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1. ハウスキーパー開始

「こんなのどこも同じじゃねーのか」
 そう言ってくるレオナさんに、今まで風呂なしアパートに住んでたから分からないと告げたら五回くらい聞き返された。まあ、確かに風呂なしは珍しいかもしんないけど。アパートに風呂がなくても特に不自由はしてなかったし。
 銭湯も楽しいもんですよ、って話したらレオナさんは銭湯に行ったことがないらしい。温泉じゃない公共浴場って言ったらなんとなくは理解したっぽいけど、この人が行く温泉って部屋に露天風呂ついてるとこ泊まってそうだから本当に理解したのかあやしい。
 そんな失礼なことを思いつつも、一通り使い方を教えてもらったオレは風呂を洗い始めた。銭湯のバイトもちょっとだけしたことがあるし、風呂掃除に関しても問題はない。
 しかし、豪華な部屋を見た時から分かってたけど、風呂場まで広くてゆったりしている。湯船は足を伸ばしてのんびりできる広さだし、洗い場だって広い。昼間なら、この大きな出窓から青空を眺め降り注ぐ太陽光を浴びて心地良い気分を味わえるに違いない。
「オレの知らない世界ッスね」
 ここに来てからは驚くことばかりだ。でも驚いてばかりもいられないし、やることはたくさんある。まずは目先のことを終わらせてから考えようと、オレはせっせと手を動かすのだった。

 自動でお湯を張りながら、オレは再びキッチンに立つ。
 米の他にパンとパスタを買ってきていた。手早く作れて腹が膨れるものと考えて、さっきのサラダも使えるパスタにしようとお湯を沸かす。オムレツには違うもの入れれば良いし。
 鼻歌まじりにサラダを刻み、沸騰したお湯にパスタを投入した。パスタが茹で上がるまでに、ソースの下準備を行なう。ツナ缶を使った簡単レシピだ。パスタが茹で上がる前にさっき刻んだサラダを湯通しする。食感が変わるし青臭さも減るから食べれるんじゃねと思いつつ。湯切りしたパスタをささっと和えて、味を調えれば出来上がりだ。
 さっきからカウンターに寄りかかってオレの手元を凝視しているレオナさんには気付いてたけど、あえて無視した。さっきまでは声をかけないと印象悪いかなと思ってたけど、ここに住むことは決定したし気にすることはないかな。家主の胃袋を掴んだオレは無敵ッス。
 どうせ気の利いたことも言えないし。そもそもレオナさんは何がしたいんだろう。分かんないし、とりあえず様子見しておこう。言いたいことがあるなら言ってくるだろうから、放置だ放置。
 さっき食ったばかりだけど、多分食べるだろうなと皿にレオナさんの分も盛り付ける。一緒に食べろと言ってたし、遠慮はしないことにしてオレの分もがっつりよそった。
「レオナさん、できましたよー」
 声をかけると、レオナさんは耳をぴるぴるとさせながら席に着いた。尻尾も機嫌良くゆらりと揺れている。
 オレはレオナさんの向かいに座り、目の前にパスタを置く。
「どうぞ召し上がれ」
 野菜が入っているのを完全に見ていたレオナさんだったけど、迷いもせずにパスタに手を付けたのを見てオレは笑う。さっきのだってきっと気付いてたけど、残さず食べてくれたし。
 良い食べっぷりに気分良くなりながら、オレもパスタに口を付けた。
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