《第13話》ノミカイ。
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「そこまで言われると――」
一人の社長が興味深そうに笑う。
「相手の方も一度お会いしてみたいですね。」
別の社長も頷いた。
「営業部のエースなんでしょう?仕事ぶりも気になります」
クロスはグラスを揺らしながら口角を上げる。
「見るか?ちょうどいい」
「今度、商談でもどうですか」
その一言で、場の空気が切り替わる。
「おお、それはいいな。ぜひお願いしたい」
「うちも新規案件の相談をしたかったところなんですよ」
薫もすぐに仕事モードへ切り替える。
「でしたら、日程を調整いたします」
バッグから手帳を取り出し、慣れた手つきでページを開く。
「来週でしたら火曜日と木曜日の午後に社長のお時間を確保できます」
「営業担当の予定も確認のうえ、ご連絡いたします」
「助かります」
相手の社長が名刺を差し出す。
薫は両手で丁寧に受け取り、一礼した。
「ありがとうございます。後日、正式にご連絡いたします」
クロスはその様子を横目で見ながら笑う。
「こういうところが仕事できるんだ」
「俺は日程なんか覚えてねぇ。だから秘書がいる」
社長たちも納得したように頷く。
「なるほど」
「営業部のエースと、優秀な秘書」
「クロス社長の会社が強い理由が分かります」
クロスは短く笑った。
「営業は営業で優秀だ。秘書は秘書で優秀。俺はその二人を使ってるだけだ」
薫はすかさず訂正する。
「『使っている』ではなく、『任せていただいている』です」
「細けぇな」
「大事なところです」
そのやり取りに、社長たちは笑いながらも、「この会社は社長だけでなく、支える人材も一流だ」と改めて感じていた。
翌朝。
営業部のフロアはいつも通り賑やかだった。
「神田」
営業部長が一枚の資料を差し出す。
「大型案件だ」
神田が受け取り、目を通した瞬間、眉がわずかに動く。
「……俺指名?」
「そうなんだよ」
部長も首を傾ける。
「先方から『営業担当は神田さんでお願いします』って名指しで連絡が来た」
営業部がざわつく。
「え、神田さん指名?」
「でかい案件じゃん」
「なんで急に?」
ラビが資料を覗き込みながら笑う。
「どういうことさ?」
神田も心当たりがない。
「知らねぇ」
その時だった。
コンコン、と営業部のドアがノックされる。
全員が振り向く。
「失礼します」
薫が営業部へ入ってくる。
「あ、女神」
「おはようございます」
薫は神田のデスクの前まで来ると、営業部全員が見ていることに気付き、少し苦笑した。
「昨日の社外パーティのお話です」
「昨日?」
ラビが身を乗り出す。
「昨日、社長が他社の社長様方とお話ししていた際に……」
神田を見る。
「営業部のエースがいる、と神田さんをご紹介していました」
営業部が一斉に神田を見る。
「は?」
ヒロインは続ける。
「『一度仕事ぶりを見てみたい』というお話になりまして。社長が『今度商談でもどうですか』と。その結果が、この案件です」
営業部固まる。
「…………」
沈黙。
ラビが神田を見て口を開く。
「つまり。社長が営業部のエースって売り込んできたってこと?」
「そういうことになります」
「マジか」
神田は資料を見つめたまま、小さく息をつく。
「……勝手に話進めやがって」
ヒロインは少しだけ笑う。
「社長らしいですよね。………ちなみに、」
営業部全員がまたヒロインを見る。
「社長は神田さんのことを『仕事はできる』と、とても高く評価されていました」
ラビがニヤニヤし始める。
「へぇ〜。営業部のエースだってさ」
神田は居心地悪そうに頭をかく。
「……そういうの本人の前で言うな」
「ご本人がいないところでおっしゃっていたので、ご報告だけ」
営業部はざわつきながらも、社長自ら営業部員を外部へ推薦したことに驚きを隠せなかった。
神田は資料を閉じる。
「……まあ。仕事なら、期待には応える。」
その一言に、営業部の空気が引き締まった。
数日後。
神田は資料を抱え、先方企業の会議室へ入る。
