第二章 大渦へ
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青い空にはふわふわと雲が浮かび、カモメがクーックーッと鳴いている。
広い海を無謀にも小舟で旅する二人は、なんと海賊の一団を作る “仲間集め” の途中なのだ。
『ルフィ、話したい事があるの』
「なんだ?」
『私もルフィと同じ悪魔の実の能力者なの』
ルフィはガバッ! と勢いよく飛び起きると、興味深々で目を輝かせた。
「へぇ、何の能力なんだ?」
『私の手を叩いてみて』
ミコトは手の平を見せる。
ルフィがワクワクしながらミコトの手を叩くと、パシャッと水音をたて、手が通り抜けた。
「なんだァ!? これー?」
ルフィは濡れた自分の手と、ミコトの手を交互に見る。
その間にミコトの流れる水の手は光を反射しながら、元の手の形を作っていった。
戻った手をミコトはグー、パーと動かしてルフィに見せて笑った。
『私はミズミズの能力者。 水人間なの。 でも泳げないからね』
「すげー! あっ、そしたら二人とも “かなづち” なんだな。 わはははっ!」
笑うルフィにミコトは真面目な顔になる。
『笑いことじゃないよルフィ。 海のど真ん中で、小舟に泳げない二人なんだからね』
ミコトが注意するも、ルフィは軽い調子で返す。
「分かってるって!」
何が起きても何とかするというルフィに、ミコトは本当にルフィだなーと思い、一緒に冒険している事に口元が微かに上がる。
「ミコト、どうした?」
『んと、冒険してるなーって!』
「そうだな!」
笑うルフィにミコトは 『うん!』 と頷くものの、この先の事を考えていた。
(あの大渦……どうしよううかな?)
海を見つめて悩むミコトだが、この小舟は確実に大渦の流れに乗っている。
すでに波が小舟を揺らしているからだ。
(うーん……)
ミコトの難しい顔に、オールを抱えて足を伸ばして座るルフィは笑い掛ける。
「はー今日も、いい天気だねーっ」
話している間に、早くも難関にぶつかった事に冒険の匂いを感じたようだ。
「こんなに、気持ちいい日なのになァ。 ミコト、この船旅はひとまず遭難ってことになるな!」
『ルフィ……私達、困ってるんだよ』
もうっ! とミコトは腰に手をやって、ルフィも考えてと睨んでみるが、黒い目に緊張感はない。
——ゴゴゴゴゴゴー!
とてつもなく巨大な渦が轟音をたてて、確実に近づいてた。
波が渦を巻いて、中心に向かって回っているのがミコトの視界に入る。
『…………』
実際はこんなに大きいのかと黙り込んでしまうミコトは迫りくる渦を見つめた。
(正直……分かっていても怖い)
ルフィも麦わら帽子に片手を置いて渦を眺める。
「まさか、こんな大渦にのまれるとは、うかつだった」
ルフィは 「はぁ~」 と溜息をつくものの、ミコトから見たら少しも困ってる感じではない。
「助けてほしいけど、誰もいないし。 まー、のまれちまったもんは、しょうがないとして……」
ルフィは渦の外側の穏やかな海と、近づく程激しさを増す渦の中心を見比べた。
「泳げないんだよなーおれたち」
ルフィは顎に手をやり、さっきから黙っている神妙な面持ちのミコトにルフィは 「おい!」 と呼び掛けた。
『…………』
(原作通り、ルフィは酒樽に押し込もう。 私は……まぁ、なんとかなるかな。 問題はルフィとはぐれないようにしないと……)
考え込むミコトはルフィの声が聞こえていないようだ。
「おい、ミコト!」
