《第17話》オンセン。
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その日の夜。
旅行の予約画面を見ながら、薫が嬉しそうに声を上げた。
「ユウ!」
「ん?」
「来週で予約取れた!」
神田がノートパソコンを覗き込む。
「どこだ。」
「岩手県!」
「岩手」
「花巻温泉!」
神田は画面を見て頷く。
「花巻か」
「キャンセルが出たみたいで、奇跡的に空いてた!」
「運がいいな」
「うん!」
薫はもう旅行気分だ。
「ユウ、岩手行ったことある?」
「ない」
「私も盛岡しか行ったことないなあ」
神田が首を傾ける。
「なんで盛岡?」
「買い物」
「買い物?」
「服とか映画とか」
神田はじっと薫を見る。
「……待て」
「ん?」
「お前、出身どこだ?」
薫がきょとんとする。
「青森県だよ」
少し考えて。
「……言ってなかったっけ?」
「聞いてない」
神田は即答。
薫は「あれ?」という顔をしたあと、笑い出した。
「じゃあ今言った!」
「今初めて聞いた」
神田も思わず笑う。
「青森市か?」
「ううん」
薫はテーブルの上で握りこぶしを作る。
「これ青森県ね」
「……」
神田は黙って見る。
薫は握りこぶしの右下あたりを人差し指でちょんと指した。
「この辺!」
「右下」
「そう!」
「八戸の方か」
「正解!」
薫が嬉しそうに頷く。
「だからね」
スマホで地図を開く。
「盛岡の方が近いの」
神田も地図を見ながら納得する。
「ああ」
「青森って聞くと北のイメージだが」
「そうそう」
「私の実家からだと、盛岡に買い物行く方が普通だった」
「なるほどな」
神田は少し笑う。
「お前のこと、まだ知らないことあるな」
薫も笑う。
「いっぱいあるよ?」
「例えば」
「青森の話とか」
「聞きたい」
「りんごだけじゃないんだから」
「知ってる」
「せんべい汁とか」
「食べてみたい」
「イガメンチとか」
「それも」
「にんにくも有名だし」
神田が頷く。
「旅行終わったら、今度は青森も行くか」
薫の目がぱっと輝く。
「ほんと?」
「ああ」
「実家の近く案内したい!」
「頼む」
薫は嬉しそうに笑った。
「じゃあまずは花巻温泉!」
「その次は青森!」
神田も小さく笑う。
「予定が増えたな。」
「うん!」
旅行の計画を立てながら薫は地図アプリを神田へ見せる。
「ここが実家のある辺り」
神田は頷く。
「結構南なんだな」
「だから盛岡まで買い物行ってたの」
「納得した」
薫はにこにこしながら言う。
「ところで」
「ん?」
「青森は私の実家?」
「…………」
神田の手が止まる。
「実家近く案内したいよ?」
「…………」
しばらく沈黙。
薫が顔を覗き込む。
「ねえ、ユウ。」
神田は頭をかいた。
「いきなり実家は、ハードル高くないか」
「え?」
薫はきょとん。
「大丈夫!」
にこっと笑う。
「うち、お父さんとおばあちゃんしか住んでないし!」
神田はその言葉に引っかかる。
「……お袋さんは?」
薫はいつも通りの調子で答えた。
「小学校上がる前に死んでるー」
ケロッとしている。
「だから父子家庭だよー」
神田の表情が固まった。
「……は?」
「ん?」
「そんなサラッと言うことじゃないだろ」
薫は首を傾ける。
「そう?だって、いないものはいないし」
少し笑って肩をすくめる。
「小さい頃のことだから、あんまり覚えてないんだよね」
神田は何も言えなかった。
いつも明るく笑っている薫から、そんな過去が出てくるとは思っていなかった。
「……」
薫は空気が重くなったことに気付いて、慌てて笑う。
「ほらほら、暗い話じゃないよ!お父さんがすっごく頑張って育ててくれたし、おばあちゃんもいたし!みんな死んじゃったけど、おじいちゃんもひいじいひいばあもいたんだよ?!」
少し置いて。
「だから私、寂しいってあんまり思ったことなくて」
神田は静かに薫を見る。
その笑顔が無理をしているわけではないことも分かった。
だからこそ、胸が少し締め付けられた。
やがて小さく息をつく。
「……今度は」
「?」
「お前の実家、行くか」
薫の目が一瞬で輝いた。
「本当!?」
目をきらきらさせて身を乗り出す。
「お父さん喜ぶ!」
「おばあちゃんも!」
「絶対『ご飯食べてけ』っていっぱい作る!」
神田は思わず笑う。
「そうか。」
「ユウ紹介したい!」
薫は嬉しそうに神田の腕に抱きつく。
「ありがとう!」
神田は照れくさそうに視線を逸らしながらも、その手をそっと握り返した。
「……まだ彼氏として挨拶だからな」
「うん!」
「でも」
薫は満面の笑みで頷く。
「それでも、すっごく嬉しい!」
