狼と羊
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“羊の隣に座る狼”
――狼はいつも隣にいる羊が可愛くて仕方がない。
そろそろ、どうやって食べようかと機会を狙う狼を羊が避けた事がきっかけ。
新世界をゆく白ひげ海賊団。
気持ちの良い青い空が広がり、順調そのものの航海。
エースと●●は思いを通じ合い、恋人になって三か月が経っていた。
仲の良い二人の昼下がり。
●●が甲板の縁に寄り掛かって、足を伸ばして座って読書をしていると、本に影が落ちた。
あれ? と見上げると、優しく笑う恋人と目が合って微笑んだ。
『エース』
「●●、こんなトコにいたんだな。 それ、昨日立ち寄った町で買った本か?」
『うん、面白くて読んでたの。 エースも読んでみる?』
「いや、おれはいい」
エースはそう言うと●●の隣へと座った。
瞬間、●●は鼓動が大きく鳴って、ドキドキし始めた。
(……どうしよう)
隣に居るエースの顔が見れない。
同じ隣でも歩いている時は身長差もあり、エースが近いとか感じる事はあまりない。
手を繋ぐのも抱きしめられのも、むしろ嬉しさと好きという気持ちが勝り、恥ずかしいとか照れるという感情が表に出る事はない。
しかし、隣に座られるのはどうしようもなく顔が近く感じる。
普段は見上げる事が多いのに、少し視線をあげればエースが目の前に居るかのようだからだ。
今も触れる腕や肩よりも恋人の横顔の方が気になって仕方ない。
(近くて、キスしたくなる……)
こんな事を考えているなんて、エースに知られたくないと、俯いて誤魔化すように本を読む。
文字が少しも頭に入ってこない
鼓動は早まり、顔が赤くなっている事をエースに気付かれるのではないかと緊張した。
エースが立ち寄った町の話をしているのは聞こえているが集中出来ない。
笑い掛けられて、つい見てしまった大好きな笑顔の近さに、慌てて顔を隠すように本を見つめた。
不自然な●●の行動にエースは 「どうした?」 と首を傾げながら窺い近づく。
前髪が触れ合って、エースの匂いに誘われそうになった●●はこの場に居れなくなって立ち上がった。
急に立つ恋人を不思議そうに見上げるエースに●●は今思い出したとばかりに口を開く。
『忘れてたの!』
「何を?」
『マルコに用事を言いつけられてて、急いで済ませないと……ごめんねエース』
●●はエースに申し訳なそうな顔を作り、急ぐ振りをして逃げ出した。
(ごめん……エース)
船内に消える●●の背中をエースは眉をひそめて見つめていた。
(なんか……避けられたのか?)
可愛い恋人が嫌がる事などした記憶のないエース。
考えても思いつくわけもなく、結局――まあ、いいや……とこの時は流した。
あれから夕食になって一緒に食べても普段と変わらなかったし、キスをする事に避けられたりもない。
好きだといえば微笑んで返してくれる●●だった。
そうして三日経ったエースはすでに忘れかけていて気にもしなくなった頃――似た様な状況で逃げられた事が続いた。
その度にあれ? と首を傾げた。
そして、翌朝。
甲板の掃除を終えた●●が『疲れたー!』 と座った様子を目にしたエースが可愛いと思い近づいた。
「ご苦労さん!」
『うん!』
休む●●の隣にエースが行こうとした瞬間、●●はサッと立った。
『朝食、食べに行こっか?』
「お、おう……」
戸惑うエースの手をとる●●が微笑んでいる。
そんな恋人の行動にエースは確信めいておかしいと感じた。
嫌われていないし好かれているが何か自分の事で避けられている。
(何だ?)