『え?』 と視線を上げるミコトにルフィはこっち見たと笑う。
「聞いてんのか? おまえも意外にのんきだな、このピンチに考え事なんて、あ!」
突然、何か閃いたのかルフィは手をポン! と叩いた。
「こんな大渦の場合泳げようが泳げまいが関係ねェか!」
一人納得しているルフィにミコトはニコリと笑って 『うん!』 と頷く。
『でも、やれる事はやろう!』
「何すんだ?」
ミコトは酒樽を 『よいしょ……』 と準備した。
刻一刻と近づく渦の中心。
小舟は渦の中心に向かって流され、激しく揺れていた。
二人は立ちあがることも出来ない状態だ。
「わ!」
ルフィが小舟に襲いかかる波にのまれそうになる。
『ルフィ!!』
ミコトは自分に伸ばされるルフィの手をしっかりと掴んだ。
そして、引っ張りあげると今だ! と、無理やり酒樽にルフィをギュウギュウ押し込む。
ゴム人間のルフィだからこそ強引に詰め込めるのだろう。
「あーっ! ミコト! なに…す……るんだ……」
『いいから、入って! ルフィ!』
「!!!」
蓋を閉めると、声にならないルフィの声が酒樽の中から聞こえる。
ルフィを無事に? 酒樽に押し込み終わったミコトは額に浮かぶ汗をぬぐい 『よしっ』 と小さく頷く。
渦の中心が目の前に迫っているせいか、轟音が耳に響く。
大きな声で酒樽にむかって叫んだ。
『ルフィ! また、後で会おう! 会えるって信じてるから!』
「…、……?………!!」
(何、言ってるんだ? ミコトはどうするんだ!)
酒樽の中で叫ぶルフィの声は大渦の音と酒樽の中でくぐもり、外にいるミコトには聞こえない。
ミコトは構わず酒樽を海に放つ。
酒樽の中のルフィに向かって大声で叫ぶ。
『私は、大丈夫だから…っ!』
大きな渦の音にミコトの声がかき消され、酒樽は渦にのみこまれていった。
波が小舟を一息に飲みこもうと襲いかかる。
小舟は波に耐えられずに、軋んだ音をたてて裂けていく。
——バキッバキバキバキキ!
直後、小さい破片を飛ばしながら大破する小舟から、ミコトは飛び上がりながら壊れた木の板をつかむ。
足から水飛沫を上げて空高く飛んだ。
まるで、イルカが水飛沫を上げてジャンプしたかのようだ。
白い髪は長く、水と一体化しているように伸びていき、空中でクルリと一回転すると壊れた木片に足を着地させた。
そして、空に水の道を作り旋回しながら、大渦を上から眺めて、その大きさに驚いた。
(大きい……!)
飲みこまれていたら、確実に海の底へと沈んだであろう渦の上空で、ミコトは海をぐるりと見回し、ルフィの酒樽を探した。
『なんとかなったけど……ルフィが見当たらない』
いつまでも海を見下ろしていても仕方ないと、ミコトは穏やかな波へと着水した。
目を閉じて、見聞色の覇気で探る。
(近くに島があるはず)
そう、ルフィは樽の中で潮に揺られ、アルビダの休息地の島の海岸に着くはずだからだ。
ミコトは能力を使い、足から水飛沫をあげて波に乗り、海を走ってルフィを探した。
一方、ルフィの入る酒樽は大渦を乗り越え、プカプカと波に浮かんでいた。
中にいるルフィは穏やかに揺れる樽の中で、気持ち良く寝ている。
酒樽に羽休みしているカモメはイビキが聞こえて、驚いてクーッと鳴くと海岸の方へ飛んだ。
見えてきた海賊船はMissラブ・ダック号。
アヒルの船首の目も、白い帆も、髑髏の目も赤いハートで、船長を見た者が魅了された姿だ。
カモメは休もうとマストの先に止まろうとして、怒鳴り声が空に響き、翼を羽ばたかせて、逃げて行く。
