逃げる彼女
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“逃げる彼女”
その日のハートの海賊団は酒場で宴。
賑やかな仲間の声と、場を盛り上げる女達の声で溢れてる。
店には座り心地の良さそうなソファがあって、ハートの海賊団の船長がとびきりの美人を隣に置いてご機嫌で飲んでいた。
私は離れた位置で、その様子を仲間に気付かれないように、時折盗み見ては嫌な気分に心が沈んだ。
ふと隈の濃い瞳と目が合うと、見せびらかすように指先で戯れに女に触れる。
私じゃない別の女の白い肌。
見たくないと目を逸らせば、女のクスクスと楽しそうな声が耳に入る。
店は騒がしいし、離れていて聞こえるはずなんかないのに。
何で……。
眉をひそめる私の気持ちを知っているであろう男は口端だけを意地悪く上げる。
好きと互いに思いを伝えたわけでもないし、確かに付き合ってなどいない。
それでも、求められて体を重ねて許したのは好きだからだ。
でなきゃ、船長だろうが抱かれたりなんかしない。
初めて抱かれている最中に、船長じゃなくて名前で呼べと言われた。
その日その時から私はローと船長を使い分ける事になった。
それからというもの、朝が来る前にローの部屋から逃げるように出て行くという日々が続いている。
ベッドを共にした後に顔を合わせるのが恥ずかしくもあるし、怖くて一緒にいれなかったから。
朝をローと迎える事はない。
ローの遊びだろうが本気だろうが、私には現実を受け止められるだけの心の強さはない。
どうして求めてくれるのか知りたくもあったし、知りたくもなかった。
時々、ローは何かを言い掛けていたけど、私は誤魔化すように遮ると甘えて抱かれた。
今まで、ローが立ち寄る島や町で、女と遊ぶ事に私は嫉妬する事はなかった。
……というより嫉妬したくなくて見ないようにしていた。
その時点で嫉妬してるのに……何してるんだろう。
分かっていても、どうにも出来ない私。
情けなさで、溜息が出る。
自分の嫌な心もローの本心からも逃げている。
仲間達が島で飲むといっても付き合う事をずっと避けてる。
見なければ気にする必要もないし、自分の中の暗くて醜い感情から逃げられるから。
本当に呆れる……でも、どうにもならない。
後悔するものの一歩が踏み出せない。
そんな何も出来ない私は今日ここにいる。
ずっと飲みに行く事を断っていた私に、仲間達がたまには一緒に行こう! と誘われたのがきっかけだった。
船に残ると頑なに断っていると、その場を通りかかったローが命令した。
「付き合え」
その絶対的な一言で私はいたくもない場所にいることになった。
そして、見たくもないものを見せられていた。
目の前で見せつけられるものには我慢ならない。
ローは隠してしまい込んでいる私の心を暴こうとしている。
何で、そんな事をするの?
手にするグラスの琥珀色は少しも美味しく感じられない。
仲間との会話も楽しくもないし、苦痛でしかない。
嫉妬する自分を気付かれたくなくて、作り笑いするのが辛い。
嫌だ……こんなの。
この場所にいたくない。
滲み出そうな涙を堪えようと目を閉じた。
「●●、どうしたの? 気分が悪い?」
窺うベポの優しい声。
気分が悪いといえば最悪に悪い……けど、優しい言葉をくれるベポを心配させたくなかった。
残り僅かな気力を振り絞って笑う。
そして、ここから逃げようと決めた。
『大丈夫……でも、いつもより少し酔いが早いかも。 だから、船に戻るね……』
言い終えて席を立つ私は見なければいいのにローと女の姿を見てしまう。
女がローに甘えてしだれかかる様に心臓を握られたような痛さが走る。
これからあの二人は……と嫌でも想像させられる。
顎を上げる女がキスをねだり、ローはニヤリと口端を上げて女に口付ける。
その様子に仲間達の騒がしくも沸き立つ声。
もう、見たくないし、何も聞きたくない。
目も耳も塞ぎたいのに、私の体は言うことをきかない。
飛び込んでくる状況に動けなくなる。
うっとりと目を閉じる女とキスを交わすローの目は私を見ている。
何でそんなものを私に見せるの?
