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今日は珍しく暇な日だ。普段はエンティティ様に頼まれたデスクワークをこなしていることがほとんどだけど、それも全て片付けたばかりだった。とはいえ、何かすることも思いつかないし、のんびりキラーの儀式でも監視していよう。
紅茶が入ったカップにミルクを注ぐと、はちみつを入れてスプーンで混ぜながらモニターを眺める。今、ギデオン食肉工場ではトラッパーが儀式中だ。この場所では罠を仕掛けてサバイバーを仕留めるには罠が目立ち過ぎる。明らかに不利なマップで運が悪いなあと苦笑いが溢れた。トラッパーの罠ももう少し、やりやすいように改良する必要があるように感じる。まだ今回の罠は解除すると負傷する仕様だから戦える可能性はあるけれど。ただ、サバイバーもかなりやんちゃな人達が集まっているのか、ライトで目眩ましをしてサバイバーを救助したり、フック破壊をしたりと暴れ放題だった。トラッパーの心情を察するに相当、苛ついてそうだ。
私も観てて段々とイライラしてきて誤魔化すようにドーナツを一口食べる。すると、扉をノックする音が耳に入った。あまりキラーの儀式の状況が他のキラーに知られるのは良くないかもと思い、一端モニターの電源を落として扉を開ける。
「久しぶりだね、リフ」
「…また君なの?つい3週間ぐらい前に会わなかった?」
「3週間も会ってなかったじゃん」
ゴーストフェイスは「君に会いたかったけど、我慢してたんだよ」と付け加えた。まるで、恋人みたいな返しだなと思ったけれど、面倒だからそれについては触れないことにする。確かに頻繁に来るのは辞めてと言ってから頻度は減ったものの、それでも多いとは思う。
「それで、何の用?」
「今日は大事な話をしにきた」
邪魔するよと断りを入れると、するりと部屋に入っていく。いつも気がついたら勝手に部屋に入られてる。私はため息を吐きたい気持ちをぐっと堪えた。大事な用だと言っていたから耳を貸すくらいならいいだろう。
「お、このドーナツすごく美味しい」
「それ私が食べてたものなんだけど」
いつの間にかデスクに置いてあった私の食べかけのドーナツを食べては感想を述べるゴーストフェイス。ついでにロイヤルミルクティーまで飲んでいる。…既にすごくむかついてきた。落ち着け、奴のペース流されるなと自分に必死で言い聞かせる。
「大丈夫、ちゃんと残して置いたよ。ほら、口開けて」
「君が食べたものなんていらない…!」
我慢していたのに、つい声を荒げてしまった。どうしたら彼に一々、苛つかずにいられるんだろう。極力、優しくしようと努力しようとすればする程、彼は私を不快にさせる。
「そう?なら、俺が食べとくよ」
「…それで、話っていうのは?」
「あのさ、あの"喜びの庭"とかいうマップ潰さない?あのマップ嫌いなんだけど、名前共々」
「却下。嫌なマップかもしれないけれど、無くしたりする予定はない」
彼が意外とマトモな話をしてきたことに内心、安堵した。マップの相性はキラーによってあるから苦手なマップがあったりするのは仕方ないことだ。逆にキラーの特徴に合ったマップに当たれば、やりやすくもなる。
「あのマップでさっき全逃げされたんだけど」
「それは気の毒に。…でも、君が全逃げなんて珍しいね」
「まあね、生成も最悪だったし」
「そういう日もあるよ。もし、直してほしいところがあるなら、エンティティ様に要望出してみる」
「パレットと窓枠、全部消してほしい」
「そんな極端なのは無理。ただ、マップの見直しして気になるところは改善してみるから、それでいい?」
「助かるよ」
「なら、もう用は済んだ?」
用が済んだなら帰ってほしいと思っていたのに、ミルクティーが飲みたいと頼まれたので仕方なく作って彼の前に置く。これは長居する気満々かもしれない。
「……君ってさ、いつも一人で部屋に籠もってデスクワークしてるよね」
「そうだね」
「…そんなのつまらなくない?たまには仕事以外でも自分からキラーと関わりに行ったりすればいいのに」
少し前にフランクにも同じように『そんな毎日つまらなくない?』と尋ねられたことを思い出す。私はあのとき、彼は軽い雑談のつもりでそんなことを訊いたと思っていたけれど、本当はもっと深い意味を持っていたのかもしれない。今、ゴーストフェイスに同じことを訊かれたことで、そう感じた。この二人は特に私に関わってこようとしていたからこそ、何か気付いたのだろうか。
ゴーストフェイスは確かにふざけた人ではあるけれど人と関わることも好きだろうし、洞察力も鋭い。だからこそ人のことを知ろうとするからよく知ってるし、人が嫌がることも最大限に出来る。それが彼の良いところでもあり、悪いところだろう。
彼が度々私の部屋に来るのは嫌がらせ目的だと思っていたけれど、それだけではなかったのかもしれない。そう考えると、さっきまでどうにもできなかった苛立ちがスッと消えた。
「…それはそうだけど…関わりすぎるのも良くないと思う」
「どうして?」
「君たちはキラーだし、私は君たちの調教師だから。それ以上でもそれ以下でもない。…確かに頼ってもらったり、相談してもらったりするのも嬉しいんだけどね」
キラーに甘えてもらったり、相談されたりするのも嬉しいと感じる。こんな私でも必要とされている気がして温かい気持ちになるから。…だけど、それと同時に漠然とした不安もあった。
「…それは、俺たちとは仲良くする必要はないって意味?」
「……まあ、簡単に言うとそうだね。仲悪くなりたい訳でもなくて程々の関係性を望んでるってこと」
「なるほどね。……リフは何だか俺から見ると人と距離を置いてるように見えたから、人が苦手なのかと思ってた。…今も何かを恐がってるみたい」
彼の『今も何かを恐がっているみたい』という核心をつく言葉に息を呑む。まるで心の内を見透かされているように感じた。どれだけ心情を悟られないようにひた隠しにしていても、ゴーストフェイスには、それが通用しないみたいだ。だからこそ、私は彼のことを常に警戒していた。観念して静かに息を吐く。
「……本当に君は鋭い人だね。…どうしてあんまり関わってないのにそこまでわかるの?心理学も詳しい?」
「心理学は独学で少しだけ学んだ程度だよ。例えば、人はどんな状況で一番恐怖心を感じるのか、どうやったらその恐怖心を煽れるのかとかね」
「なるほど。確かにゴーストフェイスはそういうの好きそう」
「…まあ、後は興味を持ったものはとことん知りたい主義でね。君には謎が多いから知りたくて仕方が無いんだよ」
「…知っても面白いことなんてないよ」
「それでもいい。俺はただ、君に興味があって何でもいいから知りたいんだ」
さらっと耳に掛けていた髪が落ちてきた。それをゴーストフェイスが私の耳に掛けると髪を撫で下ろした。そして流れるように皮の手袋をつけた手が愛おしむように私の頬を撫でる。
同じソファーに座っているせいでお互いの距離は近い。普段ならその手を振り払ってもおかしくはないのに私は何もせずに彼を見つめた。