エースの疑問は解けないまま夕食へと謎は持ち越された。
食堂は仲間達の賑やかな笑い声で溢れている。
そんな中、●●とエースはテーブルの端の空いてる席へ、隣に座り食事を終えていた。
●●は食べ終わったトレーを返し、食後に珈琲でも飲もうと、カップを持って席に戻った時、事件は起きた。
エースの向かいの席が空いて、●●はそっちに座ったのだ。
途端にエースは気付いて眉を寄せた。
美味しいと珈琲を飲む目の前の●●をおかしいと見つめた。
視線を感じた●●が何? と傾げる。
「……何で」
若干いつもより低いエースの声に●●はドキリ……とした。
『え?』
「どうして、そっちに座ったんだ?」
尋ねられた事に●●は黙ってしまった。
わざと隣を避けて向かいの席に座ったからだ。
エースの目は●●から逸らされない。
「……普通、さっき隣に座ってたんだから、戻って来て座んのもこっちだよな」
エースの言う事にたまたま側で食事をしていたマルコは眉をピクリとさせた。
(……んな事、どうでもいいじゃねェかい)
周囲に聞こえていた仲間達も同じ事を感じた。
どこに座ろうと本人の自由だし、そんな細かい事をいちいち気にするエースの方に呆れた。
エースは基本おおらかで大雑把だが、こういう他人がどうでもいいと感じるような事を気付くし気にする時がある。
「なあ、何でだ?」
『何でって、向かいあった方が話しやすいし……』
「ふーん……」
納得していないエースの相槌に、●●は避けていた後ろめたさに視線を逸らしてしまう。
理由なんて言えないと黙り込む●●とエースの様子に周囲が居心地の悪さを感じた。
隣に座る座らないで空気がこんなにも重くなるものなのかと、マルコは心の内で溜息をついた。
二人の間に入ろうと口を開こうとした時、エースが先に●●に尋ねた。
「質問を変える」
『何?』
「最近、おれが隣に座んの避けてるし嫌なんだろ?」
目を見開く●●に、「やっぱりな……」 とエースは呟いた。
会話の内容にさすがに仲間達も不穏さを感じた。
二人の周囲三メートルはシン……として、離れた平和な場所からの楽しそうに笑う声が良く聞こえた。
どうして、今日この席で食べてしまったのだと内心後悔して動けないでいた。
どうなるんだ……と仲間達は二人を心配して見守った。
エースは怒っている様子はなく優しく●●に尋ねる。
「何が嫌なんだ?」
『嫌とかじゃなくて……』
何て言っていいのか分からない●●は顔を俯かせ悩んだ。
このままではエースに変な誤解を生んでしまう……いや、もうすでに何か悪い方に誤解されているのかもしれない。
かといって、顔が近いという理由で避けているなんて、恥ずかしくて言えないと目を伏せた瞬間、エースに呼ばれた。
「●●?」
顔をあげる●●の頬にエースは指先で触れた。
やっぱり触る事に●●は避けないし逃げない。
嫌われてるなら手を払われたりするだろう。
●●の行動の意味が分からないとエースは重ねて尋ねた。
「おれは●●に何言われても怒ったりしねェし……だから、何でか教えてくれ」
どこまでも優しいエースに●●は弱い。
告げようとして顔に熱が集まり何とか言おうと唇を動かす。
『あ、あのね……』
震える睫に照れて顔の赤い恋人の可愛さに、エースは疑問も何も吹っ飛んで抱きしめたい衝動に駆られたが抑える。
どう考えても嫌われてなんていない。
じゃあ、何だ? と知りたい気持ちが膨らんだ。
こんなに照れる様子を見せられては、その原因が知りたくて仕方ない。
指先が伝える柔らかい頬の温もり。
ちらり……と見つめられ囁かれた言葉に首を傾げた。
『……近いから』
「?」
『いつもより隣だとエースの顔が近くて……』
ガタン!