甲板で叫ぶ声の主は、この辺りの海を縄張りにする女海賊 “金棒” のアルビダ。
ダダンに負けない体格と怪力を持つアルビダは、本人が思っている程、美しい見た目ではないうえに、内面も高圧的で乱暴な女海賊だ。
あえて良い点があるとすれば、綺麗好きなところだが——
「コビー! この海で一番美しいものは何だい?」
アルビダに問われたのは丸い眼鏡をした気弱そうなピンクの髪の少年。
前髪を真ん中で分けるコビーは海軍に入隊するという夢を抱いていたが、運悪く女海賊のアルビダに捕まってしまった。
「え…えへへへ。 もちろん、それはレディー・アルビダ様です! えへへへ」
アルビダの機嫌を窺う自分が嫌だと思っていても、逆らう事も、逃げ出す事も恐ろしくて出来ない。
「そうさ! だからアタシは汚いものが大嫌いなのさ! 美しいアタシが乗る船も美しくなきゃねェ! そうだろう?」
アルビダは整えた細い眉を上げて、正座して怯えるコビーを脅す。
「お前にはどういう訳か、人一倍海の知識があるから、生かしておいてやってんだ」
「は……はい、ありがとうございます」
(それは海兵になる為で……海賊の――)
ぎゅ……と膝に置く手に力が入ったが、アルビダは僅かな反抗心も見逃さない。
ガンガン! とコビーを蹴る。
「それ以外は能がないんだから、とっととクツを磨きな!」
コビーは 「は……はい、すぐに」 と布を手にするが、アルビダはドシドシ歩き、ジッとしていない。
「ホコリ一つ残すんじゃないよ! お前達!」
甲板の掃除をする部下達に命じながら歩くアルビダをコビーは追いかける。
「もういいよ! グズだね、お前は!」
頑張っているだけなのに、アルビダに邪魔扱いされて蹴られ、コビーは謝ってしまう。
「え……えへへへ、す……すみません」
「謝ってるヒマあったら、便所でも掃除してきな!」
「えへへ。 はい、すぐにアルビダ様!」
コビーは駆けだして船を降りると、肩を落としてトボトボ歩く。
毎日怒鳴られるのも卑屈に笑う自分も嫌で仕方ない。
「はぁ……」 と溜息をついて、ふと海岸を見れば、酒樽が漂着していた。
流れ着いたものだろうが、アルビダの休息地にあるものはアルビダのものだ。
拾って、良いモノだったら、今夜の夕食は残飯じゃないかもしれないと考えて、情けなさに溜息がまた出た。
(何してるんだ……ぼくは――)
酒樽を横に倒して、コビーはゴロ……と転がして拠点の酒蔵まで運んだ。
酒蔵を片付けていた三人の海賊のうちの顎割れのヘッポコにコビーは尋ねた。
「酒樽が海岸に流れて来ただと? 雑用コビー」
「は……はい。 まだ中身も入ってるようなので、どうしたらいいでしょうか?」
他の海賊達にも聞こえたのだろう、嬉しそうに 「そりゃいい! おれ達で飲んじまおう!」 と尖がり顎のペッポコは仲間に声を掛けた。
「しかし、兄弟! もし、お頭にバレたら、おれ達ァ……」
「なァに、バレやしねェよ」 と丸顎のポッポコがバールを持ちながら言うと 「それもそうだな」 とヘッポコが笑う。
「わかってンな、コビー」
「は…はい、もちろん! ぼ…ぼくは何も見てません! えへへへ……!」
逆らわないと両手の平を見せるコビーに、ポッポコはフン! と鼻を鳴らし、樽を開けようと、ギシッ……と蓋の縁にバールを差し込んだところで、しつこくコビーに念を押す。
「言うんじゃねェぞ!」
ギラッと睨みつけて、握り締める拳をコビーは怖れた。
「だ……だから、なぐらないでく……」
言い掛けた瞬間、樽の蓋がバキッ! と割れた。
(え……!?)
