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“対面”
この出会いは偶然ではない。
奴が意図してやって来た必然の出会い。
俺の人生の選択が奴に変えられた初めての日――
――西地区の路地の奥。
ドフラミンゴは上機嫌だ。
辺りを見回し、目の前のローを見てニィと口端が上がった。
何でもないような空間だが、狙われにくい場所。
囲む建物の壁には窓がなく、陽光が入るのはローの後ろの塀からだが、遮るような一本の木と古井戸がある。
塀の向こうは人通りの多い道で、見張りを立てれば、ローを襲う選択肢は細い路地を抜けるしかない。
選択肢を絞らせ、襲撃者を撃退し、逃走する経路まである。
計算高い少年のずる賢さに嬉しくなってくる。
これで生き抜ける気概もあり、強ければ申し分ないが――どうだろうか?
(やるじゃねェか……フッフフフ)
写真と同じの少年の顔はやはりフードで隠れてよく見えない。
「フフッ……関係なくはねェな? お前がローだな。 俺はお前を見に来たんだ……」
ローは本を閉じて眉間に皺を寄せた。
(俺は見世物小屋の動物じゃねェんだよ!)
「……初対面のあんたに気安く呼ばれたくねェな」
瞬間、不機嫌に答えるローにヴェルゴはこめかみをピクリとさせた。
たかだか十一才の子供にドフラミンゴを “あんた” 呼ばわりされては怒るというものだ。
ドフラミンゴが右手をあげて止めたから何とか我慢したが、礼儀知らずのローを今すぐ殴りたい衝動に拳を強く握りしめて耐えた。
(この……クソガキ!)
怒るヴェルゴと違ってドフラミンゴの機嫌はすこぶる良かった。
普通の子供なら今足元にいる少年の反応が正常だろう。
しかし、見下ろすローは初対面に関わらず落ち着いていているうえに、自分に怯えず機嫌を取らない度胸もあった。
先程、上納金を収めに来た男だって出来ない事だ。
原石を見つけた事に頬が自然に緩む。
「名前ぐらい別にいいだろ?」
途端にローは冗談じゃないと思ったが必死に我慢した。
気に入らないが、相手はこの島を仕切る海賊だからだ。
勝てるわけないし敵にまわすべき人物ではない。
「……ま、いいけどな。何か用かよ?」
「世間話をな……」
ローはハッ!? とさらに眉間の皺を深くした。
こんなスラムの端まで来て自分と話なんて理解出来なかった。
裏に何かあるとしか思えないし、付き合いたくもない。
(するわけねェだろ……)
「出来ねェな。 俺はガキであんたを楽しませてやるような話は無理だ。 他を当たれよ」
「フッフッフッ……」
「何だよ?」
「子供がそんな小難しい思想本は読まねェよ」
ドフラミンゴはローの手にする本の表紙を目にして口端を上げれば、ローは不快とばかりに片眉を上げた。
(目敏い奴だな……。 体はデケェのに面倒な野郎だ)
「拾った本だ。 暇つぶしに読めれば何でもいいんだよ」
ローは仲間に本や新聞の切れ端やら集めさせていた。
この地区で本などないし、ニュースクーなんか飛んでも来ない。
子供だろうが容赦なく上納金を搾取されているから、本など買う金もない。
だから、偶然に拾って手に入れるものを読んでいた。
含み笑いを洩らすドフラミンゴをローは苛々した様子で見つめる。
(……ホントに嫌な笑い方だ。 後ろにいる奴はさっきからずっと睨んでるし……)
「俺を見に来たって言ったよな? もう見て、気も済んだだろ? 帰れよ。 ここはガキだけの場所で大人の来るところじゃねェはずだ」
「フフッ……そうだな。 邪魔したなロー」
「ああ」
(さっさと……帰れ! 二度と来んなっ!)
やたらと大きいピンクの背中を睨んでいたら振り返った。
帰れと念じたのに何故、振り返るのか。
しかも、あの嫌な笑いを浮かべている。
「忘れてた……顔、見せろ」
ローは嫌だと言って断りたかったが出来なかった。
目の前のピンクの大男から有無を言わせない冷たい空気を感じたからだ。
(この野郎……!)
