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レオラギ短編

「もー、教えてくれるって言ったじゃないッスかー!」
 レオナの部屋の机を陣取ったラギーは、自分に課せられた宿題を前に吠える。

 自分の力だけで問題を解こうと思ったラギーだったが、理解が及ばずレオナに助けを求めたところから始まる。いつもなんだかんだ言いつつもラギーが苦手とする教科を教えてくれるため、今日もそのつもりでいたのだ。
 しかし、二人分の溜まった洗濯物をどうにかしなければならなかったラギーは、まずは洗濯を終わらせることにする。宿題も大事だったが、明日着る服も大事だ。レオナが寝てしまわないうちにと洗濯を一気に終わらせ、渇かした服を抱えてラギーはレオナの部屋へと飛び込んだ。
「これ、たたんだら勉強教えて欲しいッス。寝ないでくださいよ!」
 仕方ねえなぁ、と言いつつも頷くレオナに感謝しながらラギーが洗濯物をたたんでいる時に悲劇は起きる。
 ラギーの背後から規則的な寝息が聞こえてきたのだ。しまったと思ったがもう遅い。レオナは夢の中へと旅立ってしまった。一度寝てしまうと起こす手間がとんでもなくかかるのがレオナだった。
 すぐに起こそうと思ったが、ラギーはまずは自分でなんとか解いてみようと考える。しかし、一問目の途中からこんがらがってしまい、お手上げ状態のラギーはがっくりと項垂れた。
「信じらんねー。でもこれ終わらせないと寝れないってところがサイアク」
 喉の奥で唸り声を上げながら、ラギーはペンを握りしめ一問目以降の分かる問題から解いていく。こういう日に限って問題数が多いのが恨めしい。
 しばらくペンを走らせていたラギーだったが、くああ、と欠伸をして涙目になった目を擦る。
 時計を見れば深夜を過ぎており、いつもなら寝ている時間だった。早朝からレオナを起こしマジフトの朝練をこなし、授業を受けて部活動を行ない、時にはバイトもしつつレオナの掃除洗濯を行なうというハードなラギーの生活。さらに授業の予習復習などしていると、どうしても睡眠時間が少なくなってしまう。今も最大の敵である眠気と戦いながらラギーは問題を解いていた。
 何度も繰り返される欠伸は止まりそうにない。
 ラギーはそれでも最後の問題まで辿り着こうと頑張るが、だんだんと瞼が重くなり目を開けていることも辛くなる。そしてついには目を開けていることもかなわなくなり、机の上に突っ伏してしまった。
 規則的な寝息が二つ重なる。
 このまま朝まで二人とも寝てしまうと思われたが、ラギーの手からこぼれ落ちたペンが立てた音にレオナが耳を震わせた。いつもだったら無視する音だったが、レオナは約束を覚えていた。部屋にいる人物が普段なら立てない音に気付き、目を覚ます。
 大きな欠伸をしたレオナは、机に突っ伏したラギーを眺め時計へと視線を移す。そしてばつの悪そうな表情を浮かべ、自分のしてしまったことを後悔し頭を掻く。勉強を教えると言ったものの、いつもの癖で洗濯物の香りとラギーのいる空間が心地良く寝てしまっていた。
 レオナはラギーを起こさないように近付くと、ラギーが解いていた宿題を眺める。一問目は解き方に癖があるため難しいが、それ以降は比較的簡単だった。ラギーの答えも途中までは合っている。しかし、途中から眠くて仕方がなかったのか字が乱れ、簡単なミスを連発していた。
 宿題とラギーを見比べていたレオナだったが、溜息を吐きつつラギーを起こすことにする。レオナとしては睡眠不足のラギーをこのまま寝せておきたかったが、気付いていたのに起こさなければラギーはきっと怒るだろう。それならばさっさと終わらせて、少しでも睡眠時間をとった方が良いはずだ。明日の朝練は元から休みだったため、いつもよりも長く眠ることができる。
 レオナはラギーの肩を揺すり声をかける。
「宿題このまま放置すんのか」
「ふぇ……レオナさんが起きてる。夢?」
 まだ半分寝ているのか、ラギーはぽやんとした腑抜けた表情でレオナを眺めていた。その顔をレオナは苦虫をかみつぶしたような表情で見つめ、そっぽを向く。
「バカか、とっとと起きろ」
 デコピンされたラギーは額をおさえて飛び起きる。ほらよ、とペンを手渡され、ラギーはペンが落ちた音でレオナが目を覚ましたのだと思った。そして今見せている顔は反省している顔だ。ラギーは胸の内でほっこりとしつつ、わざとそれを無視してレオナが目の前に置いた宿題を見つめる。
「オレ、わりと頑張ったと思うんスけど」
「努力は認めるが、途中からケアレスミスが続いてるから五十点だな」
「もっといくと思ったけどなー。あ、でも間違ってるのここからだ。これは……」
 レオナに指摘されずとも間違ってる箇所を見つけたラギーは素早く直す。コツを掴めば理解も早い。レオナが起きたことでテンションが上がり眠気も飛んだため、ラギーはさくさくと問題を解いていく。
 それをレオナは隣で眺めながら、やはり分からないのは最初だけかと教え方を考えていた。

「最初の問題以外は終わったッス」
「そのようだな」
「ここからおかしくなるんスよね」
 途中までは合っているのだから解けないことはない。ちょっとした発想の転換が必要というだけだ。それを教えてやれば解けるはずだ。レオナは一つずつ丁寧に説明していく。それをラギーは真剣に聞き、再び問題と向き合う。
 さっきまで何度考えても理解できなかったところが、するりと解けた糸のようにつながり答えが導き出される。
「できた!」
「当たりだ。じゃあ、これも解けるだろ」
「へ? なにさりげなく一問増やしてんスか!」
「俺がわざわざ作ってやったんだからさっさと解け」
 終わった宿題の上に載せられた紙には、レオナの綺麗な字で書かれた問題文。文句を言いながらもラギーはその問題を解き、レオナの胸に叩きつけた。
「できたっ! もー、仕方ないッスね。解き方分かったし、レオナさん寝ちゃったのはこれでチャラで」
 一瞬、呆けたレオナだったが、くつくつと喉の奥で笑いながらラギーの腹に腕を回し担ぎ上げる。
「ちょっ、何するんスか」
「夜更かししたヤツを寝かしつけてやろうと思ってな」
「はぁ? 部屋に戻っ……わっ」
 ベッドに放り投げられたラギーは咄嗟に受け身を取り転がる。その横に転がったレオナは、ラギーが逃げられないようにしっかりと腹に腕を回し抱き寄せた。
「ここで寝るだろ」
 オレも眠い、と大きな欠伸をするレオナにつられてラギーも欠伸が出てしまい、噴き出す。
「もー、仕方ないッスね。オレ、絶対にレオナさん甘やかしてると思うんスけど……でももう眠くて……」
 レオナの鼓動を聞いているうちに、ラギーに睡魔が訪れてゆっくりと瞼が閉じていく。
 閉じた瞼にレオナはキスを一つ落とすと、抱きしめる腕に力を込める。レオナの腰に回されたラギーの手首に尻尾をしゅるりと巻きつかせ、レオナは満足そうに瞳を閉じた。
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