同族嫌悪
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今日はこの世界でもかなり反抗的な態度のトラッパーに報酬を与えなくてはならない。だけど彼は毎回、報酬を貰えると言われても私の部屋に来てくれなかった。面倒だとか欲しい物がないとか理由があるのかもしれないけど、それを与えるのが私のメインの仕事だから困るのだ。仕方なく、自らトラッパーの部屋に向かうことにした。正直、彼はエンティティ様のことも私のことも好いてはいないから扱いが難しい。人を殺すことを反対していたのに無理矢理やらされているから当然ではあるのだろうけど。この世界に来たばかりのトラッパーは反抗的で言うことを聞かなかった為にエンティティ様が直々に彼に拷問を与え続けていたらしい。私がこの世界に呼ばれたのはドクターが来て少ししてからでその前に拷問をしていたのは全てエンティティ様だ。トラッパーもドクターも反抗的なキラーだった為に調教師を用意したということだろう。
そんなこんな考えていれば、トラッパーの部屋に到着した。声をかけてノックをしてみたが、しばらく待っても彼が出てくる気配はない。部屋の中には気配があるし、当然、儀式にも出てないので居留守を使うのは無理がある。大方、自分の部屋を訪ねてくるなんて私ぐらいしか居ないと思ってるから出る気なんてないのだろう。舐められたものだ。私はため息を吐くともう一度、声をかけた。
「後、十秒以内に出なかった場合は勝手に入るよー」
声には出さずに十カウントをしたけど、やはりトラッパーは出てこない。まあ、そんなことだろうと思ってた。ドアノブを回すと鍵はかかっておらず、すんなり回る。
部屋に入れば不満そうに私を睨み付けている大男がいた。
「何で居留守なんて使うの?」
「…お前に会いたくないからだ。要件は何だ?」
「まあ、酷い。ご褒美あげにきたんだよ。何が欲しい?」
「…特にない」
「無しはダメ。何でもいいから欲しい物とかないの?」
トラッパーは嫌いな私達から物を貰ったりするのも嫌みたいだったけど、少し考える素振りを見せた。しばらく考えていたけど、物欲が無いらしくやはり首を横に振った。
「…困ったね。…あ、それなら休暇は?一日しかあげられないけどそれが一番いいんじゃないかな」
休暇。それは労働者の誰もが貰えるなら拒んだりする者はいないだろう。余程の仕事好きでもない限り。トラッパーはご褒美に休暇を貰うという発想がなかったみたいで休暇が貰えることに驚いていた。
「…休暇もありなのか?」
「ありだよ。前にちゃーんと説明したはずだけど、どうせ聞き流してたんでしょう?」
「…なら明日は休む」
「了解。エンティティ様に伝えておくね」
それだけのやり取りで彼との会話はあっさり終わってしまった。トラッパーが私のことが嫌いなのは知ってるし、さっさと出ていった方が彼の為なのはわかっているけど、それだけでは何処か寂しい。私はもう少し彼と下らない話をしてみたり相談をされてみたりしたいのだ。その方が仕事してる感あるし、頼られてる感があって素敵じゃない?
私は彼と更に会話を広げる為にベッドに勝手に腰を下ろした。すると彼は何も言わずに私を睨み付けてきた。
「私が嫌いで関わりたくないのはわかるけど、たまには少しくらい話しをしようよ」
「……」
「コミュニケーションは大事なんだよ。…何か困っていたり、悩んでいたりすることはない?何でも聞くよ」
「現に今、お前が居座っていることが迷惑だな」
「じゃあそれ以外で。うーん、…例えば好きな女が出来たとか儀式のマップで気に入らない地形があるとか、ない?マップの修正に関しては私は専門外だけど、エンティティ様にそれを伝えることなら出来るよ」
気に入らなそうに私をじっと見つめてからトラッパーは口を開いた。
「……お前は何故、エンティティに仕えているんだ?」
まさか私自身のことを聞かれるとは思ってなかったから、目をぱちくりさせる。マップのことよりそんなことが気になるんだと思いながら私は笑って答えた。
「それは勿論、エンティティ様を敬愛してるからだよ。あの方にこの世界に呼んで貰えて感謝してる」
「……イカれてやがる。あんな邪神の何処がいいんだ」
「それは褒め言葉だよね。…あんなに絶対的に他人を支配出来る強さを持つ人なんて他にいない。やることなすこと無情なのかと思えば、きちんと私達のことを観ててくれて、頑張ればご褒美だって与えてくれる。こんなにいい人なんていないよ?」
「……自分の私利私欲の為に俺達を利用してる傲慢なクズ野郎だろ」
「それの何がいけないの?力を持つ者が絶対的なんだからそうなって当然じゃない。…私達はあの方に選ばれたんだよ。光栄なことだよ」
「…やっぱりてめえと話してると腹が立つ。さっさと失せろ」
ついうっかりエンティティ様の魅力を語った上で私の考えまで言ったものだからトラッパーに不快な思いをさせてしまったみたいだ。彼にとっては当然、こんな話は面白くないだろうから控えようと思っていたのに。まあ、トラッパーの質問がどう考えてもこうなる流れを作っていたと思うから仕方がないのかもしれないけど、私は彼と仲良くなりたかっただけだ。あまりにも考え方が違うから仲良くするのは難しいかもしれないが、もう少しだけ穏やかに会話が出来たら良かったのに。
「気を悪くさせてしまってごめんね。別にトラッパーを怒らせたかった訳じゃなくて本当は少し仲良くなりたいって思ってただけなんだ」
「…無理な話だな」
「だろうね。…まあ、また気が向いたらお話しようね」
絶対にトラッパーから話し掛けてくれることなんてないんだろうけどと思いつつ、笑いかけた。
彼の部屋を後にすると小さくため息を吐く。
トラッパーにだって誰かを崇拝する気持ちはわかるはずだ。過去に彼が暴力と権力に溺れていた父親を崇拝していたことがあるように。…だけど、だからこそなのかもしれない。絶対的な力を持つ者を素晴らしいと感じてエンティティ様を崇拝する私はきっと過去の彼と勝手に重ねられてしまったのだろう。
わかるからこそ、むかつくんだ。
彼の身体に流れている血に抗えずにそんな選択をしてしまったことも、もう何を思っても取り返しのつかないことなのも。血縁関係って本当に残酷だなと、私自身に流れている血を改めて実感してふっと自らを嘲笑った。
次、彼と話すときはもう少し下らない話をして笑わせてあげたいと密かに思った。