大型案件。
相手は役員クラスとの打ち合わせと聞いていた。
「本日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
商談が始まる。
神田は相手の要望を聞きながら、その場で条件を整理し、メリットとリスクを明確に提示する。
質問にも迷いなく答え、必要な数字はすぐに資料から示す。
相手の役員たちも何度も頷いていた。
約一時間後。
「本日はありがとうございました」
「こちらこそ、非常に有意義なお話でした」
双方が立ち上がる。
そのとき、会議室の扉が開いた。
中へ入ってきたのは、この会社の社長だった。
神田は軽く一礼する。
「失礼します」
社長は神田の顔を見るなり、にこりと笑った。
「お疲れさま。商談の様子は聞かせてもらったよ。」
神田が会釈すると、社長は感心したように言う。
「噂どおり、仕事ができるね。」
神田は少し首を傾げた。
「……噂?」
社長は「あれ?」という顔をした。
「聞いてないのか。君。」
少し笑って続ける。
「薫さんの恋人なんだろう?」
神田の表情が一瞬だけ止まる。
「……」
社長はその反応に苦笑した。
「やっぱり本人には伝わってなかったか。」
社長は続ける。
「先日のパーティでね。クロス社長が、君のことを『営業部のエース』だと紹介してくれたんだ。それで、ぜひ一度仕事を見てみたいと思って。」
役員たちも笑顔で頷く。
「実際にお会いして納得しました」
「説明も分かりやすいですし、判断も早い」
「安心してお任せできそうです」
神田は照れたように後頭部をかいた。
「……ありがとうございます」
社長はさらに笑みを深める。
「それと。薫さん。とても魅力的な方だね」
神田は小さく笑う。
「……そうですね」
「自慢の恋人でしょう?」
神田は短く答えた。
「ええ」
その一言には、照れはあっても迷いはなかった。
社長は満足そうに頷く。
「仕事もできる営業担当と、優秀な秘書。クロス社長が誇らしげに話す理由が、よく分かったよ」
神田は一礼すると、
「今後ともよろしくお願いいたします」
とだけ告げ、静かに会議室を後にした。
一人の社長が興味深そうに笑う。
「相手の方も一度お会いしてみたいですね。」
別の社長も頷いた。
「営業部のエースなんでしょう?仕事ぶりも気になります」
クロスはグラスを揺らしながら口角を上げる。
「見るか?ちょうどいい」
「今度、商談でもどうですか」
その一言で、場の空気が切り替わる。
「おお、それはいいな。ぜひお願いしたい」
「うちも新規案件の相談をしたかったところなんですよ」
薫もすぐに仕事モードへ切り替える。
「でしたら、日程を調整いたします」
バッグから手帳を取り出し、慣れた手つきでページを開く。
「来週でしたら火曜日と木曜日の午後に社長のお時間を確保できます」
「営業担当の予定も確認のうえ、ご連絡いたします」
「助かります」
相手の社長が名刺を差し出す。
薫は両手で丁寧に受け取り、一礼した。
「ありがとうございます。後日、正式にご連絡いたします」
クロスはその様子を横目で見ながら笑う。
「こういうところが仕事できるんだ」
「俺は日程なんか覚えてねぇ。だから秘書がいる」
社長たちも納得したように頷く。
「なるほど」
「営業部のエースと、優秀な秘書」
「クロス社長の会社が強い理由が分かります」
クロスは短く笑った。
「営業は営業で優秀だ。秘書は秘書で優秀。俺はその二人を使ってるだけだ」
薫はすかさず訂正する。
「『使っている』ではなく、『任せていただいている』です」
「細けぇな」
「大事なところです」
そのやり取りに、社長たちは笑いながらも、「この会社は社長だけでなく、支える人材も一流だ」と改めて感じていた。
翌朝。
営業部のフロアはいつも通り賑やかだった。
「神田」
営業部長が一枚の資料を差し出す。
「大型案件だ」
神田が受け取り、目を通した瞬間、眉がわずかに動く。
「……俺指名?」
「そうなんだよ」
部長も首を傾ける。
「先方から『営業担当は神田さんでお願いします』って名指しで連絡が来た」
