秘めた内情
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
エンティティを崇拝しているキラーの調教師、リフという名の女はイカれてやがる。
あの女は基本的に普段は俺達キラーには関わってこない。リージョンのメンバーは俺含め、女と関わることがあるとすれば、たまの儀式での褒美という名の報酬を貰うときぐらいだ。その女が報酬以外にもヘマしたキラーに拷問を与える存在だということも知っていた。
だからこそ、俺はあのイカれたエンティティを崇拝して拷問をしている女とは必要以上に関わるなとリージョンのメンバーに厳しく言っていた。話した感じは普通の人に思えるが、キラーに苦痛を与えることを仕事としている女なんて録な奴じゃない。ジョーイは女の見た目が好みらしくあの女から拷問を受けるなら本望だろ、なんてデレデレしながらそんなこと言っていたが、馬鹿言うなと釘をしたことがある。確かに女は今まで見たこともないくらい飛び抜けた美貌の持ち主だ。ただ美しいだけではなく、どこか危うさがある妖艶な雰囲気を纏っていて、それでいてスタイルだって抜群だった。一度見たら人を虜にしてしまうような女だからこそ、俺は危ないと直感的に思っていた。エンティティがわざとそんな魅惑的な女をこの世界に連れてきてキラーの調教師にしたっていう魂胆は頭の良くない俺にだってわかる。
ただ、女がヘマしたキラーを拷問していると噂には聞くものの、不思議なことに俺たちリージョンはこの世界に来てから誰もそんな目に遭ったことはなかった。それこそこの世界に来たばかりのときは慣れてないこともあり、儀式で生存者を取り逃がすことも多かった。それなのに誰一人として女に拷問はされなかった。
スージーが一番、この世界に馴染むのに苦労していたことは知っていた。元々、彼女は殺しを拒んでいたところもあったから余計に。そんなスージーが儀式を上手くこなせるように俺達はよくアドバイスをしていたりした。そのときにスージーは不思議なことを言っていた。俺達以外に儀式の立ち回り方を教えてくれたり、親身になって相談に乗ってくれた人がいたと。その相手は古参キラーなのかと思って誰か尋ねたことがあったが、スージーはその相手を頑なに教えようとはしなかった。
やがて、そんな風にこの霧の森で過ごしていく内に俺達は儀式に順応していって今では難なく、全員が全滅を取れるようになった。
それでも慣れていくと次第に儀式に対する意識は薄れていく。最初こそは拷問されないようにと必死で考え抜いて儀式をこなしていたが、今では拷問されないのをいいことにメンバー全員の気が緩んで適当に儀式を終わらせるようになっていた。
ある日、いつものように適当に二人処刑して儀式を終わらせるとエンティティから拷問の話をされた。まさか本当に拷問をされるなんて思っていなかった為に驚いたし、言い知れぬ恐怖と苛立ちが沸き上がる。
エンティティの拷問なんて拒むことなど出来ないとわかっていたが、納得がいかなかった。
どんなに調子が悪くても最低一人は処刑するし、平均は二人処刑。調子が良ければ全滅。適当にこなしていたとしてもそこまで悪い戦績ではないはずだ。今までだってずっとそれで拷問されずにやってきたのに、何故今になって拷問を受けなければならないんだ。
だけど、その理不尽さに納得いかなくてもエンティティに口答えなんて出来るはずもなく、渋々と拷問部屋に向かった。
拷問部屋では上機嫌であの女が待ち構えていた。
優雅に紅茶なんて飲んで待ってやがった。納得いかずに苛ついていたのに拷問する本人がこんなに愉しそうにしているなんて気に入らない。エンティティにぶつけられなかった不満をここぞとばかりに女にぶつけた。
それでも女は優雅に俺を宥めるように説明する。
「……儀式の結果はそれなりに出してるだろ?」
「確かに君の結果はそこまで悪くと思うよ。けどリージョン全体で見ると低いみたい。納得いかないのはわかるけど、君はリージョンのリーダーだし仲間が傷付くよりはマシだと思わない?」
俺じゃなく、今回の拷問はメンバーの戦績が関係している。そう言われるとそのことでは何も言い返せなくなる。確かにアイツら自身もここ最近は適当に儀式をこなしていると言っていたのを覚えている。全逃げだって珍しくはない。その拷問をリーダーである俺が代表して受けるなんて理不尽で納得出来ないと思いながらも、アイツらが拷問に遭うよりはマシだと考えてしまった。女を睨み付けて文句を言いながらも言われた通りにするしかない。女がわざわざ嬉々として拷問メニュー表なんて趣味の悪いもの出してきた。そこには顔をしかめたくなる文字の羅列があってうんざりした。
