過ぎたこと
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「あ〜、つかれたーもう何もやりたくない」
そう一人呟いて、ベッドに倒れ込んだ。デスクワークはもう嫌だ。退屈すぎる。久し振りに拷問とかしたいけど、最近はみんな戦績が悪くないからする機会もない。そうじゃなくても私のやり方は甘めだから拷問をするという選択が滅多にないし仕方ないとは思う。
それにしても長時間PCと睨めっこをしてたせいか肩と首が凝って痛い。おまけに腰も痛い。まだエンティティ様に頼まれた仕事は終わりそうにないのに身体の痛みのせいでやる気が起きなかった。ベッドにうつ伏せになって動けずにじっとする。もし、こんな無気力のだらしない状態を誰かに見られたりしたら引かれそうだ。そんな風に思った直後、ガチャッと部屋の扉が開く音が聴こえてきて人が入ってくる気配がした。
「おい、寝てんのか?」
失礼なことに声も掛けず、ノックもせずに堂々と部屋に入ってきたのはフランクだった。明らかに来るタイミングも悪いし、レディの部屋に入るにしてはデリカシーがない。ゴーストフェイスとかもそうだけど、そのくらいの気遣いはしてほしい。
「…何か用?」
「なんだ起きてんじゃねーか。話あるんだけど」
私は身体を起こさずに、何?とだけ尋ねる。こんな威厳もへったくれもない姿をキラーに見られたなんて知られたら少しだけエンティティ様に怒られそうだ。現に声だけでもフランクも呆れてる気がする。だけど、私だって人間だしこんなときがあってもいいじゃんと誰に言う訳でもなく内心ひっそりと言い訳をした。
「…ちょっと真面目な話だから起きろよ」
「……」
……真面目な話。フランクが急に真面目な話をするなんて珍しい。というか、フランクがわざわざご褒美以外のことで私の部屋に来ること自体、初めてかもしれない。あんなに私を嫌ってたのについに悩み相談までするようになったとはちょっと可愛いところもあるじゃないかと少し口元が緩む。……そうだ、いいこと思いついた。
重たい身体を起こしてフランクに提案する。
「ねぇ、フランク。話聞くから私の肩揉んで」
「……はあ?何で今?真面目な話だって言っただろ」
「いいじゃん。肩揉みながらでも真面目な話はできるでしょ?」
「できるけど、おかしいだろ」
「肩揉んでくれないと話聞かない」
大人げなくそう突っぱねるとフランクは不満そうにため息を吐いた後にわかったと了承した。満足して頷くと凝ってる部分を説明して揉んでもらう。何で俺がこんなことしなきゃいけないんだよと文句を言いながらも意外とちょうどいい力加減で押してくる。ついさっきまで凝り固まっていた筋肉が優しくほぐされていくので心地良い。
「あ〜、すごくいい。フランク、肩揉み上手だね」
「ババアかよ。…てかお前年幾つ?」
「97」
「すぐバレる嘘つくな」
「ふふ、で、大事な話って何?」
「……あー、まあ、…お前さ、最近ジュリーとなんかあった?」
少しだけ、聞きづらそうにフランクは尋ねてきた。…何か知ってそうなのに重要なことはぼかしている。割と何でもストレートに聞いてきそうなのにらしくないなと思った。…とはいえ、ジュリーが何もその事を喋っていないとするなら私から話せることはない。幾ら二人が恋人同士だとしても私に聞いてきたってことは彼女は何も話してない可能性がある。だから、私は敢えて誤魔化すように話をすり替えた。
「私は特に何も。それより、そっちの方が心配だったんだけど喧嘩とかにならなかった?」
「…喧嘩はしてねぇけど、ジュリーが最近、急に素っ気なくなった」
「それは私達のことがバレて怒ってたんでしょ?」
「……というより、今は俺なんか眼中にないみたいな感じだな」
「そう」
「……」
この前のジュリーの話からもわかる通り私とフランクのことをジュリーは知っていたし、確かに怒っていた。だけど、最終的に私とジュリーは和解してるからフランクが心配するようなことにはなっていないはずだ。それでも、彼はやっぱり何かが気になっている様子だった。黙って肩を揉んでいたフランクは意を決したように口を開いた。
「……お前さ、ジュリーともしたの?」
「……何を?」
「…だから、しらばっくれんなって。セックスしたんだろ?」
「……ジュリーが言ってた?」
「言ってた」
「そっか。それなら、した」
「…俺の彼女ともヤるとかビッチかよ」
「失礼だね。…私はご褒美としてしただけ」
「…はあ、っていうことはジュリーから言ってきたんだな。…マジでどうしてそうなるんだよ」
肩を揉んでいたフランクの手が止まったから、ちらりと後ろを見ると額に手を当てていた。今、彼はどういう心境なんだろう。彼女が他の相手ともセックスしてたことがショックだったのか。それとも、ただ困惑しているだけなのか。どちらにしてもフランクだって同じことをしたんだからジュリーを責める資格なんてない。
「……私も最初はどうしてジュリーが私に興味を持ったのかわからなかった。…そもそも彼女は何故かフランクが私を好きだと勘違いしてたみたいだし」
「……」
「…フランクが好きになった私のことを知りたいからセックスしたいって言ってたから。……理屈はめちゃくちゃだけど、まあそれなら納得すると言うか。…ただやっぱり、その勘違いだけは否定しておいた方がいいんじゃないかな」
「……ああ、だからジュリーはあんなこと言ってたのか」
「…あんなことって?」
ひとり納得して、まるで答え合わせができたみたいにフランクは呟いた。意味がわからずに尋ねてみたけどフランクは何でもないと首を振った。