《第16話》キョウジ。
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3日目・講習終了後 応接室
3日間の講習が終わり、社長と薫、神田、専務が立ち話をしていた。
専務が薫へ向き直る。
「薫さん」
「はい」
「食事でもどうですか?」
薫は一瞬だけ困ったように笑う。
「お気持ちは嬉しいのですが……」
神田が静かに口を開く。
「専務」
「何です?」
「3日間、何を習っていたんですか」
専務は少しむっとする。
「初日より先生のこと知ってます!」
胸を張る。
「趣味も好きな食べ物も聞いたし!」
薫は苦笑い。
「ですので、食事に行きましょう」
「……」
「ダメなら連絡先だけでも」
薫は返答に困ってしまう。
その様子を見た神田が、落ち着いた声で言う。
「専務」
「だから何?」
「相手を困らせてはいけません」
専務は神田を見る。
「お前には関係ないだろ」
空気が少し張る。
薫が慌てて口を開こうとした、その時。
専務はもう一度薫へ向き直る。
「あの、薫さん」
「はい」
「食事、行ってくれる気になった?」
期待に満ちた笑顔。
薫は申し訳なさそうに微笑んだ。
「私、お付き合いしている方がいるんです」
「付き合ってるだけでしょ?」
専務はあっさり言う。
「俺は気にしないよ」
薫は静かに首を横に振る。
「相手の方は気にすると思います」
「黙ってれば分かんないって」
「……」
薫は言葉に詰まる。
「ね、食事行こうよ」
社長もさすがに眉をひそめる。
神田は黙って薫を見る。
薫は少し考えてから、小さく頷いた。
「……相手に許可を取ってもいいですか?」
専務は笑う。
「いいよ」
「仕事相手の会社の人と食事って言っとけばいいだろ」
薫は「分かりました」と頷くと、神田の方へ向き直った。
「だそうですけど」
少し首を傾けて。
「食事してきてもいい? ユウ」
一瞬。
部屋中の空気が止まった。
専務が固まる。
「……は?」
ゆっくり神田を見る。
「ユウ?」
社長は吹き出しそうになるのを必死にこらえている。
神田は表情一つ変えずに薫を見た。
「嫌だ」
即答。
「却下」
薫は小さく笑う。
「だよね」
専務はふたりを交互に見た。
「……え?ユウ?え?」
社長がとうとう笑い出した。
「はっはっはっ!」
専務はまだ理解できていない。
「え、何?どういうこと?」
社長が肩を震わせながら言う。
「紹介してなかったな」
神田が静かに口を開く。
「俺」
一拍置いて。
「こいつと付き合ってます」
「…………」
専務の思考が止まる。
「……え?」
沈黙の時間。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
社長室に絶叫が響いた。
専務は口を開けたまま、言葉が出ない。
「……」
神田と薫を交互に見る。
「……」
何か言おうとして口を開く。
「は……」
閉じる。
また開く。
「なん……」
完全に口だけがぱくぱくしている。
薫は申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
「ダメとのことでしたので……。」
神田をちらりと見て。
「お食事は申し訳ございません」
神田は短く頷く。
「行かせない」
専務はようやく声を絞り出した。
「いやいやいやいや!」
頭を抱える。
「親父!」
社長を見る。
「知ってたの!?」
社長は平然とお茶を飲む。
「ああ。」
「えぇぇ!?」
「クロスに紹介されてた」
「紹介……?」
「『3日目はうちの営業エースを送る。薫の恋人だ』とな。」
専務はゆっくり神田を見る。
「営業エースって……彼氏だったの!?」
神田は淡々と答える。
「そうだ」
専務はその場で膝から崩れ落ちそうになる。
「先に言ってよぉ……」
頭を抱えてしゃがみ込む。
「だから全力で口説いてたじゃん俺!」
社長が呆れたように言う。
「初日に『嫁候補?』と言った時点で、お前は止まらなかっただろ」
「……否定できない」
薫が苦笑する。
「申し訳ありません」
専務は勢いよく顔を上げた。
「いや!先生は悪くない!」
「え?」
「俺が勝手に勘違いして勝手に口説いてただけだし!」
神田が静かに口を開く。
「一つ」
専務は反射的に姿勢を正す。
「はい」
「今日の出来なら分かるはずだ。」
「?」
「相手が断っている以上、引く」
専務は数秒黙る。
それから苦笑した。
「……はい」
深く頭を下げる。
「すみませんでした、先生」
薫も微笑みながら頭を下げ返した。
「お気になさらないでください」
「3日間、本当に勉強になりました」
専務は神田へ向き直る。
「神田さん」
「なんだ」
「……彼女さん、大事にしてください」
神田は一瞬だけ薫を見る。
「ああ」
その短い返事だけで十分だった。
専務は肩をすくめて笑う。
「勝てる気しないわ」
社長は豪快に笑った。
「はっはっはっ!」
「これで少しは人の恋路に割り込むもんじゃないって身に染みたか?」
