《第11話》キンム。
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その日。
社内は朝から慌ただしかった。
「社長案件の資料です!」
秘書課に緊張が走る。
「……あっ。」
薫が一枚めくって固まる。
「数字違う!」
「営業部ですぐ修正!」
書類を抱え、そのまま営業部へ走る。
「神田さん!」
営業部の社員たちも慌てる。
「ここ、修正お願いします!」
神田は受け取るなり内容を確認していく。
「……すぐ直す」
営業部が一斉に動き始める。
「できた」
修正版が出力される。
「確認」
神田が最終チェックを始め、薫は横でそわそわ。
(時間ない時間ない時間ない……!)
神田が頷く。
「問題ない」
その瞬間だった。
焦っていた薫が、いつもの家での調子のままやってしまう。
「ユウ、これお願い!」
営業部。
…………。
キーボードを打つ音が止まる。
コピー機の音だけが響く。
全員がゆっくり振り向く。
「……。」
「……。」
「……ユウ?」
営業部長も固まってこちらを見ている。
「……ユウ???」
後輩はだれ?という顔。
「え?」
同期は神田の下の名前を知っているからこそ、驚く。
「今……ユウって……?」
営業部の空気が凍る。
薫は何も言えず黙り込んでしまう。
「…………」
両手で口を押さえそうになるのを必死で堪え、心の中だけで絶叫。
(やっちゃったあああああああ!!)
視線だけ神田へ向けると
「…………」
片手で額を押さえている。
深いため息。
終わった、という顔。
薫は何事もなかったかのように。
「では失礼します!」
ぺこりと頭を下げ、営業部を後にする。
そのまま早歩き。
早歩き。
さらに早歩き。
薫はほぼ小走りで営業部を出る。
営業部の扉が閉まる。
数秒後。
「……神田さん」
「……なんだ」
「今の」
「聞いた」
「ユウ?」
「……」
「名前で呼ぶなんて彼女だけですよね」
神田はもう隠す気もなく、小さく息を吐く。
「……そうだ」
営業部。
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」
一方その頃、秘書課。
社長へ書類を届け終わった薫は、自分の席へ戻るなり、デスクに額をこつんと落とす。
「終わった……」
隣の先輩秘書。
「どうしたの?」
「……なんでもないです」
「顔真っ赤だけど?」
「なんでもないです……」
その30分後には営業部から秘書課へ情報が伝わった。
社内の情報網の速さがこんな時は嫌になる。
昼休みには社内中で、
「神田さんのことを『ユウ』って呼ぶ人がいるらしい」
という話題が駆け巡っていた。
そんな昼休み。
秘書課はいつも以上にざわついていた。
「ねえ」
秘書課の先輩が薫のデスクへ寄ってくる。
営業部のエース・魔王、神田に密かに憧れていることで有名な人だ。
「さっき営業部から聞いたんだけど」
薫の手が止まる。
「……はい?」
「神田さんのこと」
少し眉をひそめて。
「名前で呼んだって本当?」
周りの秘書たちも耳をそばだてる。
「え?」
「ユウ、って。」
「…………」
薫の笑顔が固まる。
「いや、あの…、あはは……」
明らかに挙動不審。
「聞き間違いじゃないですか?」
「営業部の人、何人も聞いてたって。」
「いやいやいや」
両手をぶんぶん振る。
「違うんです、あれは、その……」
しどろもどろ。
先輩は少し不機嫌そうに腕を組む。
「神田さんを名前で呼ぶなんて、どういう関係?」
「いや、本当に…」
「普通呼ばないでしょ」
「はい……」
「彼女でもあるまいし。」
その一言で、秘書課の空気が止まる。
薫は完全に固まった。
「…………」
(どうしよう。)
その時。
コンコン--------------
秘書課のドアが開く。
「昼休み中に悪い」
神田だった。
営業部から書類を届けに来たらしい。
「確認もらいに来た」
いつものぶっきらぼうな声。
先輩が猫なで声で振り返る。
「あ、神田さん」
神田は書類を差し出しながら、秘書課の微妙な空気を察する。
「……何かあったのか」
先輩が苦笑する。
「実はこの子が、神田さんを名前で呼んだって聞いて」
薫は苦笑い。
(お願い、何も言わないで……)
視線だけで必死に訴える。
神田は一瞬だけ薫を見る。
その困りきった顔を見て、小さくため息。
「彼女でもあるまいし、って話してたんです」
先輩が笑う。
「そうですよね?」
神田は一拍置いて、ごく自然な声で言った。
「彼女だ。」
……
…………
………………。
秘書課全員。
「「「え?」」」
薫は顔が一瞬で真っ赤になる。
「ユ、ユウ……!」
思わずまた名前が出てしまい、慌てて口を押さえる。
神田はそんな様子を見て、軽く肩をすくめる。
「だから名前で呼ぶ」
静かにそれだけ言う。
秘書課は静まり返り、数秒後。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」
悲鳴のような歓声が響いた。
「え、本当に付き合ってたの!?」
「いつから!?」
「魔王と女神だよ?!」
先輩秘書は悔しそうな表情をしながら薫を見る。
顔を赤らめて困っている薫。
このビジュアルには勝てないか、と負けを認める先輩秘書。
その日、女神と魔王が付き合っているという情報が午後には社内中に広がっていた。
社内は朝から慌ただしかった。
「社長案件の資料です!」
秘書課に緊張が走る。
「……あっ。」
薫が一枚めくって固まる。
「数字違う!」
「営業部ですぐ修正!」
書類を抱え、そのまま営業部へ走る。
「神田さん!」
営業部の社員たちも慌てる。
「ここ、修正お願いします!」
神田は受け取るなり内容を確認していく。
「……すぐ直す」
営業部が一斉に動き始める。
「できた」
修正版が出力される。
「確認」
神田が最終チェックを始め、薫は横でそわそわ。
(時間ない時間ない時間ない……!)
