うちの子たちが可愛すぎる
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今日も今日とて私はひたすらキラー達の儀式を部屋に置いてあるモニターから監視していた。エンティティ様の部屋でも確認出来るけど、一人の時間を邪魔されるのを嫌がってエンティティ様は私の部屋からいつでも儀式を観戦出来るようにしてくれた。どういう原理かはさっぱりわからないけれど。
こうやって日々、キラーの儀式を観戦をし、キラーの戦績を元に戦績がいいキラーや平均の処刑率なんかをデータに纏めたりするのも私の仕事だ。地味だし、デスクワークはあまり好きではないけど、エンティティ様の為に役立つなら幾らでもやる。
リラックス効果があるハーブティーをカップに注ぐと、クッキーを噛りながら血みどろの儀式を観戦する。
ただ今、始まった儀式は山岡邸でのスピリットの儀式だ。スピリットも喋らないタイプなので報酬を望むことはあまりないけど、この間、彼女にあげた彼岸花の着物のスキンが良く似合っている。彼女の真っ黒な長い髪に血のように紅い彼岸花はよく映えていて彼女の魅力をより際立たせていた。いつもと違う衣装を身に纏っているだけで彼女は今日とても殺る気に満ち溢れているように見えた。
スピリットはいつだって文句無しの結果しか残さないから安心して儀式を観れる。
彼女は兎に角、隙がない。慈悲もない。彼女の過去を知る限りとても優しい子だったはずなのに今の彼女に優しさなんてものは見る影もない。山岡家の血と悲劇が彼女の怒りを強くした。怒りの形相で涙を流し、ひたすら人を殺し続ける彼女は今、何を思っているのだろうか。キラーの中には当たり前のように自分の意識を保っていることができるキラーもいるが、彼女は違う。儀式では怒りの血を燃やし、儀式外ではただの魂の抜けた脱け殻のようになっている姿はとても可哀想に思える。それでも悲劇によってエンティティ様に気に入られてこの世界に導かれてしまった以上、苦しくても逃げ出すことなんて出来ない。私が彼女にしてあげられることなんて彼女の努力を認めて報酬をあげることぐらいだ。
いつの間にか、サバイバー全員を処刑し終えたスピリットが漆黒の髪を靡かせていた。
「やっぱりスピリットは文句無しの儀式だった」
次の報酬は彼女に似合う気に入って貰える衣装をまた用意してあげよう。紅茶を飲み干すと、聞き覚えのある綺麗な鼻歌が画面越しに届いてきた。次の儀式はハントレスだ。
彼女の腕前も申し分ない。あの重い手斧を高確率でサバイバーに投げて当てる姿はいつ見ても惚れ惚れする。あまり頭でアレコレ考えて儀式を立ち回るというよりは見付けた獲物をひたすら狩るというその姿がまさに野性的に生きてきた彼女らしく見応えがある。だからこそ、ときにチェイスが上手いサバイバーに当たると仕留める為にただ追い続けてしまうこともあるので、 戦績は悪くはないが、極端な結果になることも多い。それは確かに困ったことだけど、そういうときの彼女は狩りの本能が現れていて楽しそうにしてるのがわかるからあまり注意をしづらくなってしまうのだ。彼女は注意するより褒めて伸びるタイプだから特に。
見付けた獲物がうろちょろと木と木の間を通り抜けていくのをハントレスが追いながら手斧を投げていく。一撃は当てたが、致命傷にはならないからもう一撃当てないといけない。だけど、獲物も中々、すばしっこくて斧に当たらない。上手く障害物があるところに逃げ込んでいるのも余計にあるだろう。腕を掠めたり、岩に当たったり、木に当たったりと観ていてすごくもどかしい。
「…あ~!惜しい!もう少しだったのに!がんばれ、ハントレス!」
画面を見つめながらハントレスを応援している姿はきっと運動会で我が子を見守りながら応援する母親そのものなのかもしれない。少しだけ気持ちがわかる。実際に行なわれているものはそんな平和な競技ではないけれど。そして、見守ること数十分、ついに彼女は獲物を仕留めた。
「わあ~!ナイスヘッドショッド!」
強敵のサバイバーは頭にピンポイントで斧が当たり、処刑された。しかし、私が喜んでいる間にも通電のブザーが鳴っていた。つい見入ってしまったけど、この試合はまさに彼女の悪い癖が出て一人のサバイバーを愚直追いしていた。一人処刑という結果だけど、まあ、仕方ないか。
