第七章 赤髪と白揚羽
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湖畔はすっかり夜となり、大宴会場となった。
あちらこちらで乾杯の声とジョッキを合わせる音が鳴る。
シャンクス、レイリー、ミコトを囲んで飲むのは幹部達で、他の海賊達は遠慮して、離れた場所で宴を楽しんでいる。
ご機嫌なシャンクスは一気に飲み干すと、レイリーに笑って尋ねた。
「どうしてここに?」
レイリーはやっと本題に入れるなと笑うと、ミコトの背中をそっと押してシャンクスに見せる。
「はっはっはっ……! やっと紹介できるな。 実はこの娘は私の——」
「でぇーっ! まさか、レイリーさんの子供!?」
「違う。 最後まで話を聞け!」
レイリーは大げさに驚くシャンクスの頭をゴツン! と殴った。
ミコトはその様子に目を丸くした。
「痛ぇ……」 と手で頭を擦るシャンクスをミコトはジッと見つめた。
(珍しいものを見てしまった……。 頭を押さえる四皇……)
シャンクスらしいといえば、らしい姿はルフィと重なる事にミコトはこっそり笑う。
(ふふ……似てる!)
レイリーはその場の空気を引き締めるように一つ咳払いをした。
「私の弟子だ。 ひと目、お前に会いたいと言うから一緒に来たんだ」
「レイリーさんの……弟子? “賞金狩りのシロ” が?」
シャンクスも話を聞いていた周囲の幹部も驚いて、飲んでいる酒の手が自然に止まり、ミコトを一斉に見る。
ミコトは集まる視線を感じて緊張しつつも、仮面を取ると素顔を晒した。
シャンクスをはじめ、その場の全員が仮面の下の顔を見て、息を呑んで驚いた。
見るからに十代の少女。
噂とは真逆の姿に、すぐに言葉が出ない。
ミコトは顔を強張らせ、いつもより上擦った少し高い声で話す。
『えっと、はじめましてクサナギ・ミコトです』
時間が止まったように全員がミコトを見つめる。
沈黙に耐えられなくなったミコトはレイリーの袖を掴んだ。
(ぅ……! シャンクスが……あの幹部達が私を見てる……! これ以上何を言ったら……)
『……し、師匠っ!』
「はあ……。 そんなんで、どうするんだお前は……」
まったくといった様子でミコトの頭の上に手を置くレイリーの目は優しいものだった。
『……でも』
レイリーを見上げ、どうしていいか分からないと戸惑い、今にも泣きだしそうなミコトの様子はどこにでもいる普通の少女だ。
シャンクスに初めて会って、切羽詰まっている姿は新聞で騒がれている “賞金狩り” や 酒場で噂される “白揚羽” の顔はどこにも無い。
素の姿に新聞や世間で騒がられている噂が、虚像の姿だとその場にいる全員が理解した。
「わははは!」
シャンクスは豪快に笑うと固まるミコトを優しい目で見た。
「そんな緊張すんな! とって食いはしねェ……な?」
『……はい』
小さくミコトは頷くと緊張を解いたようにホッとしたように微笑んだ。
シャンクスは酒を注いで、一口飲むとミコトに話掛けた。
「そんで、おれに会って……なんか用があんのか? 会うだけで、こんなトコまで来ねェよな」
ミコトはレイリーの顔を窺った。
ここに至るまで、ミコトとレイリーは何度も話合っていた。
決戦でエースを救うには白ひげは説得しないといけない相手だが、シャンクスという風のような男に話すべきなのかと。
自由に生きる男の考えは、レイリーと言えど、どう動くか分からなかったからだ。
しかし、ミコトは自身の事をルフィが憧れるシャンクスに伝えたかった。
これから、ルフィの仲間になりたいと思っているなら尚更だ。
「大丈夫だ。 話しなさい」
『はい』
ミコトは頷くと瞼を閉じて、一呼吸してから、口を開く。
『えっと……これから話す事は本当の事です——』
——と前置きのあとにミコトは自分の身の上を話した。
ミコトがこの世界の人間ではない事や、 “ワンピースの本” の話をした。