営業部がざわつく。
「え、神田さん指名?」
「でかい案件じゃん」
「なんで急に?」
ラビが資料を覗き込みながら笑う。
「どういうことさ?」
神田も心当たりがない。
「知らねぇ」
その時だった。
コンコン、と営業部のドアがノックされる。
全員が振り向く。
「失礼します」
薫が営業部へ入ってくる。
「あ、女神」
「おはようございます」
薫は神田のデスクの前まで来ると、営業部全員が見ていることに気付き、少し苦笑した。
「昨日の社外パーティのお話です」
「昨日?」
ラビが身を乗り出す。
「昨日、社長が他社の社長様方とお話ししていた際に……」
神田を見る。
「営業部のエースがいる、と神田さんをご紹介していました」
営業部が一斉に神田を見る。
「は?」
ヒロインは続ける。
「『一度仕事ぶりを見てみたい』というお話になりまして。社長が『今度商談でもどうですか』と。その結果が、この案件です」
営業部固まる。
「…………」
沈黙。
ラビが神田を見て口を開く。
「つまり。社長が営業部のエースって売り込んできたってこと?」
「そういうことになります」
「マジか」
神田は資料を見つめたまま、小さく息をつく。
「……勝手に話進めやがって」
ヒロインは少しだけ笑う。
「社長らしいですよね。………ちなみに、」
営業部全員がまたヒロインを見る。
「社長は神田さんのことを『仕事はできる』と、とても高く評価されていました」
ラビがニヤニヤし始める。
「へぇ〜。営業部のエースだってさ」
神田は居心地悪そうに頭をかく。
「……そういうの本人の前で言うな」
「ご本人がいないところでおっしゃっていたので、ご報告だけ」
営業部はざわつきながらも、社長自ら営業部員を外部へ推薦したことに驚きを隠せなかった。
神田は資料を閉じる。
「……まあ。仕事なら、期待には応える。」
その一言に、営業部の空気が引き締まった。
数日後。
神田は資料を抱え、先方企業の会議室へ入る。
大型案件。
相手は役員クラスとの打ち合わせと聞いていた。
「本日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
商談が始まる。
神田は相手の要望を聞きながら、その場で条件を整理し、メリットとリスクを明確に提示する。
質問にも迷いなく答え、必要な数字はすぐに資料から示す。
相手の役員たちも何度も頷いていた。
約一時間後。
「本日はありがとうございました」
「こちらこそ、非常に有意義なお話でした」
双方が立ち上がる。
そのとき、会議室の扉が開いた。
中へ入ってきたのは、この会社の社長だった。
神田は軽く一礼する。
「失礼します」
社長は神田の顔を見るなり、にこりと笑った。
「お疲れさま。商談の様子は聞かせてもらったよ。」
神田が会釈すると、社長は感心したように言う。
「噂どおり、仕事ができるね。」
神田は少し首を傾げた。
「……噂?」
社長は「あれ?」という顔をした。
「聞いてないのか。君。」
少し笑って続ける。
「薫さんの恋人なんだろう?」
神田の表情が一瞬だけ止まる。
「……」
社長はその反応に苦笑した。
「やっぱり本人には伝わってなかったか。」
社長は続ける。
「先日のパーティでね。クロス社長が、君のことを『営業部のエース』だと紹介してくれたんだ。それで、ぜひ一度仕事を見てみたいと思って。」
役員たちも笑顔で頷く。
「実際にお会いして納得しました」
「説明も分かりやすいですし、判断も早い」
「安心してお任せできそうです」
神田は照れたように後頭部をかいた。
「……ありがとうございます」
社長はさらに笑みを深める。
「それと。薫さん。とても魅力的な方だね」
神田は小さく笑う。
「……そうですね」
「自慢の恋人でしょう?」
神田は短く答えた。
「ええ」
その一言には、照れはあっても迷いはなかった。
社長は満足そうに頷く。
「仕事もできる営業担当と、優秀な秘書。クロス社長が誇らしげに話す理由が、よく分かったよ」
神田は一礼すると、
「今後ともよろしくお願いいたします」
とだけ告げ、静かに会議室を後にした。