観ていて楽しかったから満足して諦めていればゲートを開けようと集まっていた三人のサバイバーにハントレスは次々と手斧を当てて、ダウンを取る。
「……え、すごい…!流石すぎる…!」
気付いたら彼女は平然と残り三人のサバイバーをフックに吊るして処刑していた。他人から観れば明らかに逃げられてしまうという状況でも、彼女にしてみれば幾らだって仕留めることができる状況なのだろう。彼女の野生の執念というか、絶対的な自分の腕前の自信に改めて凄さを思い知らされた。上機嫌で鼻歌を唄っているハントレスを観て格好いいと思ってしまった。こんな一発逆転の儀式を見せてくれた訳だし、彼女の報酬も奮発してあげなくては。
私の興奮が冷めない内に次の儀式が始まった。
ピンクとブラックの派手な衣装を纏った女の子、リージョンのスージーの儀式だ。これまた可愛らしい彼女に似合う衣装が見ている私も嬉しくなる。この衣装、貰ったときスージーが喜んでいたことも覚えている。
…だけど、彼女の儀式は少々、心配だった。彼女は少し優柔不断さがあり、サバイバーの誰を追うか迷ったり、最善策を優先できないことがある。優しさが捨てきれないのか、極端に一人のサバイバーを見付けても別のサバイバーを探しに行ったりしてしまうのも良くない癖だった。彼女がこの世界に来たばかりのときも色々、アドバイスをしたりして前よりは上手く立ち回れるようにはなったけど、根本的に残忍なキラーらしさはない。そこも彼女の良さだけど、それでは苦労することも多いはずだ。
スージーは見付けたサバイバーをひたすら斬りつけて負傷をバラ撒いていく。発電機の修理進行も確認しつつ、的確にサバイバーを追い詰めていった。
悪くない流れだ。だけどサバイバーもチェイスも悪くないし、頭も切れるタイプが集まっているみたいで、スージーが頑張っていても少し押され気味だった。
均等にサバイバーを吊っていたせいもあってか、通電のタイミングでまだ一人しか処刑できていなかった。やはり、彼女の優しさがこういうときに仇となる。それでも通電してゲートが開けられた状況でも彼女は諦めなかった。今までだったら、追うふりをして一人処刑の時点で諦めていたかもしれない。だけど、この前のフランクの拷問が彼女に響いたのか、彼女はサバイバーを仕留める為に必死で追い続けた。
「…がんばれ、スージー」
彼女自身の諦めなかった気持ちが神に届いたらしい。今回の儀式は何とか二人処刑まで持っていけたみたいだ。二人処刑は大体、平均の数だけど彼女は一人処刑か全逃げも少なくなかったから頑張った方だとは思う。他のキラーからすれば褒められたものじゃないかもしれないけど、私には彼女が真剣に考えて諦めずに儀式に挑んでいた姿に感動した。
彼女の後姿は少し悔しそうに見えて、まるで自分のことを責めているようにも感じた。
居ても立ってもいられなくて私は儀式から帰ってきたスージーを褒めてあげようと立ち上がった。
「スージー、お疲れ様。よく頑張ったね」
彼女の部屋の前で待っていると儀式から戻ってきたスージーがびっくりした様子で固まっていた。きっと私に怒られると思っていたのかもしれない。だけど、そんな気はないと両手を広げて彼女を受け入れる準備をしていれば、恐る恐る、スージーは口を開いた。
「…何で?…わたし、また、儀式を上手く出来なかったのに…」
「関係ないよ。スージーが頑張って最後まで諦めずに儀式に挑んでいたの観てたから、偉いねって褒めたくなったの」
そう微笑むと、仮面を外したスージーが今にも泣きそうなの堪えて無邪気に可愛い笑顔を見せて私の胸に飛び込んできた。
私にとってはエンティティ様が一番大事だ。だけど、その彼女の為に働くキラー達だって一人一人、大事に思ってる。全員が彼女を喜ばせる結果だけを出せるならいいけれど、そう上手くいかなくて彼女を不機嫌にさせることだってある。それでも私はたった一回のミスだけで拷問をすることはしないようにしている。キラーにだって日によって調子が悪い日があったり、相手が悪かったり、苦手があったりと頑張っていたとしても結果が出せないことだってあるから。
だからこそ、毎日の儀式をよく観てキラー達のことよく知った上で公平な評価をあげたいと思う。
良い子でも悪い子でも私にとってはみんな必要で、可愛い存在にかわりはない。例え拷問や報酬を与える歪んだ愛の形だとしてもそれが私達にとっての絆だ。