1. ハウスキーパー開始
ドアを後ろ手に閉めて、オレはガッツポーズをした。
ばあちゃん、オレ第一関門突破したよー!と胸の内で叫び、握った拳を口元に当てシシシッと笑う。
料理も掃除洗濯もばあちゃんに習っといてよかった。そのおかげで住むところも見つかった感じだし。
良かった良かったと思いながら、あてがわれた部屋の中を見渡す。リビングやキッチンも広かったけど、この部屋も広い。一人で使うのにはもったいなさすぎるというか、広すぎて落ち着かない。今まではばあちゃんと二人で風呂なしのアパートに暮らしてたから、一人部屋も初めてだった。
この部屋は誰も使っていなかったのか殺風景で、あるのはベッドと机とクローゼットにゴミ箱だけだ。
「広っ……荷物ってもほとんどないんスけど」
自分で持ってきたものを眺め、乾いた笑いを浮かべる。クローゼットに服をかけるがほんの数枚だけだったし、置くものなどほとんどない。空っぽに近いクローゼットには随分と余裕がある。
これだけは絶対に忘れずに持っていこう、と持ってきたのはばあちゃんと撮った写真一枚とイボイノシシの貯金箱だ。安物の写真立てに入れた写真を眺め、これからの日々を思う。ばあちゃんを楽させるためにも、しっかり勉強して稼げるとこに就職しないとな。
机の上にそれだけ置いて、オレの荷解きは終わり。
時計を見れば夕方の五時を指している。変な時間に飯作っちゃったけど、さっきのは夕飯でよかったんスかね。なんか食い足りないから夜食って言われそうだよなー……風呂掃除してなんか軽く作るか。そしてオレもなんか食おう。
部屋を出ると、リビングでレオナさんが待ち構えていた。え、さっきからずっとそこにいたんスか?
「レオナさん?」
なんかしたっけ?と思いつつ首を傾げながら尋ねてみれば、大きな溜め息を吐かれた。なんで? え、なんで溜息吐かれたの?
「お前、さっき飯食ってなかっただろう。今度から一緒に食べろ」
「え、でも……」
そんなことを言うために待ってたのか、この人。自己紹介もちゃんとさせてくれない横暴な奴という印象がガラリと変わる。
「俺が良いって言ってんだから良いんだよ。同じものを食べて少しは肥えろ。痩せすぎだ」
食費はこっち持ちなんだから気にすんな、と言ってさっきとは違う財布をこっちに投げた。なんでさっきから財布なんていう大事なもん投げるんだ、この人は。そんなこと思いながら、しっかりと財布をキャッチする。中身を見ると、なんかよくわかんねーけど札束が入ってた。
驚いて財布とレオナさんを交互に見つめてたら笑われた。いや、だってこんな大金何に使うんだろうって思うし。でもカード渡されるよりマシか。あと紙の方が、なんかお金持ってる感じがして気分が良い。
「そいつで食費や日用品、必要なもんを買えばいい。お前に預ける」
「は? これ一ヶ月分なんですか? こんな大金預けられても。しかもこんなに使わないんじゃ」
「月末にでも精算すればいいだろ。使った分補充してやる」
「そういうもんじゃないっつうか、これオレが使い込んだらどうするんですか」
そう言えば鼻で笑われた。
「仕事はきっちりするんだろ」
「しますよ!」
なんか律儀に会話してるのが面倒くさくなった。信用してくれてるんならそれに応えればいいだけだし。はいはい、もうこのまま大金預かりますよー。家計簿つけますよ、毎日。オレ、とっても有能なんで!
