レオラギ短編
ラギーの朝は早い。
前の晩にレオナに無理矢理ベッドに引きずり込まれ、抱き枕になるのはいつものこと。そこからがすでにモーニングルーティーンの一環とも言える。
まずラギーが目覚めて一番にすることは、自分の腰に回された手の温もりを感じることだ。温かくてほっこりとした気持ちになる。たまにライオンの尻尾も巻き付いているが、自分のものだと主張されているようで、ラギーはそれだけで気分が良くなった。
それから瞼を開け、近くにある整った顔を気付かれないように眺める。ここは注意が必要で、少しでも動こうものなら、低い唸り声と共に耳を甘噛みされる。甘噛みといっても苛ついてのものだからわりと痛いため、できればくらいたくなかった。しかし、寝ている時くらいしか無防備な素の表情を堪能できないのだ。我慢してまでも見る価値はある。作ったような顔は見飽きるぐらいに眺めたので、正直お腹いっぱいだった。
レオナの長い睫毛がたまに動くが、まだ起きてはいない。
しめしめ、とラギーは毛並みの良い耳を眺め、昨晩自分が念入りにとかした髪の毛を満足そうに見つめた。
レオナの髪は寝癖がつかず、朝の支度も簡単で良い。
そして、ここからがラギーの腕の見せ所だ。ラギーは寝起きの悪いレオナから、うまく逃げ出さなくてはならなかった。
「レオナさん、朝ッスよ」
低い唸り声と共に牙が迫るが、それを額に落とすキスで黙らせる。これはたまたま牙から逃げようとしたときに額に唇がついてしまい、レオナが大人しくなったことで気が付いた。どうやら甘やかす方向で動くと良いらしいとラギーは気付き、レオナが寝ぼけているのを良いことにどんどん取り入れることにしたのだった。
「はいはい、オレは起きないとダメなんで、ちょーっと離してくださいね」
声をかけながら、ラギーはレオナの髪にキスをする。
低く唸るものの、腰に巻き付いた腕を剥がしても牙は向かってこなかった。
さてと、とラギーはいつものようにベッドに腰掛け身支度を整え始める。どうせレオナさんのお下がりを着るんだから一緒でも良いか、といつの頃からかレオナの所にラギーの服は置いてあった。
ひょいひょいと手を伸ばして服を引っ張り着替えると、ラギーは自分の腰に巻き付いた尻尾に気が付く。
「レオナさーん、オレ行かないと……って、え?」
いつものようにキスを一つ落として部屋を後にするつもりだったラギーは、振り返った瞬間に凍り付く。レオナが人の悪い笑みを浮かべ、ラギーを見つめていたからだ。
「ラギー、気付いてないと思ってたか?」
レオナは喉の奥で笑いながら、ラギーの尻尾を軽く掴む。そしてするりするりと撫で上げた。
「ひゃっ!」
「毎朝毎朝、楽しそうだったなぁ。俺を甘やかすのが楽しかったか? まあ、楽しそうだったからそのままにしてたが、そろそろ飽きてきたしな」
「飽きてきたって、オレがレオナさん甘やかさない方が良いってことッスか? なら、厳しくすれば……って、ちょっとイタズラ禁止! もう行かないとマジでヤバいんスけど!」
「毎朝同じことしてんのがつまんねーって話だ」
「人の毎朝の楽しみ奪うの……いや、あの……」
勢いで朝の楽しみを奪われたことを口走り、ラギーは羞恥から口籠もる。
「そうか、あれが楽しみだったんなら仕方ないな」
ニヤニヤとした口元の笑みは隠さず、レオナはラギーを引き寄せ抱きしめた。
「特別に甘やかされてやる」
それが甘やかされる人の態度か、とラギーは胸の内で叫ぶ。恥ずかしさもあり、文句だけが沸き上がるがすべて飲み込む。しかし、飲み込みきれなかった言葉が、ほんの少しだけ漏れ出した。
「なんでアンタはそんなに偉そうなのか、意味分かんないッス!」
悲痛なラギーの声は、レオナの部屋にこだまする。しかし、レオナは至極当然のこととして言葉を放った。
「お前の王様だからだろ」
そして、レオナはただ楽しそうに笑う。
その笑顔にラギーは目を丸くした。無邪気に笑うレオナは本当に嬉しそうで、いつになく上機嫌だ。その上機嫌の元が自分であることは間違いない、とラギーは確信し嬉しくなる。
「アンタは確かにオレの王様ッスけどー……でも、それと朝のそれとは話が別なんで!」
オレを早く離して欲しいッス!、とラギーは喚くが、レオナの拘束は強まるばかりだ。
「俺も、臣下は甘やかしてやらないとなぁ」
「今はいいって! 本当に!」
レオナがわざとやっているのも分かる。もういいから早く離して欲しいと思いつつ、ラギーは今日のモーニングルーティーンは遂行できなかったな、と肩を落とす。そしてこれからは、今までとは違うモーニングルーティーンが課せられるんだろうなと溜息を吐く。
ラギーの想いとは裏腹に、レオナの愉快そうな笑い声が響いていた。