エースが椅子を倒し立ち上がった音に、●●は驚いて続きを言えなかった。
●●が見上げるエースの口端は嬉しそうに上がっていた。
いや実際嬉しく仕方ないのだろうと、マルコは側で聞いていて思い、この先の甘々ぶりを見たくないと瞼を閉じて溜息をつく。
周囲の仲間達もその思い同じで、揉め事にならなくて安心したが、これはこれで嫌だと早く食事を終わらせようと口に運ぶ料理の手が早くなった。
一方、●●はいまいち恋人が喜ぶ変化に気付いていない。
『エース?』
「…………」
●●は尋ねても答えないエースに不安を感じて俯いた。
その様子に見えてない隙にと、エースは●●の隣に座る仲間を睨んでどかした。
隣がいなくなった事に、●●はおかしいと感じる暇なくドキンと心臓を鳴らす。
エースの手が自分の右側の目の端に見えたからだ。
どさり……と座るエースの気配に●●は途端に腰を浮かせたが、手を掴まれて逃げられない。
『あの……』
「座れよ」
『う……うん』
大人しく座る●●にエースはニヤリと笑う。
「なあ……近いって、どれぐらいが駄目なんだ」
『どれぐらいって……』
「どこまで大丈夫か確認しないとな?」
『どこまでも何も……もう、ダメ!』
●●が顔を真っ赤にして、これ以上近づかないように手で抑えようとしている姿はエースには可愛いだけで、むしろ煽ぐものでしかない。
「そうなのか?」
『うん……』
目を合せようとしない様子に、本当に駄目なんだとエースは思い体を引いた。
そして、しかしと考える。
●●とはキスもするし近いというなら、抱きしめてるし、とっくに距離なんてない行為はしている。
確かにまだ踏み越えてないものはあるが、今さら隣に座るような事で照れる行動をする●●が不思議だった。
「何で隣がそんなに駄目なんだ?」
『……だって、目の高さとか同じくらいだから、普段より凄く近く感じるの』
●●の言う事に、確かになとエースは頷く。
身長差があるから互いに見下ろすし見上げる。
当たり前過ぎて意識しないと気付かないような事で、●●に意識されていた事にエースは嬉しかった。
『それに……』 と、言い掛けたきり黙り込む●●に、エースは何だ? と見つめる。
目を合せない●●の頬に触れて、自分の方へ向ける。
「言えよ」
隣にいるエースにしか聞こえない小さな声。
『近くて……キスしたくなる』
●●の可愛らしい理由に、エースは今すぐこのままその唇を塞いでしまいたくなる。
「可愛いな●●は……」
呟くエースは思うままに●●の額に、自分の額を合わせた至近距離で微笑した。
あまりの近さに戸惑いどうしていいのか分からなくて●●は動けない。
見つめ合いキスをするわけでもないその距離。
エースが●●の頬に触れていた手を髪に移り撫でていた。
甘えるように鼻先を擦り合わせて微笑するエースから●●は周りが気にならないくらい目が離せなくなった。
エースは少し離れると、髪を撫でてた指先を頬に沿わせて、親指で唇に触れた。
●●が思わず瞬きと息を止めた事が愛しくて、生まれた欲。
(このまま部屋に連れて帰りてェ)
狼となったエースは可愛い羊を食べようと優しく抱き上げた。
ずっと食べたくて仕方がなかった。
我慢してたところで隣に座る事を避けられたが、その理由が可愛くて、もはや止められない。
(もう……食ってもいいよな?)
何をするのかと驚く●●にエースは屈託のない笑顔を見せる。
「メシも終わったし、戻ろうぜ」
『う、うん。 でも、下ろして……』
「気にすんな重くねェから」
『そんな事言ってない!』
「そうか~? ま、いいだろ」
『……恥ずかしいし、嫌だから下ろして!』
「断る」
『な、何で!?』
「これから抱くから」
『…………』
言い切るエースの言葉に●●は驚き過ぎて顔を赤くするのも忘れて無言になった。
(聞き間違いかも……)
現実から逃避しようとする●●にエースは微笑した。
「隣なんかよりも近くなれば、気にならなくなるだろ?」
『……本気で?』
「ああ」
もう決めたと笑顔で頷くエースに●●は何を言っても無駄だと感じた。
エースは●●にいつでも優しいし、どんな我儘も聞いてくれる。
