罪悪感の後のお愉しみ
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コンコンコン
控えめのノック音が聴こえた。壁に掛かった時計に視線を移せば時刻は夜中の12時だ。短く返事をすると、ゆっくりと扉が開かれた。
「…あら、こんな時間に珍しいお客さんだね」
「……」
来訪者はリージョンのメンバーのジュリーだった。彼女は何も言わずに部屋に無遠慮に入ってくる。儀式外だからか、いつもつけられている仮面はなく、私をじっと見つめてくる彼女と目が合う。何か言いたそうな眼差しだ。それも何だか良くない感情が宿っている気がする。それでも彼女は何も言わずにいるから私は苦笑いを溢した。
「…どうしたの?何かあった?あ、何か飲み物淹れようか」
「いらない」
ジュリーは最後の質問にだけ素っ気なく答えた。私はキッチンに行こうとしたのをやめて、そっかと彼女に向き直る。彼女は何か言いたいことがあってこの時間に私の部屋に訪ねてきたのは明白だ。何故、何も言わずにガンつけられているのかはわからないけれど。……まあ、でも心当たりはなくは無い。だからこそ少しだけ沈黙が気まずく感じて私は先に口を開く。
「……何か?」
「……あんた、フランクとヤったの?」
長い沈黙の後、ストレートな質問がぶつけられる。やっぱり、そのことかと思って私はまた苦笑いをした。本来はキラーのプライバシーの問題は私から勝手に話さないようにはしてる。だから、そういう話は彼から直接聞いてと言いたいところだけど、今回だけは私も他人事ではない。
ジュリーが私に直接聞きにきたということはフランクはジュリーに何を聞かれても答えなかった可能性がある。それに、今二人で直接、話したとしても喧嘩になってしまうかもしれない。ジュリーだって馬鹿じゃないから確信を持って私に尋ねてきた訳だし、私にも今回のことは話す義務がある。
「…ん~、そういう言い方されると否定したくなるけど、仕事の一貫としてはしたかな」
「……」
言い訳がましい厭な女だなと自分でも思いながら答えれば、ジュリーはまた私を無言で見つめてくる。幾ら仕事で頼まれたことだとしても、恋人である彼女からすればいい気はしないのは当然だろう。ばれたとき、こんな風になるのが嫌だから私は断ったのに、結局面倒なことになってしまった。…ただ、こうなってしまった以上、私にも責任があるから大人しく彼女の怒りを買うしかない。
「…まあ、そう言われても嫌だよね?一応、謝っとくね。ごめんね」
取り敢えず許されないとわかっていながら私は素直に謝った。彼女から罵倒の言葉が飛んでくることを予想していたけど、彼女は目を伏せると小さく呟く。
「……狡い…」
「……え?」
「…フランクだけ、狡いわ」
だけど彼女から出た言葉は予想外の言葉だった。一瞬、面食らって今度は思わず私が彼女をじっくりと見つめ返してしまった。
「……どういうこと?」
「私ともして」
目線を上げたジュリーと目が合う。最初、私を見ていたときの眼差しとは違って嫉妬の感情が宿っていた。それは一体、誰に対して嫉妬してるのか、さっきの発言からわからなくなる。普通に考えたらフランクとした私に恨みを抱いているというのならわかる。だけど彼女はフランクだけ狡いと言った。その発言はまるで私としたフランクに対して嫉妬しているみたいだった。
「…その、ジュリーはフランクとした私に怒ってここに来たんじゃないの?」
「……最初はそうだった。あの日、フランクは何も言わなかったけど、いつもと様子が違ったからすぐにわかった。…私は何故かフランクよりあんたにむかついた。フランクには聞かずに私はあんたに文句を言ってやろうと思ったわ」
「……」
「貴女がフランクのこと誑かしたりしてるなら私にだって怒る権利はある。貴女の態度次第では許せなかったかもしれない。…だけど、今は何でフランクが貴女にそんなことを望んだのか気になったの。彼女の私じゃなくて何故、貴女だったのか」
「……それはフランクが言ってたけど、私に仕返しがしたかったみたい。彼は私に拷問されたことを恨んでいたから。理由はただ、それだけだよ」
「…そんなの違う!ただの口実に決まってる!」
ジュリーは声を荒げた。彼女にとっては許せないことだから複雑な感情になるのはわかる。
「……」
「…彼は貴女に特別な感情を抱いたのよ…!じゃなかったら、あんな顔したりしない!」
「…それはないって。フランクは私が嫌いなのはわかってることだし、ジュリーが好きな気持ちは変わってないよ」
「……そうじゃないから私は言ってるの。貴女より私の方が彼のことは知ってる。…だから、私はフランクが好きになった貴女がどんな女なのか知りたいから、セックスしたいって言ったの」
なんて分かるようでわからない理屈というか、ぶっ飛んでる思考なんだろう。私も少しネジが外れている人種なのは理解しているけど、彼女も中々だ。…まあ、ジュリーはこんな綺麗な見た目をしてるけど、殺しに抵抗もなく犯罪は自ら望んでやってきたタイプだから今更なのかな。実はフランクよりも彼女の方が残虐性が高い気もしている。取り敢えず彼女の言い分は理解した。これ以上、私が何か言ったとしても彼女が納得してくれるとも思えなかった。
「…だいぶ、ぶっ飛んでるけどジュリーがそれを望むならしてもいいよ。…ただ、それは貴女がきちんと結果を出した上でのご褒美としてだけどね」
「…勿論、やってやるわよ」
「いいね、その眼。…期待してるね」
なんだか変なことになってしまったけれど、こんな変な展開のせいで彼女は儀式のやる気を出してしまったようだ。いや、儀式のやる気を出したことは良いことだとは思う。
部屋を出ていく前に見たジュリーの恨みをこめた燃えるような視線を思い出して私の身体はゾクゾクと震えた。あんな強気の眼を向けられると思わずそんな顔できなくさせたくなる。自分がもし、私をわからせられると思ってるなら徹底的に再起不能になるまでわからせたい。楽しみが増えたと私の口許が歪んだのがわかった。