酒樽を元気よく割って出て来たのはルフィだ。
窮屈な樽の中から解放され、大声で叫び、両手を上げた。
「あー! よく寝た!」
広い海を無謀にも小舟で旅する二人は、なんと海賊の一団を作る “仲間集め” の途中なのだ。
『ルフィ、話したい事があるの』
「なんだ?」
『私もルフィと同じ悪魔の実の能力者なの』
ルフィはガバッ! と勢いよく飛び起きると、興味深々で目を輝かせた。
「へぇ、何の能力なんだ?」
『私の手を叩いてみて』
ミコトは手の平を見せる。
ルフィがワクワクしながらミコトの手を叩くと、パシャッと水音をたて、手が通り抜けた。
「なんだァ!? これー?」
ルフィは濡れた自分の手と、ミコトの手を交互に見る。
その間にミコトの流れる水の手は光を反射しながら、元の手の形を作っていった。
戻った手をミコトはグー、パーと動かしてルフィに見せて笑った。
『私はミズミズの能力者。 水人間なの。 でも泳げないからね』
「すげー! あっ、そしたら二人とも “かなづち” なんだな。 わはははっ!」
笑うルフィにミコトは真面目な顔になる。
『笑いことじゃないよルフィ。 海のど真ん中で、小舟に泳げない二人なんだからね』
ミコトが注意するも、ルフィは軽い調子で返す。
「分かってるって!」
何が起きても何とかするというルフィに、ミコトは本当にルフィだなーと思い、一緒に冒険している事に口元が微かに上がる。
「ミコト、どうした?」
『んと、冒険してるなーって!』
「そうだな!」
笑うルフィにミコトは 『うん!』 と頷くものの、この先の事を考えていた。
(あの大渦……どうしよううかな?)
海を見つめて悩むミコトだが、この小舟は確実に大渦の流れに乗っている。
すでに波が小舟を揺らしているからだ。
(うーん……)
ミコトの難しい顔に、オールを抱えて足を伸ばして座るルフィは笑い掛ける。
「はー今日も、いい天気だねーっ」
話している間に、早くも難関にぶつかった事に冒険の匂いを感じたようだ。
「こんなに、気持ちいい日なのになァ。 ミコト、この船旅はひとまず遭難ってことになるな!」
『ルフィ……私達、困ってるんだよ』
もうっ! とミコトは腰に手をやって、ルフィも考えてと睨んでみるが、黒い目に緊張感はない。
——ゴゴゴゴゴゴー!
とてつもなく巨大な渦が轟音をたてて、確実に近づいてた。
波が渦を巻いて、中心に向かって回っているのがミコトの視界に入る。
『…………』
実際はこんなに大きいのかと黙り込んでしまうミコトは迫りくる渦を見つめた。
(正直……分かっていても怖い)
ルフィも麦わら帽子に片手を置いて渦を眺める。
「まさか、こんな大渦にのまれるとは、うかつだった」
ルフィは 「はぁ~」 と溜息をつくものの、ミコトから見たら少しも困ってる感じではない。
「助けてほしいけど、誰もいないし。 まー、のまれちまったもんは、しょうがないとして……」
ルフィは渦の外側の穏やかな海と、近づく程激しさを増す渦の中心を見比べた。
「泳げないんだよなーおれたち」
ルフィは顎に手をやり、さっきから黙っている神妙な面持ちのミコトにルフィは 「おい!」 と呼び掛けた。
『…………』
(原作通り、ルフィは酒樽に押し込もう。 私は……まぁ、なんとかなるかな。 問題はルフィとはぐれないようにしないと……)
考え込むミコトはルフィの声が聞こえていないようだ。
「おい、ミコト!」
『え?』 と視線を上げるミコトにルフィはこっち見たと笑う。
「聞いてんのか? おまえも意外にのんきだな、このピンチに考え事なんて、あ!」