「お金は分かりました。預かります。あの、今から風呂掃除しようと思うんですけど、使い方教えてもらえますか?」
頭を切り替えて、風呂の使い方を教えてもらおう。銭湯にしか行ったことしかないし、こんなお高い電化製品の使い方なんてわからない。
きょとんとした顔されたけど、すぐについてこいと言われたのでオレはレオナさんの後を追う。この人、実は面倒みがいいのかもしれない。マイナスまでいってたレオナさんの評価が、ほんの少しだけ上がったのは内緒だ。
ばあちゃん、オレ第一関門突破したよー!と胸の内で叫び、握った拳を口元に当てシシシッと笑う。
料理も掃除洗濯もばあちゃんに習っといてよかった。そのおかげで住むところも見つかった感じだし。
良かった良かったと思いながら、あてがわれた部屋の中を見渡す。リビングやキッチンも広かったけど、この部屋も広い。一人で使うのにはもったいなさすぎるというか、広すぎて落ち着かない。今まではばあちゃんと二人で風呂なしのアパートに暮らしてたから、一人部屋も初めてだった。
この部屋は誰も使っていなかったのか殺風景で、あるのはベッドと机とクローゼットにゴミ箱だけだ。
「広っ……荷物ってもほとんどないんスけど」
自分で持ってきたものを眺め、乾いた笑いを浮かべる。クローゼットに服をかけるがほんの数枚だけだったし、置くものなどほとんどない。空っぽに近いクローゼットには随分と余裕がある。
これだけは絶対に忘れずに持っていこう、と持ってきたのはばあちゃんと撮った写真一枚とイボイノシシの貯金箱だ。安物の写真立てに入れた写真を眺め、これからの日々を思う。ばあちゃんを楽させるためにも、しっかり勉強して稼げるとこに就職しないとな。
机の上にそれだけ置いて、オレの荷解きは終わり。
時計を見れば夕方の五時を指している。変な時間に飯作っちゃったけど、さっきのは夕飯でよかったんスかね。なんか食い足りないから夜食って言われそうだよなー……風呂掃除してなんか軽く作るか。そしてオレもなんか食おう。
部屋を出ると、リビングでレオナさんが待ち構えていた。え、さっきからずっとそこにいたんスか?
「レオナさん?」
なんかしたっけ?と思いつつ首を傾げながら尋ねてみれば、大きな溜め息を吐かれた。なんで? え、なんで溜息吐かれたの?
「お前、さっき飯食ってなかっただろう。今度から一緒に食べろ」
「え、でも……」
そんなことを言うために待ってたのか、この人。自己紹介もちゃんとさせてくれない横暴な奴という印象がガラリと変わる。
「俺が良いって言ってんだから良いんだよ。同じものを食べて少しは肥えろ。痩せすぎだ」
食費はこっち持ちなんだから気にすんな、と言ってさっきとは違う財布をこっちに投げた。なんでさっきから財布なんていう大事なもん投げるんだ、この人は。そんなこと思いながら、しっかりと財布をキャッチする。中身を見ると、なんかよくわかんねーけど札束が入ってた。
驚いて財布とレオナさんを交互に見つめてたら笑われた。いや、だってこんな大金何に使うんだろうって思うし。でもカード渡されるよりマシか。あと紙の方が、なんかお金持ってる感じがして気分が良い。
「そいつで食費や日用品、必要なもんを買えばいい。お前に預ける」
「は? これ一ヶ月分なんですか? こんな大金預けられても。しかもこんなに使わないんじゃ」
「月末にでも精算すればいいだろ。使った分補充してやる」
「そういうもんじゃないっつうか、これオレが使い込んだらどうするんですか」
そう言えば鼻で笑われた。
「仕事はきっちりするんだろ」
「しますよ!」
なんか律儀に会話してるのが面倒くさくなった。信用してくれてるんならそれに応えればいいだけだし。はいはい、もうこのまま大金預かりますよー。家計簿つけますよ、毎日。オレ、とっても有能なんで!
「お金は分かりました。預かります。あの、今から風呂掃除しようと思うんですけど、使い方教えてもらえますか?」
頭を切り替えて、風呂の使い方を教えてもらおう。銭湯にしか行ったことしかないし、こんなお高い電化製品の使い方なんてわからない。
きょとんとした顔されたけど、すぐについてこいと言われたのでオレはレオナさんの後を追う。この人、実は面倒みがいいのかもしれない。マイナスまでいってたレオナさんの評価が、ほんの少しだけ上がったのは内緒だ。