情熱的なナルシスト
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「邪魔するよ、リフ」
ノック音が聴こえたと思ったら返事をする前に扉を開けて派手な格好した男が部屋に侵入してきた。私はパソコンを操作する手は止めずに一瞥すると小さくため息を吐いた。
「せめて返事してから入ってよ、トリックスター」
「それはごめん。一秒でも早く君のその美しい姿を見たくてさ」
「そういう臭い台詞の言い訳が聞きたい訳じゃないのわかってるでしょ」
呆れたように返せば、それでも彼は気を悪くしたりはせずに私の手をとると手の甲と指先にキスをした。するりと彼に掴まれていた手から離れると紅茶を一口飲む。
「…それで、何の用があって来たの?」
「実は儀式のことで聞きたいことがあったんだ。何せ、僕はまだ新人だからね」
そう言うと彼は私を見つめて、いたずらっぽく微笑む。
トリックスターがこの世界に来たのは大体、三週間前くらいだ。それでも初めてこの世界に来た彼は人を殺す事を躊躇わなかったし、理解も早く、何事にもすぐに順応していったように思う。その彼が三週間経ってからわざわざ私の部屋に訪ねてくる程、大事な用があるとは思えなかった。ふーん、と返しながら然り気無く視線で促せば何かを考えていたらしい彼は口を開いた。
「…儀式の報酬ってどのくらいの頻度で貰えるの?」
まるで今考えたみたいな質問に私は不思議な物を見るような目を彼に向けた。
「…それってわざわざ訪ねてくる程、重要な話かな」
「勿論。モチベーションに関わる訳だし」
「それは明確に決めてないの。私の匙加減で変わる」
「…匙加減?」
「そうだよ。君がしっかり儀式で良い結果を残していけば貰える頻度も増えるよ」
それだけ言うと話は終わりと身体の向きをかえて、またパソコンに向き直る。だけどそれでは納得できなかったらしい彼はええ~と不満そうな声を上げた。
「今だって十分な結果を出してると思うけど、これでも貰えないの?」
そう言われると何も答えられなくなる。彼の戦績は確かに来たばかりだというのに、とても優秀だと思う。それでも未だ私は彼に報酬を一度も与えたことがなかった。理由は特にない。…そろそろあげてもいい頃だとは思っていたけど、何故かあげてなかった。確かにこれを機にあげてもいいかもしれないな。
「わかった。報酬あげるよ。…でも、そんなに欲しい物があったの?」
私の言葉を聞いた途端にトリックスターは嬉しそうに目を輝かせると即答した。
「君が欲しい」
「……無理かな」
「なんで?」
「何でって聞かれても無理なものは無理」
普通に可笑しなことを言ってるのにそんな純粋に不思議そうに返されると困る。その反応もまた、彼が冗談ではなく、本気で言ってるとわかってしまうから。
彼は初めて会った日に一目惚れしたから付き合ってほしいと何の躊躇いもなく言ってきた。勿論、私にはそんな気は一切ないからすっぱり断った。それで諦めてくれたと思ったけど、そういう訳じゃなかったらしい。私に近付くと、真剣な表情でぐっと顔を近付けてくる。
「僕の何が不満なの?」
「君に対して不満があるとかの話はしてないよ。…君が誰を好きになって付き合おうが自由だけど、そこの選択肢に私を入れないでって言ってるだけ」
「僕が好きなのはリフだけなんだよ。君が僕を好きになれない理由があるなら変わりたいって思ってる」
ダメだ。この話は埒が明かない。彼には私の言ってることの根本的な意味が伝わっていない。…いや、わかっててもそんな困らせることを言ってるのかもしれないけれど。さっさと報酬を決めてもらって強制的に帰らせるしかないか。
「それより、報酬。さっき言ったの以外で決めて。後二分以内に決めなかった場合は報酬は無しか私が勝手に決めるから」
「ええ~、またそんな急に。意地悪だなあ。…それなら、一緒にご飯食べよう?それから僕に食べさせて」
「……また意味不明なことを…。スキンとか休暇を貰う方が賢いと思うけど?」
「僕にとっては君とのイベントの方がよっぽど価値があるんだよ」
にっこりと笑った彼に最早、何を言っても無駄だと理解して肩を竦めた。彼の望んだものは明らかに報酬と呼べるようなものではないけど、本人がそれでいいと言っている以上、叶えてあげるしかない。少なくとも最初の無茶な願いよりマシだし。
とはいってもご飯を食べるのは構わないけど、肝心な料理は誰がするの?という話になる。私自身、料理はできるけど、わざわざ彼の為に料理をするなんて面倒だ。その趣旨をやんわりと伝える。
「トリックスターがご飯作ってくれるの?」
「僕はリフの手料理が食べたいなあって思ってたけど、その感じ、嫌そうだね」
「別に私が作ってもいいよ?ただ、その場合、私の手料理が食べたいって言うのも君の願いな訳だからさっき言った一緒に食べるは叶えないけれど」
「うわ~、ほんとにリフは意地悪だね。まあ、そういうところも魅力的なんだけどさ。…わかった。料理は僕がするよ。何が食べたい?」
トリックスターは腕を捲りながら尋ねてくる。私はそうだなあ、と顎に手を当てて食べたいものを考える。彼が料理が上手かはわからないけれど、器用な人だし、わりと何でも出来るイメージがあった。前の世界ではスターだったらしいが、意外と努力と才能でのしあがってきたタイプだし、自分に甘い感じはしないからそんな風に思った。そこを考慮しても自分で食べたことない珍しいものを注文しようと考えた。
「…お寿司。お寿司が食べたい」
「スシ?本気で言ってるの?」
「うん。食べてみたい。出来れば日本風の」
「食べたことないんだ?」
「ないよ。私の国ではなかったし」
「…でもさ、スシなんて作ったことないし、僕は生臭くてあんまり好きじゃないんだよね」
「え~、何それ。お寿司って生臭いの?」
「生臭いよ。生の魚をご飯に乗せるんだし。それにスシの材料、今冷蔵庫にあるの?」
「ないよ」
「じゃあ、どちらにしろ出来ないじゃん。何ならあるの?」
「卵」
「他には?」
他に何があったかなと思い出していれば、テーブルに置かれているパンに目がいく。パンならあると言えば、彼はそれならフレンチトーストを作ると言った。本当はお寿司が食べたかったけど、それだけの為にわざわざエンティティ様に食材を用意してもらう訳にはいかないし、私はそれで了承した。彼が料理している間にデスクワークを再開しようとしたら彼は料理をしながらも話を振ってきたので、適当に返しながら仕事を進めることにした。