Black Rose
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
本当に奴が通うだけの家。
各部屋はやたらと広いが部屋は少ない。
窓が大きく、どの部屋からも薔薇の庭が見えたし出れるようになっていた。
色々な種類の薔薇が植えられ競うように咲く。
美しい花に囲まれた家は何かの物語に出てきそうな雰囲気だった。
居間に戻って来て庭を眺めていれば娘がおれに話し掛けてきた。
『薔薇は母が好きだったの』
儚く微笑する娘におれは一瞬見入った。
『お父さんと仲よく散歩してたんだよ。 私も小さい頃はかくれんぼとかして遊んだりしたの』
お父さんねェ……奴には似合わねェ。
おまけにこの薔薇の庭を散歩……しかも、かくれんぼって……。
どこに隠れんだよ?
あのデカイ体で。
思わず相槌すらしないで薔薇を見てしまう。
クスクスと笑い声を娘はあげた。
何だよ……と見れば、すぐに謝られた。
『ごめんなさい……笑って。 思い出しちゃって……お父さんは大きいでしょ? だから、私がいつも隠れる方だったの』
納得……したが、あの姿で子供と遊ぶところなんて想像つかねェ。
だから、つい聞いてしまった。
「ドフラミンゴが好きなのか?」
『もちろん! 大好きなお父さんだもの』
満面の笑みで返された。
「想像つかねェな、父親っぷりが……」
『そう? とても優しいよ。 私達に怒ったことなんてないし、いつもお母さんに甘えてた』
何だそれ……信じられねェ。
「お前は奴が――」
『海賊でしょ? 新聞で読むし、お父さんもいろいろと仕事の話をしたりするから……どんな事をやってるのかも知ってる。世間の人がどう思おうとも、私はお父さんを愛してるし愛されてるの』
自信満々で語る娘は奴には全く似てなくても、血の繋がりか……奴の陰が見えた気がしてムカついた。
だから、傷つけたくなって言わなくてもいい意地悪をしたくなった。
「……他に女がいてもか?」
娘が驚く事を期待したが逆にこっちが黙らされた。
当然と言わんばかりに余裕の笑み。
『愛人の事なら知ってるわ。 お父さんはお母さんに隠し事しない。だから……いつも仕方ないわねって微笑して聞いてたし、私も知ってる。どこに、どんな人がいるのかも……あなたは知ってるみたいだし言う?』
逆に問われた事に本当に全部知ってんのかと疑う。
知っててよく平気で笑っていられるな。
訝し気に見ていれば女は真っすぐな目で告げた。
『私を何だと思ってるの? 海賊のドンキホーテ・ドフラミンゴの娘よ。 それぐらい気にならないわ』
平然と言い切る女の微笑は曇りがなく妙に納得させられた。
確かに奴の娘だ……。
奴とは似ついても似つかない柔らかい笑みの下に、奴と同じ底知れないものを感じた。
この島に来てから一週間経っていた。
とくに何もなく静かで平和だった。
娘の一日は決まっていて、午前中は庭の薔薇の手入れ。
昼飯の後にピアノを弾いたり読書をしたり……あとは時折昼寝をして過ごす。
それから執事を相手に体を鍛えて風呂に入って、食事して寝る。
規則正しい変わらない毎日に俺はいなくてもいいんじゃねェのかと思った。
娘と執事の鍛錬はかなりの手練れだと感じた。
一通りの武器を操り、無駄のない美しい動きには悔しいが見惚れた。
一緒にやるかと誘われ、執事と手合せする事になり、ここでの俺の日課にもなった。
運動不足も勘が鈍るのも嫌だったからな――が、娘が相手になる事は断った。
うっかり本気になって怪我させたりしたら面倒だからだ。
断る俺に娘は当たり前だよね……と笑った。
結局、俺はこの家にいる間は居間での読書三昧と執事との鍛錬、食事だけだった。
いちおう、ボディガードという仕事でもあるから、どの部屋にも通じる居間で寝泊まりした。
客室もねェ家だから奴の寝室を使ってもいいと言われたが、こっちが使いたくねェ。