しかし、一度決めると絶対に引かない頑固さがある。
こうなると誰が何を言っても訊かないだろう。
なにより好きな人と繋がる事に●●に断る理由がない。
エースは自分の腕の中に、恥ずかしさで隠れる恋人が可愛くてニッと笑い周囲の仲間を見渡す。
「――というわけで、てめェら俺の部屋に近づくんじゃねェぞ! 他の奴らにも言っとけよ」
堂々と仲間に忠告し宣言するとエースはさっさと●●を連れて食堂を後にした。
――その夜、狼は愛しい羊を美味しく食べた。
柔らかく甘い羊に満足した狼は眠りにつこうとする羊に囁く。
優しい波の音に似た永遠を誓う言葉。
――狼はいつも隣にいる羊が可愛くて仕方がない。
そろそろ、どうやって食べようかと機会を狙う狼を羊が避けた事がきっかけ。
◇◆◇
新世界をゆく白ひげ海賊団。
気持ちの良い青い空が広がり、順調そのものの航海。
エースと●●は思いを通じ合い、恋人になって三か月が経っていた。
仲の良い二人の昼下がり。
●●が甲板の縁に寄り掛かって、足を伸ばして座って読書をしていると、本に影が落ちた。
あれ? と見上げると、優しく笑う恋人と目が合って微笑んだ。
『エース』
「●●、こんなトコにいたんだな。 それ、昨日立ち寄った町で買った本か?」
『うん、面白くて読んでたの。 エースも読んでみる?』
「いや、おれはいい」
エースはそう言うと●●の隣へと座った。
瞬間、●●は鼓動が大きく鳴って、ドキドキし始めた。
(……どうしよう)
隣に居るエースの顔が見れない。
同じ隣でも歩いている時は身長差もあり、エースが近いとか感じる事はあまりない。
手を繋ぐのも抱きしめられのも、むしろ嬉しさと好きという気持ちが勝り、恥ずかしいとか照れるという感情が表に出る事はない。
しかし、隣に座られるのはどうしようもなく顔が近く感じる。
普段は見上げる事が多いのに、少し視線をあげればエースが目の前に居るかのようだからだ。
今も触れる腕や肩よりも恋人の横顔の方が気になって仕方ない。
(近くて、キスしたくなる……)
こんな事を考えているなんて、エースに知られたくないと、俯いて誤魔化すように本を読む。
文字が少しも頭に入ってこない
鼓動は早まり、顔が赤くなっている事をエースに気付かれるのではないかと緊張した。
エースが立ち寄った町の話をしているのは聞こえているが集中出来ない。
笑い掛けられて、つい見てしまった大好きな笑顔の近さに、慌てて顔を隠すように本を見つめた。
不自然な●●の行動にエースは 「どうした?」 と首を傾げながら窺い近づく。
前髪が触れ合って、エースの匂いに誘われそうになった●●はこの場に居れなくなって立ち上がった。
急に立つ恋人を不思議そうに見上げるエースに●●は今思い出したとばかりに口を開く。
『忘れてたの!』
「何を?」
『マルコに用事を言いつけられてて、急いで済ませないと……ごめんねエース』
●●はエースに申し訳なそうな顔を作り、急ぐ振りをして逃げ出した。
(ごめん……エース)
船内に消える●●の背中をエースは眉をひそめて見つめていた。
(なんか……避けられたのか?)
可愛い恋人が嫌がる事などした記憶のないエース。
考えても思いつくわけもなく、結局――まあ、いいや……とこの時は流した。
あれから夕食になって一緒に食べても普段と変わらなかったし、キスをする事に避けられたりもない。
好きだといえば微笑んで返してくれる●●だった。
そうして三日経ったエースはすでに忘れかけていて気にもしなくなった頃――似た様な状況で逃げられた事が続いた。
その度にあれ? と首を傾げた。
そして、翌朝。
甲板の掃除を終えた●●が『疲れたー!』 と座った様子を目にしたエースが可愛いと思い近づいた。
「ご苦労さん!」
『うん!』
休む●●の隣にエースが行こうとした瞬間、●●はサッと立った。
『朝食、食べに行こっか?』
「お、おう……」
戸惑うエースの手をとる●●が微笑んでいる。
そんな恋人の行動にエースは確信めいておかしいと感じた。
嫌われていないし好かれているが何か自分の事で避けられている。
(何だ?)
