ぬけがらに愛を囁く11
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
居ても立ってもいられなくて、エンティティ直々に交渉を持ちかけた。ルイがエンティティのせいでボロボロになったことや、メンタルが壊れただの怒りは一切、ぶつけずに。交渉する相手を不機嫌にさせる理由なんてないから、至って冷静に対応した。交渉の内容は、これからルイをキラーとして扱わない代わりに、俺が彼女の分まで儀式でサバイバーを殺すと。それを聞いたエンティティは馬鹿にしたように嗤っていた。馬鹿にされることなんて分かりきっていた。エンティティに人を想う感情なんてものはわからないだろうから。
“そしたら本当にあの女は生きる価値のないゴミになる。殺してやった方がマシだろう”
「価値なんてアンタが決めるものじゃない」
冷静なつもりで内心は苛ついていた。何も言い返さないという選択ができないほど。この世界の神にいらないと言われるなら、それが全てだとエンティティは思っている。ルイを『価値のないゴミ』だと罵るほど、彼女が気に食わない存在なんだろう。そうやってきっと、ルイの心を殺す為に彼女の存在そのものを否定する呪いの言葉を吐き続けたのかと思うと、殺意が沸いた。ただ、意外にもエンティティは簡単にその条件を呑んだ。ルイを殺すと脅したのは本心ではないことは気付いていた。彼女はどんな使えないキラーでも処分することはできない。自分がわざわざこの世に連れてきたキラーを処分するのは彼女の意に反するらしい。もし、エンティティが簡単にキラーを処分するようなヤツなら、こんなに何度も拷問で手を焼いてまで使えるようにする必要はない。面倒だし殺して、もっと有能なキラーを連れてくる方が早い。それをしないのは、どんなに使えないものだとしても、自分の手元にある限り、それは永遠に彼女のものなのだろう。それが多分、キラー達に対する彼女なりの歪んだ愛情のように思う。心底、気持ち悪い話だが。
兎に角、交渉がすんなりと上手くいって良かった。これからはキラー二人分の仕事をしなければならないというのは、かなり大変なことだとは思うが、彼女のことを考えると必要だった。…ルイの心が壊れてしまう前にこの交渉を思いついていれば、今頃こうはならなかっただろうと一瞬、考えた。…いや、あのときの俺にはきっと、そんな選択できなかった。考えもしなかっただろう。こうならないと行動できなかったというのが答えだ。
エンティティにこんな交渉をした理由は、彼女が戻ってくる為に必要なことだったからだ。この交渉で確実に彼女の自我が戻る確証はないが、可能性は広がる。殺しをしたくないルイはエンティティにどんなことをされても反抗していた。自分の身体がボロボロになるまで、心が壊れる限界まで耐えていたはずだ。人を殺さなくてはいけないこと、それを何よりも拒んでいた。だからこそ、今、人を平気で殺すようになってしまった彼女が人を殺さなくていいようにした。彼女の心が壊れる原因のひとつを取り除く。そうすることで、彼女の自我が戻っていく可能性が広がると考えた。エンティティがルイをキラーとして必要としている以上、彼女が人を殺さなくていい方法は俺が彼女の分まで殺すことしかなかった。
しかし、エンティティの拷問で自我を失ったとするなら、幾ら殺しをしなくて良くなったとしても、彼女のメンタルが回復するとは考えにくい。拷問で既に戻ってこれないほど、心が壊されている可能性が高いからだ。ただ、彼女がキラーじゃなくなった以上、もう二度と拷問されることもない。エンティティと関わる必要だってない。彼女を壊した元凶は全て取っ払った。もう、いつでも戻ってこられる。
「ルイ、…君が嫌がることはもう何もないよ。…だから、はやく、戻っておいで」
ベッドに座る彼女の頬を撫でる。彼女は俺の言葉どころか、その頬に触れるという行為にさえ、何も反応しない。ただ、どこかを見つめている。俺の声はルイに届いているのだろうか。毎日、毎日、何を思っているのか。寝たきりで意識のない人間でも、会話などは聴こえているという話は聞いたことがある。それなら、意識がある彼女には絶対に聴こえているはずだと自分に言い聞かせる。きっと、塞ぎ込んでいるだけだ。話したくても、今は話すことが難しいだけ。
この世界の神は無慈悲だから神頼みなんてできない。そもそも殺人鬼が神頼みなんて笑わせる。でも今は馬鹿だと笑われてもいいから信じていたい。邪神ではなく、彼女を。彼女の手をそっと握ると、途方もないことを願った。