それから一日一回、電伝虫で船で待つクルー達と連絡を取り合う。
とくに変わった事もないようだが、早いとこ戻りたいと思った。
娘の生活の世話は執事がしてるし、こんな島に誰も襲ってくるわけねェ。
かりに襲われても娘と執事は十分に戦えそうな腕を持っていた。
何で俺がこんな所に居なきゃいけねェんだ。
ムカツクが仕方ないと奴が帰ってくるまでと諦めた。
ただ、二人は俺を使ったりしないし、邪魔するわけでもないのが救いだった。
俺も用もないから必要以上に干渉しない。
食事の時やたまにすれ違う時に顔を合わせる。
挨拶と読んだ本や航海の話をしたりとたあいもない短い会話。
聞くのも話すのも娘は奴に似て頭がいいのか不快じゃない。
時々、笑う声も癪な事に可愛いし鬱陶しくもない。
娘の母親は死んでいないから会う事もないが、この娘はおそらく似ているらしいから……奴が気に入る理由がなんとなく分かった。
慣れ合うわけでもないし、気を遣うこともない雰囲気は楽だった。
たまにはこんなのも悪くないと思わせる……なんだかやたらと居心地のいい家だ。
夕食を一緒に食ってれば、娘が嬉しそうに急に席を立った。
すぐに玄関の方に駆けだした事に何事かと思った。
ここに来てそんな行動をした事ないから驚いたが、執事が微笑を湛えてゆっくり後をついていく様子に奴が戻って来たと分かった。
奴を迎えになど行きたくもないが、仕方ないから俺も続いた。
ドアベルのカラン……と鳴る音と共に扉が開いた。
嬉しそうに、おかえりなさい! という娘の可愛らしい声。
「フフッ……いい子にしてたか?」
尋ねる声に娘は微笑みを返して奴に抱きついていた。
大事にといっていいぐらい奴は娘をピンクの羽の中に包みこむ。
奴は口端で笑うと何やら娘の耳元で囁いていた。
その様子にどうでもいいこの仕事も終わったと思った。
黙って見ている俺に奴はニヤリと俺の嫌いな笑みを浮かべる。
「ご苦労だったな……ロー」
「なんもしてねェよ。 いなくても良かったんじゃねェのか……」
「フッフフフ……そう言うな。 おれは●●をお前に会わせたかったからな」
な、何だその話は!?
聞いてねェぞ……そんな話っ!
驚くおれを無視して奴は娘に聞いている。
「どうだった? こいつは?」
『……とくに何も。 邪魔じゃなかったよ?』
「そうか……。 フフッ……ならいい」
何がいいんだ!?
意味が分からいと見る俺に、奴はとんでもない事を告げた。
「ロー、●●をこのままお前の船に乗せてけ」
「断る」
「嫌か?」
「ああ」
そんなの嫌に決まっている。
お前の娘を乗せて何のメリットがあるんだ。
こっちはそろそろお前とは縁を切りてェんだよ。
お前だって、そんな事とっくに気付いているはずだ。
お前ら親子のお遊びに付き合う気は俺にはねェ。
はっきり断る俺に奴は含み笑いを響かせた。
「フフッ、フッフッフッ……やっぱ、お前はいいよ……ロー」
俺はお前に気に入られたくはねェ。
露骨に眉をひそめて奴を見てもあの気に入らない笑みは変わらない。
「命令だ。 ●●を乗せろ」
有無を言わせない強い口調は反抗する事など許さないものだ。
クソッ! 冗談じゃねェ。
顔を顰めて答えない俺を奴は見て笑う――逆らうのか? と奴の手が上がり指が動いたが止まった。
奴の顔は娘を見ていた。
「……何だ?」
『分かってるはずだけど……お父さん?』
微笑する娘が奴の手をやんわりと包む。
「そうだな……止めてやるよ」
スッと下ろされる手を俺は見ていると娘が口を開いた。
『何で……彼の船に私を乗せようとするの?』
「この島にしかいねェお前だ。 奴は腕もたつし、海を……世間を知るのにいい機会だろ?」
『私は別に知りたくない。 それより、お父さんの側に、これからはずっといたいの』
「●●……」
娘の言葉に奴は微かに眉を寄せたが娘は構わず話す。
『……愛人や女遊びの事でも気にしてるの? 今さらでしょ?