ただ、将来何が起きるというような詳しく話すようなことはしなかった。
シャンクスは信じられないような顔をしながらもワクワクしながら話を聞いていた。
存在しているかもしれないと誰もが想像するであろう別世界や別次元。
実際に実現して行けたり戻ってくることも分からないから、証明も出来ない。
本や物語の想像世界だけの出来事。
しかし、ミコトはいる。
『シャンクスさんが、この話を信じるかどうかは分かりません。 ただ、私はシャンクスさんにこの先を言うつもりもありません。 ルフィが憧れるあなたに会ってみたかったんです』
ミコトはそう言い切るとシャンクスを見つめた。
さっきまでは緊張して目も合わせられなかったが、今は真摯な瞳を真っ直ぐに向ける。
シャンクスはミコトのどこまでも透き通る薄茶色の瞳を見つめた。
色は違うが逸らされない光は東の海の少年を思い出させた。
「そうか……」
一言こぼして笑った。
「その口ぶりだとミコトはこれから、ルフィに会いに行くのか?」
『はい! この後、東の海に……ルフィに会いに行きます!』
シャンクスの問いに元気よく頷くミコトの瞳は輝いていたが、 『そして……』 と言葉を繋げる声は自信がないのかしだいに小さくなる。
『出来れば仲間になって冒険したいな……と。 仲間になれればですけど……』
そんなミコトにシャンクスはニヤリと笑う。
「ルフィんとこじゃなくて、おれんとこで海賊やれよ!」
『?』
(今……なんて?)
ミコトは思ってもみない申し出にポカン……と口を開けている。
思考は止まり真っ白になった。
シャンクスは優しく強い目でミコトを見つめる。
「レイリーさんの弟子ってことは、おれの妹みたいなもんだしな。 おれのとこは女っ気ねェけど、みんないい奴らばかりだ。 ダメか?」
ミコトはジッと見つめてくるシャンクスの視線から逃れようと逸らす。
『ダメです……』
絞り出すように短い返事をして顔を背けた。
途端にヤソップとルウが大声で笑った。
「わっはっはっはっ!」
「お頭、振られたなーっ!」
「うるせェーっ! 黙ってろ!」
シャンクスは二人に怒鳴るとミコトに向きなおす。
眉をひそめてミコトを見つめる。
「お前、なんで……目、合せねェんだ?」
『……う…。 だって、逸らしてないと “はい” と言いそうで困るからです』
ミコトは懸命に俯いて、正面で見据えるシャンクスから逃げる。
シャンクスは鼻をならすと、悪戯を思いついたような顔をみせた。
その顔にレイリーとベックマンは何をするのやら——と心の中で溜息をついた。
ミコトの顎を手で捉えると、シャンクスは無理やり自分の方に向かせる。
瞬間、ミコトは目をギュと瞑る。
「開けて、おれを見ろ!」
『……嫌です』
シャンクスの無言の圧力にミコトは無言で耐える。
頑なに頑張るミコトにベックマンが可哀相になり助け船を出す。
「お頭、止めろ」
しかし、シャンクスはひと睨みして無視した。
そして、意外に頑固なミコトにシャンクスはニヤリと笑う。
「このまま、目ェ開けねェならキスする」
ミコトは思わず肩をビクっとさせて、開きそうな目を意地できつく閉じた。
近づく気配にミコトは白い眉を寄せて耐えられなくなって叫ぶ。
『師匠、助けて下さい!』
ミコトに助けを求められたレイリーはシャンクスの肩をポンと叩く。
「やれやれ……困った二人だな。 シャンクスもミコトも意地を張り過ぎだ」
溜息交じりにレイリーに言われたシャンクスは仕方ないと、ミコトを解放した。
ミコトは安心してホッとすると、固く閉じていた目をそろそろと開けると、申し訳なさそうにシャンクスを見た。
『意地になって、ごめんなさい』
ミコトは素直に謝ると、シャンクスも赤い髪を掻いた。
「いや、ま……おれも悪かった」
レイリーが二人の間に入る。
「悪いが、諦めてもらえないかシャンクス。 ミコトの心は決まっているのだから。 あんまり困らせるな」
「……しょうがェ、許してやる」