揺れる女の細い体から甘ったるい吐息が洩れた。
逸らす事の出来ない私の心をローは揺さぶる。
知らずに唇は震えた。
見開かれた目が濡れるのを感じた瞬間、ローは女から離れた。
私から視線を外さないローの唇は紅く濡れていた。
いつもの不敵に上がる口端ではない引き結ばれた口元は私に何をさせたいのか分からない。
とにかくここから抜けて逃げ出したい。
後ずさる足はどこに逃げたらいいのか分からない。
「●●……」
ベポの声は私の異変に気付いて、さっきよりも心配しているものだった。
「おれも一緒に戻ろうか?」
優しい……。
ベポの純粋な優しさは今の私に堪えた。
すぐにでも甘えて抱きついて泣き叫びたくなる。
だから、我慢して笑う。
『ううん、平気。 一人で戻れるよ』
「本当に?」
尋ねるベポになんとか頷く私、でも失敗していたみたいだ。
「でも……●●、泣いてるよ。 放っておけないよ」
そんな事ないと言おうとして泣いている事に気付いた。
頬を伝う濡れる感触は涙だ。
『!?』
「分からなかったの? そんなに気分が悪いなら、無理しなくていいんだよ」
無理……。
そうだ、我慢しなくていい。
見たくないものは見なくていいし、知らなくていい。
ここにいつまでもいたくない。
『……ベポ、帰りたい』
「分かった。 行こっか」
『うん……』
ベポの温かい手は私の背中を押してくれる。
ここから出れると安心して、忘れていた息をゆっくり吸って吐いた。
胸に浸み込む酸素でいっぱいにして心を落ち着かせる。
あれはいつもの事なんだから気にしちゃいけない。
一歩進んだところで、ローの声に引き止められた。
「どうした?」
「●●が気分悪いみたいだから、先に戻るんだよ」
ベポが俯く私の代わりに答えてくれる。
「ふーん……」 と相槌をうつローが私を見ている。
視線を向けられているのが嫌で、ベポの腕に掴まり逃げるように顔を隠した。
「ほら、キャプテン。 ●●はもう帰りたいみたいだから行くね」
途端に仲間達から気をつけて帰れよ! とか、ゆっくり休め! とか声を掛けられた。
誰にも私の心に気付いていない事にホッとした。
ベポが 「じゃあ、行こ――」 と言いかけた直後、ローが遮った。
「待て」
「キャプテン?」
「具合が悪ィなら、俺が診てから帰れ」
「だって、●●。 キャプテンに診てもらったらいいよ」
そんなの嫌に決まってる。
ローの女との痴態を見たくないから帰りたいし、ここに長く居たくない。
首を横に振る私にベポは困ったな~と頭を掻いた。
「診てもらった方が俺も安心だし、●●も楽になるよ?」
ベポの善意は素直すぎて困ってしまう。
『……早く帰りたいの』
「でも、●●……あ!?」
私を説得しようとするベポの声が止まった。
何? と思って顔を上げればローが女をどかして、こっちに歩いて来る。
どかされた女にソファから睨まれた。
……嫌だ。
これではまるで私が嫉妬して邪魔をしているみたいだ。
何でローは私を放っておいてくれないの。
動けないで突っ立ている私の顎をローは支えて無理に上げる。
その指はついさっき別の女に触れていた。
よく知る目の前の体からは女の香りが匂ってきて、つい嫌悪と嫉妬に眉間に皺が寄る。
見られたくないのにローはそんな私を全て見つめて捉えた。
上がる口端で私の感じている気持ちに気付いている事にムッとして目だけでも背ける。
「どう気分が悪ィんだ?」
『どう……って』
「どこか痛かったり、辛いトコがあったりを聞いてんだ」
何故わざわざ聞いてくるの。
言いたくないと口を閉ざした。
『…………』
「言えよ……」
真剣な声にドキリとしてローと目が合う。
「言わねェと分からねェぞ」
……知ってるくせに。
この場には仲間もいて、女もいる。
何で醜い私の言葉を聞き出そうするの。
『少し休めば大丈夫ですから……』
なけなしの意地を出して、ローの体を手で押して離れようとしたが出来なかった。
瞬間、ローが射抜くように私を見たからだ。
本気か? と問う瞳に震える。
どうして、そんな目で見るの?
お願いだから、見ないで欲しい。
でないと叫んでしまう。
ローの恋人でもないのに、私じゃない他の女を抱かないで――って!