仕事にしてもそうだし……何が嫌で一緒に暮らすのを嫌がるのか分かないわ。 それとも、お母さんや私にも言ってない事でもあるの?』
誰かに詰問される奴など初めてで、貴重だな……と見ていた。
「そんなのはねェな」
『なら、いいでしょ?』
「…………」
黙り込んだ奴。
どうやら娘と暮らしたくなくて、俺に押しつける気だったのか……。
『一緒に暮らしていいよね? ……お父さん』
娘は奴に念を押すように平気で言うあたり、やはり親子だと俺は思った。
答えない奴に呆れたように見つめる娘はとうとう奴にとんでもない言葉を投げつけた。
奴にそんな事言えるのはこの娘ぐらいだろう。
『往生際が悪い。 一緒に暮らす話はついてたでしょ!? 嫌がってもついて行くから……。決まってた事なんだから……いい加減にしないと、二度と会わないし話してやらない!』
おい……そんな脅しが奴に通じんのかよと思うが通じるらしい。
奴が分かった……と渋々頷いたのを見て、さすが娘だなと妙に感心した。
娘はおれの方を見て微笑する。
『安心して? 私があなたの船に乗る事はないから』
「ああ」
『そうだ……お父さん』
「何だ?」
『ついでに……彼を自由にして』
何を言い出すのかと俺は娘を見た。
ついでで話す事なのかそれは……。
『彼は……お父さんの傘下にはもういたくないみたいだし、そんな人間を部下に縛り付けておく必要はないでしょ』
娘は本当に奴の仕事や付き合いを知っているという事が分かった。
『これ以上……嫌がるこの人を側におく意味がないわ』
娘が奴を説得出来るなら俺にはこのうえなく運が良い事だ。
これを最後にこのまま傘下から抜けたい……。
黙る奴は娘を見つめてから、溜息をついて俺を見た。
「この島から出たら……好きにしろ」
「ああ、好きにさせてもらう」
いとも簡単に傘下から抜けれた事に俺は嬉しかった。
今すぐにでも船に戻り酒を飲みてェ。
娘に礼を言いたい気分になったが、すぐに気の迷いだと思い直した。
微笑む女はやはり奴の娘だと思い知ったからだ。
『貸し一つ……』
その呟く声も微笑も可愛らしくもないし清らかでも何でもなかった。
とんでもない大きな貸し。
眉間に深く皺が寄り、耳にはしてやったりの奴の笑いが聞こえた。
「フッフッフッ……さすが俺の娘」
頭にくる親子だ。
俺が抜けたい事など百も承知のうえでの策略としか思えねェ。
最後にとんでもねェもんを取り付けやがって。
……まあ、いい。
いつまでも傘下にいるよりは貸し一つぐらい受けてやるよ。
娘と奴の微笑は黒薔薇に似ていた――
俺はこの時点で奴の傘下を離れたが娘と繋がりを持った。
黒薔薇の花言葉:貴方はあくまで私のもの
各部屋はやたらと広いが部屋は少ない。
窓が大きく、どの部屋からも薔薇の庭が見えたし出れるようになっていた。
色々な種類の薔薇が植えられ競うように咲く。
美しい花に囲まれた家は何かの物語に出てきそうな雰囲気だった。
居間に戻って来て庭を眺めていれば娘がおれに話し掛けてきた。
『薔薇は母が好きだったの』
儚く微笑する娘におれは一瞬見入った。
『お父さんと仲よく散歩してたんだよ。 私も小さい頃はかくれんぼとかして遊んだりしたの』
お父さんねェ……奴には似合わねェ。
おまけにこの薔薇の庭を散歩……しかも、かくれんぼって……。
どこに隠れんだよ?
あのデカイ体で。
思わず相槌すらしないで薔薇を見てしまう。
クスクスと笑い声を娘はあげた。
何だよ……と見れば、すぐに謝られた。
『ごめんなさい……笑って。 思い出しちゃって……お父さんは大きいでしょ? だから、私がいつも隠れる方だったの』
納得……したが、あの姿で子供と遊ぶところなんて想像つかねェ。
だから、つい聞いてしまった。
「ドフラミンゴが好きなのか?」
『もちろん! 大好きなお父さんだもの』
満面の笑みで返された。
「想像つかねェな、父親っぷりが……」
『そう? とても優しいよ。 私達に怒ったことなんてないし、いつもお母さんに甘えてた』
何だそれ……信じられねェ。
「お前は奴が――」
『海賊でしょ? 新聞で読むし、お父さんもいろいろと仕事の話をしたりするから……どんな事をやってるのかも知ってる。世間の人がどう思おうとも、私はお父さんを愛してるし愛されてるの』
自信満々で語る娘は奴には全く似てなくても、血の繋がりか……奴の陰が見えた気がしてムカついた。
