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1. ハウスキーパー開始

 オレは侮っていた。
 ここは高級マンションが立ち並ぶ高級住宅街。物価が高い。スーパーなんてどこも同じだと思ったらバカを見る。
 肉の塊の値段を見て、オレは乾いた笑いを浮かべた。自分だけなら絶対に買わない値段だが、財布は家主のものだ。中身を確認したらすごい金額とブラックカードが入っていたので余裕で買えるが、一ヶ月いくらで過ごす必要があるのかまだ聞いていない。そもそも、こういう話を始めにしたかったんスよねー。
 今となっては後の祭りなので目の前の肉に集中する。肉料理なら何でもいいはずだ、きっと。ハンバーグなら挽き肉を使うし材料費もお得になる。
 ざっと確認したが、あの家には調理器具はあるが調味料の類いは無かった。今日と明日の分の食材と必要なものをかごに突っ込み、急いで買い物を終える。
 そんなに時間は経っていなかったが、自己紹介もさせてくれないほどに空腹である家主が、今どうなっているかを考えるだけで顔が引きつる。
 料理の手順を脳内で整えながら家路を急ぐ。家路って言っても、本当に置いてもらえるかはまだわかんないけど。
 オレは先程もらった鍵でエントランスを抜け、最上階へと急いだ。
「ただいま戻り……って、なんスかこれ」
 玄関からキッチンへ向かう途中、リビングに入ると床に転がってる家主がいた。
 空腹で行き倒れ?
 こんな良いところに住んで、食うものにもまったく困らないのに行き倒れなんてそんな馬鹿な。
 見てみぬふりをしたいところだけど、そんなことできるはずもなく仕方なく声をかける。
「あの、キングスカラーさん……こんなとこで寝てたら体痛くなりますよ」
 寝ながら不機嫌に威嚇する音が聞こえる。それが本気の音に聞こえて身をこわばらせてしまったけど、本能的なものだから仕方ない。
 根気よく起こそうとするが、揺さぶる手を尻尾で何度も払い落とされ溜め息を吐いた。これは朝起こすのも一苦労だなとこれからの日々を思い、窓の外をぼんやりと眺める。もうそろそろ夕方かー、起きねー諦めよう。
 無駄な時間を過ごすのは性に合わない。
 さっさと飯作ってから起こしたほうが良いと、オレは持参していたエプロンをつけると買ってきたものを並べた。定位置になるよう調味料を並べ、今使う食材以外はすべてしまう。
 意中の相手を落とすには胃袋をつかめば良いって昔から言うし。
 まぁ、意中の相手というか家主が置いておけば使える奴って思ってくれないと困るから、頑張るしかないって話。これは第一試験みたいなもんだろ。
 だからオレは第一試験を突破するべく、これから腕を振るうのだ。
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読んだよ!