エースの疑問は解けないまま夕食へと謎は持ち越された。
食堂は仲間達の賑やかな笑い声で溢れている。
そんな中、●●とエースはテーブルの端の空いてる席へ、隣に座り食事を終えていた。
●●は食べ終わったトレーを返し、食後に珈琲でも飲もうと、カップを持って席に戻った時、事件は起きた。
エースの向かいの席が空いて、●●はそっちに座ったのだ。
途端にエースは気付いて眉を寄せた。
美味しいと珈琲を飲む目の前の●●をおかしいと見つめた。
視線を感じた●●が何? と傾げる。
「……何で」
若干いつもより低いエースの声に●●はドキリ……とした。
『え?』
「どうして、そっちに座ったんだ?」
尋ねられた事に●●は黙ってしまった。
わざと隣を避けて向かいの席に座ったからだ。
エースの目は●●から逸らされない。
「……普通、さっき隣に座ってたんだから、戻って来て座んのもこっちだよな」
エースの言う事にたまたま側で食事をしていたマルコは眉をピクリとさせた。
(……んな事、どうでもいいじゃねェかい)
周囲に聞こえていた仲間達も同じ事を感じた。
どこに座ろうと本人の自由だし、そんな細かい事をいちいち気にするエースの方に呆れた。
エースは基本おおらかで大雑把だが、こういう他人がどうでもいいと感じるような事を気付くし気にする時がある。
「なあ、何でだ?」
『何でって、向かいあった方が話しやすいし……』
「ふーん……」
納得していないエースの相槌に、●●は避けていた後ろめたさに視線を逸らしてしまう。
理由なんて言えないと黙り込む●●とエースの様子に周囲が居心地の悪さを感じた。
隣に座る座らないで空気がこんなにも重くなるものなのかと、マルコは心の内で溜息をついた。
二人の間に入ろうと口を開こうとした時、エースが先に●●に尋ねた。
「質問を変える」
『何?』
「最近、おれが隣に座んの避けてるし嫌なんだろ?」
目を見開く●●に、「やっぱりな……」 とエースは呟いた。
会話の内容にさすがに仲間達も不穏さを感じた。
二人の周囲三メートルはシン……として、離れた平和な場所からの楽しそうに笑う声が良く聞こえた。
どうして、今日この席で食べてしまったのだと内心後悔して動けないでいた。
どうなるんだ……と仲間達は二人を心配して見守った。
エースは怒っている様子はなく優しく●●に尋ねる。
「何が嫌なんだ?」
『嫌とかじゃなくて……』
何て言っていいのか分からない●●は顔を俯かせ悩んだ。
このままではエースに変な誤解を生んでしまう……いや、もうすでに何か悪い方に誤解されているのかもしれない。
かといって、顔が近いという理由で避けているなんて、恥ずかしくて言えないと目を伏せた瞬間、エースに呼ばれた。
「●●?」
顔をあげる●●の頬にエースは指先で触れた。
やっぱり触る事に●●は避けないし逃げない。
嫌われてるなら手を払われたりするだろう。
●●の行動の意味が分からないとエースは重ねて尋ねた。
「おれは●●に何言われても怒ったりしねェし……だから、何でか教えてくれ」
どこまでも優しいエースに●●は弱い。
告げようとして顔に熱が集まり何とか言おうと唇を動かす。
『あ、あのね……』
震える睫に照れて顔の赤い恋人の可愛さに、エースは疑問も何も吹っ飛んで抱きしめたい衝動に駆られたが抑える。
どう考えても嫌われてなんていない。
じゃあ、何だ? と知りたい気持ちが膨らんだ。
こんなに照れる様子を見せられては、その原因が知りたくて仕方ない。
指先が伝える柔らかい頬の温もり。
ちらり……と見つめられ囁かれた言葉に首を傾げた。
『……近いから』
「?」
『いつもより隣だとエースの顔が近くて……』
ガタン!