「…………」
木箱から立ち上がるとフードを脱いで顔を見せた。
「これでいいか」
「フフッ……ああ、じゃあな」
ドフラミンゴはサングラスの下の目を嬉しそうに細め、満足そうに口端を上げると、片手を上げて今度こそ去った。
ローは見送り、姿が消えた事に息を吐いた。
今だ腰が抜けて地面に座り込む仲間に手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
「ああ……平気です。 さすが……ですね」
ローとあまり年の変わらない少年は感心したように見たが、ローはその視線を流した。
それよりも気に入りの場所を侵された感じがして苛つき、内心また違う場所を探そうと考えていた。
「……俺は帰る」
「あ、はい」
頷く仲間の肩をローはじゃあな……と軽く叩くと路地へと向かった。
一方、ドフラミンゴは楽しくて仕方がない。
新しく見つけた玩具でどうやって遊ぼうかとウキウキしていた。
短く切った黒髪。
目鼻が通った理知的な顔は小さく、細っこい少年の体にのっていた。
人を殺した事などなさそうに見えるが、この町の子供でそれは有り得ない。
少し目の隈が気になったが、あんな本を読む子供が薬をやるようには見えない。
(暇つぶしに思想本かよ……フフッ)
器用そうな手で持っていた本。
読書が割と好きな自分だって読みたいとは思えない本を読む少年。
ローは黒曜石だ。
砕けば、きっと鋭い刃になる。
飛び散る破片で敵を切り裂いてくれそうだ。
丁寧に磨いて研げば、それは美しく光るだろう。
他者を寄せつけないような強さと輝き。
もう少し、ここで……この町で育つのを見ていよう。
自分の手の内にあるのだ。
時間はたっぷりとある。
「フフ、フッフッ……」
嬉しくて笑いが洩れて止まらない。
ヴェルゴはそんな主に向かって溜息をついた。
「気に入ったようだが……あのガキ、礼儀がなっちゃいない」
「いいじゃねェか、あれぐらい」
「ドフィは優しすぎる」
「そうか? 手下でも何でもねぇんだ。 今はガキだし……許してやれ」
「……今はな」
「お前は……厳しいな」
「当たり前だ」
言い切るヴェルゴはドフラミンゴの最も信用する部下であり相棒だ。
「フフッ……まあ、そん時が来たら……お前に任せる」
「ああ、躾けるのは得意だ」
何やら楽しげに口端を上げるヴェルゴに、ドフラミンゴは嫌な予感がして釘を刺す。
「……壊すなよ」
「努力しよう」
「使えなくしたら承知しねェぞ……」
本気で警告するドフラミンゴにヴェルゴは察して真剣な顔で頷いた。
「……分かった」
「ならいい……」
ドフラミンゴはその様子に納得すると、楽しみだ……と呟いた。
そしてヴェルゴを振り返る。
「今日で、しばらくお前とも会えなくなるな」
「ああ……夕方には出航して、明日には海軍だ」
「頼んだぞ」
「任せてくれ」
口端で薄く微笑するヴェルゴにドフラミンゴもまた微笑した。
――この時の俺はまだ何も知らなかった。
奴らと関わっていく事なんて……。
この日を境に奴は時々、俺の迷惑も考えずにやってきた。
来るたびに土産だといって、いらないと言っても勝手に本を置いていく強引な奴だった。
この出会いは偶然ではない。
奴が意図してやって来た必然の出会い。
俺の人生の選択が奴に変えられた初めての日――
◇◆◇
――西地区の路地の奥。
ドフラミンゴは上機嫌だ。
辺りを見回し、目の前のローを見てニィと口端が上がった。
何でもないような空間だが、狙われにくい場所。
囲む建物の壁には窓がなく、陽光が入るのはローの後ろの塀からだが、遮るような一本の木と古井戸がある。
塀の向こうは人通りの多い道で、見張りを立てれば、ローを襲う選択肢は細い路地を抜けるしかない。
選択肢を絞らせ、襲撃者を撃退し、逃走する経路まである。
計算高い少年のずる賢さに嬉しくなってくる。
これで生き抜ける気概もあり、強ければ申し分ないが――どうだろうか?
(やるじゃねェか……フッフフフ)
写真と同じの少年の顔はやはりフードで隠れてよく見えない。
「フフッ……関係なくはねェな? お前がローだな。 俺はお前を見に来たんだ……」
ローは本を閉じて眉間に皺を寄せた。
(俺は見世物小屋の動物じゃねェんだよ!)
「……初対面のあんたに気安く呼ばれたくねェな」
瞬間、不機嫌に答えるローにヴェルゴはこめかみをピクリとさせた。
たかだか十一才の子供にドフラミンゴを “あんた” 呼ばわりされては怒るというものだ。
ドフラミンゴが右手をあげて止めたから何とか我慢したが、礼儀知らずのローを今すぐ殴りたい衝動に拳を強く握りしめて耐えた。
(この……クソガキ!)