納得したシャンクスだったが、再びミコトを真っ直ぐ見る。
その目にミコトはまた何かされるのかとドキリと心臓を鳴らした。
「でも、妹に “シャンクスさん” と呼ばれるのは駄目だ! シャンクスと呼べ! それと敬語をやめろ。 おれにもおれの仲間にもだ!」
『え!? えええ! いつ妹に?』
「さっき言っただろ!」
『あ……』 と視線が動いて思い出す。
ニカッ! と笑うシャンクスを見て、ミコトはルフィと重なった。
(やっぱり、ルフィの原点ってシャンクスなんだ……)
ルフィが憧れるシャンクスの妹に自分がなるのかと考えると、困るような嬉しいような複雑な気持ちになった。
ついこの前も似たような事があった。
そう、ミコトは白ひげの娘になったのだ。
(うーん……)
心の中で唸って考えても答えは出ない。
状況に戸惑って俯いていたら、シャンクスに髪を撫でられた。
顔を上げればシャンクスの嬉しそうな顔。
優しいが断るわけないと決まっている様子にミコトは周囲の幹部達の様子も窺う。
酒を飲みながら、シャンクスとミコトの成り行きを見守っている
ちらり……とレイリーに視線を送るが、自分で何とかしなさいという顔で、ミコトを見ているだけで助けてくれそうにない。
これはもう決まっている流れなのかと諦めたミコトはシャンクスを見て呼んだ。
『……シャンクス』
「よし!」
シャンクスは満足したように頷くと仲間に叫んで宣言した。
「みんな、聞いてくれ! 今日からミコトは、おれの妹だ! 飲め!」
賞金狩りがシャンクスの妹になった事に一斉に——ええーっ! と驚きと歓声を上げた。
あちこちで乾杯の声があがり、隣で飲むレイリーは 「ははは」 と楽しそうに笑う。
「私の弟子になっただけでなく、この前は白ひげの娘にはなるし、今日はシャンクスの妹か……! ミコトは忙しいな。 はっはっはっ!」
『笑いごとじゃないです……』
自分の置かれている状況にミコトは嬉しくても笑えなかった。
(……こんなことになるなんて、考えた事もなかった)
気持ちと頭が、なかなか追いつかないミコトと違って、シャンクスは隣で笑って感心していた。
「へえ……白ひげにも気にいられたのか。 さすがおれの妹だな!」
ミコトが白ひげの娘と聞いても屈託なく笑うシャンクス。
シャンクスにとってミコトが気に入った時点で、どんな身の上でも気にしない。
考えても仕方ない事で、大事なのはミコト自身を受け入れる事だからだ。
ミコトは笑っているシャンクスを見ているうちに自然に心が解けて、悩んでいるのが馬鹿みたいに思えた。
(うん。 考えても仕方ないよね……素直に喜ぼう! そうだよ! シャンクスがお兄ちゃんになるんだもん!)
シャンクスはミコトの明るくなった顔を覗き込んだ。
「どうした、ミコト?」
『うん! お兄ちゃんが出来たんだなって思って!』
一瞬、止まるシャンクスは珍しく戸惑う。
「な……お兄ちゃん?」
尋ね返すシャンクスにミコトは不思議そうに見上げた。
『うん。 私はシャンクスの妹なんだから、お兄ちゃんでしょ?』
「……ああ」
ミコトが当たり前のような顔で首を傾げて、無邪気に喜んで微笑むと、シャンクスは顔を少し赤くして照れた。
“お兄ちゃん” なんて、可愛らしく呼ばれることなどない男ばかりの海賊暮らし。
その様子を目ざとく見つけたのはヤソップとルウだ。
「お頭がガラにも無く照れてるぜ!」
「わはははっ!」
「照れてねェよ! てめェら!」
面白がる仲間に怒鳴るシャンクスをミコトは呆気にとられて見ていたが、クスクスと笑い声をたてた。
可愛らしい声があたりに響くと、シャンクスも怒鳴られたヤソップとルウも振り返った。
「お前ェら……可愛いおれの妹の笑い声に救われたな」
シャンクスは横目で二人を見て言うとミコトを優しそうに見つめ、シャンクス? と不思議そうに見上げるミコトの頭を撫でて笑った。
(妹か……。 いいな、こういうのも……!)