専務は照れくさそうに頭をかいた。
「……はい」
「人生で一番身に染みました」
3日間の講習が終わり、社長と薫、神田、専務が立ち話をしていた。
専務が薫へ向き直る。
「薫さん」
「はい」
「食事でもどうですか?」
薫は一瞬だけ困ったように笑う。
「お気持ちは嬉しいのですが……」
神田が静かに口を開く。
「専務」
「何です?」
「3日間、何を習っていたんですか」
専務は少しむっとする。
「初日より先生のこと知ってます!」
胸を張る。
「趣味も好きな食べ物も聞いたし!」
薫は苦笑い。
「ですので、食事に行きましょう」
「……」
「ダメなら連絡先だけでも」
薫は返答に困ってしまう。
その様子を見た神田が、落ち着いた声で言う。
「専務」
「だから何?」
「相手を困らせてはいけません」
専務は神田を見る。
「お前には関係ないだろ」
空気が少し張る。
薫が慌てて口を開こうとした、その時。
専務はもう一度薫へ向き直る。
「あの、薫さん」
「はい」
「食事、行ってくれる気になった?」
期待に満ちた笑顔。
薫は申し訳なさそうに微笑んだ。
「私、お付き合いしている方がいるんです」
「付き合ってるだけでしょ?」
専務はあっさり言う。
「俺は気にしないよ」
薫は静かに首を横に振る。
「相手の方は気にすると思います」
「黙ってれば分かんないって」
「……」
薫は言葉に詰まる。
「ね、食事行こうよ」
社長もさすがに眉をひそめる。
神田は黙って薫を見る。
薫は少し考えてから、小さく頷いた。
「……相手に許可を取ってもいいですか?」
専務は笑う。
「いいよ」
「仕事相手の会社の人と食事って言っとけばいいだろ」
薫は「分かりました」と頷くと、神田の方へ向き直った。
「だそうですけど」
少し首を傾けて。
「食事してきてもいい? ユウ」
一瞬。
部屋中の空気が止まった。
専務が固まる。
「……は?」
ゆっくり神田を見る。
「ユウ?」
社長は吹き出しそうになるのを必死にこらえている。
神田は表情一つ変えずに薫を見た。
「嫌だ」
即答。
「却下」
薫は小さく笑う。
「だよね」
専務はふたりを交互に見た。
「……え?ユウ?え?」
社長がとうとう笑い出した。
「はっはっはっ!」
専務はまだ理解できていない。
「え、何?どういうこと?」
社長が肩を震わせながら言う。
「紹介してなかったな」
神田が静かに口を開く。
「俺」
一拍置いて。
「こいつと付き合ってます」
「…………」
専務の思考が止まる。
「……え?」
沈黙の時間。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
社長室に絶叫が響いた。
専務は口を開けたまま、言葉が出ない。
「……」
神田と薫を交互に見る。
「……」
何か言おうとして口を開く。
「は……」
閉じる。
また開く。
「なん……」
完全に口だけがぱくぱくしている。
薫は申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
「ダメとのことでしたので……。」
神田をちらりと見て。
「お食事は申し訳ございません」
神田は短く頷く。
「行かせない」
専務はようやく声を絞り出した。
「いやいやいやいや!」
頭を抱える。
「親父!」
社長を見る。
「知ってたの!?」
社長は平然とお茶を飲む。
「ああ。」
「えぇぇ!?」
「クロスに紹介されてた」
「紹介……?」
「『3日目はうちの営業エースを送る。薫の恋人だ』とな。」
専務はゆっくり神田を見る。
「営業エースって……彼氏だったの!?」
神田は淡々と答える。
「そうだ」
専務はその場で膝から崩れ落ちそうになる。
「先に言ってよぉ……」
頭を抱えてしゃがみ込む。
「だから全力で口説いてたじゃん俺!」
社長が呆れたように言う。
「初日に『嫁候補?』と言った時点で、お前は止まらなかっただろ」
「……否定できない」
薫が苦笑する。
「申し訳ありません」
専務は勢いよく顔を上げた。
「いや!先生は悪くない!」
「え?」
「俺が勝手に勘違いして勝手に口説いてただけだし!」
神田が静かに口を開く。
「一つ」
専務は反射的に姿勢を正す。
「はい」
「今日の出来なら分かるはずだ。」
「?」
「相手が断っている以上、引く」
専務は数秒黙る。
それから苦笑した。
「……はい」
深く頭を下げる。
「すみませんでした、先生」
薫も微笑みながら頭を下げ返した。
「お気になさらないでください」
「3日間、本当に勉強になりました」
専務は神田へ向き直る。
「神田さん」
「なんだ」
「……彼女さん、大事にしてください」
神田は一瞬だけ薫を見る。
「ああ」
その短い返事だけで十分だった。
専務は肩をすくめて笑う。
「勝てる気しないわ」
社長は豪快に笑った。
「はっはっはっ!」
「これで少しは人の恋路に割り込むもんじゃないって身に染みたか?」
専務は照れくさそうに頭をかいた。
「……はい」
「人生で一番身に染みました」