だから、傷つけたくなって言わなくてもいい意地悪をしたくなった。
「……他に女がいてもか?」
娘が驚く事を期待したが逆にこっちが黙らされた。
当然と言わんばかりに余裕の笑み。
『愛人の事なら知ってるわ。 お父さんはお母さんに隠し事しない。だから……いつも仕方ないわねって微笑して聞いてたし、私も知ってる。どこに、どんな人がいるのかも……あなたは知ってるみたいだし言う?』
逆に問われた事に本当に全部知ってんのかと疑う。
知っててよく平気で笑っていられるな。
訝し気に見ていれば女は真っすぐな目で告げた。
『私を何だと思ってるの? 海賊のドンキホーテ・ドフラミンゴの娘よ。 それぐらい気にならないわ』
平然と言い切る女の微笑は曇りがなく妙に納得させられた。
確かに奴の娘だ……。
奴とは似ついても似つかない柔らかい笑みの下に、奴と同じ底知れないものを感じた。
この島に来てから一週間経っていた。
とくに何もなく静かで平和だった。
娘の一日は決まっていて、午前中は庭の薔薇の手入れ。
昼飯の後にピアノを弾いたり読書をしたり……あとは時折昼寝をして過ごす。
それから執事を相手に体を鍛えて風呂に入って、食事して寝る。
規則正しい変わらない毎日に俺はいなくてもいいんじゃねェのかと思った。
娘と執事の鍛錬はかなりの手練れだと感じた。
一通りの武器を操り、無駄のない美しい動きには悔しいが見惚れた。
一緒にやるかと誘われ、執事と手合せする事になり、ここでの俺の日課にもなった。
運動不足も勘が鈍るのも嫌だったからな――が、娘が相手になる事は断った。
うっかり本気になって怪我させたりしたら面倒だからだ。
断る俺に娘は当たり前だよね……と笑った。
結局、俺はこの家にいる間は居間での読書三昧と執事との鍛錬、食事だけだった。
いちおう、ボディガードという仕事でもあるから、どの部屋にも通じる居間で寝泊まりした。
客室もねェ家だから奴の寝室を使ってもいいと言われたが、こっちが使いたくねェ。
それから一日一回、電伝虫で船で待つクルー達と連絡を取り合う。
とくに変わった事もないようだが、早いとこ戻りたいと思った。
娘の生活の世話は執事がしてるし、こんな島に誰も襲ってくるわけねェ。
かりに襲われても娘と執事は十分に戦えそうな腕を持っていた。
何で俺がこんな所に居なきゃいけねェんだ。
ムカツクが仕方ないと奴が帰ってくるまでと諦めた。
ただ、二人は俺を使ったりしないし、邪魔するわけでもないのが救いだった。
俺も用もないから必要以上に干渉しない。
食事の時やたまにすれ違う時に顔を合わせる。
挨拶と読んだ本や航海の話をしたりとたあいもない短い会話。
聞くのも話すのも娘は奴に似て頭がいいのか不快じゃない。
時々、笑う声も癪な事に可愛いし鬱陶しくもない。
娘の母親は死んでいないから会う事もないが、この娘はおそらく似ているらしいから……奴が気に入る理由がなんとなく分かった。
慣れ合うわけでもないし、気を遣うこともない雰囲気は楽だった。
たまにはこんなのも悪くないと思わせる……なんだかやたらと居心地のいい家だ。
夕食を一緒に食ってれば、娘が嬉しそうに急に席を立った。
すぐに玄関の方に駆けだした事に何事かと思った。
ここに来てそんな行動をした事ないから驚いたが、執事が微笑を湛えてゆっくり後をついていく様子に奴が戻って来たと分かった。
奴を迎えになど行きたくもないが、仕方ないから俺も続いた。
ドアベルのカラン……と鳴る音と共に扉が開いた。
嬉しそうに、おかえりなさい! という娘の可愛らしい声。
「フフッ……いい子にしてたか?」
尋ねる声に娘は微笑みを返して奴に抱きついていた。
大事にといっていいぐらい奴は娘をピンクの羽の中に包みこむ。
奴は口端で笑うと何やら娘の耳元で囁いていた。
その様子にどうでもいいこの仕事も終わったと思った。
黙って見ている俺に奴はニヤリと俺の嫌いな笑みを浮かべる。
「ご苦労だったな……ロー」
「なんもしてねェよ。 いなくても良かったんじゃねェのか……」
「フッフフフ……そう言うな。 おれは●●をお前に会わせたかったからな」
な、何だその話は!?
聞いてねェぞ……そんな話っ!
驚くおれを無視して奴は娘に聞いている。
「どうだった? こいつは?」
『……とくに何も。 邪魔じゃなかったよ?』
「そうか……。 フフッ……ならいい」
何がいいんだ!?