前の晩にレオナに無理矢理ベッドに引きずり込まれ、抱き枕になるのはいつものこと。そこからがすでにモーニングルーティーンの一環とも言える。
まずラギーが目覚めて一番にすることは、自分の腰に回された手の温もりを感じることだ。温かくてほっこりとした気持ちになる。たまにライオンの尻尾も巻き付いているが、自分のものだと主張されているようで、ラギーはそれだけで気分が良くなった。
それから瞼を開け、近くにある整った顔を気付かれないように眺める。ここは注意が必要で、少しでも動こうものなら、低い唸り声と共に耳を甘噛みされる。甘噛みといっても苛ついてのものだからわりと痛いため、できればくらいたくなかった。しかし、寝ている時くらいしか無防備な素の表情を堪能できないのだ。我慢してまでも見る価値はある。作ったような顔は見飽きるぐらいに眺めたので、正直お腹いっぱいだった。
レオナの長い睫毛がたまに動くが、まだ起きてはいない。
しめしめ、とラギーは毛並みの良い耳を眺め、昨晩自分が念入りにとかした髪の毛を満足そうに見つめた。
レオナの髪は寝癖がつかず、朝の支度も簡単で良い。
そして、ここからがラギーの腕の見せ所だ。ラギーは寝起きの悪いレオナから、うまく逃げ出さなくてはならなかった。
「レオナさん、朝ッスよ」
低い唸り声と共に牙が迫るが、それを額に落とすキスで黙らせる。これはたまたま牙から逃げようとしたときに額に唇がついてしまい、レオナが大人しくなったことで気が付いた。どうやら甘やかす方向で動くと良いらしいとラギーは気付き、レオナが寝ぼけているのを良いことにどんどん取り入れることにしたのだった。
「はいはい、オレは起きないとダメなんで、ちょーっと離してくださいね」
声をかけながら、ラギーはレオナの髪にキスをする。
低く唸るものの、腰に巻き付いた腕を剥がしても牙は向かってこなかった。
さてと、とラギーはいつものようにベッドに腰掛け身支度を整え始める。どうせレオナさんのお下がりを着るんだから一緒でも良いか、といつの頃からかレオナの所にラギーの服は置いてあった。
ひょいひょいと手を伸ばして服を引っ張り着替えると、ラギーは自分の腰に巻き付いた尻尾に気が付く。
「レオナさーん、オレ行かないと……って、え?」
いつものようにキスを一つ落として部屋を後にするつもりだったラギーは、振り返った瞬間に凍り付く。レオナが人の悪い笑みを浮かべ、ラギーを見つめていたからだ。
「ラギー、気付いてないと思ってたか?」
レオナは喉の奥で笑いながら、ラギーの尻尾を軽く掴む。そしてするりするりと撫で上げた。
「ひゃっ!」
「毎朝毎朝、楽しそうだったなぁ。俺を甘やかすのが楽しかったか? まあ、楽しそうだったからそのままにしてたが、そろそろ飽きてきたしな」
「飽きてきたって、オレがレオナさん甘やかさない方が良いってことッスか? なら、厳しくすれば……って、ちょっとイタズラ禁止! もう行かないとマジでヤバいんスけど!」
「毎朝同じことしてんのがつまんねーって話だ」
「人の毎朝の楽しみ奪うの……いや、あの……」
勢いで朝の楽しみを奪われたことを口走り、ラギーは羞恥から口籠もる。
「そうか、あれが楽しみだったんなら仕方ないな」
ニヤニヤとした口元の笑みは隠さず、レオナはラギーを引き寄せ抱きしめた。
「特別に甘やかされてやる」
それが甘やかされる人の態度か、とラギーは胸の内で叫ぶ。恥ずかしさもあり、文句だけが沸き上がるがすべて飲み込む。しかし、飲み込みきれなかった言葉が、ほんの少しだけ漏れ出した。
「なんでアンタはそんなに偉そうなのか、意味分かんないッス!」
悲痛なラギーの声は、レオナの部屋にこだまする。しかし、レオナは至極当然のこととして言葉を放った。
「お前の王様だからだろ」
そして、レオナはただ楽しそうに笑う。
その笑顔にラギーは目を丸くした。無邪気に笑うレオナは本当に嬉しそうで、いつになく上機嫌だ。その上機嫌の元が自分であることは間違いない、とラギーは確信し嬉しくなる。
「アンタは確かにオレの王様ッスけどー……でも、それと朝のそれとは話が別なんで!」
オレを早く離して欲しいッス!、とラギーは喚くが、レオナの拘束は強まるばかりだ。
「俺も、臣下は甘やかしてやらないとなぁ」
「今はいいって! 本当に!」
レオナがわざとやっているのも分かる。もういいから早く離して欲しいと思いつつ、ラギーは今日のモーニングルーティーンは遂行できなかったな、と肩を落とす。そしてこれからは、今までとは違うモーニングルーティーンが課せられるんだろうなと溜息を吐く。
ラギーの想いとは裏腹に、レオナの愉快そうな笑い声が響いていた。