やっぱり、コイツは正真正銘のイカれた女だ。さっさと終わらせて欲しかった為に何でもいいと言えば、女は鞭を取り出して微笑んだ。むかつくことにその笑みがあまりにも妖艶だった為に自分の置かれている状況も忘れて見惚れてしまった。そのとき、ジョーイが前に言ったあの女に拷問されるなら本望だろと言っていた言葉を思い出した。思わず生唾を飲むと、はっと我に返って頭を振る。…馬鹿なこと言ってんじゃねぇ。今から拷問されるのにそんな気分になる訳ないだろ。俺にそんな趣味はねぇよ。
今から行なわれるのは屈辱的な苦痛を与える拷問だ。服を脱げと言われて裸になったせいで一瞬、変なことを考えてしまっただけだ。
女に背を向けると行なわれる拷問に備えて唇を噛んだ。けれど、いつまで待っても痛みは来ない。不思議に思っていると不意に色っぽいため息が聴こえて、つーっと柔らかい指先が背筋をなぞってゆっくり滑り落ちていった。急に訪れたその感覚にゾクゾクと身体が震えた。痛みじゃなく、まさか女に背中を優しく撫でられるなんて思ってもいなくて驚いて身体が反応しただけだ。そんなことで興奮したりはしないと必死に自分に言い聞かせる。早く、終わらせて欲しい。そんな俺の思いとは裏腹に女は背中を撫でる手を止めることはせずにスルスルと撫でている。最初はどうせすぐ終わると思って黙って待っていたが、ついに我慢しきれずに女に催促をした。
拷問の催促をするなんてどんだけだよと思うけど、いつまでもこんなことをされていたらたまったものじゃない。女は悪戯に笑うと、拷問の合図をしてついにその鞭を振るった。
さっきまで優しく背中を撫でていた女がやっているとは思えない力加減で鞭が背中に叩き込まれる。鞭が背中にぶつかる度にパシンッ、パシンッと音がして壁についていた手につい力が入る。怒涛に流れ込む痛みに耐えるように歯を食い縛った。拷問される前は少し興奮しそうになってしまったが、やはりこれはいいものじゃない。例えどれだけ魅力的な女にされようとも、俺の性格では黙って女に苦痛と屈辱を与え続けられるのは我慢ならない。そう、こんなことをされるなんて柄じゃないんだ。本来なら俺はこの女を力で捩じ伏せることができる。女を殴って蹴ってナイフで斬り刻んで泣くまで脅すことも、殺すことだって簡単にできる。この女はエンティティに特別扱いされているってこと以外、他の非力なサバイバーとなんら変わらないのだから。ただ、今だけは逆らえないだけだ。俺は今じゃない限り、いつだってこの女に仕返しして解らせることができる。…いつか、絶対にその美しい顔を屈辱で歪めさせてやる。
いつか仕返しをしてやるという思いだけで、呻き声が漏れないように必死に耐えていればやがて、その手が止まった。…やっと終わった。
ほっとしてゆっくりと息を吐くと、その血だらけで痛む背中をまた、するりと撫でられたかと思うと、優しく柔らかい感触がした。肌が触れた感触。指先なんかよりももっと柔らかいもの。少し湿っていて温かいこの感触は唇だと遅れて気付いた。女は自分が鞭で痛め付けた俺の背中に愛おしむように短くキスをした。それだけでドキリと心臓の鼓動が大きくなったのがわかった。
心臓に悪い。一体、何なんだ…?
さっきまで恨みで溢れ返っていたのにたったそれだけのことをされただけで変に意識してしまうのが悔しい。
「…終わりだよ。服着ていいよ」
俺の背中から女の手が離れていき、地獄の時間が終わりを告げた。早く、この女から解放されたくて黙って服に袖を通す。ジクジクと痛む背中がこの女に一生消えない感情と傷痕を共に刻み付けられたみたいだった。
痛みで苦しんだ痕が一生俺の身体に残る。それは恨みなのかそれとももっと別の何かなのか。
「フランク、今度、お仕置することがあるならその仮面を取って屈辱に歪む君の顔が見たいな」
「もう二度とねぇよ」
きっとそう言った女は愉しそうに、妖しく微笑んでいただろう。そんな顔を見たくなくてそのまま背を向けて拷問部屋を後にした。
…もう二度と拷問を受ける戦績なんて残させない。俺自身も、女に忠告されたようにアイツらにもきつく言っておこう。次、この女と会うときは報酬を貰うときだ。
後悔させてやる。