《第9話》オソロイ。
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朝。
仕事でも早起きしない薫が珍しく6時に起床する。
「寝てるんじゃなかったのか」
薫よりも早く目覚めていた神田は、寝ていた彼女の紙を撫でながら言う。
「今日は忙しくなりますよ」
そういうと洗面所に向かい、顔を整える。
お泊まりをした日は肌ツヤ絶好調で気分もいい。
顔ができると着替えていく。
「動きやすいのにしてよかった」
そう言いながらクラシカルロリータのワンピースに袖を通していく。
「動きにくいだろそれ」
コーヒーを飲みながら薫の準備を眺める神田。
「私が動きやすいって言ったら動きやすいの!」
くるりと回るとロングスカートがひらりと揺れる。
「オーブンレンジ買う!いいやつ欲しい」
「わかった」
「フライパンにお鍋」
「ああ」
「保存容器にキッチン小物たち」
「いるか?」
「いるの!」
必要なものを一通り口に出して神田に伝える。
「とりあえず今日はキッチンが機能するようにするのが目標!」
気合いを入れてホームセンターへと向かった。
薫はカートの中身もまだ空に近い状態を見て、真顔で言う。
「さて、何からいこう?」
神田は一拍置く。
「……使うもの全部だろ」
「雑すぎる」
薫はカートの取っ手を握って、順番に指を折り始める。
「じゃあまず…鍋!」
片手鍋、両手鍋を手に取る。
「圧力鍋もあると便利なんだよね」
チラッと神田を見る。
「買え」
よし、とガッツポーズをする薫。
「次はフライパン!取っ手取れると便利なんだよね。」
ティ〇ァールのフライパンセットを眺める。
「悩むくらいなら買え」
問答無用でカートに入れられた。
その中身を見るとなんだか一気に"同棲"の現実味が増す。
「ねえユウ」
「なんだ」
薫は少しだけ声を落とす。
「これさ、ちゃんと選んだら…」
そこで言葉を紡ぐのをやめた。
言葉にしたら急に現実味を帯びて恥ずかしくなってきた。
「なんでもない!」
薫は売り場の棚を見ながら目の色を変える。
それは完全に“生活設計モード”に入った顔だった。
神田はその横で淡々と見ている。
止めない。
口も出さない。
ただ一つだけ。
カートの位置だけは、ちゃんと薫の動きに合わせて少しずつ変わっていた。
キッチン売り場の包丁コーナーに行くと、空気が少し違った。
さっきまで「使えればいい、買え」で流していた神田が、ここだけは足を止めている。
薫がそれに気づく。
「……ユウ?」
呼びかけると、神田は視線だけを包丁に落としたまま言う。
「それは、適当で選ぶな」
「え?」
一瞬、声の温度が変わる。
薫が棚を見上げると、ステンレス、鋼、三徳、牛刀、ペティナイフ——種類だけで圧がある。
「いや、でもさ、さっきまで全部“買え”だったじゃん」
神田は即答しない。
数秒だけ間が空く。
そのあと、短く言う。
「刃物は別だ」
「何が別なの!?」
薫が身を乗り出す。
「全部同じ“台所道具”でしょ!」
神田はようやく一つ手に取る。
光を反射する刃を、少しだけ角度を変えて見る。
その動きだけで、さっきまでの“生活適当勢”とは別の空気になる。
「切れ味が落ちると、余計な力がいる」
「うん」
「力がいると、無駄が出る」
薫が黙る。
神田は続ける。
「無駄は嫌いだ」
それだけ。
でも理由としては十分すぎるくらい、神田らしい。
薫はじっと包丁を見てから、小さく息を吐く。
「……急に職人気質になるじゃん」
「元からだ」
即答。
ヒロインは苦笑しながら言う。
「じゃあさ、ユウが選んでいいよ」
その瞬間。
神田の手がほんの少しだけ止まる。
「……いいのか」
「今さら何聞いてるの」
薫はカートに肘をついて笑う。
「ここは生活の始まりでしょ?ユウも一緒に選ぼ?」
神田は包丁をもう一度見てから、数本を無言で取り出す。
迷いは少ない。
ただ、選び方だけがやけに慎重だ。
薫はその横顔を見て、ぽつり。
「包丁のときだけ別人みたい」
神田は聞いているのかいないのか分からないまま言う。
「刃は誤魔化せない」
「……怖いこと言うな」
でも、その“怖さ”は不思議と不快じゃない。
むしろ少しだけ安心に近い。
薫は小さく笑って、カートを押す。
「じゃあその包丁で、最初に何作る?」
神田は即答せず、少しだけ間を置く。
「なんでもいい」
「またなんでもいいって…」
そして一言だけ追加する。
「お前が作るなら」
その瞬間、売り場の騒がしさだけが遠くなる。
薫は一瞬黙ってから、少しだけ顔を逸らす。
