1. ハウスキーパー開始
これからは朝も昼も夜も一人で飯食べるのかーって思ってたけど、そんなこともなくなったし目の前で美味そうに食べてくれる人がいるのは嬉しい。作ったかいがある。
腹いっぱい飯が食えるって本当に幸せだなーと思いながら食べてたら、視線を感じて瞬間的に顔を上げる。まぁ、オレ以外にはレオナさんしかいないから、そのままレオナさんと目があったんだけど。
「野菜やっぱりダメでした?」
「これは食える」
やっぱり生野菜とかそのまんまの食感や味が嫌なのかな。もしくは野菜を草、そこら辺の雑草と思っているのかもしれない。お金持ちの考えは分かんねーや。
でも、どうもしたいのは野菜の話じゃないみたいだし、なんだろうと思いつつレオナさんの次の言葉を待っていたら笑われた。
「満面の笑みで飯食ってるやつ初めて見た」
「そうッス……やべ、そうですか」
あんまり優しく笑ってるから気が緩んで、いつもの口調に戻っちまった。やらかしたとバツの悪そうな顔をしていたら、更に笑われる。出会い頭に首根っこ掴んでキッチンに放り投げた人物と本当に同じだろうか。印象が違いすぎて扱いに困る。
レオナさんはどこか面白くなさそうな表情で告げる。眉間に皺が寄ってるし、イスの縁を叩く尻尾がバンバンと音を立ててうるさい。
「いつもの口調で話せばいいだろ。同じ家にいるのに堅苦しいのは息が詰まる」
「でも一応仕事場なんで……」
「俺の息が詰まる」
そう言うと、レオナさんはパスタを口へと運ぶ。その仕草はとてもキレイだ。思わず見惚れながら、オレはレオナさんが言いたいことを理解する。そういうことか。
多分、オレはこの人の近くにいることを許されたんだ。
同じ家に住むし、同じ釜の飯を食う。なんでそんなに一気に許されたのか分かんないけど、おそらくこの人は身内に甘いんだ。いきなりの身内認定にビックリする。普通初日に身内認定するかなー、しないよなー。
言いたいのは自分も好きにやるから、お前も家では好きにしろということなんだろうな。お優しいことで。
しばらくはここをオレの家って思っていいんスかね。仮の宿だけど、それは嬉しいなって思った。帰れる場所があるのは安心する。ここだけはオレの安全地帯。安全地帯をレオナさんがくれる。
だから、ほんの少しだけ歩み寄ることにした。初めは嫌なヤツって思ったけど、接してみればオレの料理を嬉しそうに食べてたり、意外とかわいい面もあるし。
「オレのいつもの口調って、多分そんなに変わんないッスよ」
「ここに来た時もそんな口調で話してただろ。買い物から帰ってきたら突然畏まってるからなんだコイツと思ってた」
頭に血が上っててすっかり忘れてたけど、確かにそうだった気がする。素で話してたな、あの時。でも動揺もするだろう、首根っこ掴まれて投げられたら。
「あー、あれは忘れて欲しいッス」
「キッチンに放りこんだときの表情は良かった」
「いや、そこは表情云々じゃなくって、初対面で突然キッチンに放り込まれたオレの気持ちを考えて欲しいんスけど」
くつくつと笑ってるレオナさんはとても楽しそうだ。やっぱり扉をくぐった時からずっと観察されてたんだな。
まあ、色々あったけどお眼鏡にかなったみたいだから良しとしよう。家主と険悪なのは最悪だし、円満な家庭じゃないけど毎日顔を合わせるなら仲が良いほうがいい。
レオナさんと少し縮まった距離にホッとしつつ、明日からの日々を思う。忙しくても飯が食えて、少しでも楽しく過ごせたら万々歳だ。
残っていたパスタを口に放り込んで、オレはシシシッと笑みを浮かべたのだった。
腹いっぱい飯が食えるって本当に幸せだなーと思いながら食べてたら、視線を感じて瞬間的に顔を上げる。まぁ、オレ以外にはレオナさんしかいないから、そのままレオナさんと目があったんだけど。
「野菜やっぱりダメでした?」
「これは食える」
やっぱり生野菜とかそのまんまの食感や味が嫌なのかな。もしくは野菜を草、そこら辺の雑草と思っているのかもしれない。お金持ちの考えは分かんねーや。
でも、どうもしたいのは野菜の話じゃないみたいだし、なんだろうと思いつつレオナさんの次の言葉を待っていたら笑われた。
「満面の笑みで飯食ってるやつ初めて見た」
「そうッス……やべ、そうですか」
あんまり優しく笑ってるから気が緩んで、いつもの口調に戻っちまった。やらかしたとバツの悪そうな顔をしていたら、更に笑われる。出会い頭に首根っこ掴んでキッチンに放り投げた人物と本当に同じだろうか。印象が違いすぎて扱いに困る。
レオナさんはどこか面白くなさそうな表情で告げる。眉間に皺が寄ってるし、イスの縁を叩く尻尾がバンバンと音を立ててうるさい。
「いつもの口調で話せばいいだろ。同じ家にいるのに堅苦しいのは息が詰まる」
「でも一応仕事場なんで……」
「俺の息が詰まる」
そう言うと、レオナさんはパスタを口へと運ぶ。その仕草はとてもキレイだ。思わず見惚れながら、オレはレオナさんが言いたいことを理解する。そういうことか。
多分、オレはこの人の近くにいることを許されたんだ。
同じ家に住むし、同じ釜の飯を食う。なんでそんなに一気に許されたのか分かんないけど、おそらくこの人は身内に甘いんだ。いきなりの身内認定にビックリする。普通初日に身内認定するかなー、しないよなー。
言いたいのは自分も好きにやるから、お前も家では好きにしろということなんだろうな。お優しいことで。
しばらくはここをオレの家って思っていいんスかね。仮の宿だけど、それは嬉しいなって思った。帰れる場所があるのは安心する。ここだけはオレの安全地帯。安全地帯をレオナさんがくれる。
だから、ほんの少しだけ歩み寄ることにした。初めは嫌なヤツって思ったけど、接してみればオレの料理を嬉しそうに食べてたり、意外とかわいい面もあるし。
「オレのいつもの口調って、多分そんなに変わんないッスよ」
「ここに来た時もそんな口調で話してただろ。買い物から帰ってきたら突然畏まってるからなんだコイツと思ってた」
頭に血が上っててすっかり忘れてたけど、確かにそうだった気がする。素で話してたな、あの時。でも動揺もするだろう、首根っこ掴まれて投げられたら。
「あー、あれは忘れて欲しいッス」
「キッチンに放りこんだときの表情は良かった」
「いや、そこは表情云々じゃなくって、初対面で突然キッチンに放り込まれたオレの気持ちを考えて欲しいんスけど」
くつくつと笑ってるレオナさんはとても楽しそうだ。やっぱり扉をくぐった時からずっと観察されてたんだな。
まあ、色々あったけどお眼鏡にかなったみたいだから良しとしよう。家主と険悪なのは最悪だし、円満な家庭じゃないけど毎日顔を合わせるなら仲が良いほうがいい。
レオナさんと少し縮まった距離にホッとしつつ、明日からの日々を思う。忙しくても飯が食えて、少しでも楽しく過ごせたら万々歳だ。
残っていたパスタを口に放り込んで、オレはシシシッと笑みを浮かべたのだった。