レオラギ短編
日の高いうちに取り込んだ洗濯物は、涼風が入り込む夜になってもまだ微かに熱をもっていた。手に伝わる熱を感じながらレオナの部屋でそれらを畳んでいたラギーは、ふと思いついた言葉を呟く。
「もしオレがハイエナじゃなくてライオンだったら、きっとレオナさんには拾われなかったろうなー」
ベッドに転がっていたレオナはその言葉を拾い、不機嫌そうな声を上げた。ラギー以外の者がその声を聞いたら震え上がっていたかもしれない。しかし、ラギーは気にした様子もなく軽く流し、話を続ける。
「やだなー、例えばの話ッスよ。でもオレがレオナさんと同じライオンだったら、気にも留めなかったでしょ」
オレがハイエナで制服も買えないスラムの出で、手癖も悪かったからレオナさんの目に留まった。そうラギーが告げるとレオナは鼻で笑う。
「自分からアピールしまくってきたヤツがよく言う」
「確かにレオナさんに使えるヤツっていうアピールはしまくったけど、同じライオンだったら無視したと思うんスよね」
媚びてくるみっともない奴とかなんとか言って、と言いながら、ラギーはレオナの服をしまうとベッドの隅に腰掛けた。ラギーの重みでほんの少し沈んだ方へ、レオナは体の向きを変える。
「そんな小さい男だと思うのか」
「まっさかー。レオナさん、実力主義だし草食動物だなんだと言いつつも、実力あるヤツには目をかけてるの知ってるッスよ。でもライオンのオレは要らなかったでしょ」
そんなことはない、と言いかけてレオナは黙る。本当にそんなことはないと思ったが、心のどこかで疑ったかもしれないとも思う。同じ種族の者たちは、いつもレオナのことを疎んじて排除しようと動いていた。突然アピールしてくる奴がいたら、その息がかかった者かもしれない、と考えてしまっていただろう。他人を信じたいのに自分以外は誰も信じられない。そんな世界にレオナはいた。
レオナの気持ちを知ってか知らずか、ほらね、と言いたげなラギーが人の悪い笑みを浮かべている。レオナさんのことはぜんぶお見通しなんスよ、なんて声が聞こえてきそうで、知らぬうちにレオナの眉間にシワが寄った。
「もー、今からそんなシワ寄せてたら、すーぐおじいちゃんになっちまうんスから」
躊躇う様子もなくラギーはレオナに手を伸ばし、グリグリと眉間のシワをマッサージする。
馬鹿らしいとレオナはラギーに背を向けた。
ラギーの手はそれ以上レオナを追って来ない。それをほんの少しだけ淋しく思うと、背中に温もりが触れ追加で一人分のマットが沈む。
毛布を引きずりあげて背中合わせで転がった二人は、特に会話をすることなく微睡む。遅くまでレオナの世話を焼いたラギーがレオナの隣で眠るのは、ここ最近の日常となりつつあった。
しばらくそのまま微睡んでいた二人だったが、レオナの尻尾がラギーの腕にそっと絡まる。
声にならぬ声を必死の思いで飲み込んだラギーはそっと背後へと視線を向けたが、当のレオナは動かない。
レオナはラギーに背を向けたまま呟いた。
「もしお前がライオンだったとしても、初めは色々と疑ったかもしれないが、お前がお前である限り今と変わらねぇ」
ラギーの腕を優しく撫でるように尻尾が動く。その腕は、あの時ヒビ割れた方の腕だった。
あの時のことを思い出しながら言葉を紡いでいるのだとしたら、それは本心に違いないとラギーは思う。レオナは口にこそ出さないが、今でもあの出来事を気に病んでいることに気付いていたからだ。
いつもピンとしている耳はほんの少し伏せ気味で、それを目にした途端に愛しさがこみ上げる。ラギーはレオナの方を向き、背後から抱き締める。
「もー、レオナさん。例えばの話なんですってば。でも今のすごい殺し文句ッスね。それってオレがいいってこと……わっ!」
「うるせぇ」
振り返ったレオナに噛み付くようにキスをされ、ラギーは抗議する口を塞がれる。貪るような口づけは、やがて慈しみ啄むようなものに変わり離される。視線が絡めば、どちらからともなく微笑んだ。
「レオナさん、相当オレのこと好きッスよね」
「どっちがだ。お前だろ」
「オレもあんなことされても一緒にいるくらいだから相当なのは分かってるけど。でもレオナさんは、オレがオレである限り、姿形はどうでもいいんでしょ。もし魔法で木になっちゃったとしても、一緒にいてくれるってことだし」
言葉の途中で、照れたライオンに再び唇を塞がれる。