怒るヴェルゴと違ってドフラミンゴの機嫌はすこぶる良かった。
普通の子供なら今足元にいる少年の反応が正常だろう。
しかし、見下ろすローは初対面に関わらず落ち着いていているうえに、自分に怯えず機嫌を取らない度胸もあった。
先程、上納金を収めに来た男だって出来ない事だ。
原石を見つけた事に頬が自然に緩む。
「名前ぐらい別にいいだろ?」
途端にローは冗談じゃないと思ったが必死に我慢した。
気に入らないが、相手はこの島を仕切る海賊だからだ。
勝てるわけないし敵にまわすべき人物ではない。
「……ま、いいけどな。何か用かよ?」
「世間話をな……」
ローはハッ!? とさらに眉間の皺を深くした。
こんなスラムの端まで来て自分と話なんて理解出来なかった。
裏に何かあるとしか思えないし、付き合いたくもない。
(するわけねェだろ……)
「出来ねェな。 俺はガキであんたを楽しませてやるような話は無理だ。 他を当たれよ」
「フッフッフッ……」
「何だよ?」
「子供がそんな小難しい思想本は読まねェよ」
ドフラミンゴはローの手にする本の表紙を目にして口端を上げれば、ローは不快とばかりに片眉を上げた。
(目敏い奴だな……。 体はデケェのに面倒な野郎だ)
「拾った本だ。 暇つぶしに読めれば何でもいいんだよ」
ローは仲間に本や新聞の切れ端やら集めさせていた。
この地区で本などないし、ニュースクーなんか飛んでも来ない。
子供だろうが容赦なく上納金を搾取されているから、本など買う金もない。
だから、偶然に拾って手に入れるものを読んでいた。
含み笑いを洩らすドフラミンゴをローは苛々した様子で見つめる。
(……ホントに嫌な笑い方だ。 後ろにいる奴はさっきからずっと睨んでるし……)
「俺を見に来たって言ったよな? もう見て、気も済んだだろ? 帰れよ。 ここはガキだけの場所で大人の来るところじゃねェはずだ」
「フフッ……そうだな。 邪魔したなロー」
「ああ」
(さっさと……帰れ! 二度と来んなっ!)
やたらと大きいピンクの背中を睨んでいたら振り返った。
帰れと念じたのに何故、振り返るのか。
しかも、あの嫌な笑いを浮かべている。
「忘れてた……顔、見せろ」
ローは嫌だと言って断りたかったが出来なかった。
目の前のピンクの大男から有無を言わせない冷たい空気を感じたからだ。
(この野郎……!)
「…………」
木箱から立ち上がるとフードを脱いで顔を見せた。
「これでいいか」
「フフッ……ああ、じゃあな」
ドフラミンゴはサングラスの下の目を嬉しそうに細め、満足そうに口端を上げると、片手を上げて今度こそ去った。
ローは見送り、姿が消えた事に息を吐いた。
今だ腰が抜けて地面に座り込む仲間に手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
「ああ……平気です。 さすが……ですね」
ローとあまり年の変わらない少年は感心したように見たが、ローはその視線を流した。
それよりも気に入りの場所を侵された感じがして苛つき、内心また違う場所を探そうと考えていた。
「……俺は帰る」
「あ、はい」
頷く仲間の肩をローはじゃあな……と軽く叩くと路地へと向かった。
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一方、ドフラミンゴは楽しくて仕方がない。
新しく見つけた玩具でどうやって遊ぼうかとウキウキしていた。
短く切った黒髪。
目鼻が通った理知的な顔は小さく、細っこい少年の体にのっていた。
人を殺した事などなさそうに見えるが、この町の子供でそれは有り得ない。
少し目の隈が気になったが、あんな本を読む子供が薬をやるようには見えない。
(暇つぶしに思想本かよ……フフッ)
器用そうな手で持っていた本。
読書が割と好きな自分だって読みたいとは思えない本を読む少年。
ローは黒曜石だ。
砕けば、きっと鋭い刃になる。
飛び散る破片で敵を切り裂いてくれそうだ。
丁寧に磨いて研げば、それは美しく光るだろう。
他者を寄せつけないような強さと輝き。
もう少し、ここで……この町で育つのを見ていよう。
自分の手の内にあるのだ。
時間はたっぷりとある。
「フフ、フッフッ……」
嬉しくて笑いが洩れて止まらない。
ヴェルゴはそんな主に向かって溜息をついた。
「気に入ったようだが……あのガキ、礼儀がなっちゃいない」
「いいじゃねェか、あれぐらい」
「ドフィは優しすぎる」
「そうか? 手下でも何でもねぇんだ。 今はガキだし……許してやれ」
「……今はな」
「お前は……厳しいな」
「当たり前だ」
言い切るヴェルゴはドフラミンゴの最も信用する部下であり相棒だ。
「フフッ……まあ、そん時が来たら……お前に任せる」
「ああ、躾けるのは得意だ」
何やら楽しげに口端を上げるヴェルゴに、ドフラミンゴは嫌な予感がして釘を刺す。
「……壊すなよ」
「努力しよう」
「使えなくしたら承知しねェぞ……」
本気で警告するドフラミンゴにヴェルゴは察して真剣な顔で頷いた。
「……分かった」
「ならいい……」
ドフラミンゴはその様子に納得すると、楽しみだ……と呟いた。
そしてヴェルゴを振り返る。
「今日で、しばらくお前とも会えなくなるな」
「ああ……夕方には出航して、明日には海軍だ」
「頼んだぞ」
「任せてくれ」
口端で薄く微笑するヴェルゴにドフラミンゴもまた微笑した。
◇◆◇
――この時の俺はまだ何も知らなかった。
奴らと関わっていく事なんて……。
この日を境に奴は時々、俺の迷惑も考えずにやってきた。
来るたびに土産だといって、いらないと言っても勝手に本を置いていく強引な奴だった。