもしれないとのことだった。具体的に何をするべきかを聞くと、恐らく俺と過ごした日々を彼女は求めていたのではないかと言う。一緒に観た映画、一緒に食べたご飯、そのときにした会話、それらをもう一度、再現してみる。そうすることで、それをきっかけにルイが反応を示すかもしれないと。それは、唯一の希望のようにも思えた。
早速、前に彼女と観た全く同じ和製ホラー映画を観てみる。隣に座っているルイはテレビの画面には目を向けているものの、びっくりするシーンでも無反応だった。前にクッションで顔を隠していたシーンでも全く微動だにしない。やはり、恐いとか感じる以前の問題のようにも思う。俺は映画を観るよりも彼女が何か僅かでも反応しないかを注意深く見ていて映画どころではなかった。
他にも夜ご飯には前にルイと一緒に作ったカレーを同じように作ってみた。同じようにと言っても、今回は前と全部同じ食材は用意できなかった。前回はじゃがいもが入っていたが、今回はないから人参を代わりに入れる。それ以外は同じようにしたつもりだけど、ふざけて適当に入れたスパイスが何だったか忘れてしまった。あのときのとは少し違うが、カレーはカレーだ。作ったカレーをルイに食べさせる。口に入れるともぐもぐと口を動かす。ただ食べているだけで、とくに表情に変化は見られなかった。しかし、食事の途中でちょっとした変化があった。スプーンで掬ったものを口に運んだとき、彼女は急に口を開かなくなった。
「お腹いっぱい?」
まだご飯は半分以上残っているからお腹いっぱいになった感じではなさそうだ。それなのに口の前にスプーンをやっても、ルイは口を開いてくれない。今までは一度もこんなことはなかったのに。挙げ句の果てには口を開くどころか僅かについ、と顔をスプーンから背けた。見たことのない様子に驚く。
「…ルイ、まさか戻ったの?」
話しかけても反応はない。もう一度、スプーンを口に向けるとやはり顔を背けた。スプーンに残っているのは人参だ。……人参?そういえば、前にルイと好き嫌いの話をしてたときに人参が大嫌いだと言っていたのを思い出した。…まさか、人参が嫌で拒否してるのか?そう思って人参を避けて再びカレーを掬ってスプーンを口に近づけると、自然と彼女の口は開いて咀嚼していた。試しにもう一度、人参を近づけてみると頑なに口を開こうとはしなかった。そこで確信した。これは間違いなく、人参が嫌で拒んでいると。喋ったりはしないところを見ると完全に意思が戻った訳ではなさそうだ。きっと、無意識に彼女の身体が人参を受け付けないことを記憶していて勝手に拒んだのだろう。それだけのことなのに、俺は嬉しくて仕方なくなる。彼女の意思が戻ってなくても、彼女の身体が自然と記憶しているなら、反応を示す可能性があるということ。それを知れただけで、まだ希望はあると思った。彼女の食事を終えると、彼女が残した人参は俺が食べておいた。
それから、いつものようにシャワーを浴びて、歯を磨き、ベッドに行く。夜になると大体、ルイは勝手に電池が切れたようにベッドに横になるのに今日は座ったまま動く気配がない。
「まだ眠くないの?」
今日のルイはやけに意思があるような様子だ。喋ってはくれないけど、些細な変化が見れて嬉しい。彼女の意思が戻る日もそう遠くないと思えてくる。無表情の彼女をじっと見つめる。
「…ルイ…愛してる」
ずっと、言えなかった言葉を初めて口にした。その言葉を言ったところで彼女が何か反応してくれる訳ではなかった。それでも、その言葉を彼女に向けて言うことで、より愛おしく思えた。愛してる、ともう一度言うと、彼女の唇に自分の唇を重ねた。それによって彼女の意思が戻ったりすることはない。当然だが、おとぎ話のような展開は訪れてはくれない。馬鹿みたいだと、ふっと笑ってしまった。それからすぐに眠くなったのか、ルイはベッドに横になった。まるで、おやすみのキスを待っていたかのタイミングで眠りに落ちた。考えすぎだとわかっている。だけど、彼女の気持ちがわからない今なら好きに考えたっていいだろう。
1/1ページ