1. ハウスキーパー開始
玄関の鍵は開いていたから、失礼しまーッス、と声をかけて中に入る。先程までの不機嫌さは完璧に消した。これも生き延びるために必要なスキルだ。相手の懐に入るためには殺気や怒気などは厳禁だった。
丁寧な所作で扉を開けると、広い玄関の壁に怠そうに寄りかかった家主がいた。
名前はレオナ・キングスカラー。ライオン族トップの次男坊でひとり暮らし中だ。大学生ってことしか知らなかったけど、顔が整ったイケメンで眼力が強い。怠そうにしてるのに、視線だけは捕食者の目だ。オレも肉食動物なんスけど、食われそう。
つうか、さっきの態度思い出すだけで腹が立つ。おくびにもださないけど、嫌な気持ちはずっとある。でも追い出されちゃ困るから挨拶しねーと。
「改めて、今日からお世話になるッ、て何すんスか! 苦しっ」
またしても俺の自己紹介を無視し、家主は俺の首根っこを掴むとキッチンへと放る。オレへの嫌がらせなのか、これは。初日から意味がわからなくて、咳込みながら涙目で家主を見上げる。目が合うと、家主はオレの名を呼んだ。
「ラギー、腹減った」
「……分かりました」
怒鳴りたい気持ちをぐっとこらえて、頑張って返事をしたオレ偉い。でも名乗ってないのに名前覚えてるところはさすがだ。雇用人の名前も覚えてないなんて最悪もいいところだし。
何を作るか考えていると、上から声が降ってくる。
「肉がいい」
「冷蔵庫の中、確認してから……って、なんもないんスけど!」
生活臭ゼロ。冷蔵庫の中にはミネラルウォーターや牛乳などの飲料しか入っていない。肉を錬成しろとでもいうんスかね。
「買ってくりゃいいだろ」
そうなんですけど、自己紹介もさせてもらえずこの家の勝手も分からず、買い物したくても食費も渡されてないんでどうしろと。オレは金ないし詰んだ。
「あの、お金は……」
おずおずと尋ねれば、ひょいと放られる財布。思わずキャッチしちゃったけど、今ポケットから出したよね。これ、家主の財布なのでは? 初対面のオレに財布預けるなんて無謀すぎる。金持ちの思考回路は分かんねー。
「そっから勝手に使え」
「はぁ……じゃあ、買い物に行ってくるッス」
また戻ってきたとき不機嫌に対応されんのかー、めんどくせーと思っていると名前を呼ばれた。
振り返ると、ほらよ、と家主が銀色のものを投げてきた。オレが手にしたのは鍵だ。
「今日からここに住むんだろ。持っとけ」
「えっと、アリガトウゴザイマス」
突然のことにカタコトになると笑われた。さっきからやることなすこと腹が立つ嫌な奴には変わりがないんだけど、その笑顔はなんだか優しく見える。
「無くすなよ?」
「無くしません」
高級マンションの最上階の鍵をなくすなんて恐ろしいこと誰がするか。
笑顔でいってきますと声をかけ、オレは家主の腹を満たす肉を買いに出掛けたのだった。
丁寧な所作で扉を開けると、広い玄関の壁に怠そうに寄りかかった家主がいた。
名前はレオナ・キングスカラー。ライオン族トップの次男坊でひとり暮らし中だ。大学生ってことしか知らなかったけど、顔が整ったイケメンで眼力が強い。怠そうにしてるのに、視線だけは捕食者の目だ。オレも肉食動物なんスけど、食われそう。
つうか、さっきの態度思い出すだけで腹が立つ。おくびにもださないけど、嫌な気持ちはずっとある。でも追い出されちゃ困るから挨拶しねーと。
「改めて、今日からお世話になるッ、て何すんスか! 苦しっ」
またしても俺の自己紹介を無視し、家主は俺の首根っこを掴むとキッチンへと放る。オレへの嫌がらせなのか、これは。初日から意味がわからなくて、咳込みながら涙目で家主を見上げる。目が合うと、家主はオレの名を呼んだ。
「ラギー、腹減った」
「……分かりました」
怒鳴りたい気持ちをぐっとこらえて、頑張って返事をしたオレ偉い。でも名乗ってないのに名前覚えてるところはさすがだ。雇用人の名前も覚えてないなんて最悪もいいところだし。
何を作るか考えていると、上から声が降ってくる。
「肉がいい」
「冷蔵庫の中、確認してから……って、なんもないんスけど!」
生活臭ゼロ。冷蔵庫の中にはミネラルウォーターや牛乳などの飲料しか入っていない。肉を錬成しろとでもいうんスかね。
「買ってくりゃいいだろ」
そうなんですけど、自己紹介もさせてもらえずこの家の勝手も分からず、買い物したくても食費も渡されてないんでどうしろと。オレは金ないし詰んだ。
「あの、お金は……」
おずおずと尋ねれば、ひょいと放られる財布。思わずキャッチしちゃったけど、今ポケットから出したよね。これ、家主の財布なのでは? 初対面のオレに財布預けるなんて無謀すぎる。金持ちの思考回路は分かんねー。
「そっから勝手に使え」
「はぁ……じゃあ、買い物に行ってくるッス」
また戻ってきたとき不機嫌に対応されんのかー、めんどくせーと思っていると名前を呼ばれた。
振り返ると、ほらよ、と家主が銀色のものを投げてきた。オレが手にしたのは鍵だ。
「今日からここに住むんだろ。持っとけ」
「えっと、アリガトウゴザイマス」
突然のことにカタコトになると笑われた。さっきからやることなすこと腹が立つ嫌な奴には変わりがないんだけど、その笑顔はなんだか優しく見える。
「無くすなよ?」
「無くしません」
高級マンションの最上階の鍵をなくすなんて恐ろしいこと誰がするか。
笑顔でいってきますと声をかけ、オレは家主の腹を満たす肉を買いに出掛けたのだった。