「じゃあ昨日作り損ねた照り焼きだね!」
包丁だけ、他のどの買い物より丁寧に選ばれた。
仕事でも早起きしない薫が珍しく6時に起床する。
「寝てるんじゃなかったのか」
薫よりも早く目覚めていた神田は、寝ていた彼女の紙を撫でながら言う。
「今日は忙しくなりますよ」
そういうと洗面所に向かい、顔を整える。
お泊まりをした日は肌ツヤ絶好調で気分もいい。
顔ができると着替えていく。
「動きやすいのにしてよかった」
そう言いながらクラシカルロリータのワンピースに袖を通していく。
「動きにくいだろそれ」
コーヒーを飲みながら薫の準備を眺める神田。
「私が動きやすいって言ったら動きやすいの!」
くるりと回るとロングスカートがひらりと揺れる。
「オーブンレンジ買う!いいやつ欲しい」
「わかった」
「フライパンにお鍋」
「ああ」
「保存容器にキッチン小物たち」
「いるか?」
「いるの!」
必要なものを一通り口に出して神田に伝える。
「とりあえず今日はキッチンが機能するようにするのが目標!」
気合いを入れてホームセンターへと向かった。
薫はカートの中身もまだ空に近い状態を見て、真顔で言う。
「さて、何からいこう?」
神田は一拍置く。
「……使うもの全部だろ」
「雑すぎる」
薫はカートの取っ手を握って、順番に指を折り始める。
「じゃあまず…鍋!」
片手鍋、両手鍋を手に取る。
「圧力鍋もあると便利なんだよね」
チラッと神田を見る。
「買え」
よし、とガッツポーズをする薫。
「次はフライパン!取っ手取れると便利なんだよね。」
ティ〇ァールのフライパンセットを眺める。
「悩むくらいなら買え」
問答無用でカートに入れられた。
その中身を見るとなんだか一気に"同棲"の現実味が増す。
「ねえユウ」
「なんだ」
薫は少しだけ声を落とす。
「これさ、ちゃんと選んだら…」
そこで言葉を紡ぐのをやめた。
言葉にしたら急に現実味を帯びて恥ずかしくなってきた。
「なんでもない!」
薫は売り場の棚を見ながら目の色を変える。
それは完全に“生活設計モード”に入った顔だった。
神田はその横で淡々と見ている。
止めない。
口も出さない。
ただ一つだけ。
カートの位置だけは、ちゃんと薫の動きに合わせて少しずつ変わっていた。
キッチン売り場の包丁コーナーに行くと、空気が少し違った。
さっきまで「使えればいい、買え」で流していた神田が、ここだけは足を止めている。
薫がそれに気づく。
「……ユウ?」
呼びかけると、神田は視線だけを包丁に落としたまま言う。
「それは、適当で選ぶな」
「え?」
一瞬、声の温度が変わる。
薫が棚を見上げると、ステンレス、鋼、三徳、牛刀、ペティナイフ——種類だけで圧がある。
「いや、でもさ、さっきまで全部“買え”だったじゃん」
神田は即答しない。
数秒だけ間が空く。
そのあと、短く言う。
「刃物は別だ」
「何が別なの!?」
薫が身を乗り出す。
「全部同じ“台所道具”でしょ!」
神田はようやく一つ手に取る。
光を反射する刃を、少しだけ角度を変えて見る。
その動きだけで、さっきまでの“生活適当勢”とは別の空気になる。
「切れ味が落ちると、余計な力がいる」
「うん」
「力がいると、無駄が出る」
薫が黙る。
神田は続ける。
「無駄は嫌いだ」
それだけ。
でも理由としては十分すぎるくらい、神田らしい。
薫はじっと包丁を見てから、小さく息を吐く。
「……急に職人気質になるじゃん」
「元からだ」
即答。
ヒロインは苦笑しながら言う。
「じゃあさ、ユウが選んでいいよ」
その瞬間。
神田の手がほんの少しだけ止まる。
「……いいのか」
「今さら何聞いてるの」
薫はカートに肘をついて笑う。
「ここは生活の始まりでしょ?ユウも一緒に選ぼ?」
神田は包丁をもう一度見てから、数本を無言で取り出す。
迷いは少ない。
ただ、選び方だけがやけに慎重だ。
薫はその横顔を見て、ぽつり。
「包丁のときだけ別人みたい」
神田は聞いているのかいないのか分からないまま言う。
「刃は誤魔化せない」
「……怖いこと言うな」
でも、その“怖さ”は不思議と不快じゃない。
むしろ少しだけ安心に近い。
薫は小さく笑って、カートを押す。
「じゃあその包丁で、最初に何作る?」
神田は即答せず、少しだけ間を置く。
「なんでもいい」
「またなんでもいいって…」
そして一言だけ追加する。
「お前が作るなら」
その瞬間、売り場の騒がしさだけが遠くなる。
薫は一瞬黙ってから、少しだけ顔を逸らす。
「じゃあ昨日作り損ねた照り焼きだね!」
包丁だけ、他のどの買い物より丁寧に選ばれた。