意味が分からいと見る俺に、奴はとんでもない事を告げた。
「ロー、●●をこのままお前の船に乗せてけ」
「断る」
「嫌か?」
「ああ」
そんなの嫌に決まっている。
お前の娘を乗せて何のメリットがあるんだ。
こっちはそろそろお前とは縁を切りてェんだよ。
お前だって、そんな事とっくに気付いているはずだ。
お前ら親子のお遊びに付き合う気は俺にはねェ。
はっきり断る俺に奴は含み笑いを響かせた。
「フフッ、フッフッフッ……やっぱ、お前はいいよ……ロー」
俺はお前に気に入られたくはねェ。
露骨に眉をひそめて奴を見てもあの気に入らない笑みは変わらない。
「命令だ。 ●●を乗せろ」
有無を言わせない強い口調は反抗する事など許さないものだ。
クソッ! 冗談じゃねェ。
顔を顰めて答えない俺を奴は見て笑う――逆らうのか? と奴の手が上がり指が動いたが止まった。
奴の顔は娘を見ていた。
「……何だ?」
『分かってるはずだけど……お父さん?』
微笑する娘が奴の手をやんわりと包む。
「そうだな……止めてやるよ」
スッと下ろされる手を俺は見ていると娘が口を開いた。
『何で……彼の船に私を乗せようとするの?』
「この島にしかいねェお前だ。 奴は腕もたつし、海を……世間を知るのにいい機会だろ?」
『私は別に知りたくない。 それより、お父さんの側に、これからはずっといたいの』
「●●……」
娘の言葉に奴は微かに眉を寄せたが娘は構わず話す。
『……愛人や女遊びの事でも気にしてるの? 今さらでしょ?
仕事にしてもそうだし……何が嫌で一緒に暮らすのを嫌がるのか分かないわ。 それとも、お母さんや私にも言ってない事でもあるの?』
誰かに詰問される奴など初めてで、貴重だな……と見ていた。
「そんなのはねェな」
『なら、いいでしょ?』
「…………」
黙り込んだ奴。
どうやら娘と暮らしたくなくて、俺に押しつける気だったのか……。
『一緒に暮らしていいよね? ……お父さん』
娘は奴に念を押すように平気で言うあたり、やはり親子だと俺は思った。
答えない奴に呆れたように見つめる娘はとうとう奴にとんでもない言葉を投げつけた。
奴にそんな事言えるのはこの娘ぐらいだろう。
『往生際が悪い。 一緒に暮らす話はついてたでしょ!? 嫌がってもついて行くから……。決まってた事なんだから……いい加減にしないと、二度と会わないし話してやらない!』
おい……そんな脅しが奴に通じんのかよと思うが通じるらしい。
奴が分かった……と渋々頷いたのを見て、さすが娘だなと妙に感心した。
娘はおれの方を見て微笑する。
『安心して? 私があなたの船に乗る事はないから』
「ああ」
『そうだ……お父さん』
「何だ?」
『ついでに……彼を自由にして』
何を言い出すのかと俺は娘を見た。
ついでで話す事なのかそれは……。
『彼は……お父さんの傘下にはもういたくないみたいだし、そんな人間を部下に縛り付けておく必要はないでしょ』
娘は本当に奴の仕事や付き合いを知っているという事が分かった。
『これ以上……嫌がるこの人を側におく意味がないわ』
娘が奴を説得出来るなら俺にはこのうえなく運が良い事だ。
これを最後にこのまま傘下から抜けたい……。
黙る奴は娘を見つめてから、溜息をついて俺を見た。
「この島から出たら……好きにしろ」
「ああ、好きにさせてもらう」
いとも簡単に傘下から抜けれた事に俺は嬉しかった。
今すぐにでも船に戻り酒を飲みてェ。
娘に礼を言いたい気分になったが、すぐに気の迷いだと思い直した。
微笑む女はやはり奴の娘だと思い知ったからだ。
『貸し一つ……』
その呟く声も微笑も可愛らしくもないし清らかでも何でもなかった。
とんでもない大きな貸し。
眉間に深く皺が寄り、耳にはしてやったりの奴の笑いが聞こえた。
「フッフッフッ……さすが俺の娘」
頭にくる親子だ。
俺が抜けたい事など百も承知のうえでの策略としか思えねェ。
最後にとんでもねェもんを取り付けやがって。
……まあ、いい。
いつまでも傘下にいるよりは貸し一つぐらい受けてやるよ。
娘と奴の微笑は黒薔薇に似ていた――
俺はこの時点で奴の傘下を離れたが娘と繋がりを持った。
おしまい。
黒薔薇の花言葉:貴方はあくまで私のもの