雫が耐えられなくて先に落ちた。
ポロポロと涙が溢れた。
止まらなくて、どうにもならない。
静まりかえる店には私の嗚咽だけが響く。
盛りあがって楽しかったはずの酒場の雰囲気は最悪だ。
だから来たくなんてなかった。
こうなる事が分かっていた。
耐えられるわけない。
ローが他の女を抱くところなど。
謝りたいのに上手く言葉が出ない。
『……ふ……っ……』
もう、どうしていいのか分からない。
顔を覆って隠す手にローが触れてくる。
『いや……』
勝手に嫉妬したあげくに、泣く自分の顔を見られたくなんてない。
首を振ってもローは許してくれない。
優しく包まれて、どかされた。
本当にどうして放っておいてくれないの。
「●●……」
囁く声に閉じてた目を開けてしまう。
そこには見た事もないぐらい優しい眼差しのローが私を見つめていた。
近付く気配。
額に触れたのは唇で……何で? と思った時には抱きしめられた。
起きている事に驚いて、涙が止まる。
瞬きしか出来ない私の耳元でローの声がした。
「やり過ぎた……俺が悪かった」
何?
どういう事?
意味が分からない私にローは仲間がいるにも関わらず、それは優しいキスを私にくれる。
ふわりと触れて離れる感触に熱が上がる。
こんな人前で……こんなの困る。
混乱する私と周囲などローは気にした素振りもない。
「帰るぞ」
『……え!?』
「え? じゃねェ。 気分が悪ィんだろ?」
強引に繋がれた手は引っ張られる。
何がどうなっているの?
焦る私と平然と店を後にしようとするローに、女がヒステリックに叫んできた。
「ちょっと! ローっ!」
置いてくなんて信じられないと止める声。
ローの横顔を盗み見れば、どうでもいいという顔つき。
女を無視して振り返りもしないで私の手を引く。
状況についていけない私の頭は全くもって何も考えられない。
女が私とローを追い掛けようとするのを仲間達が間に入って懸命に止めてる。
騒がしい酒場をローに引き摺られるように後にする私に、唯一ベポが手を振って見送る。
「ちゃんとキャプテンに診てもらいなよ~!」
その日のハートの海賊団は酒場で宴。
賑やかな仲間の声と、場を盛り上げる女達の声で溢れてる。
店には座り心地の良さそうなソファがあって、ハートの海賊団の船長がとびきりの美人を隣に置いてご機嫌で飲んでいた。
私は離れた位置で、その様子を仲間に気付かれないように、時折盗み見ては嫌な気分に心が沈んだ。
ふと隈の濃い瞳と目が合うと、見せびらかすように指先で戯れに女に触れる。
私じゃない別の女の白い肌。
見たくないと目を逸らせば、女のクスクスと楽しそうな声が耳に入る。
店は騒がしいし、離れていて聞こえるはずなんかないのに。
何で……。
眉をひそめる私の気持ちを知っているであろう男は口端だけを意地悪く上げる。
好きと互いに思いを伝えたわけでもないし、確かに付き合ってなどいない。
それでも、求められて体を重ねて許したのは好きだからだ。
でなきゃ、船長だろうが抱かれたりなんかしない。
初めて抱かれている最中に、船長じゃなくて名前で呼べと言われた。
その日その時から私はローと船長を使い分ける事になった。
それからというもの、朝が来る前にローの部屋から逃げるように出て行くという日々が続いている。
ベッドを共にした後に顔を合わせるのが恥ずかしくもあるし、怖くて一緒にいれなかったから。
朝をローと迎える事はない。
ローの遊びだろうが本気だろうが、私には現実を受け止められるだけの心の強さはない。
どうして求めてくれるのか知りたくもあったし、知りたくもなかった。
時々、ローは何かを言い掛けていたけど、私は誤魔化すように遮ると甘えて抱かれた。
今まで、ローが立ち寄る島や町で、女と遊ぶ事に私は嫉妬する事はなかった。
……というより嫉妬したくなくて見ないようにしていた。
その時点で嫉妬してるのに……何してるんだろう。
分かっていても、どうにも出来ない私。
情けなさで、溜息が出る。
自分の嫌な心もローの本心からも逃げている。
仲間達が島で飲むといっても付き合う事をずっと避けてる。
見なければ気にする必要もないし、自分の中の暗くて醜い感情から逃げられるから。
本当に呆れる……でも、どうにもならない。
後悔するものの一歩が踏み出せない。
そんな何も出来ない私は今日ここにいる。
ずっと飲みに行く事を断っていた私に、仲間達がたまには一緒に行こう! と誘われたのがきっかけだった。
船に残ると頑なに断っていると、その場を通りかかったローが命令した。
「付き合え」
その絶対的な一言で私はいたくもない場所にいることになった。
そして、見たくもないものを見せられていた。
目の前で見せつけられるものには我慢ならない。
ローは隠してしまい込んでいる私の心を暴こうとしている。
何で、そんな事をするの?
