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レオラギ短編

「へぇー、そうだったんスねー」
「んなーぅ、にゃん」
「あ、ちゃんと暖かいとこに入れてもらえなら良かったッス。ご飯もあったんスか?」
「んななー」

 中庭で猫からホリデー中の報告を受けていると、背後から久しぶりに感じるレオナさんの気配。
 くるりと笑顔で振り向いても良かったけど、急ぎでもなさそうだしいいかと放置して、撫でながら猫の話を聞く。学園に残っていた監督生辺りがブラッシングをしていたのか、フワフワの毛並みが心地良い。この子達にはまた色々手伝ってもらうかもしんねーから、仲良くしておかないと。

「抱っこ? いいッスよー」

 あー、この子は抱っこ好きな子だったなと思いつつ、手を伸ばして抱き上げようとしたところ、自分の手は空を切り体は抱え上げられていた。

「は? レオナさん? 何してんスか」

 肩に担ぎ上げられた状態で地面を眺めながら尋ねれば、フンと鼻で笑われそのまま歩き出すから意味がわからない。
 ホリデーから戻ってきたその足で、オレの事探しに来たのかもしんないなーと思ったところでピンときた。
 あのレオナさんが猫に嫉妬!?
 まさか、と思いつつも口元が緩んでしまう。首を傾げたままの猫に、バイバーイと手を振りながら、オレはシシシッと笑う。
 それが気に入らなかったのか、レオナさんは尻尾でオレの顔を叩いた。

「わぷっ、何すんスかー」

 人さらいみたいなことするし、と文句を言えば、今度は尻尾で俺の喉元をくすぐる。
 ちょっと、それはズルいッス!
 反射的に喉が鳴ってしまい、それをレオナさんの耳元で聞かせてしまう。恥ずかしい。ってか、担ぎ上げてる位置的に計算されてるとしか思えなかった。
 でも結果的にゴロゴロ音を聞いたレオナさんは上機嫌になったし、オレも気持ちいいしまぁいっかという気になってしまう。猫に嫉妬したレオナさんっていうレアなものも見れたし、それだけでも愉快だ。それに大切なものって言われてるみたいで気分がいい。
 本当は、無視されて淋しかったんスかー、って聞いてみたかったけど止めた。それで拗ねられたらあとが面倒だ。

「チェカくん元気だっ……ぶっ、ちょっと尻尾の行儀悪すぎッスよ」

 話を尻尾の攻撃で遮られたオレは、悪戯心で首筋に牙を軽く立てる。チロチロとざらついた舌で噛んだ部分を舐めると、レオナさんがビクリと反応した。そのまま体の位置が下がり、横抱きにされて視線が合う。
 べーッと舌を出して見せれば、そうかそうか、と挑戦的な笑みを向けられた。
 あ、これはヤバい。
 駄目なスイッチを押した気がする。

「レオナさーん、逃げないんで下ろしてほしいッス」

 頼んでみたものの、この要求は無視されるに決まってる。せっかく拗ねる状況を回避したというのに、これでは意味がない。このままレオナさんの気が済むまで拉致されるに決まっている。
 そしてがっちりと抱きかかえられたオレは、寮生がちらほら帰ってきた廊下で現在見世物のようになっていた。

「見世物じゃねーッスよ! さっさと部屋に戻れー!」

 オレが叫んだところで意味なんてないッスけどね。寮生の奴らはいつものかって感じで眺めてて、楽しそうで何よりだ、くそったれ。
 レオナさんの部屋につく頃には諦めて、皆におかえりーって愛想よく手を振ってたオレえらいッス、強い子ッス。その代わり、不機嫌そうなレオナさんが後ろに引っ付いてるんスけどね。さっきの上機嫌はどこに捨てたんだ、この人。

「もー、何なんスか……」

 ビタンと音を立てて尻尾を叩きつけているレオナさんを背中に貼り付けながら、オレは溜息を吐く。原因は本日二回目の嫉妬なんだろうけど、こんなになるのは珍しい。
 グリグリと額を背中に擦り付けてくるレオナさんはとんでもなく可愛い。普段してこないから余計に可愛い。情緒不安定すぎるレオナさんを眺めてると、ホリデーそんなに辛かったんだなと労る気持ちが湧いてくる。新年おめでとーパーティーやらなんやらで引っ張りだこの上、チェカくんにもまとわりつかれてお疲れなんだろう。

「仕方ないッスねー。レオナさんにだけ特別ッスよ」

 背中に貼り付いたレオナさんをはがして、正面から抱きしめる。スリッと頬を合わせてから肩口に顔を埋めると、ホッとする匂いに包まれる。これも久々だなーと思ってると、ようやく落ち着いたのかレオナさんから苛ついたオーラが消えた。

「何もかもがめんどくせー」
「今日のオレの王様は甘えたッスね」

 ようやく声を発したと思ったらこれだ。本当に仕方のない王様だ。でも、そんな王様をオレは気に入ってるんだからオレもどうしようもない奴ッス。

「いいッスよ。今日はレオナさんをオレが甘やかす日にするんで」

 なんなりと、と笑いながら言えばレオナさんの視線が柔らかくなった。甘いなーと思ってると、レオナさんの整った顔が近付いてくる。
 あぁこれはきっと、甘やかしてるのか甘やかされてるのか分からなくなるやつだ。互いの熱で溶けて境界もあやふやになる。
 それもいいか、とオレは目を閉じる。
 久々に会った喜びに、甘く溶けてしまうのも悪くない。オレだってそれなりに淋しかったし。
 唇に温かさを感じながら、オレはそれを笑みの形へと変えた。
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