エースが椅子を倒し立ち上がった音に、●●は驚いて続きを言えなかった。
●●が見上げるエースの口端は嬉しそうに上がっていた。
いや実際嬉しく仕方ないのだろうと、マルコは側で聞いていて思い、この先の甘々ぶりを見たくないと瞼を閉じて溜息をつく。
周囲の仲間達もその思い同じで、揉め事にならなくて安心したが、これはこれで嫌だと早く食事を終わらせようと口に運ぶ料理の手が早くなった。
一方、●●はいまいち恋人が喜ぶ変化に気付いていない。
『エース?』
「…………」
●●は尋ねても答えないエースに不安を感じて俯いた。
その様子に見えてない隙にと、エースは●●の隣に座る仲間を睨んでどかした。
隣がいなくなった事に、●●はおかしいと感じる暇なくドキンと心臓を鳴らす。
エースの手が自分の右側の目の端に見えたからだ。
どさり……と座るエースの気配に●●は途端に腰を浮かせたが、手を掴まれて逃げられない。
『あの……』
「座れよ」
『う……うん』
大人しく座る●●にエースはニヤリと笑う。
「なあ……近いって、どれぐらいが駄目なんだ」
『どれぐらいって……』
「どこまで大丈夫か確認しないとな?」
『どこまでも何も……もう、ダメ!』
●●が顔を真っ赤にして、これ以上近づかないように手で抑えようとしている姿はエースには可愛いだけで、むしろ煽ぐものでしかない。
「そうなのか?」
『うん……』
目を合せようとしない様子に、本当に駄目なんだとエースは思い体を引いた。
そして、しかしと考える。
●●とはキスもするし近いというなら、抱きしめてるし、とっくに距離なんてない行為はしている。
確かにまだ踏み越えてないものはあるが、今さら隣に座るような事で照れる行動をする●●が不思議だった。
「何で隣がそんなに駄目なんだ?」
『……だって、目の高さとか同じくらいだから、普段より凄く近く感じるの』
●●の言う事に、確かになとエースは頷く。
身長差があるから互いに見下ろすし見上げる。
当たり前過ぎて意識しないと気付かないような事で、●●に意識されていた事にエースは嬉しかった。
『それに……』 と、言い掛けたきり黙り込む●●に、エースは何だ? と見つめる。
目を合せない●●の頬に触れて、自分の方へ向ける。
「言えよ」
隣にいるエースにしか聞こえない小さな声。
『近くて……キスしたくなる』
●●の可愛らしい理由に、エースは今すぐこのままその唇を塞いでしまいたくなる。
「可愛いな●●は……」
呟くエースは思うままに●●の額に、自分の額を合わせた至近距離で微笑した。
あまりの近さに戸惑いどうしていいのか分からなくて●●は動けない。
見つめ合いキスをするわけでもないその距離。
エースが●●の頬に触れていた手を髪に移り撫でていた。
甘えるように鼻先を擦り合わせて微笑するエースから●●は周りが気にならないくらい目が離せなくなった。
エースは少し離れると、髪を撫でてた指先を頬に沿わせて、親指で唇に触れた。
●●が思わず瞬きと息を止めた事が愛しくて、生まれた欲。
(このまま部屋に連れて帰りてェ)
狼となったエースは可愛い羊を食べようと優しく抱き上げた。
ずっと食べたくて仕方がなかった。
我慢してたところで隣に座る事を避けられたが、その理由が可愛くて、もはや止められない。
(もう……食ってもいいよな?)
何をするのかと驚く●●にエースは屈託のない笑顔を見せる。
「メシも終わったし、戻ろうぜ」
『う、うん。 でも、下ろして……』
「気にすんな重くねェから」
『そんな事言ってない!』
「そうか~? ま、いいだろ」
『……恥ずかしいし、嫌だから下ろして!』
「断る」
『な、何で!?』
「これから抱くから」
『…………』
言い切るエースの言葉に●●は驚き過ぎて顔を赤くするのも忘れて無言になった。
(聞き間違いかも……)
現実から逃避しようとする●●にエースは微笑した。
「隣なんかよりも近くなれば、気にならなくなるだろ?」
『……本気で?』
「ああ」
もう決めたと笑顔で頷くエースに●●は何を言っても無駄だと感じた。
エースは●●にいつでも優しいし、どんな我儘も聞いてくれる。
しかし、一度決めると絶対に引かない頑固さがある。
こうなると誰が何を言っても訊かないだろう。
なにより好きな人と繋がる事に●●に断る理由がない。
エースは自分の腕の中に、恥ずかしさで隠れる恋人が可愛くてニッと笑い周囲の仲間を見渡す。
「――というわけで、てめェら俺の部屋に近づくんじゃねェぞ! 他の奴らにも言っとけよ」
堂々と仲間に忠告し宣言するとエースはさっさと●●を連れて食堂を後にした。
◇◆◇
――その夜、狼は愛しい羊を美味しく食べた。
柔らかく甘い羊に満足した狼は眠りにつこうとする羊に囁く。
優しい波の音に似た永遠を誓う言葉。
おしまい。