手にするグラスの琥珀色は少しも美味しく感じられない。
仲間との会話も楽しくもないし、苦痛でしかない。
嫉妬する自分を気付かれたくなくて、作り笑いするのが辛い。
嫌だ……こんなの。
この場所にいたくない。
滲み出そうな涙を堪えようと目を閉じた。
「●●、どうしたの? 気分が悪い?」
窺うベポの優しい声。
気分が悪いといえば最悪に悪い……けど、優しい言葉をくれるベポを心配させたくなかった。
残り僅かな気力を振り絞って笑う。
そして、ここから逃げようと決めた。
『大丈夫……でも、いつもより少し酔いが早いかも。 だから、船に戻るね……』
言い終えて席を立つ私は見なければいいのにローと女の姿を見てしまう。
女がローに甘えてしだれかかる様に心臓を握られたような痛さが走る。
これからあの二人は……と嫌でも想像させられる。
顎を上げる女がキスをねだり、ローはニヤリと口端を上げて女に口付ける。
その様子に仲間達の騒がしくも沸き立つ声。
もう、見たくないし、何も聞きたくない。
目も耳も塞ぎたいのに、私の体は言うことをきかない。
飛び込んでくる状況に動けなくなる。
うっとりと目を閉じる女とキスを交わすローの目は私を見ている。
何でそんなものを私に見せるの?
揺れる女の細い体から甘ったるい吐息が洩れた。
逸らす事の出来ない私の心をローは揺さぶる。
知らずに唇は震えた。
見開かれた目が濡れるのを感じた瞬間、ローは女から離れた。
私から視線を外さないローの唇は紅く濡れていた。
いつもの不敵に上がる口端ではない引き結ばれた口元は私に何をさせたいのか分からない。
とにかくここから抜けて逃げ出したい。
後ずさる足はどこに逃げたらいいのか分からない。
「●●……」
ベポの声は私の異変に気付いて、さっきよりも心配しているものだった。
「おれも一緒に戻ろうか?」
優しい……。
ベポの純粋な優しさは今の私に堪えた。
すぐにでも甘えて抱きついて泣き叫びたくなる。
だから、我慢して笑う。
『ううん、平気。 一人で戻れるよ』
「本当に?」
尋ねるベポになんとか頷く私、でも失敗していたみたいだ。
「でも……●●、泣いてるよ。 放っておけないよ」
そんな事ないと言おうとして泣いている事に気付いた。
頬を伝う濡れる感触は涙だ。
『!?』
「分からなかったの? そんなに気分が悪いなら、無理しなくていいんだよ」
無理……。
そうだ、我慢しなくていい。
見たくないものは見なくていいし、知らなくていい。
ここにいつまでもいたくない。
『……ベポ、帰りたい』
「分かった。 行こっか」
『うん……』
ベポの温かい手は私の背中を押してくれる。
ここから出れると安心して、忘れていた息をゆっくり吸って吐いた。
胸に浸み込む酸素でいっぱいにして心を落ち着かせる。
あれはいつもの事なんだから気にしちゃいけない。
一歩進んだところで、ローの声に引き止められた。
「どうした?」
「●●が気分悪いみたいだから、先に戻るんだよ」
ベポが俯く私の代わりに答えてくれる。
「ふーん……」 と相槌をうつローが私を見ている。
視線を向けられているのが嫌で、ベポの腕に掴まり逃げるように顔を隠した。
「ほら、キャプテン。 ●●はもう帰りたいみたいだから行くね」
途端に仲間達から気をつけて帰れよ! とか、ゆっくり休め! とか声を掛けられた。
誰にも私の心に気付いていない事にホッとした。
ベポが 「じゃあ、行こ――」 と言いかけた直後、ローが遮った。
「待て」
「キャプテン?」
「具合が悪ィなら、俺が診てから帰れ」
「だって、●●。 キャプテンに診てもらったらいいよ」
そんなの嫌に決まってる。
ローの女との痴態を見たくないから帰りたいし、ここに長く居たくない。
首を横に振る私にベポは困ったな~と頭を掻いた。