旅行の計画と、薫の実家訪問の計画が密かに動き出していた。
旅行の予約画面を見ながら、薫が嬉しそうに声を上げた。
「ユウ!」
「ん?」
「来週で予約取れた!」
神田がノートパソコンを覗き込む。
「どこだ。」
「岩手県!」
「岩手」
「花巻温泉!」
神田は画面を見て頷く。
「花巻か」
「キャンセルが出たみたいで、奇跡的に空いてた!」
「運がいいな」
「うん!」
薫はもう旅行気分だ。
「ユウ、岩手行ったことある?」
「ない」
「私も盛岡しか行ったことないなあ」
神田が首を傾ける。
「なんで盛岡?」
「買い物」
「買い物?」
「服とか映画とか」
神田はじっと薫を見る。
「……待て」
「ん?」
「お前、出身どこだ?」
薫がきょとんとする。
「青森県だよ」
少し考えて。
「……言ってなかったっけ?」
「聞いてない」
神田は即答。
薫は「あれ?」という顔をしたあと、笑い出した。
「じゃあ今言った!」
「今初めて聞いた」
神田も思わず笑う。
「青森市か?」
「ううん」
薫はテーブルの上で握りこぶしを作る。
「これ青森県ね」
「……」
神田は黙って見る。
薫は握りこぶしの右下あたりを人差し指でちょんと指した。
「この辺!」
「右下」
「そう!」
「八戸の方か」
「正解!」
薫が嬉しそうに頷く。
「だからね」
スマホで地図を開く。
「盛岡の方が近いの」
神田も地図を見ながら納得する。
「ああ」
「青森って聞くと北のイメージだが」
「そうそう」
「私の実家からだと、盛岡に買い物行く方が普通だった」
「なるほどな」
神田は少し笑う。
「お前のこと、まだ知らないことあるな」
薫も笑う。
「いっぱいあるよ?」
「例えば」
「青森の話とか」
「聞きたい」
「りんごだけじゃないんだから」
「知ってる」
「せんべい汁とか」
「食べてみたい」
「イガメンチとか」
「それも」
「にんにくも有名だし」
神田が頷く。
「旅行終わったら、今度は青森も行くか」
薫の目がぱっと輝く。
「ほんと?」
「ああ」
「実家の近く案内したい!」
「頼む」
薫は嬉しそうに笑った。
「じゃあまずは花巻温泉!」
「その次は青森!」
神田も小さく笑う。
「予定が増えたな。」
「うん!」
旅行の計画を立てながら薫は地図アプリを神田へ見せる。
「ここが実家のある辺り」
神田は頷く。
「結構南なんだな」
「だから盛岡まで買い物行ってたの」
「納得した」
薫はにこにこしながら言う。
「ところで」
「ん?」
「青森は私の実家?」
「…………」
神田の手が止まる。
「実家近く案内したいよ?」
「…………」
しばらく沈黙。
薫が顔を覗き込む。
「ねえ、ユウ。」
神田は頭をかいた。
「いきなり実家は、ハードル高くないか」
「え?」
薫はきょとん。
「大丈夫!」
にこっと笑う。
「うち、お父さんとおばあちゃんしか住んでないし!」
神田はその言葉に引っかかる。
「……お袋さんは?」
薫はいつも通りの調子で答えた。
「小学校上がる前に死んでるー」
ケロッとしている。
「だから父子家庭だよー」
神田の表情が固まった。
「……は?」
「ん?」
「そんなサラッと言うことじゃないだろ」
薫は首を傾ける。
「そう?だって、いないものはいないし」
少し笑って肩をすくめる。
「小さい頃のことだから、あんまり覚えてないんだよね」
神田は何も言えなかった。
いつも明るく笑っている薫から、そんな過去が出てくるとは思っていなかった。
「……」
薫は空気が重くなったことに気付いて、慌てて笑う。
「ほらほら、暗い話じゃないよ!お父さんがすっごく頑張って育ててくれたし、おばあちゃんもいたし!みんな死んじゃったけど、おじいちゃんもひいじいひいばあもいたんだよ?!」
少し置いて。
「だから私、寂しいってあんまり思ったことなくて」
神田は静かに薫を見る。
その笑顔が無理をしているわけではないことも分かった。
だからこそ、胸が少し締め付けられた。
やがて小さく息をつく。
「……今度は」
「?」
「お前の実家、行くか」
薫の目が一瞬で輝いた。
「本当!?」
目をきらきらさせて身を乗り出す。
「お父さん喜ぶ!」
「おばあちゃんも!」
「絶対『ご飯食べてけ』っていっぱい作る!」
神田は思わず笑う。
「そうか。」
「ユウ紹介したい!」
薫は嬉しそうに神田の腕に抱きつく。
「ありがとう!」
神田は照れくさそうに視線を逸らしながらも、その手をそっと握り返した。
「……まだ彼氏として挨拶だからな」
「うん!」
「でも」
薫は満面の笑みで頷く。
「それでも、すっごく嬉しい!」
旅行の計画と、薫の実家訪問の計画が密かに動き出していた。