突然、何か閃いたのかルフィは手をポン! と叩いた。
「こんな大渦の場合泳げようが泳げまいが関係ねェか!」
一人納得しているルフィにミコトはニコリと笑って 『うん!』 と頷く。
『でも、やれる事はやろう!』
「何すんだ?」
ミコトは酒樽を 『よいしょ……』 と準備した。
◇◆◇
刻一刻と近づく渦の中心。
小舟は渦の中心に向かって流され、激しく揺れていた。
二人は立ちあがることも出来ない状態だ。
「わ!」
ルフィが小舟に襲いかかる波にのまれそうになる。
『ルフィ!!』
ミコトは自分に伸ばされるルフィの手をしっかりと掴んだ。
そして、引っ張りあげると今だ! と、無理やり酒樽にルフィをギュウギュウ押し込む。
ゴム人間のルフィだからこそ強引に詰め込めるのだろう。
「あーっ! ミコト! なに…す……るんだ……」
『いいから、入って! ルフィ!』
「!!!」
蓋を閉めると、声にならないルフィの声が酒樽の中から聞こえる。
ルフィを無事に? 酒樽に押し込み終わったミコトは額に浮かぶ汗をぬぐい 『よしっ』 と小さく頷く。
渦の中心が目の前に迫っているせいか、轟音が耳に響く。
大きな声で酒樽にむかって叫んだ。
『ルフィ! また、後で会おう! 会えるって信じてるから!』
「…、……?………!!」
(何、言ってるんだ? ミコトはどうするんだ!)
酒樽の中で叫ぶルフィの声は大渦の音と酒樽の中でくぐもり、外にいるミコトには聞こえない。
ミコトは構わず酒樽を海に放つ。
酒樽の中のルフィに向かって大声で叫ぶ。
『私は、大丈夫だから…っ!』
大きな渦の音にミコトの声がかき消され、酒樽は渦にのみこまれていった。
波が小舟を一息に飲みこもうと襲いかかる。
小舟は波に耐えられずに、軋んだ音をたてて裂けていく。
——バキッバキバキバキキ!
直後、小さい破片を飛ばしながら大破する小舟から、ミコトは飛び上がりながら壊れた木の板をつかむ。
足から水飛沫を上げて空高く飛んだ。
まるで、イルカが水飛沫を上げてジャンプしたかのようだ。
白い髪は長く、水と一体化しているように伸びていき、空中でクルリと一回転すると壊れた木片に足を着地させた。
そして、空に水の道を作り旋回しながら、大渦を上から眺めて、その大きさに驚いた。
(大きい……!)
飲みこまれていたら、確実に海の底へと沈んだであろう渦の上空で、ミコトは海をぐるりと見回し、ルフィの酒樽を探した。
『なんとかなったけど……ルフィが見当たらない』
いつまでも海を見下ろしていても仕方ないと、ミコトは穏やかな波へと着水した。
目を閉じて、見聞色の覇気で探る。
(近くに島があるはず)
そう、ルフィは樽の中で潮に揺られ、アルビダの休息地の島の海岸に着くはずだからだ。
ミコトは能力を使い、足から水飛沫をあげて波に乗り、海を走ってルフィを探した。
◇◆◇
一方、ルフィの入る酒樽は大渦を乗り越え、プカプカと波に浮かんでいた。
中にいるルフィは穏やかに揺れる樽の中で、気持ち良く寝ている。
酒樽に羽休みしているカモメはイビキが聞こえて、驚いてクーッと鳴くと海岸の方へ飛んだ。
見えてきた海賊船はMissラブ・ダック号。
アヒルの船首の目も、白い帆も、髑髏の目も赤いハートで、船長を見た者が魅了された姿だ。
カモメは休もうとマストの先に止まろうとして、怒鳴り声が空に響き、翼を羽ばたかせて、逃げて行く。
甲板で叫ぶ声の主は、この辺りの海を縄張りにする女海賊 “金棒” のアルビダ。