「診てもらった方が俺も安心だし、●●も楽になるよ?」
ベポの善意は素直すぎて困ってしまう。
『……早く帰りたいの』
「でも、●●……あ!?」
私を説得しようとするベポの声が止まった。
何? と思って顔を上げればローが女をどかして、こっちに歩いて来る。
どかされた女にソファから睨まれた。
……嫌だ。
これではまるで私が嫉妬して邪魔をしているみたいだ。
何でローは私を放っておいてくれないの。
動けないで突っ立ている私の顎をローは支えて無理に上げる。
その指はついさっき別の女に触れていた。
よく知る目の前の体からは女の香りが匂ってきて、つい嫌悪と嫉妬に眉間に皺が寄る。
見られたくないのにローはそんな私を全て見つめて捉えた。
上がる口端で私の感じている気持ちに気付いている事にムッとして目だけでも背ける。
「どう気分が悪ィんだ?」
『どう……って』
「どこか痛かったり、辛いトコがあったりを聞いてんだ」
何故わざわざ聞いてくるの。
言いたくないと口を閉ざした。
『…………』
「言えよ……」
真剣な声にドキリとしてローと目が合う。
「言わねェと分からねェぞ」
……知ってるくせに。
この場には仲間もいて、女もいる。
何で醜い私の言葉を聞き出そうするの。
『少し休めば大丈夫ですから……』
なけなしの意地を出して、ローの体を手で押して離れようとしたが出来なかった。
瞬間、ローが射抜くように私を見たからだ。
本気か? と問う瞳に震える。
どうして、そんな目で見るの?
お願いだから、見ないで欲しい。
でないと叫んでしまう。
ローの恋人でもないのに、私じゃない他の女を抱かないで――って!
雫が耐えられなくて先に落ちた。
ポロポロと涙が溢れた。
止まらなくて、どうにもならない。
静まりかえる店には私の嗚咽だけが響く。
盛りあがって楽しかったはずの酒場の雰囲気は最悪だ。
だから来たくなんてなかった。
こうなる事が分かっていた。
耐えられるわけない。
ローが他の女を抱くところなど。
謝りたいのに上手く言葉が出ない。
『……ふ……っ……』
もう、どうしていいのか分からない。
顔を覆って隠す手にローが触れてくる。
『いや……』
勝手に嫉妬したあげくに、泣く自分の顔を見られたくなんてない。
首を振ってもローは許してくれない。
優しく包まれて、どかされた。
本当にどうして放っておいてくれないの。
「●●……」
囁く声に閉じてた目を開けてしまう。
そこには見た事もないぐらい優しい眼差しのローが私を見つめていた。
近付く気配。
額に触れたのは唇で……何で? と思った時には抱きしめられた。
起きている事に驚いて、涙が止まる。
瞬きしか出来ない私の耳元でローの声がした。
「やり過ぎた……俺が悪かった」
何?
どういう事?
意味が分からない私にローは仲間がいるにも関わらず、それは優しいキスを私にくれる。
ふわりと触れて離れる感触に熱が上がる。
こんな人前で……こんなの困る。
混乱する私と周囲などローは気にした素振りもない。
「帰るぞ」
『……え!?』
「え? じゃねェ。 気分が悪ィんだろ?」
強引に繋がれた手は引っ張られる。
何がどうなっているの?
焦る私と平然と店を後にしようとするローに、女がヒステリックに叫んできた。
「ちょっと! ローっ!」
置いてくなんて信じられないと止める声。
ローの横顔を盗み見れば、どうでもいいという顔つき。
女を無視して振り返りもしないで私の手を引く。
状況についていけない私の頭は全くもって何も考えられない。
女が私とローを追い掛けようとするのを仲間達が間に入って懸命に止めてる。
騒がしい酒場をローに引き摺られるように後にする私に、唯一ベポが手を振って見送る。
「ちゃんとキャプテンに診てもらいなよ~!」