1. ハウスキーパー開始
「却下だ」
「却下と言われてもこっちではどうにもできないんで、ダメだというならそちらで交渉してください。ただ、オレを置いておいてくれるなら食事と身の回りの世話なんかは任せてください。得意なんで」
内容が気に入らない事に関しては交渉してもらうことにして、とりあえず自分を売り込むことだけは忘れない。置いてもらわないと行くところがないのだから必死にもなる。
まだ低く唸っていたけどオレは聞かないフリをして、淹れ立ての珈琲を目の前に差し出した。好みが分からなかったから、砂糖とミルクはセルフでお願いする。
「どうぞ」
不機嫌そうな唸り声は続いていたけど珈琲にいれる砂糖とミルクの量を横目で確認しながら、オレは食器を片付ける。その間に、家主は珈琲片手に自室に戻り電話をかけ始めたようだった。本当に交渉するつもりなのだろう。
自慢の良い耳を持ってしても会話の内容は断続的にしか聞こえなかったが、舌打ちや怒鳴り声はよく聞こえる。
オレの運命やいかに、なんて思いつつも実は衣食住をしっかり手に入れることができる予感があった。わざわざ珈琲片手に自室に戻った時点で、オレは家主の胃袋を掴んだと思っていた。口に合わなければ、気に入らない奴の作った料理を完食し、淹れた珈琲をわざわざ部屋まで持っていくことなんてしないはずだ。
電話が終わる前に片付けを終えて、さっき冷蔵庫に突っ込んだ野菜と煮物のアレンジをしてしまおう。野菜の形が残る煮物は、ミキサーにかけてコロッケにでもしてしまえばいい。ひき肉を少し残しておいて良かったと胸をなで下ろす。牛肉コロッケに大変身させた煮物で再び胃袋を掴むのだ。サラダは細かく刻んでチーズも混ぜてオムレツにしてしまおう。
あとは朝は軽めが良いのかがっつりがいいのか聞かないとなー、お弁当はコロッケメインでいいかーなどと考えながら手を動かしていると、家主が部屋から溜息交じりに出てきた。だいたい明日の仕込みも終わっていたし丁度良い。
おい、と声をかけられてオレは不安げな表情をわざと作りながら顔を上げた。
「お前の部屋はそこだ」
それを聞いた瞬間、嘘ではない満面の笑みを浮かべる。
やったー! 衣食住ゲットー! さっきの自分よくやった!
オレの顔を見た家主は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに真顔に戻り、明日までにオレが尋ねたことを紙に書いておいてくれるって言ってくれた。そうそう、紙での誓約は大事ッスね。
「これからよろしくお願いしますね、キングスカラーさん」
「……レオナだ」
家主はふて腐れた表情で自分の名前を告げる。
いや、レオナって名前なのは知ってるけど。これは名字ではなく名前で呼べって事か?まあ、呼び方なんて何でも良いと思ってたし、レオナさんでいいか。
「改めて。よろしくお願いします、レオナさん」
にんまり笑顔で伝えれば、片方の口元を軽くあげた笑みを返される。そんな姿も見惚れるほど様になっているんだから、顔の良い人は良いッスね。
「明日は何時から授業あるんですか」
「……起こさなくていい」
「何時からですか?」
「夕方」
「小学生でも、もうちょいマシな嘘吐くんじゃないですかねー」
「うるせぇ。……一限からだ」
「んじゃ、飯食っても間に合うように起こしますね。食わないでその分寝る、はダメです。ちなみに、朝はがっつり食べたい方ですか?」
「食う」
「分かりました。がっつりなやつ作りますね」
荷物片付けてきます、と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた家主改めレオナさんにお辞儀をしてから、オレは与えられた部屋に移動したのだった。
「却下と言われてもこっちではどうにもできないんで、ダメだというならそちらで交渉してください。ただ、オレを置いておいてくれるなら食事と身の回りの世話なんかは任せてください。得意なんで」
内容が気に入らない事に関しては交渉してもらうことにして、とりあえず自分を売り込むことだけは忘れない。置いてもらわないと行くところがないのだから必死にもなる。
まだ低く唸っていたけどオレは聞かないフリをして、淹れ立ての珈琲を目の前に差し出した。好みが分からなかったから、砂糖とミルクはセルフでお願いする。
「どうぞ」
不機嫌そうな唸り声は続いていたけど珈琲にいれる砂糖とミルクの量を横目で確認しながら、オレは食器を片付ける。その間に、家主は珈琲片手に自室に戻り電話をかけ始めたようだった。本当に交渉するつもりなのだろう。
自慢の良い耳を持ってしても会話の内容は断続的にしか聞こえなかったが、舌打ちや怒鳴り声はよく聞こえる。
オレの運命やいかに、なんて思いつつも実は衣食住をしっかり手に入れることができる予感があった。わざわざ珈琲片手に自室に戻った時点で、オレは家主の胃袋を掴んだと思っていた。口に合わなければ、気に入らない奴の作った料理を完食し、淹れた珈琲をわざわざ部屋まで持っていくことなんてしないはずだ。
電話が終わる前に片付けを終えて、さっき冷蔵庫に突っ込んだ野菜と煮物のアレンジをしてしまおう。野菜の形が残る煮物は、ミキサーにかけてコロッケにでもしてしまえばいい。ひき肉を少し残しておいて良かったと胸をなで下ろす。牛肉コロッケに大変身させた煮物で再び胃袋を掴むのだ。サラダは細かく刻んでチーズも混ぜてオムレツにしてしまおう。
あとは朝は軽めが良いのかがっつりがいいのか聞かないとなー、お弁当はコロッケメインでいいかーなどと考えながら手を動かしていると、家主が部屋から溜息交じりに出てきた。だいたい明日の仕込みも終わっていたし丁度良い。
おい、と声をかけられてオレは不安げな表情をわざと作りながら顔を上げた。
「お前の部屋はそこだ」
それを聞いた瞬間、嘘ではない満面の笑みを浮かべる。
やったー! 衣食住ゲットー! さっきの自分よくやった!
オレの顔を見た家主は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに真顔に戻り、明日までにオレが尋ねたことを紙に書いておいてくれるって言ってくれた。そうそう、紙での誓約は大事ッスね。
「これからよろしくお願いしますね、キングスカラーさん」
「……レオナだ」
家主はふて腐れた表情で自分の名前を告げる。
いや、レオナって名前なのは知ってるけど。これは名字ではなく名前で呼べって事か?まあ、呼び方なんて何でも良いと思ってたし、レオナさんでいいか。
「改めて。よろしくお願いします、レオナさん」
にんまり笑顔で伝えれば、片方の口元を軽くあげた笑みを返される。そんな姿も見惚れるほど様になっているんだから、顔の良い人は良いッスね。
「明日は何時から授業あるんですか」
「……起こさなくていい」
「何時からですか?」
「夕方」
「小学生でも、もうちょいマシな嘘吐くんじゃないですかねー」
「うるせぇ。……一限からだ」
「んじゃ、飯食っても間に合うように起こしますね。食わないでその分寝る、はダメです。ちなみに、朝はがっつり食べたい方ですか?」
「食う」
「分かりました。がっつりなやつ作りますね」
荷物片付けてきます、と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた家主改めレオナさんにお辞儀をしてから、オレは与えられた部屋に移動したのだった。