悪いコと癒されるコ
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そろそろエンティティ様にキラーの殺傷率のデータが欲しいと言われる頃だろう。この霧の森に来たばかりの頃は私の仕事といえば、キラーに拷問と報酬を与えることだけだった。それが気付いたらデスクワークで戦績のデータを作ったり、新人キラーの教育だったりとやることがかなり増えていた。戦績のデータを出す為にはエンティティ様以上に儀式を観戦してなくてはいけないし、キラーの人数も増えていくしで大変だ。エンティティ様の為ならやるけど、デスクワークは苦手だからPCと向き合うのが正直、辛い。
お湯を沸かし、マグカップにお湯を注いでココアを用意するとPCの前に座った。キラー、一人一人の戦績データのメモを確認しながらデータを入力していく。
淡々と作業すること一時間。……飽きた。眠くなってきた。すでにきつくなってきたので、伸びをすると気分転換に今やってるキラーの儀式を観戦することにした。
今、儀式をやってるのはペイルローズのマップでハグだった。小さな身体でダウンしたサバイバーを担いでフックに吊るす姿を観てると思わず応援せずにはいられない。彼女の特殊能力、おまじないを書いた場所にワープが出来る能力は強い。上手いところに書いてサバイバーを追い込むことが出来ればかなり有利に儀式を進められる。ただ、現状はすでに書いた罠をサバイバーに消された場所に誘導されている感じだった。ハグのワープ能力は強いけど、持久戦になると足が速くない彼女にとっては不利になる。
「…そっちは不利だなあ…。あっ、またハグちゃんが書いた罠が消されてる!も~、寄って集って何でそんな酷いことするの!」
モニター越しに観てるのに思わず熱が入って声が出る。私の声が届くなら幾らだって、状況報告をしてあげるのになんて無理なことを考えずにはいられない。
サバイバーが有利になっていく展開でも何とか足掻きながら冷静になって罠を書いているハグ。罠にサバイバーを誘い込んで一人ダウンを取り、更にまた罠を踏んだサバイバーを仕留めて一気に二人が這いずり状態になった。しかも、ダウンを取った場所が幸運にも地下付近で二人を地下に吊ることに成功した。地下にサバイバーを吊るせる状況はハグにとってはとても有利な状況で私は嬉しくなる。
「やった!ナイス!流石ハグちゃんだよ!」
喜びながらこの試合は良い結果になると安心してモニターを見ながらココアを一口飲もうとした。そのとき、手元が狂って手に持ったマグカップを落としてしまい、バシャっと服にココアがかかった。着ていたブラウスとズボンにココアが滲んで染み込んでいく。
「…熱い…」
さっきまでのテンションの上がりようから一気に下がった。モニターを見れば、私が大惨事になっている間にハグは全滅が取れたらしく、心成しか嬉しそうにしていた。ほっと息を吐くと、私は取り敢えず服を着替えることにした。最悪なことにもろにココアがかかった為に、下着までびしょ濡れになってしまった。面倒だけど、すぐに手洗いしないと染みになってしまうだろう。着替えを用意して急いでブラウスとズボンを脱いで下着を外したとき、ガチャっとドアが開く音がした。反射的に音がした方を見れば、そこには真っ白で不気味なマスクをした男が立っていた。数秒、お互いが無言で見つめ合った。
「…ナイスタイミングで来ちゃったみたいだね」
「…何でノックもせずに我が物顔で私の部屋に入って来てるの…!?」
この予想外の状況とタイミングの悪さに怒りが沸いてきて声が荒くなる。咄嗟に後ろを向いて、出ていって!といつもより大きめの声が出た。だけど奴はその話を聞いてないのか、聞いても尚なのかわからないけど、へらりとして答えた。
「ごめん、ごめん。でも、流石に鍵くらいは掛けといた方がいいんじゃない?自分の家じゃないんだしさ」
「いいから早く出てってよ…!」
「でも、何か大変そうだし、手伝ってあげようか?」
そう言いながらゴーストフェイスの足音が後ろから近付いてくるのがわかった。勝手に入ってきた挙げ句、出ていけと言っても出ていかずに近付いてくることに流石に苛ついて、振り返って蹴ってやろうとした。だけど、何故か彼にはそれがお見通しだったらしく、振り向いて蹴ろうとすれば、スッと避けられた。空振りしたその反動でバランスを崩して倒れそうになる。その瞬間、すかさず彼が私の下に身体を差し込んで、私を受け止める形で二人一緒に転倒した。上体を起こすと、彼が下敷きになったことに驚いて謝る。
「…ごめん。頭打ってない?」
「平気だよ。君こそ怪我はない?」
「私は大丈夫だけど…」
そう言いかけて、ぴたりと言葉が止まった。身体に違和感を感じたから。視線を下に落とせば彼の両手がちょうど私の胸の位置にあって、その手がむにゅむにゅと柔らかさを堪能するように動いていた。その瞬間、彼を心配していた私の良心はどこかに吹っ飛んでいった。
「…ねぇ、殺していい?」
「そんな物騒なこと言わないでよ。不可抗力だって」
「不可抗力でどうしてそうなるの?五秒以内に私を納得させられなかったら殺すね」
「男って生き物は本能に逆らえないってこと」
「…なるほどね。よーくわかった」
私は手探りで彼のナイフシースに手を伸ばすと、ナイフを取り出した。そしていまだに胸を揉んでいる男の顔の横にグサリとナイフを突き刺す。その瞬間、ぴたりと彼の手が止まってようやく胸から離れた。
「…心臓に悪いよ」
「君が悪いよね?」
言い聞かせるように言ったら、そうだねと言いながら彼の手が今度はお尻を撫でてきた。その手を掴んでギリギリと痛めつける。何ひとつとして言動に行動が伴っていない。いててて!と上がった声に私はため息を吐くと彼の上から退いた。それから彼が痛そうに自分の手首を擦っている間にさっさと着替えを済ました。
こんな男を相手にしてるのは時間の無駄だ。私はこんなことがなかったらハグに会いに行くつもりだった。部屋を出て行こうとする前に彼に声をかける。
「ゴーストフェイス。私のブラウスとズボン、手洗いで洗っておいて」
「…俺が?」
「罰だよ。悪いことしたでしょう?」
「…了解」
「私が戻ってくるまでに丁寧に洗っておいて。それから下着もね」
有無を言わせずに頼めば、はいはいと面倒臭そうな返事が返ってきたのを聞いて部屋を後にした。
それからハグの部屋に向かうと、嬉しそうに彼女が抱き付いてきた。よしよし、頑張ったねと褒めてあげると、かぷかぷと腕をあまがみしてくる。あまがみだけど腕にはしっかりとハグの歯形がついていた。
「ハグちゃん、痛い、痛い。後で美味しいお肉あげるからね」
笑ってまた頭を撫でてあげたら彼女は満面の笑みで頷いた。それがあまりにも可愛くて、ぎゅーっと抱き締める。きっと部屋に戻ったらあの図々しい男が我が物顔で部屋に居るだろうから、もう少しだけ彼女に癒してもらおう。