やっぱりそういうことだ、と一人納得したラギーは満面の笑みでレオナに口付け直した。腰に巻かれた尻尾がくすぐったくて笑う。今はラギーだけの王様が、それを見て満足そうにとても綺麗な笑みを浮かべた。
「もしオレがハイエナじゃなくてライオンだったら、きっとレオナさんには拾われなかったろうなー」
ベッドに転がっていたレオナはその言葉を拾い、不機嫌そうな声を上げた。ラギー以外の者がその声を聞いたら震え上がっていたかもしれない。しかし、ラギーは気にした様子もなく軽く流し、話を続ける。
「やだなー、例えばの話ッスよ。でもオレがレオナさんと同じライオンだったら、気にも留めなかったでしょ」
オレがハイエナで制服も買えないスラムの出で、手癖も悪かったからレオナさんの目に留まった。そうラギーが告げるとレオナは鼻で笑う。
「自分からアピールしまくってきたヤツがよく言う」
「確かにレオナさんに使えるヤツっていうアピールはしまくったけど、同じライオンだったら無視したと思うんスよね」
媚びてくるみっともない奴とかなんとか言って、と言いながら、ラギーはレオナの服をしまうとベッドの隅に腰掛けた。ラギーの重みでほんの少し沈んだ方へ、レオナは体の向きを変える。
「そんな小さい男だと思うのか」
「まっさかー。レオナさん、実力主義だし草食動物だなんだと言いつつも、実力あるヤツには目をかけてるの知ってるッスよ。でもライオンのオレは要らなかったでしょ」
そんなことはない、と言いかけてレオナは黙る。本当にそんなことはないと思ったが、心のどこかで疑ったかもしれないとも思う。同じ種族の者たちは、いつもレオナのことを疎んじて排除しようと動いていた。突然アピールしてくる奴がいたら、その息がかかった者かもしれない、と考えてしまっていただろう。他人を信じたいのに自分以外は誰も信じられない。そんな世界にレオナはいた。
レオナの気持ちを知ってか知らずか、ほらね、と言いたげなラギーが人の悪い笑みを浮かべている。レオナさんのことはぜんぶお見通しなんスよ、なんて声が聞こえてきそうで、知らぬうちにレオナの眉間にシワが寄った。
「もー、今からそんなシワ寄せてたら、すーぐおじいちゃんになっちまうんスから」
躊躇う様子もなくラギーはレオナに手を伸ばし、グリグリと眉間のシワをマッサージする。
馬鹿らしいとレオナはラギーに背を向けた。
ラギーの手はそれ以上レオナを追って来ない。それをほんの少しだけ淋しく思うと、背中に温もりが触れ追加で一人分のマットが沈む。
毛布を引きずりあげて背中合わせで転がった二人は、特に会話をすることなく微睡む。遅くまでレオナの世話を焼いたラギーがレオナの隣で眠るのは、ここ最近の日常となりつつあった。
しばらくそのまま微睡んでいた二人だったが、レオナの尻尾がラギーの腕にそっと絡まる。
声にならぬ声を必死の思いで飲み込んだラギーはそっと背後へと視線を向けたが、当のレオナは動かない。
レオナはラギーに背を向けたまま呟いた。
「もしお前がライオンだったとしても、初めは色々と疑ったかもしれないが、お前がお前である限り今と変わらねぇ」
ラギーの腕を優しく撫でるように尻尾が動く。その腕は、あの時ヒビ割れた方の腕だった。
あの時のことを思い出しながら言葉を紡いでいるのだとしたら、それは本心に違いないとラギーは思う。レオナは口にこそ出さないが、今でもあの出来事を気に病んでいることに気付いていたからだ。
いつもピンとしている耳はほんの少し伏せ気味で、それを目にした途端に愛しさがこみ上げる。ラギーはレオナの方を向き、背後から抱き締める。
「もー、レオナさん。例えばの話なんですってば。でも今のすごい殺し文句ッスね。それってオレがいいってこと……わっ!」
「うるせぇ」
振り返ったレオナに噛み付くようにキスをされ、ラギーは抗議する口を塞がれる。貪るような口づけは、やがて慈しみ啄むようなものに変わり離される。視線が絡めば、どちらからともなく微笑んだ。
「レオナさん、相当オレのこと好きッスよね」
「どっちがだ。お前だろ」
「オレもあんなことされても一緒にいるくらいだから相当なのは分かってるけど。でもレオナさんは、オレがオレである限り、姿形はどうでもいいんでしょ。もし魔法で木になっちゃったとしても、一緒にいてくれるってことだし」
言葉の途中で、照れたライオンに再び唇を塞がれる。
やっぱりそういうことだ、と一人納得したラギーは満面の笑みでレオナに口付け直した。腰に巻かれた尻尾がくすぐったくて笑う。今はラギーだけの王様が、それを見て満足そうにとても綺麗な笑みを浮かべた。