切望
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彼女を初めて見たとき、なんて美しい人なんだろうと見惚れてしまった。
芸能界で働いていれば女優やアイドル、モデルといった美しく、可愛く、スタイル抜群の女というのは数え切れない程いる。だから別にただ容姿がいいだけの女にすぐ惚れるなんてことはなかった。
なのに、僕の中の常識は彼女に会ったことによって覆された。リフを初めて見たとき、一瞬、ときが止まったように感じた。彼女以外の景色が全部、ぼやけて見えて彼女だけにしっかりとピントが合ってる感覚。大袈裟ではなく、本当にそんな感覚に陥った。彼女から目が離せなくて、胸が苦しくなって、気づいたら会ったばかりだというのに『好きだ。僕と付き合って』という言葉が口から出ていた。自分で言ってても信じられなかった。
だけど、そのとき僕はこれが一目惚れというやつなんだと理解した。
勿論、初対面でそんなことを言われた彼女は一瞬驚いた顔をした後、笑ってさらりと断った。そんな反応を見て、ああこんな経験も少なくないんだろうなとぼんやり思っていた。初対面だから仕方ないとはいえ、多分、少なからず振られたことにダメージを受けていたから別のことを考えたかったのかもしれない。
それから彼女は僕の告白なんて無かったかのようにこの世界のことやキラーの仕事の説明を淡々としていった。
一通り説明が終わった後は何か質問は?なんて聞かれたけど、そんなの何一つとして思いつかない。この世界のことや儀式のことよりも先程振られたことと彼女のことしか考えられなかったからだ。
その日、僕は振られたのにまだ好きな場合はどうするべきなのかを一晩中考えてしまった。
どれだけ悩んでいても儀式には呼ばれる。録に説明なんか頭に入ってなかったけれど、何となくの感覚で全てをこなしていった。儀式は好きなだけ人を殺して美しい悲鳴を聴くことが出来るから愉しい。どれだけ人を殺しても、もう僕を咎める鬱陶しい奴はいない。
…まさか、プロデューサーを務めていたユンジンまでもがこの世界に居るのは予想外だったけれど。幸か不幸かあのとき、殺し損ねた彼女をまた殺せる機会があるなんてね。
儀式は愉しいし、自由時間には好きな音楽も作れる。この世界には今のところ何一つとして不満はない。
だけど、僕はリフのことが気になって仕方がなかった。
惚れた女に告白をして振られるというのは、僕にとって初めての経験だった。僕みたいな完璧で魅力的な男を振る女なんていなかったし、何もしなくたって女は自分に惚れてくれる。それが当たり前だとずっと思っていた。なのに、彼女は違った。それは通常的に考えれば、いきなり告白したから断ったっていう可能性はある。…だけど、彼女はきっとそのパターンに当てはまる人ではないんだろうと何となくわかっていた。あんなにさらっと流して僕の告白なんてなかったように振る舞ってみせた。まるで、僕なんか眼中にないと言ってるみたいに。今までの自信が失くなっていくような気がした。らしくないとは思うけれど。
…そもそも、あの日、彼女に対して好きだと思った感情は本物だったのだろうか?あまりにも魅力的だったから一時的にテンションが上がってつい、口走ってしまっただけなのでは?
普通は幾らどれだけ見た目が良くても何も知らない女を好きにはなれないだろう。それこそ、僕が知らないだけでかなり性格が悪い可能性だってある。他のキラーにそれとなく聞いてみても、彼女のことを詳しく知る奴らはいないし、彼女のことを良く思っていない連中も少なくはない。調教師ということもあって噂では彼女に拷問を与えられたキラーもいるらしいから嫌われていてもおかしくはないだろうけれど。
…ただ、上手くは言えないけれど、彼女の溢れる魅力は容姿だけのものじゃない気がする。何というか、どことなく危うい魅力があって、余裕があって、謎が多い。それだけでも気になるには充分の要素がある。
振られてからも彼女が好きな気持ちは変わらなかったのに、会いに行くのが少し恐くてしばらく何もせずにいた。だけど、ついに彼女に会いに行こうと決心した。
たった一度、振られただけでウジウジしているなんて僕らしくない。そう勇気を出して彼女の部屋を訪ねた。
二度目にリフに会ったとき、やっぱり特別な感じがして勘違いじゃなく、好きだと思った。会って早々、彼女が喜ぶことを言ったつもりだけど、呆れたようにかえされる。手にキスをして反応を窺ってみても、彼女は表情を全く変えずに要件を尋ねてくる。
戦績が良いキラーには報酬が与えられるという話を思い出して彼女にそんな話をしたら、何だか面倒そうにされた。僕の言うこと成すことが全て、軽くあしらわれている感じで傷付く。やっぱり、あの日、僕のことなんて眼中にない感じだと思ったことは間違いではなかったらしい。それでも報酬をくれる気になったらしいので気を取り直して伝えてみる。
「君が欲しい」
「……無理かな」
二度目の告白のつもりで言ってみたけれど、また断られた。挙げ句の果てには私を恋愛対象に見ないでとまで言ってくる始末。口調が冷たい訳ではないのに、完全な拒絶をされた気分だった。それでも、引き下がれずにプライドを捨てて今の自分を好きになれないなら変わってみせると言った。だけど、そんなことを言っても彼女を困らせてしまうだけみたいだった。
そんなに否定ばっかりされたら情緒がぐちゃぐちゃになりそうだ。引き下がった方がいいのかと思う半面、ここまで来て引き下がれないとも思う。最早、意地に近いものだ。