こうして、シャンクスとミコトは出会い兄妹となった。
あちらこちらで乾杯の声とジョッキを合わせる音が鳴る。
シャンクス、レイリー、ミコトを囲んで飲むのは幹部達で、他の海賊達は遠慮して、離れた場所で宴を楽しんでいる。
ご機嫌なシャンクスは一気に飲み干すと、レイリーに笑って尋ねた。
「どうしてここに?」
レイリーはやっと本題に入れるなと笑うと、ミコトの背中をそっと押してシャンクスに見せる。
「はっはっはっ……! やっと紹介できるな。 実はこの娘は私の——」
「でぇーっ! まさか、レイリーさんの子供!?」
「違う。 最後まで話を聞け!」
レイリーは大げさに驚くシャンクスの頭をゴツン! と殴った。
ミコトはその様子に目を丸くした。
「痛ぇ……」 と手で頭を擦るシャンクスをミコトはジッと見つめた。
(珍しいものを見てしまった……。 頭を押さえる四皇……)
シャンクスらしいといえば、らしい姿はルフィと重なる事にミコトはこっそり笑う。
(ふふ……似てる!)
レイリーはその場の空気を引き締めるように一つ咳払いをした。
「私の弟子だ。 ひと目、お前に会いたいと言うから一緒に来たんだ」
「レイリーさんの……弟子? “賞金狩りのシロ” が?」
シャンクスも話を聞いていた周囲の幹部も驚いて、飲んでいる酒の手が自然に止まり、ミコトを一斉に見る。
ミコトは集まる視線を感じて緊張しつつも、仮面を取ると素顔を晒した。
シャンクスをはじめ、その場の全員が仮面の下の顔を見て、息を呑んで驚いた。
見るからに十代の少女。
噂とは真逆の姿に、すぐに言葉が出ない。
ミコトは顔を強張らせ、いつもより上擦った少し高い声で話す。
『えっと、はじめましてクサナギ・ミコトです』
時間が止まったように全員がミコトを見つめる。
沈黙に耐えられなくなったミコトはレイリーの袖を掴んだ。
(ぅ……! シャンクスが……あの幹部達が私を見てる……! これ以上何を言ったら……)
『……し、師匠っ!』
「はあ……。 そんなんで、どうするんだお前は……」
まったくといった様子でミコトの頭の上に手を置くレイリーの目は優しいものだった。
『……でも』
レイリーを見上げ、どうしていいか分からないと戸惑い、今にも泣きだしそうなミコトの様子はどこにでもいる普通の少女だ。
シャンクスに初めて会って、切羽詰まっている姿は新聞で騒がれている “賞金狩り” や 酒場で噂される “白揚羽” の顔はどこにも無い。
素の姿に新聞や世間で騒がられている噂が、虚像の姿だとその場にいる全員が理解した。
「わははは!」
シャンクスは豪快に笑うと固まるミコトを優しい目で見た。
「そんな緊張すんな! とって食いはしねェ……な?」
『……はい』
小さくミコトは頷くと緊張を解いたようにホッとしたように微笑んだ。
シャンクスは酒を注いで、一口飲むとミコトに話掛けた。
「そんで、おれに会って……なんか用があんのか? 会うだけで、こんなトコまで来ねェよな」
ミコトはレイリーの顔を窺った。
ここに至るまで、ミコトとレイリーは何度も話合っていた。
決戦でエースを救うには白ひげは説得しないといけない相手だが、シャンクスという風のような男に話すべきなのかと。
自由に生きる男の考えは、レイリーと言えど、どう動くか分からなかったからだ。
しかし、ミコトは自身の事をルフィが憧れるシャンクスに伝えたかった。
これから、ルフィの仲間になりたいと思っているなら尚更だ。
「大丈夫だ。 話しなさい」
『はい』
ミコトは頷くと瞼を閉じて、一呼吸してから、口を開く。
『えっと……これから話す事は本当の事です——』
——と前置きのあとにミコトは自分の身の上を話した。
ミコトがこの世界の人間ではない事や、 “ワンピースの本” の話をした。
ただ、将来何が起きるというような詳しく話すようなことはしなかった。
シャンクスは信じられないような顔をしながらもワクワクしながら話を聞いていた。
