厄介者に続いて
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近々、儀式のマップの細かい修正をするとのことらしく、エンティティ様に5つのマップを確認して修正案を提示しろと言われた。それプラス、儀式のマップの脱出率が低いマップと、高いマップについても統計データを取ってほしいと。その仕事内容にエンティティ様信者の私でさえ、ちょっと待って下さい!と言ってしまった。霧の森でエンティティ様に仕えて何年も経つけれど、どうして私の仕事はこうも増えるのか。最初は調教師としてキラーに褒美と罰だけを与えてればいいと言われたはずなのに、気付けば、新人キラーのお世話とか、殺傷率のデータを作れだの、やれ儀式をずっと見張ってキラーの分析をしろだの流石にやることが多すぎる。そもそも、儀式のマップについては私の専門外だ。そんな仕事はやることないって言われていたはずなのに。
それでも『期限以内にできたら最高の褒美をやろう』なんてエンティティ様に言われてしまったら私は大人しく大嫌いなデスクワークをやるしかない。送られた儀式のマップのデータを確認しながら、細部までチェックする。マップの広さ、窓枠、パレット、肉フックの位置や数。発電機の生成位置。これに関してはキラー、サバイバー共に極端な結果になりそうな場合は変更しなければならない。エンティティ様は意外とこういう調整は公平に行わないと、見応えのないつまらない儀式になると考える方だ。だからこそ、適当な意見は出せない。
期限以内に出来たらエンティティ様に何して貰えるんだろうなんて思考が逸れかけて頭を振る。浮かれるのは仕事を完璧にこなしてからだ。そう、自分に言い聞かせる。そのタイミングで扉をノックする音が耳に入る。無視したい気持ちを抑えつつ、鍵外すと、私が開けるよりも先に扉は外から開かれた。
「よう」
訪問者はフランクだった。ついこの間も彼と喋ったばかりな気がするとは思ったけど、また何かあったのだろうかと考える。今はエンティティ様の仕事を優先したいが、キラーの用も蔑ろにはできない。フランクは私の部屋に無遠慮にズカズカと入ってくると、勝手にソファーに座った。私はPCに向き直り、フランクに背を向けて仕事を進めながら尋ねる。
「何か用?」
「…気になってたんだけど、報酬ってどのくらいの頻度で貰えるんだ?」
「適当」
さらっと返すと「何だよ、それ」と返ってくる。その質問は前にも派手な格好をしたキラーにも聞かれたななんてぼんやり思う。彼は入って間もないからその質問をするのも分からなくはないけれど、フランクに関しては今更わざわざ聞いてくることだろうか。そんなに報酬って大事かなとか思うけれど、私もエンティティ様のご褒美を糧に頑張ってるから人のこと言えないかもしれない。それだけで会話は終わったのかと思えば、またすぐにフランクは質問する。
「…お前って普段は何してんの?」
「仕事」
「それは見てればわかる。他に仕事以外では?」
仕事以外ではと言われるとすぐに思いつかない。思うと私は仕事以外、何してるんだろう?普段の自分の生活スタイルを思い浮かべてみても、キラーに報酬をあげたり、デスクワークをしたりしか出てこなかった。どちらも仕事としてやっていることだ。モニターに映る儀式の映像を食い入るように確認する。
「…ご飯食べたり、シャワー浴びたり、寝てたりする」
「…それ以外のこと聞いてるに決まってるだろ」
「それ以外ないんだよ」
「マジで?…趣味とかねぇのかよ、そんなんで毎日つまらなくないのか?」
「どうだろう?…趣味とかはないけど、私はエンティティ様の為に生きてるから、つまらないとかないかな」
「…本当に変な奴。空っぽなんだな、案外」
「そうだよ。私なんて何もないの。ただ、エンティティ様に生かされてるだけだから」
「……」
自嘲気味に言えばフランクは黙ってしまった。…空気重くなった気がする。フランクにそう言われてみると、つくづく自分はつまらない人間だと思い知らされる。最初から私には何もなかった。殆どの人は私の容姿に気を取られすぎなんだ。私なんて容姿以外の取り柄は何ひとつない。この世界に来るまで生きたいと思う理由もなかった。雰囲気を変えるようにワントーン声色を変える。
「…まあ、そういう訳で意外と私はやることいっぱいで忙しいの」
「……こっち見る暇ない程忙しい訳?」
「……んー、そこまでじゃないかな。…で、本当に何で来たの?何か悩み事?」
何だか不満そうな声にくるりと椅子の向きを変えてフランクの方を向いた。確かに彼を部屋に入れて以降、ずっとPCしか見ずに話していたけど、そこまで不機嫌になることかな。急に部屋に来たのに対して話す内容はどうでもいいことばかり。少し前までは頑なに私と関わろうとしなかったのに、どういう風の吹き回しなのか。
「…悩みって訳じゃねぇけど、暇だなって思って」
「暇ならリージョンのメンバーと遊んでればいいじゃない」
「…いねーんだよ、今みんな」
「みんな居ないってことはないでしょう。それに、暇だからって私のところに来られても何もないから」
「……」
直近でも頻繁に部屋に来る厄介者もいたし、ここをコンビニか何かと勘違いしてるんじゃないかと思う。今日はいつもしている仮面をしてないせいか、フランクは分かりやすく拗ねた表情をしていた。思わず、子供かと突っ込みたくなるのをぐっと堪える。彼は子供扱いされるのをすごく嫌がっていた。……やっぱり何か言いたいけれど、言いづらい何かがあるのかと深く勘繰る。