神田が頷く。
「問題ない」
その瞬間だった。
焦っていた薫が、いつもの家での調子のままやってしまう。
「ユウ、これお願い!」
営業部。
…………。
キーボードを打つ音が止まる。
コピー機の音だけが響く。
全員がゆっくり振り向く。
「……。」
「……。」
「……ユウ?」
営業部長も固まってこちらを見ている。
「……ユウ???」
後輩はだれ?という顔。
「え?」
同期は神田の下の名前を知っているからこそ、驚く。
「今……ユウって……?」
営業部の空気が凍る。
薫は何も言えず黙り込んでしまう。
「…………」
両手で口を押さえそうになるのを必死で堪え、心の中だけで絶叫。
(やっちゃったあああああああ!!)
視線だけ神田へ向けると
「…………」
片手で額を押さえている。
深いため息。
終わった、という顔。
薫は何事もなかったかのように。
「では失礼します!」
ぺこりと頭を下げ、営業部を後にする。
そのまま早歩き。
早歩き。
さらに早歩き。
薫はほぼ小走りで営業部を出る。
営業部の扉が閉まる。
数秒後。
「……神田さん」
「……なんだ」
「今の」
「聞いた」
「ユウ?」
「……」
「名前で呼ぶなんて彼女だけですよね」
神田はもう隠す気もなく、小さく息を吐く。
「……そうだ」
営業部。
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」
一方その頃、秘書課。
社長へ書類を届け終わった薫は、自分の席へ戻るなり、デスクに額をこつんと落とす。
「終わった……」
隣の先輩秘書。
「どうしたの?」
「……なんでもないです」
「顔真っ赤だけど?」
「なんでもないです……」
その30分後には営業部から秘書課へ情報が伝わった。
社内の情報網の速さがこんな時は嫌になる。
昼休みには社内中で、
「神田さんのことを『ユウ』って呼ぶ人がいるらしい」
という話題が駆け巡っていた。
そんな昼休み。
秘書課はいつも以上にざわついていた。
「ねえ」
秘書課の先輩が薫のデスクへ寄ってくる。
営業部のエース・魔王、神田に密かに憧れていることで有名な人だ。
「さっき営業部から聞いたんだけど」
薫の手が止まる。
「……はい?」
「神田さんのこと」
少し眉をひそめて。
「名前で呼んだって本当?」
周りの秘書たちも耳をそばだてる。
「え?」
「ユウ、って。」
「…………」
薫の笑顔が固まる。
「いや、あの…、あはは……」
明らかに挙動不審。
「聞き間違いじゃないですか?」
「営業部の人、何人も聞いてたって。」
「いやいやいや」
両手をぶんぶん振る。
「違うんです、あれは、その……」
しどろもどろ。
先輩は少し不機嫌そうに腕を組む。
「神田さんを名前で呼ぶなんて、どういう関係?」
「いや、本当に…」
「普通呼ばないでしょ」
「はい……」
「彼女でもあるまいし。」
その一言で、秘書課の空気が止まる。
薫は完全に固まった。
「…………」
(どうしよう。)
その時。
コンコン--------------
秘書課のドアが開く。
「昼休み中に悪い」
神田だった。
営業部から書類を届けに来たらしい。
「確認もらいに来た」
いつものぶっきらぼうな声。
先輩が猫なで声で振り返る。
「あ、神田さん」
神田は書類を差し出しながら、秘書課の微妙な空気を察する。
「……何かあったのか」
先輩が苦笑する。
「実はこの子が、神田さんを名前で呼んだって聞いて」
薫は苦笑い。
(お願い、何も言わないで……)
視線だけで必死に訴える。
神田は一瞬だけ薫を見る。
その困りきった顔を見て、小さくため息。
「彼女でもあるまいし、って話してたんです」
先輩が笑う。
「そうですよね?」
神田は一拍置いて、ごく自然な声で言った。
「彼女だ。」
……
…………
………………。
秘書課全員。
「「「え?」」」
薫は顔が一瞬で真っ赤になる。
「ユ、ユウ……!」
思わずまた名前が出てしまい、慌てて口を押さえる。
神田はそんな様子を見て、軽く肩をすくめる。
「だから名前で呼ぶ」
静かにそれだけ言う。
秘書課は静まり返り、数秒後。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」
悲鳴のような歓声が響いた。
「え、本当に付き合ってたの!?」
「いつから!?」
「魔王と女神だよ?!」
先輩秘書は悔しそうな表情をしながら薫を見る。
顔を赤らめて困っている薫。
このビジュアルには勝てないか、と負けを認める先輩秘書。
その日、女神と魔王が付き合っているという情報が午後には社内中に広がっていた。