存在しているかもしれないと誰もが想像するであろう別世界や別次元。
実際に実現して行けたり戻ってくることも分からないから、証明も出来ない。
本や物語の想像世界だけの出来事。
しかし、ミコトはいる。
『シャンクスさんが、この話を信じるかどうかは分かりません。 ただ、私はシャンクスさんにこの先を言うつもりもありません。 ルフィが憧れるあなたに会ってみたかったんです』
ミコトはそう言い切るとシャンクスを見つめた。
さっきまでは緊張して目も合わせられなかったが、今は真摯な瞳を真っ直ぐに向ける。
シャンクスはミコトのどこまでも透き通る薄茶色の瞳を見つめた。
色は違うが逸らされない光は東の海の少年を思い出させた。
「そうか……」
一言こぼして笑った。
「その口ぶりだとミコトはこれから、ルフィに会いに行くのか?」
『はい! この後、東の海に……ルフィに会いに行きます!』
シャンクスの問いに元気よく頷くミコトの瞳は輝いていたが、 『そして……』 と言葉を繋げる声は自信がないのかしだいに小さくなる。
『出来れば仲間になって冒険したいな……と。 仲間になれればですけど……』
そんなミコトにシャンクスはニヤリと笑う。
「ルフィんとこじゃなくて、おれんとこで海賊やれよ!」
『?』
(今……なんて?)
ミコトは思ってもみない申し出にポカン……と口を開けている。
思考は止まり真っ白になった。
シャンクスは優しく強い目でミコトを見つめる。
「レイリーさんの弟子ってことは、おれの妹みたいなもんだしな。 おれのとこは女っ気ねェけど、みんないい奴らばかりだ。 ダメか?」
ミコトはジッと見つめてくるシャンクスの視線から逃れようと逸らす。
『ダメです……』
絞り出すように短い返事をして顔を背けた。
途端にヤソップとルウが大声で笑った。
「わっはっはっはっ!」
「お頭、振られたなーっ!」
「うるせェーっ! 黙ってろ!」
シャンクスは二人に怒鳴るとミコトに向きなおす。
眉をひそめてミコトを見つめる。
「お前、なんで……目、合せねェんだ?」
『……う…。 だって、逸らしてないと “はい” と言いそうで困るからです』
ミコトは懸命に俯いて、正面で見据えるシャンクスから逃げる。
シャンクスは鼻をならすと、悪戯を思いついたような顔をみせた。
その顔にレイリーとベックマンは何をするのやら——と心の中で溜息をついた。
ミコトの顎を手で捉えると、シャンクスは無理やり自分の方に向かせる。
瞬間、ミコトは目をギュと瞑る。
「開けて、おれを見ろ!」
『……嫌です』
シャンクスの無言の圧力にミコトは無言で耐える。
頑なに頑張るミコトにベックマンが可哀相になり助け船を出す。
「お頭、止めろ」
しかし、シャンクスはひと睨みして無視した。
そして、意外に頑固なミコトにシャンクスはニヤリと笑う。
「このまま、目ェ開けねェならキスする」
ミコトは思わず肩をビクっとさせて、開きそうな目を意地できつく閉じた。
近づく気配にミコトは白い眉を寄せて耐えられなくなって叫ぶ。
『師匠、助けて下さい!』
ミコトに助けを求められたレイリーはシャンクスの肩をポンと叩く。
「やれやれ……困った二人だな。 シャンクスもミコトも意地を張り過ぎだ」
溜息交じりにレイリーに言われたシャンクスは仕方ないと、ミコトを解放した。
ミコトは安心してホッとすると、固く閉じていた目をそろそろと開けると、申し訳なさそうにシャンクスを見た。
『意地になって、ごめんなさい』
ミコトは素直に謝ると、シャンクスも赤い髪を掻いた。
「いや、ま……おれも悪かった」
レイリーが二人の間に入る。
「悪いが、諦めてもらえないかシャンクス。 ミコトの心は決まっているのだから。 あんまり困らせるな」
「……しょうがェ、許してやる」
納得したシャンクスだったが、再びミコトを真っ直ぐ見る。