ダダンに負けない体格と怪力を持つアルビダは、本人が思っている程、美しい見た目ではないうえに、内面も高圧的で乱暴な女海賊だ。
あえて良い点があるとすれば、綺麗好きなところだが——
「コビー! この海で一番美しいものは何だい?」
アルビダに問われたのは丸い眼鏡をした気弱そうなピンクの髪の少年。
前髪を真ん中で分けるコビーは海軍に入隊するという夢を抱いていたが、運悪く女海賊のアルビダに捕まってしまった。
「え…えへへへ。 もちろん、それはレディー・アルビダ様です! えへへへ」
アルビダの機嫌を窺う自分が嫌だと思っていても、逆らう事も、逃げ出す事も恐ろしくて出来ない。
「そうさ! だからアタシは汚いものが大嫌いなのさ! 美しいアタシが乗る船も美しくなきゃねェ! そうだろう?」
アルビダは整えた細い眉を上げて、正座して怯えるコビーを脅す。
「お前にはどういう訳か、人一倍海の知識があるから、生かしておいてやってんだ」
「は……はい、ありがとうございます」
(それは海兵になる為で……海賊の――)
ぎゅ……と膝に置く手に力が入ったが、アルビダは僅かな反抗心も見逃さない。
ガンガン! とコビーを蹴る。
「それ以外は能がないんだから、とっととクツを磨きな!」
コビーは 「は……はい、すぐに」 と布を手にするが、アルビダはドシドシ歩き、ジッとしていない。
「ホコリ一つ残すんじゃないよ! お前達!」
甲板の掃除をする部下達に命じながら歩くアルビダをコビーは追いかける。
「もういいよ! グズだね、お前は!」
頑張っているだけなのに、アルビダに邪魔扱いされて蹴られ、コビーは謝ってしまう。
「え……えへへへ、す……すみません」
「謝ってるヒマあったら、便所でも掃除してきな!」
「えへへ。 はい、すぐにアルビダ様!」
コビーは駆けだして船を降りると、肩を落としてトボトボ歩く。
毎日怒鳴られるのも卑屈に笑う自分も嫌で仕方ない。
「はぁ……」 と溜息をついて、ふと海岸を見れば、酒樽が漂着していた。
流れ着いたものだろうが、アルビダの休息地にあるものはアルビダのものだ。
拾って、良いモノだったら、今夜の夕食は残飯じゃないかもしれないと考えて、情けなさに溜息がまた出た。
(何してるんだ……ぼくは――)
酒樽を横に倒して、コビーはゴロ……と転がして拠点の酒蔵まで運んだ。
◇◆◇
酒蔵を片付けていた三人の海賊のうちの顎割れのヘッポコにコビーは尋ねた。
「酒樽が海岸に流れて来ただと? 雑用コビー」
「は……はい。 まだ中身も入ってるようなので、どうしたらいいでしょうか?」
他の海賊達にも聞こえたのだろう、嬉しそうに 「そりゃいい! おれ達で飲んじまおう!」 と尖がり顎のペッポコは仲間に声を掛けた。
「しかし、兄弟! もし、お頭にバレたら、おれ達ァ……」
「なァに、バレやしねェよ」 と丸顎のポッポコがバールを持ちながら言うと 「それもそうだな」 とヘッポコが笑う。
「わかってンな、コビー」
「は…はい、もちろん! ぼ…ぼくは何も見てません! えへへへ……!」
逆らわないと両手の平を見せるコビーに、ポッポコはフン! と鼻を鳴らし、樽を開けようと、ギシッ……と蓋の縁にバールを差し込んだところで、しつこくコビーに念を押す。
「言うんじゃねェぞ!」
ギラッと睨みつけて、握り締める拳をコビーは怖れた。
「だ……だから、なぐらないでく……」
言い掛けた瞬間、樽の蓋がバキッ! と割れた。
(え……!?)
酒樽を元気よく割って出て来たのはルフィだ。
窮屈な樽の中から解放され、大声で叫び、両手を上げた。
「あー! よく寝た!」