その目にミコトはまた何かされるのかとドキリと心臓を鳴らした。
「でも、妹に “シャンクスさん” と呼ばれるのは駄目だ! シャンクスと呼べ! それと敬語をやめろ。 おれにもおれの仲間にもだ!」
『え!? えええ! いつ妹に?』
「さっき言っただろ!」
『あ……』 と視線が動いて思い出す。
ニカッ! と笑うシャンクスを見て、ミコトはルフィと重なった。
(やっぱり、ルフィの原点ってシャンクスなんだ……)
ルフィが憧れるシャンクスの妹に自分がなるのかと考えると、困るような嬉しいような複雑な気持ちになった。
ついこの前も似たような事があった。
そう、ミコトは白ひげの娘になったのだ。
(うーん……)
心の中で唸って考えても答えは出ない。
状況に戸惑って俯いていたら、シャンクスに髪を撫でられた。
顔を上げればシャンクスの嬉しそうな顔。
優しいが断るわけないと決まっている様子にミコトは周囲の幹部達の様子も窺う。
酒を飲みながら、シャンクスとミコトの成り行きを見守っている
ちらり……とレイリーに視線を送るが、自分で何とかしなさいという顔で、ミコトを見ているだけで助けてくれそうにない。
これはもう決まっている流れなのかと諦めたミコトはシャンクスを見て呼んだ。
『……シャンクス』
「よし!」
シャンクスは満足したように頷くと仲間に叫んで宣言した。
「みんな、聞いてくれ! 今日からミコトは、おれの妹だ! 飲め!」
賞金狩りがシャンクスの妹になった事に一斉に——ええーっ! と驚きと歓声を上げた。
あちこちで乾杯の声があがり、隣で飲むレイリーは 「ははは」 と楽しそうに笑う。
「私の弟子になっただけでなく、この前は白ひげの娘にはなるし、今日はシャンクスの妹か……! ミコトは忙しいな。 はっはっはっ!」
『笑いごとじゃないです……』
自分の置かれている状況にミコトは嬉しくても笑えなかった。
(……こんなことになるなんて、考えた事もなかった)
気持ちと頭が、なかなか追いつかないミコトと違って、シャンクスは隣で笑って感心していた。
「へえ……白ひげにも気にいられたのか。 さすがおれの妹だな!」
ミコトが白ひげの娘と聞いても屈託なく笑うシャンクス。
シャンクスにとってミコトが気に入った時点で、どんな身の上でも気にしない。
考えても仕方ない事で、大事なのはミコト自身を受け入れる事だからだ。
ミコトは笑っているシャンクスを見ているうちに自然に心が解けて、悩んでいるのが馬鹿みたいに思えた。
(うん。 考えても仕方ないよね……素直に喜ぼう! そうだよ! シャンクスがお兄ちゃんになるんだもん!)
シャンクスはミコトの明るくなった顔を覗き込んだ。
「どうした、ミコト?」
『うん! お兄ちゃんが出来たんだなって思って!』
一瞬、止まるシャンクスは珍しく戸惑う。
「な……お兄ちゃん?」
尋ね返すシャンクスにミコトは不思議そうに見上げた。
『うん。 私はシャンクスの妹なんだから、お兄ちゃんでしょ?』
「……ああ」
ミコトが当たり前のような顔で首を傾げて、無邪気に喜んで微笑むと、シャンクスは顔を少し赤くして照れた。
“お兄ちゃん” なんて、可愛らしく呼ばれることなどない男ばかりの海賊暮らし。
その様子を目ざとく見つけたのはヤソップとルウだ。
「お頭がガラにも無く照れてるぜ!」
「わはははっ!」
「照れてねェよ! てめェら!」
面白がる仲間に怒鳴るシャンクスをミコトは呆気にとられて見ていたが、クスクスと笑い声をたてた。
可愛らしい声があたりに響くと、シャンクスも怒鳴られたヤソップとルウも振り返った。
「お前ェら……可愛いおれの妹の笑い声に救われたな」
シャンクスは横目で二人を見て言うとミコトを優しそうに見つめ、シャンクス? と不思議そうに見上げるミコトの頭を撫でて笑った。
(妹か……。 いいな、こういうのも……!)
こうして、シャンクスとミコトは出会い兄妹となった。